心の距離を縮めるためのVR。孤立を防ぎ、新しい居場所を創るデジタルの力。

現実世界における「第一の交流のかたち」。オンライン環境における「第二の交流かたち」。そして「第三の交流のかたち」として台頭しているのが、VRによるコミュニケーションだ。この記事では、VRがもたらす新しい心のつながりや、交流による孤立や孤独のケアについて解説していく。

見えない「孤立」の現実

あらゆるコミュニケーションがデジタルに移行するなかで、私たちの心は常にどこかで「リアル」を求め続けている。人と人との心のつながりを得るためには、テキストや通話でのやり取りだけでは、どうしても限界があるものだ。

オフライン交流に代わる「第二の交流のかたち」として誕生した、オンライン交流。しかしデジタル環境によるオンライン交流では、利便性と引き換えに、リアルな交流でしか得られない要素が欠落してしまっている。

そこで「第三の交流のかたち」として拡大しつつあるのが、VRを活用した交流だ。

現代は、IT技術の拡大によって、誰でも社会と簡単につながれる環境だ。家にいたままでも、オンライン上で孤独を癒せる便利な世の中。しかしオンライン環境のみに限定されたコミュニケーションでは、リアルな交流による安らぎを完全に再現することは難しい。

オンラインコミュニケーションの健全な作用は、「オフライン交流もオンライン交流も選べる立場」だからこそ発揮される。しかし外出が難しい高齢者や、部屋に閉じこもりがちな若者、病気でベッドから動けない人々などは、そもそもオンライン交流しか選べない状態にある。

そのような人々にとって必要なのは、オンラインならではの交流ではなく、「オフラインと遜色のないオンライン交流」だ。

さまざまな立場の人々が抱える孤立に対し、その孤独を和らげる交流手段として台頭しているのが、VR(バーチャルリアリティ)だ。

VRでは、目の前にリアルな人間がいるかのような臨場感のある交流が実現できる。オフライン環境という見えない壁に対し、物理的な距離や肉体的な制約を超え、人々に新しい世界とつながりをもたらし始めているのが、VR技術なのだ。


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VRが孤立対策に有効とされる理由

そもそもVRとは、コンピューターが創り出した仮想現実にユーザーを没入させ、実際にその場にいるような体験ができる技術を指す。

専用のヘッドセットを装着することで、視覚や聴覚を通してリアルに体感できるVR世界は、孤独に対する有効なケア方法として期待されている。ここでは、VRが孤立対策に効果的とされる理由について解説していく。

VR技術の進化

VRが孤立対策に有用な理由として、VRの大衆化とVR技術の進化が挙げられる。多くの日本人にとって、VRを身近に感じるようになったきっかけは、2016年の『PlayStation VR』の発売ではないだろうか。

当時を皮切りに、「ハイテクノロジーであったVRを身近に楽しめる」という認知が広がり、VRの概念や商品は瞬く間に広まっていった。それに応じて技術も進化し続け、現在ではより高画質で軽く、操作性が高く、扱いやすい商品が展開されている。

VRを楽しむために最低限必要なものは、VRゴーグルとインターネット環境だけ。アプリやソフトの必要に応じてパソコンやゲーム機などを用意すれば、より幅広いワールドに触れられる。

PlayStation VRの発売後約10年間で、VRは「特別なスキルや体力がない人でも、手軽に体験できるテクノロジー」になったといえるだろう。この手軽さこそが、VRが「誰でも気軽に孤独を癒せる手段」である所以だ。

心理的・社会的ニーズの拡大

情報化社会が進むにつれて、「会わないコミュニケーション」が日常化されてきた。SNSやDM機能、チャット、デジタル通話など、アナログありきだった交流の多くはデジタル上でも可能だ。

それに加え、買い物や仕事など外出が必須だった習慣さえ、その舞台がオンラインに移されつつある。デジタル技術に支えられた、利便性の高い現代社会。しかし世の中が便利になるほど、人と人とのリアルな交流は減り、孤独や孤立も生まれやすくなる。

「新しい経験をしたい」「人とつながりたい」「社会と関わり続けたい」。これらの欲求は、世代や状況を超えた普遍的なものだ。対人ありきのコミュニケーション欲求に応える手段の一つとして、VRが挙げられる。

もちろんVRとて、直接的に肉体に触れられたり声を聞けたりするわけではない。視界に広がるのはあくまでバーチャルな世界ではあるが、その臨場感あふれるワールドでは、チャットやSNSだけでは得られない「生々しさ」がある。

VRワールドでは視覚や聴覚はもちろん、昨今では嗅覚や触覚も活用した交流の技術が生まれつつある。VRならではの強い没入感を得られるからこそ、孤独心を緩和する「オフラインと遜色のないオンライン交流」が実現するのだ。


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VRが拓く、新しい世界の扉

昨今VRワールドでは、仮想とは思えぬリアリティに満ちた世界が展開されている。一度でもVR世界を体験した人であれば、目の前に広がる「第三の現実」に大きな興奮や喜びを抱いた経験があるだろう。

VRの魅力は、多種多様なワールドの特徴にも宿る。ここではVRの具体的な活用事例を通して、その取り組みが持つ意味をさらに掘り下げていく。

「旅」と「リフレッシュ」のVR:自宅で世界を巡る

VRの活用事例の一つに「VR観光」が挙げられる。世界の絶景や観光地をVR上で旅することで、身体に障害を持つ人や高齢者でも、気軽に憧れの地に降り立てるのが魅力だ。

懐かしい故郷の風景を再訪したり、実際に訪れるのは難しい遠方の国や遺産を歩いたり。VR技術があれば、自宅にいたまま世界中を(望めば宇宙にまでも)駆け巡れる。

VR観光では、歴史学習に特化したワールドや、自然体験に特化したワールドなど、バラエティー豊かなコンテンツが展開されている。自身の環境に捉われず、自分らしい旅を楽しめるのも大きな魅力だ。

