進む次世代燃料、届かない暮らし。灯油ストーブが取り残される理由

私たちの暮らしが便利になるにつれて環境への負荷も拡大する。そんな環境問題のジレンマは、今の生活のいたるところに存在している。自動車の運転やエアコンのつけっぱなし、そして灯油ストーブもそうだ。そうしたジレンマを解消する可能性を秘めているのが次世代燃料だ。その開発や普及の状況について解説する。

暖かさは手放せない。「灯油ストーブ」のジレンマ

私たちの生活は常に環境問題と背中合わせだ。暮らしが便利になったり、豊かになることに伴って、地球温暖化や大気汚染、海洋汚染などが拡大してきた歴史がある。

環境負荷を軽減するなら公共交通機関を使ったほうがいいのは重々承知だが、その便利さゆえ運転席に座りエンジンをかける。また深夜、買い忘れたものを求めてコンビニに出かける。24時間営業が、電力消費量や食品ロスを増やしていることは当然知っている。

冬になると、暖かさを求めて当たり前のように灯油ストーブに火をつけるが、ここにもジレンマがある。安くて気軽に暖かさを手に入れられるが、化石燃料を燃やしてCO2を排出し続けているからだ。

しかし、そんなジレンマから解き放たれる日がやってくるかもしれない。国内外で次世代燃料の開発が進んでいるからだ。

今のストーブがそのまま使える? 石油に代わる「燃やす」次世代エネルギー

次世代燃料とは、既存の化石燃料に依存しない新しいエネルギー源のことだ。メリットは、燃焼時にCO2を排出しない、枯渇する恐れがないなど、環境負荷が小さい点にある。代表的な5つを解説する。

e-fuel(合成燃料)

e-fuelとは、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を合成して製造する燃料のこと。産業用排気ガスや大気中から回収したCO2と、再エネ発電などで水を電気分解して製造した水素を反応させ、合成ガスを製造する。

ポイントは、CO2が原料になることだ。e-fuelを使用するとCO2は排出するが、大気中のCO2を使用しているため差し引きゼロと見なされる。大気中のCO2を増やすことなく使用できるのだ。

原油と同等の成分を持つ「合成粗油」が製造できることもメリットの一つだ。加工することでガソリンや灯油などを自由に製造できるため、既存の自動車やストーブなどの設備を買い替えることなく、そのまま利用できる。

バイオディーゼル(BDF)

バイオディーゼルとは、菜種油や廃食用油などのバイオ資源を原料とするディーゼルエンジン用の燃料のこと。メタノールなどと化学反応させることで脂肪酸メチルエステル(FAME)を生成し、高純度の燃料を製造する。軽油の代替燃料としてディーゼルエンジンを搭載したトラック、バスのほか、重機、ボイラー、発電機などで利用できる。国内でもすでに製造されており、2023年度のFAME製造量は約10,579kLだ(*1)。

ただし、バイオディーゼルを使用すると、車両に不具合が出ることも報告されている。国土交通省では、バイオディーゼル100%燃料や混合率5%を超えるバイオ混合軽油を自動車に使用する場合は、燃料品質や車両構造、点検整備に留意が必要としている。

HVO(Hydrotreated Vegetable Oil)

FAMEと同じく植物性油を使用し、水素化分解により製造するHVOも開発が進んでいる。FAMEに比べて品質が安定し、軽油やバイオディーゼルよりもクリーンな再生可能ディーゼル(RD)として、エンジンへの影響が少ないのがメリットだ。

国内でも開発が進められており、ユーグレナ社が軽油にHVOを51%混合した次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を2020年から発売(*2)。大成建設が、建設現場において初めてHVOを導入したと2025年7月に発表した(*3)。また2024年には、伊藤忠エネクスが提供するRDが、HVOとしてはじめてエコマークに認定された(*4)。将来の主流になれる次世代燃料として期待も大きい。

