パンデミックとは?森林破壊との関係や、ワンヘルスの考え方について解説

パンデミックとは?

パンデミック(pandemic)とは、感染症や伝染病が世界的あるいは一部の地域で爆発的に流行すること。語源はギリシャ語の「パンデミア」で、パンは「すべて」、デミアは「人々」を意味する。日本では「感染爆発」などとも言われる。

パンデミックの代表的な例は、ヨーロッパで何度も大流行を起こしているペスト、紀元前から人類を苦しめてきた天然痘、20世紀初頭に世界中で猛威をふるったスペインかぜ(インフルエンザ)などがある。

最近では、2019年から世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が急速に拡大。2020年3月11日に、世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長が「新型コロナウイルスはパンデミックと言えると評価をした」と宣言した。WHOがコロナウイルスの流行をパンデミックとしたのはこの時が初めてだった。

クラスター、アウトブレイク、エピデミックとの違い

感染症の流行は段階的に広がり、パンデミックに至るまでにはいくつかの過程を経ることになる。その代表的なのが「クラスター」「アウトブレイク」「エピデミック」だ。

最初に「クラスター」が起き、その後「アウトブレイク」「エピデミック」そして「パンデミック」に拡大していくというのが大きな流れだ。それぞれどのような状況か具体的に解説する。

クラスター

「クラスター(cluster)」とは「集団」や「群れ」を意味する言葉で、感染症に関して使われる場合は「小規模な集団感染」を意味する。公式の定義はないが、新型コロナウイルス感染症が拡大している際に厚生労働省は目安を「5人規模」としていた。

アウトブレイク

「アウトブレイク(outbreak)」とは、医学・医療分野において「集団感染」を意味する言葉として使われる。クラスターの範囲が大きくなったり、複数の場所で起きている状態を指す。

1つの施設内や1つの病棟内といったように一定の場所で感染症が流行することを指し、病院での院内感染や、学校や学級閉鎖に至る集団感染などもアウトブレイクにあたる。2016年にコンサート会場を訪れた客の間で麻疹が拡大した際も、主にアウトブレイクが用いられた。

エピデミック

「エピデミック(epidemic)」とは、広い範囲での感染症の流行を指す。地域や国をまたいで流行することも含むが、世界的大流行の「パンデミック」より範囲は狭い。パンデミックは、このエピデミックが同時期に世界の複数の地域で発生することを意味する。

感染症の拡大について用いられる言葉には、他に「エンデミック」がある。エンデミックとは、ある地域やコミュニティ内で感染症が拡大すること。一般社団法人日本国際保健医療学会の「国際保健用語集」によると、季節周期的に繰り返すことがあり、地域が限定される感染症の場合は「風土病」とも言われる。「冬になったら発生しやすくなる」といったように予測できるのも、パンデミックと異なる点だ。

パンデミックの原因

パンデミックの原因

パンデミックとは、感染症が世界的に大流行することだ。その感染症とは、ウイルスや細菌、寄生虫などの「病原体」が体の中に入ることで、不調を引き起こす病気のこと。人間から人間に移りやすいという特徴もある。

感染症は、主に人間が野生動物と接触したり、野生動物を食べることによって発生。何度も大流行する歴史を繰り返している。

こうした大流行は、人間社会の成り立ちにも関連している。人口が増加して都市化することによってコミュニティができあがり、人間から人間に移りやすい状況ができ上がるからだ。また、交易が盛んになることで、人の移動が活発化。免疫を持つ地域から免疫を持たない地域に病原体も移動することで、感染症が急拡大する。

医療の発展により治療薬やワクチンなどで、いくつかの感染症は抑えられるようになった。しかし、病原体も進化を続けており、変異などにより新しい感染症が発生しているのも事実だ。

森林破壊との関係

世界各地で起きている森林破壊が、パンデミックにつながっているという指摘もある。人間と野生動物の距離が近くなるからだ。

主に以下のように感染症が拡大すると考えられる。

  1. 森林が消失
  2. 人間が自然の奥地に侵入
  3. 人間や家畜が病原体を持つ野生動物と接触
  4. 感染した人間や家畜が別の場所に移動
  5. 感染症が拡大
  6. ウイルスが変異

コウモリが媒介するニパウイルス感染症、マラリア原虫を持った蚊によるマラリア、森林地帯に棲むマダニが引き起こすライム病などは、こうした森林破壊が感染症の拡大につながったとされる。