「交流」と「コミュニティ」のVR:新しい居場所の創出

VRでは、SNSサービスに特化したワールドも展開されている。VR空間のSNSでは、自分のオリジナルのアバターを通して、他のユーザーと直接対話をしているかのようなリアルなコミュニケーションが楽しめる。

たとえば、一瞬で言語が翻訳され世界中の人々と会話できるワールドや、バーチャルオフィスで仲間たちとクラウドワーキングに勤しめるワールドなどが好例だ。

もちろん、ただ「お喋り」を楽しむことに特化したワールドも多い。複数の参加者がVR空間に集い、共通の趣味や会話に興じるコミュニティでは、リアルでの対話のような心安らぐ時間が過ごせる。

「リハビリ」と「学習」のVR:楽しみながら成長する

VR空間では、仮想空間でのトレーニングを介したリハビリや、教育業界にアプローチする学習も可能だ。

たとえばリハビリでは、没入感のある世界のなかで、現実世界では難しいタスクを安全に実践できる。実際に脳卒中後遺症や認知症などのリハビリ手段として、すでにVRの介入が実施されている(*1)(*2)。

学習領域では、体験型学習による学習効果の向上が見込まれている。生徒の学習意欲が引き出されるだけではなく、不登校や入院中の生徒でも、VR授業に気軽に参加できる取り組みも実施中だ(*3)(*4)。


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普及に向けた課題と未来への展望

人々の孤独を照らす、新たな光として注目されるVR技術。しかしあらゆる層にVR技術を届けるためには、いくつかの課題も存在している。

従来と比べると遙かに身近になったVR技術だが、金銭面やデジタル面などのさまざまな格差により、有効活用が難しい層がいることも事実だ。ここでは、VRのさらなる普及に向けた課題と未来への展望について解説する。

デジタルデバイド: VRの操作に不慣れな世代への支援体制

VRの普及における課題として挙げられるのが、デジタルデバイドの存在だ。デジタルデバイドとは、ITやインターネットにアクセスできる人・できない人との間に生じる「情報格差」を指す。

たとえば外出が困難な高齢者のなかには、IT知識に疎い層も少なくない。VRにより孤独が和らぐ可能性があるとしても、そもそもVRの存在を知り得ない環境なのだ。

この課題を解決するためには、情報を届ける仕組み(例:テレビやラジオによる紹介、行政や介護サービスからの案内など)や、導入を支える仕組み(例:設置代行サービス、ワンタッチ型のVR機器の開発など)が求められる。

経済的負担: 機器やサービスの導入コスト

VRの導入の経済的なハードルは、決して低いとはいえない。ゴーグル単体でも数万円程度の価格は一般的であり、オンライン環境から整えるとなればランニングコストも大きくなる。

VRによる孤独の緩和が期待できる層のなかには、経済的な不安を抱える人も少なくないだろう。費用面の課題を克服する例としては、以下のような取り組みが挙げられる。

  • 機器コストの軽減(例:リユース機器の活用)
  • スマートフォン活用型VR(つねにスマートフォンを持っている層には有効)
  • サービス利用料の軽減(多段階制のサブスクリプションの導入など)

ほかにも公共施設でのVR体験会や、医療や介護保険との連携、NPOを通じた無償貸与など、制度の伸びしろは大いに存在する。


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VRが描く、希望に満ちた「つながり」の未来

今やVRは、一部のIT強者だけのツールではない。特定の世代や状況の人々だけではなく、あらゆる人々の生きがいになり得る技術だ。

人とのリアルなつながりは、デジタル化によって希薄になりつつある。そんな世の中で、VRはバーチャル空間による「第三の現実」を通し、エンゲージメントのあり方を再定義している。

情報格差や経済格差など、VRが孤独を癒すために乗り越えるべき壁は多い。しかしVRが当たり前に普及する未来では、年齢や身体的な制約に関わらず、誰もが自由につながれる社会が待っているはずだ。

太陽が夜を終わらせるように、技術という名の光は「必要にしている人」に届いてこそ、計り知れない価値を生む。

希望に満ちた新しい「つながり」の未来を体験するために、ぜひこの機会にVRの知識を深めてみてほしい。あなたの知識や行動が、孤独に苛まれる人を救うきっかけになるかもしれない。

Edited by s.akiyoshi

注解

(*1)VR活用リハビリ 効果 脳卒中などの後遺症 運動・認知機能、ゲーム感覚で改善|東京新聞
(*2)認知症またはMCIの高齢者に対するVR介入~メタ解析|Care Net
(*3)VR学習について | N高等学校・S高等学校・R高等学校(*4)【広域通信制】AOIKE高等学校

About the Writer
山口愛未_METLOZAPP

METLOZAPP

数多くのジャンルの経験を生かし、分野横断的な執筆を得意とするWebライター。ウェルビーイングやメンタルヘルス領域を中心に、生活に新たな気づきを与えるコンテンツを発信中。マイノリティな感性に悩む人や、孤独や寂しさを抱きながら暮らす人の心に、少しでも寄り添えるような記事執筆を目指して活動する。現在は、女性のキャリア形成や、人間と動物の関わり方などに興味を持ち学習中。
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