バイオエタノール

バイオエタノールは、トウモロコシやサトウキビなどを発酵させて製造する燃料のこと。ガソリンに混合して自動車用燃料として使用することで、CO2の排出量を削減する。

製造技術が確立されている上、製造コストが安価なため世界各国で導入が進んでいる。日本でも、石油精製事業者に対してバイオエタノールを利用することが「エネルギー供給構造高度化法(高度化法)」で2011年から義務づけられている。しかし、既存のインフラが故障する原因になり得ることから、直接ガソリンに混ぜるのではなく、添加剤に加工して混合している。

ガソリンへのバイオエタノール混合割合は「E〇」のように表すが、日本でも2012年4月からE10対応車が市場に登場。経済産業省では、2030年度までにE10の供給を国内で開始する方針を示している。

バイオガス

バイオガスとは、生ごみや下水汚泥などのバイオマス資源を微生物の力で分解して発生させた燃料ガスのこと。成分や熱量を都市ガスと同等に精製し、既存の都市ガス導管網に注入・供給する。

すでに国内でも使用されており、東京ガスは下水汚泥や食品残渣などから発生したバイオガスを精製するシステムを構築。この「バイオガス精製システム」は、2025年に日本ガス協会の技術賞も受賞した(*5)。また大阪ガスでは、アメリカの事業者から購入したバイオメタンを液化して、都市ガスとして供給する予定と2025年11月に発表した(*6)。

そのほか、鹿児島市の日本ガスでは清掃工場の生ごみから発生するバイオガスを、長岡市の北陸ガスでは長岡中央浄化センターから受け入れた消化ガスを都市ガス原料として活用している。

NYは義務化済み。海外で先行する「家庭用」の脱炭素

日本国内でもバイオディーゼルやバイオガスなどの利用が始まっているが、海外はさらに進んでいる。アメリカ・ニューヨーク州では、2022年7月から暖房用灯油にバイオディーゼル燃料を5%以上混合して販売することが義務付けられた(*7)。その後、コネチカット州とロードアイランド州でも同様の法律が成立している(*8)。

自動車燃料としては、バイオエタノール混合燃料の流通が各国で進んでいる。カナダやインドネシア、タイなどではE10を導入。先行するインドではE20、ブラジルではE27やE100もすでに流通している。

e-fuelもすでに生産が開始されている。先行しているのがアメリカに拠点を置くHIFグローバル社だ。再エネ由来のe-fuel製造を進めており、日本の企業では出光興産とENEOSが2023年に協業に関する契約を締結している(*9)。

またノルウェーでは、Nordic Electrofuel社が2027年から年間1万kLのe-fuel製造を開始する予定だ。家庭用として幅広く浸透するか注目したい。

日本は「実験」止まり。家庭用に届かない理由

海外では次世代燃料がすでに市場で流通しているが、日本では見通しは立っていない状況だ。ENEOSがe-fuelの実証プラントを国内で初めて稼働させたが、2025年10月に計画の無期限停止を発表した(*10)。背景には、採算ラインに乗せる目処が立たなかったことがあると見られている。

灯油に代わる次世代燃料の国内での普及はまだ先と言わざるを得ないが、元々環境政策は産業用を先行させる傾向がある。需要規模が大きく、脱炭素の効果が出やすいからだ。導入量が増えて価格が下がった段階で家庭用にシフトしていくことで、反対意見も起きにくい。また国際民間航空機関(ICAO)が、2021年以降のCO2排出量に関する厳しい目標を設定しており、日本でも「持続可能な航空燃料(SAF)」開発に注力しているといった事情もある。

一方、自動車燃料に関しては、カーボンニュートラル化への道筋を政府が示している。急激な移行は難しいことから、バイオ燃料とe-fuelの比率を徐々に上げ化石燃料の使用量をゼロにしていく。

出典:資源エネルギー庁「ガソリンのカーボンニュートラル移行に欠かせない「バイオエタノール」とは?」

2030年代の早い時期に、新車販売におけるE20対応車の比率を100%にすることも目標の一つだ。自動車分野においては、より早く、より幅広く次世代燃料が利用される未来が見えている。

まとめ:「罪悪感のない暖かさ」が訪れる日

次世代燃料の開発は進んでいるが、私たちの家庭に届くまでにはさまざまな課題がある。最大の壁はコストだ。個人の判断では、やはり安い方を選んでしまう。現状では軽油に比べてFAMEは2倍弱、HVOは3〜5倍とされる。家庭用として広く普及するには、まだハードルは高い。

