
日本の里山で急速に広がる「竹害」。自分とは関係ないと感じる人もいるかもしれないが、これは生態系や安全にかかわる問題である。したがって、私たちは竹林との関わり方を再考しなければならない。厄介者から未来の資源へ─。竹を再び価値あるものにする道筋や具体的事例を紹介していく。
生態系を脅かす「竹害」とは

「竹林」という言葉を聞いて、あなたはどのようなイメージを持つだろうか。自然に癒やされる、和風の趣を感じられる、タケノコが美味しい。このようにポジティブなイメージを持つ人が多いのではないだろうか。だが残念なことに、現代日本の竹林は、里山の生態系と防災機能を脅かす「竹害」という深刻な社会課題を抱えている。
昭和40年代以降、プラスチック製品の普及、輸入タケノコの増加などを理由に国内における竹の消費量は減少した。このため、竹林は手入れがされなくなっていき、「放置竹林」となってしまったのである。さらに事態を深刻化させているのは、竹の特性だ。竹はわずか約3ヶ月で成竹になり、1日に1m以上伸びることもあるという。加えて、地下茎で急速に増殖する植物でもある。この驚異的な生長力・繁殖力ゆえに、ひとたび手入れが行き届かなくなると、里山は急速に荒れた竹やぶへと変貌してしまうのだ。
放置竹林はさまざまな被害をもたらす。まず、竹が隣接する山林や畑に侵食し密生することで、林床に太陽光が届かなくなり、ほかの植物が育たなくなる。これにより、生物多様性が低下してしまうと考えられる。また、竹の葉は腐植が進まず土壌化しないため、土地の保水力が極めて低くなる。これにより、豪雨・台風の際に土砂災害を引き起こすリスクが懸念されている。
このように、竹害は単に「竹が増えすぎた」で済む話ではない。私たちは、真剣に竹林と向き合い直す必要があるのではないだろうか。
「駆除対象」から「未来の資源」へ

竹害を食い止める糸口は、竹を単なる「駆除対象」ではなく、「未来の資源」として捉え直す視点の転換にある。竹が持つ力をうまく活用すれば、環境負荷の低減、さらに地域経済の活性化を両立できる未来を切り拓けるかもしれないのだ。ここでは、具体的な3つの視点を紹介していく。
伝統と革新(工芸品)
大分県には、高度な加工技術を駆使した「別府竹細工」がある。ザルや箸のほか、ランプシェードなどが製品化されており、質の高さでブランドを築いている。
しかしながら、竹細工について「土産物」や「高額な工芸品」というイメージを持つ人も多いと考えられており、今後は普段づかいできる竹製品への一層の注力、販売導線の強化が重要になっていくと思われる。
環境技術(バイオマス)
近年、竹をバイオマス燃料として活用する技術が発展している。従来、竹はカリウムと塩素を大量に含んでいるため、バイオマス燃料には向かないとされてきた。しかし2017年、株式会社日立製作所が竹を木質バイオマスと同等に扱える技術を開発。これを受けて、山口県山陽小野田市では、世界初となる竹バイオマス発電所が開設された。この事例からは、竹の新たな可能性を実感させられる。
新規分野の開発(新素材)
近年は、竹繊維をポリプロピレンと結合させた「バイオマス・プラスチック」、軽量でありながら強度が高い次世代素材「セルロースナノファイバー(CNF)」などが注目を集めている。化石燃料由来の素材消費を抑えなければならない現代において、竹は優れた素材となり得るのだ。
上記の3つの視点は、竹害の改善、ひいては環境改善や経済活性化にもつながる大きなヒントとなるのではないだろうか。
「竹害」を「地域資源」に変えるシステムの構築

