シリアスゲームとは?遊びながら社会問題と向き合うきっかけに

シリアスゲームとは

シリアスゲームとは、娯楽だけにとどまらず、課題解決や知識・技能の習得を目的として開発された実用的なゲームのことを指す。

ゲームで遊ぶ楽しさによって学習意欲や集中力が高まり、参加者が主体的に取り組めるのが特徴で、知識の定着やスキルの向上に効果的であるとされる。

この用語は、アメリカの社会科学者クラーク・アプトが1970年に出版した『Serious Games』において提唱された。社会的な問題解決のためにゲームを開発・利用して、より広い視野でゲームの持つ力や可能性を社会に取り入れようとする概念である。現在では、教育現場での学習支援、企業での社員研修、医療現場でのリハビリ訓練、環境問題や人権問題への理解促進など多くの分野で活用が進んでいる。

シリアスゲームは、ゲームの持つ楽しさと現実味のある疑似体験を通して、社会のさまざまな課題にアプローチする新たな手法として注目されている。

シリアスゲームの特徴

シリアスゲームとは?遊びながら社会問題と向き合うきっかけに

シリアスゲームは従来のボードゲームやカードゲーム、オンラインゲームとは異なる要素を持っている。シリアスゲームの特徴として、具体的には下記のような要素があげられる。

  • 社会的な目的
    ただ楽しむだけでなく、学習・啓発・訓練など明確な目的がある。エンターテインメントゲームの主な目的が「楽しませること」であるのに対し、シリアスゲームは「学ばせること」「訓練すること」「問題意識を高めること」など、より社会的な目的を持つ。
  • 体験的な学びが可能
    現実世界の問題や状況を疑似体験でき、シミュレーションやロールプレイングにより適切な行動などを学び、現実世界で活かすことができる。実際には危険がともなうようなことも、仮想空間では繰り返し体験可能である。
  • 参加型・双方向性
    プレイヤーが能動的に参加し、自ら考え判断するプロセスが重視される。プレイヤーの判断や選択によりゲームの展開が変わるという双方向的な要素が、思考力や判断力の向上を促す。
  • 幅広い応用分野
    教育・ビジネス・医療・福祉・環境・防災・政治・社会問題など、さまざまな分野で活用されている。例えば、医療現場では手術手順や緊急対応に関するシミュレーションゲームが利用されており、実際の現場に近い状況での繰り返し学習ができる。
  • 成果測定が可能
    デジタル化によりプレイヤーの行動ログや結果を分析し、理解度や改善点を評価しやすい。プレイヤーの選択肢や反応時間、正答率などのデータが可視化されると、個々の理解度や弱点を客観的に把握でき、フィードバックに活用できる。

このようにシリアスゲームは、娯楽性と実用性を両立させながら、主体的な学びや実践的スキルの習得を可能にするツールとして、幅広い分野での活用が期待されている。

シリアスゲームの効果

シリアスゲームは単なる娯楽を超えて、学びや行動の変容を促すさまざまな効果をもたらす。期待される効果は、次のようなものだ。

  • 学習効果の向上
    楽しみながら学べるため、プレイヤーの学習意欲を高め、主体的な学びを促す。また体験を通して学ぶことにより、記憶に残りやすく深い理解につながる。
  • 問題解決能力の向上
    ゲーム内でさまざまな課題に取り組むには、プレイヤー自身が情報を整理し、考え、行動を選択する必要があるため、判断力や決断力が鍛えられる。また、シミュレーションやロールプレイングの活用により、実際の課題に直結したスキルを習得できる。このようなプロセスを繰り返すことで、現実世界の課題にも冷静に対応できる問題解決能力が向上する。
  • チームワークの向上
    グループでプレイする場合、ほかのメンバーとの意見交換や協力が不可欠である。戦略を立てたり、一緒に問題を解決したりすることで、関係性が深まる。また、共通の目標に向かうことで、団結力が強まりチームの結束力が高まる。
  • 社会問題への関心を高める
    環境問題や貧困問題といった敬遠されがちな話題についても、プレイヤーが当事者としてバーチャル体験することで関心が高まる可能性がある。ゲームを通じて理解が深まり、積極的に関与しようとする意識につながる。

このようにシリアスゲームには多様な効果があり、プレイヤーの意識や行動にポジティブな変化をもたらすため、実践的かつ魅力的な学習・訓練ツールとなり得る。

シリアスゲームの問題点

シリアスゲームは教育や社会問題の解決に寄与する一方で、いくつかの課題も抱えている。 まず、社会問題を取り上げる際には倫理的な問題が生じる可能性があり、あらゆる立場の関係者への配慮と情報の正確性が不可欠である。