加えて、既存の設備・機器がそのまま使えるかも重要だ。私たちが使用するストーブだけではなく、運搬するタンクローリーや貯蔵所を傷めることのない燃料であることが前提になる。

しかも家庭に普及させるために、ニューヨーク州のように法整備が行われることも考えられる。その場合、私たちの暮らしに負担がかかる可能性もある。

ただし、これらを一つひとつクリアすることで、小資源国・日本において至上命題だったエネルギーの地産地消も実現する。そして、暖かくて経済的で環境にやさしい冬が訪れ、私たちが冬の寒さの中で感じるジレンマは一つ解消される。そんな”罪悪感のない暖かさ”が訪れる日がくることを期待せずにはいられない。

Edited by c.lin

注解・参考サイト

注解
*1 2023年度のFAME製造量は約10,579KL。全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会「バイオディーゼル燃料取組実態等調査結果(2023年度実績)」による。
*2 ユーグレナ社が軽油にHVOを51%混合した次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を2020年から発売。ユーグレナ「ユーグレナ社、HVO51%混合の次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を開発 軽油規格に適合、公道走行可能な混合比率として最高水準を達成」による。
*3 大成建設が、建設現場において初めてHVOを導入。大成建設「​​公道走行可能なCO2排出量▲51%の次世代バイオ燃料を国内の建設現場で初導入」による。
*4 伊藤忠エネクスが提供するRDが、HVOとしてはじめてエコマークに認定。伊藤忠エネクス「リニューアブルディーゼルで「エコマーク」を取得~「合成燃料(バイオディーゼル)」として初の認定~」による。
*5 「バイオガス精製システム」は、2025年に日本ガス協会の技術賞も受賞している。東京ガス「「バイオガス精製システム」が2025年度日本ガス協会技術賞を受賞」による。
*6 都市ガスとして供給する予定と2025年11月に発表している。大阪ガス「米国産バイオメタンの調達契約の締結について」による。
*7 2022年7月から暖房用灯油にバイオディーゼル燃料を5%以上混合して販売することが義務付けられた。日本貿易振興機構(ジェトロ)「米ニューヨーク州、暖房用灯油へのバイオ燃料混合を義務化へ、2022年7月から」による。
*8 コネチカット州とロードアイランド州でも同様の法律が成立している。日本貿易振興機構(ジェトロ)「米ニューヨーク州、暖房用灯油へのバイオ燃料混合を義務化へ、2022年7月から」による。
*9 日本の企業では出光興産とENEOSが2023年に協業に関する契約を締結している。日本貿易振興機構(ジェトロ)「チリ石油公社とHIF Global、合成燃料の商業化に向けた覚書締結」による。
*10 ENEOSがe-fuelを製造する国内初の実証プラントの運転を開始したが、2025年10月に計画の無期限停止を発表した。Yahooニュース「ENEOSが合成燃料「e-fuel」の開発を断念、もともと無理筋の技術だった」による。

参考サイト
バイオ燃料の政策について|経済産業省
バイオ燃料・合成燃料の サプライチェーン構築に向けて|資源エネルギー庁
ガソリンのカーボンニュートラル移行に欠かせない「バイオエタノール」とは?|資源エネルギー庁
バイオガス・バイオメタンの 都市ガス利用について|資源エネルギー庁
自動車用燃料(ガソリン)への バイオエタノールの導入拡大について|資源エネルギー庁
未来ではCO2が役に立つ?!「カーボンリサイクル」でCO2を資源に|資源エネルギー庁
飛行機もクリーンな乗り物に!持続可能なジェット燃料「SAF」とは?|資源エネルギー庁

About the Writer
倉岡

倉岡 広之明

雑誌記者として活動した後、フリーライターとして独立。さまざまなジャンルの記事を執筆しているが、北海道で生まれ育ったこともあり、自然環境や気候変動、SDGs、エネルギー問題への関心が深い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史など、多岐にわたるテーマを手がけている。
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