新興感染症

新興感染症とは新しく認知された感染症のことで、感染源がわからないため世界中に拡散する危険がある。ワクチンや治療薬ができるまでに時間も要するため、パンデミックに発展する可能性も高いとして注意が呼びかけられている。日本では、2021年の医療法改正時に「新興感染症発生・まん延時における医療」が追加されている。

近年では、チンパンジーを宿主とするHIVウイルス、コウモリを宿主とするエボラウイルス、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルスなどが新興感染症に当たる。

なお、一度抑えた感染症が、免疫を持たない人や地域で発生する感染症のことを再興感染症という。病原体が進化または変異していると、これまで効いていた治療薬が効かないケースもある。パンデミックとまではいかないが、1997年頃から日本国内で結核が増加しているのは再興感染症の代表例だ。そのほかには、コレラやマラリア、狂犬病などが再興感染症とされる。

パンデミックを引き起こした感染症

エジプトのミイラから天然痘の痕跡が見つかっており、紀元前からパンデミックが起きていたとされる。人類は感染症と長い歴史の中で戦いを続けているが、代表的な感染症の大流行について紹介する。

天然痘

天然痘は、天然痘ウイルスによって罹患する感染症だ。紀元前から世界各地で流行しており、1770年のインドでは300万人が死亡したという記録も残っている。

日本では、江戸時代に「美目(みめ)定めの病」と言われ、明治時代には6回流行したとされる。また1946年には約3,000人が死亡した。

その後、世界中で封じ込め作戦が行われ、1977年のソマリアで患者が発生したのを最後に天然痘は消滅したとして1980年にWHOが世界根絶宣言を行った。

ペスト

ペストは、病原体を持つノミを介して拡大する感染症。皮膚が黒くなって亡くなるため、「黒死病」と言われる。

ヨーロッパで大流行が繰り返されてきたが、特に大きなパンデミックとなったのが14世紀中期のこと。1347年から1351年にかけて起きたペストによるパンデミックは、ヨーロッパ人の3分の1が死亡したとされる。

1894年に北里柴三郎ら二人の細菌学者が病原菌であるペスト菌を発見。抗生物質での治療が可能になっている。

スペインかぜ(スペインインフルエンザ)

1918年から1919年に、世界中を恐怖に陥れたのがスペインかぜ(スペインインフルエンザ)だ。スペインが発生源ではなく、インフルエンザによるパンデミックを最初に報道したのがスペインだったため、スペインインかぜと呼ばれる。

第一波は、1918年春にアメリカの陸軍基地で発生。当時は第一次世界大戦中だったため、米軍の移動とともにヨーロッパに広がった。1918年秋の第二波では、致死率10倍以上の殺人ウイルスに変異していたとされる。

感染したのは当時の人口の4分の1に当たる5億人、死亡したのは1,700万人〜5,000万人と推計されている。

重症急性呼吸器症候群(SARS)

重症急性呼吸器症候群(SARS)は、2003年に中国の広東省を中心に広がった重症な非定型性肺炎のこと。原因は新型コロナウイルス(SARSコロナウイルス)だ。

インド以東のアジアやカナダを中心に拡大し、WHOは2003年3月12日に注意喚起(グローバルアラート)を発した。その後、4月にはSARSコロナウイルス(SARS-CoV)を特定し、7月5日には終息を宣言した。

2002年11 月〜2003年8月の間の感染者数は中国を中心に8,096人、死亡者数は774人と報告されている。その後、シンガポールや台湾などで感染例が報告されているが、感染拡大は食い止められている。

新型インフルエンザ

インフルエンザは10年から40年周期で大流行を繰り返しており、1968年に推計100万人の死亡者を出した香港かぜの次にパンデミックとなったのが、2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1型)だ。

6月11日に、パンデミックは不可避としてWHOが「フェーズ6」を宣言。「メキシコで原因不明の呼吸器感染症が集団発生した」と、WHOに報告された4月12日からわずか9週間後のことだった。

WHOの資料「2009年インフルエンザパンデミック(H1N1)その広がりと健康被害」によると、2010年5月21日時点の死亡者数は、香港かぜよりは少ない18,097人だったものの、感染者が確認されたのは214カ国・地域と国連加盟国数よりも多かった。