また、 障がいや多様なバックグラウンドを持つユーザーへの配慮が不足し、一部のユーザーがゲームを十分に活用できない状況が生じている。 すべてのユーザーが利用しやすいゲームデザインが求められている。

今後、シリアスゲームがより効果的かつ持続可能なツールとして発展していくためには、これらの課題に真摯に向き合い、継続的な改善と実践的な研究の積み重ねが不可欠である。

シリアスゲームの例

シリアスゲームとは?遊びながら社会問題と向き合うきっかけに

シリアスゲームは、教育ツールやデジタルの世界だけにとどまらない。シリアスゲームが提唱された当初は、特にデジタルゲーム開発との連携が重視され、デジタルゲームが主要な対象とされていた。

しかしその後は、従来から普及しているボードゲームの教育利用や活動参加型のゲームも含め、シリアスゲームの対象として認識されるようになっている。

デジタルゲームは更新のサイクルが早くコンテンツの継続利用が難しい場合がある一方で、アナログゲームは長期的な活用が可能だ。ここでは、デジタルとアナログの双方について、シリアスゲームの例を紹介する。

3rd World Farmer

​プレイヤーがアフリカの農場を経営し、貧困や紛争など困難な状況に直面する体験を通じて、発展途上国の現実を疑似的に学べるゲーム。

一般的な経営シミュレーションゲームとは異なり、巧みに運営しても凶作や内戦、腐敗、価格変動などの不測の事態により状況が悪化する。こうした体験を通して、世界の不平等などの課題について、議論や行動のきっかけとなることを目的としている。

HALT

若いアスリートがスポーツにおけるハラスメントや虐待に気づく力を養うことを目的としたゲーム。リアルな状況を再現した4つのシナリオが用意されており、ユーザーはそれぞれの場面において最も適切な行動を選択することでポイントを獲得する。

各シナリオは異なるスポーツを舞台に展開され、現実に即した判断力を試される。さらに、全シナリオを終えた後には、学んだ内容を振り返るクイズ形式のシナリオがあり、理解を深める仕組みになっている。

コミュニティーコーピング

社会的孤立の解消を目的とし、プレイヤーは地域の住民となって悩みを抱えた人々に地域資源をつなげて支援する。オンライン版は4人、ボードゲーム版は4~6人で遊べる協力型ゲーム。

課題を放置すると地域体制が崩壊しゲームオーバーになる仕組みで、超高齢社会における課題を体験として学ぶことができる。支援の大切さや地域での協力の重要性を実感できる内容となっている。

カジークジー

2人が対話しながら協力して進めるカードゲーム。プレイヤー2人が「勇者」と「賢者」になり、突然託された赤ん坊を育てるという設定で、家事・育児・仕事のトラブルを協力して解決する。

全96枚のトラブルカードには、「名もなき家事」や「仕事ストレス」など、現実に即した課題が盛り込まれ、得意・不得意を尊重しながら役割分担を話し合う。言いづらい本音も気軽に共有できるよう、出産前後の夫婦やカップルに対話のきっかけを提供する。

ワンダーワールドツアー

障がい者やマイノリティの疑似体験を通して共生社会について考えるための協力型ゲーム。3~5人で遊べるカードゲームで、プレイヤーは個性豊かな旅行者となり、互いに助け合いながらミッションを達成する。

視覚障害や言語の壁、高齢による不自由などを体験し、多様な立場の困りごとに気づく設計になっている。楽しく遊びながら、相手に寄り添うコミュニケーションや配慮の大切さを学べる。

まとめ

シリアスゲームという言葉は国内では未だ認知度が低く、多くの人にとって新しい概念だろう。日本ではゲーム=遊びという認識が根強く、学習や社会課題解決の手段としてのゲーム利用が一般に受け入れられにくい傾向があるかもしれない。

しかし、研究者や企業はその可能性に注目し、社会課題の解決に向けたデジタルゲームの開発に取り組んでおり、今後の発展が期待される。個人的な課題も、社会的な困難も、ゲーム要素があれば向き合うきっかけとなるだろう。

参考記事
シリアスゲーム・ゲーミフィケーションとその関連概念の変遷過程の考察
Serious Games | Oxford Research Encyclopedia of Communication
シリアスゲームとは? ゲームで社会課題の解決に取り組む新たなアプローチ
シリアスゲームを用いた環境教育の試み
研修ゲームの広がりとシリアスゲームとの関係性|日本デジタルゲーム学会
シリアスゲームの成果と今後の課題

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曽我部 倫子
大学で環境問題について広く学び、行政やNPOにて業務経験を積むなかで環境教育に長く携わる。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、未就学児や保護者を対象に自然体験を提供。またWebライターとして、環境、サステナブル、エシカル、GXなどのテーマを中心に執筆している。三児の母。