竹害を克服し、竹を未来の資源として活用するには、製品を開発するだけでは不十分である。竹林の整備から最終消費に至るまでを、地域で一貫させるシステムの構築が不可欠だろう。このアプローチが重要である理由は、竹の資源化が経済的利益だけでなく、社会的なつながりや環境保全といった多面的な価値を生み出すからだ。
竹林整備は、従来は費用や労力がかかる活動であったが、これを“価値ある活動”に転換する必要がある。具体的には、ボランティア・ツーリズムや教育的な取り組みが挙げられるだろう。
例えば長野県泰阜(やすおか)村では、外部の若者が村を訪れ、竹林整備や竹炭づくりを体験し、地域の人々と交流する「泰阜ひとねる大学」を実施している。
また、環境と経済を結びつける具体例として、自身が出す温室効果ガスを埋め合わせするカーボンオフセットの効果が挙げられる。
自動車機器を手掛けている矢崎総業株式会社は、2025年に竹由来の素材を用いた複合材料を開発した。これは従来の鉱物資源をベースとした複合材料と比較して、カーボンフットプリント(CFP)を約50%削減すると見込まれている。この事例は、竹が地球温暖化対策の有効なカードになると示していると言えるはずだ。
このように、竹の資源化は単なる産業的な試みではなく、都市と地域、環境と経済を結びつけ、私たちと自然の関わり方を問い直す契機になるだろう。
竹害対策における現実と課題

竹を地域資源に変え、事業を作っていく。理想的な未来像ではあるが、その実現には大きな障壁が立ちはだかっているのも事実だ。
最大の障壁は、初期コストの高さである。金銭の面で、竹の伐採・搬出は高くつく傾向にあり、46,000円に達する事例もある(*1)。労力の面でも、枝葉の処理だけでも伐採作業の約1.5倍はかかるとされている(*2)。
このほか、
- 傾斜地が多い山間部からの搬出が難しい
- 加工ロスが50%以上にもなり、歩留まりが悪い
- 場合によっては竹材として使える竹が、全体の1割程度にしかならない
- 竹製品に適した竹を選定する人材が育たない
- 海外から輸入される竹・タケノコのほうが安い
上記のような事情が、事業の継続化を難しくしている。
これらの課題を解決し、竹林産業を安定した事業にするには、コストを下げる技術の追求や、ボランティアだけに頼らない継続的な資金・人材の確保に焦点を当てた、現実的かつ長期的な戦略が必要なのではないだろうか。
「竹林の未来」の新しい担い手として

生態系や安全を脅かす放置竹林は、ほかでもない私たち自身の問題だ。“厄介者”の竹を新たな資源と捉え直し、情報発信や事業で価値を創造することは、竹を「地域の誇り」へと転換させる。同時に、自然との賢明な関わり方を問い直す好機にもなるだろう。竹林の未来をデザインするのは、私たち一人ひとりの想像力と行動力なのだと肝に銘じたい。
Edited by s.akiyoshi
注解・参考サイト
注解
※1 竹の利活用推進に向けて | 林野庁
※2 徳永陽子、荒木光「竹林と環境」 | 『京都教育大学環境教育研究年報』第15号、2007年
参考サイト
燃やしにくかった竹を改質してバイオマス燃料に、日立が開発した技術を発表 | スマートグリッドフォーラム
世界初、山口県に竹専焼のバイオマス発電を開設、出力規模は約2MW | 新電力ネット
広がる竹の可能性!新たな竹の利用法に迫る | 農林水産省
泰阜ひとねる大学 | 泰阜村役場
矢崎総業、「竹」を採用した新複合材料を開発カーボンフットプリント半減と性能向上を両立 自動車部品などに活用へ | 矢崎総業株式会社のプレスリリース





























早瀬川 シュウ
フリーライターとして活動中。「日々の生活に『喜び』を」がモットー。特に、「快適さ」や「居心地のよさ」へのこだわりが強い。子どもの頃から海や森林公園を訪れていることもあって、自然環境や景観への興味関心も持っている。せせらぎの音や木漏れ日、お茶をじっくり味わう時間を好んでいる。
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