インフルエンザは変異を続けており、今後もパンデミックにつながる大流行の発生が懸念されている。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年12月に中国の湖北省武漢市において最初に確認された感染症。2020年3月にWHOがパンデミックを宣言するまでの流れは、以下のようになる。

  • 2019年12月:中国の湖北省武漢市において原因不明の肺炎が報告
  • 2020年1月30日: WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言
  • 2020年2月1日:日本国内で新型コロナウイルス感染症が指定感染症に指定
  • 2020年3月11日: WHOが世界的な感染拡大の状況、重症度等からパンデミックと見なせると表明

日本国内では、3月上旬から海外での接触が疑われる症例が報告。3月中旬には、感染源不明の症例の数および割合が継続的に増加した。3月下旬には、都市部を中心にクラスター感染が次々と報告され、感染者数が急増した。病原体の名称は「SARS-CoV-2」で、遺伝子の配列からコウモリ由来とされるが、2種類の動物コロナウイルスが遺伝子の組み替えを起こした可能性も報告されている。

現在も感染の報告は増加しているが、2021年9月時点の全世界での感染者数は2億2000万人、死亡者数は455万人と報告されている。世界でうつ病患者が5300万人も増加したという報告もある。

国を行き来する渡航が禁止されたほか、ロックダウン(都市封鎖)を実施した国・都市もあった。また東京五輪が1年先送りになるなど、国際的なイベントや会議などにも影響が及んだ。日本ではリモートによる授業や仕事などが日常的になり、普段の暮らし方にも大きな影響を与えた。

パンデミックへの対策

感染症が流行しても一人ひとりが知識を持って対応することで、パンデミックを防ぐことができる。例えば、新型インフルエンザの主な感染経路は飛沫感染と接触感染の2つで、日本政府では一人ひとりができる新型インフルエンザ対策として次の4つを挙げている。

  • 手洗い
  • 普段の健康管理
  • 適度な湿度を保つ
  • 人混みや繁華街への外出を控える

また、ほかの人に移さないためには次の2つを挙げている。

  • 咳エチケット
  • 人混みや繁華街への外出を控える

正しい知識を持って行動することで自らの感染を回避し、それがパンデミックの発生を防ぐことにもつながる。

パンデミックを防ぐ「ワンヘルス」の考え方

ワンヘルスとは、「環境」「動物」「人間」の3つの健康(健全性)がつながっているとする考え方。動物から人間に伝播が可能な人獣共通感染症はすべての感染症の約半分を占めていることから、3つの健全性を保つような取り組みを目指している。

WWF(世界自然保護基金)では感染症の予防にはワンヘルスの実現が不可欠として、2021年に「ワンヘルス共同宣言」を行っている。日本でも、日本獣医師会と日本医師会が、2012年に「ワンヘルス」の理念のもと連携することを表明した。

厚生労働省でも、ワンヘルスの考え方を推進。「環境」「動物」「人間」に関連する機関として、農林水産省と環境省との横断的な連携も強化している。抗生物質などで抑えられる感染症もあるが、薬剤耐性(AMR)を持つ細菌が出現する懸念もある。そのため、各分野における薬剤耐性菌などの動向を把握するために、ワンヘルス動向調査も実施している。

まとめ

人類は感染症との戦いを長く続けてきており、天然痘やインフルエンザなどのパンデミックにより数多くの死者を出してきた歴史がある。近年では、2019年に新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが発生した。2024年12月時点で感染拡大は抑えられていると言えるが、その後も別の感染症の拡大が懸念されている。

このように、これまで知られていない病原体が発現したり、病原体が変異することなどによって新たなパンデミックが今後も起きる可能性がある。一度発生してしまえば、私たちひとり一人の力はないも等しいほどに、ウイルスの脅威に圧倒されかねないが、まずは知識をもち、日常生活やいまの社会がパンデミックの発生とどのように関連しているのか学ぶ姿勢をもつことはできそうだ。

参考記事
新型インフルエンザの発生に備えて~一人ひとりができる対策を知っておこう|政府広報オンライン
新型コロナウイルス感染症について|厚生労働省
コロナウイルスとは|NIID国立感染症研究所
~ヒト、動物、環境の健康を~ 「ワンヘルス(One Health)」ってなぁに?|厚生労働省

関連記事

新着記事

ABOUT US
倉岡 明広
北海道在住。雑誌記者として活動後、フリーライターとして独立。自然環境、気候変動、エネルギー問題などへの関心が強い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史などのジャンルでも記事を執筆中!