生物多様性とは?生物多様性の喪失がもらたす問題点や国家の対策、私たちができる取り組みを紹介

生物多様性とは

生物多様性とは、地球上に存在する生命の多様性を指す。この多様性とは、さまざまな種の生物が存在する(種の多様性)だけでなく、体の大きさや形などのバリエーションに富んでいること(遺伝子の多様性)、河川、森林、海洋などのさまざまな自然環境の中でそれぞれの生態系が存在すること(生態系の多様性)も含んでいる。

地球には約870万種の生物が存在すると推定されており、人間を含む多様な生物は、地球の長い歴史において、相互につながりを育みながら地球全体の生態系バランスを保ってきた。これにより、気候の安定、空気や水の浄化、海や森からの食料の確保などがもたらされ、私たち人間も多大な恩恵を受けてきた。

しかし現在、生息地の環境破壊、気候変動、外来種の侵入などが原因で、生物多様性は深刻な状況に陥っており、多くの種が絶滅の危機に瀕している。生物多様性の喪失および生態系バランスの乱れは、地球の生命システムの維持を揺るがし、私たち人類の存続を脅かすものでもあることから、国際的に手を組み対策が推進されている。

生物多様性が失われていく現状

近年、野生生物の種の絶滅が深刻化しており、IUCN(国際自然保護連合)が絶滅の恐れがある野生生物をまとめた「レッドリスト」には、2022年10月時点で4万1,459種が記載されている。

また、WWF『生きている地球レポート2022』の報告によると、自然と生物多様性の健全性を測る「生きている地球指数(LPI)」が、1970〜2018年の50年間で69%減少しているという。特に、世界の淡水域の野生生物の減少は顕著で平均83%減少している。地域別に見ると、最も減少率が大きかったのは中南米の-94%。次いでアフリカの-66%、アジア・太平洋-55%と続いた。

生物多様性が失われる原因としては、乱獲、生息環境の喪失、外来生物、気候変動などがあげられ、人間のさまざまな行動が生態系バランスに悪影響を及ぼしていることが指摘されている。

例えば、マグロの乱獲により資源量が減少しており、このまま過剰な漁獲が続けば近い将来マグロを食べることができなくなると警鐘が鳴らされる。また、海洋プラスチックなどの影響でウミガメやアザラシなどの海洋生物が傷つけられたり命を落とす事例も後を絶たない。さらに、オーストラリアでは森林火災や農地開発によってコアラなどの生きものの減少が続く。このように、生物多様性の損失は地球規模での深刻な問題になっており、気候変動の問題とともに解決が急がれている。

生物多様性はなぜ必要なのか

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生物多様性と生態系の複雑な相互作用は、食料、医薬品、エネルギーなど人間の基本的な生活に不可欠な恩恵をもたらしている。また、森林、草原、湿地、海洋などの生態系は、気候の調節、淡水の浄化、花粉媒介、土壌再生などの働きによって自然環境のバランスを保つ役割を担う。

アメリカ・メリーランド大学のロバート・コスタンザ氏の研究によると、生態系がもたらしているこれらの機能を経済的価値に換算すると、1年あたり33兆ドル(約4,400兆円)に至ると試算されている(1997年、英科学誌Nature)。つまり、生態系サービスは人間の経済活動の土台となり、社会の持続可能性を支える基盤となっているのである。

しかし現在、人類が地球環境に与える負荷の大きさを示すエコロジカル・フットプリントは、地球が生産・吸収できる生態系サービスの供給量を75%も超過している。世界がこれまでの生活水準を続けることで、生物多様性の喪失がさらに加速し、自然からの恩恵を得ることができなくなるということだ。

そのため、健全な生態系バランスを保ち、人類が安心して生活するためにも、生物多様性の維持・再生に向けて取り組む必要がある。

生物多様性を保全するための対策

生物多様性の喪失という地球規模での課題に対しては、生態系バランスの保全だけでなく、失った生物多様性の回復を目指すネイチャーポジティブの考えが重要で、世界中で様々な取り組みが進められている。以下、国際的な動きと、日本の取り組みをそれぞれ紹介する。

国際的な取り組み

これまでは生物多様性の保護に関する対策として、絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引に関する「ワシントン条約」と、主に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する「ラムサール条約」の2つの国際条約が運用されてきた。

上記の条約を補完し、生物多様性を包括的に保全することで生物資源の持続可能な利用を行うための国際的な枠組みとして、1992年の地球サミットで生物多様性条約(以下、CBD)が制定された。この条約は、生物多様性の保全、生物多様性の構成要素の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を目的としている。2023年4月現在、世界194ヶ国、欧州連合(EU)、パレスチナが締結しており、加盟国に対しては国内行動計画の策定を義務付けている。

また、世界100ヶ国以上で活動する環境保全団体WWF(世界自然保護基金)では、野生動物が暮らすことができる森林や海洋を守るなどの環境保全活動に加えて、持続可能な生産・消費を推進し、経済や社会の仕組みや行動様式を変革するための取り組みを行っている。

日本の取り組み

日本においては、2022年10月にモントリオールで開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に対応した戦略として、2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定した。

この戦略では、2030年のネイチャーポジティブの実現に向けて、生物多様性および自然資本を保護・活用することで、地球環境の持続可能性と人類の健全な暮らしを保証しようとしている。これにより、2050年には「自然と共生する社会」を実現することが目指される。

ネイチャーポジティブ実現に向けては、社会の構造や経済活動の根本的な変革を実施し、生態系バランスの維持や自然の恵みの維持回復など、生物多様性損失と気候危機への統合的対応が必要となる。そのための基本戦略として下記の5つが設定され、この5つの基本戦略をもとに、各省庁などの具体的な施策に落とし込まれている。

■5つの基本戦略

1. 生態系の健全性の回復

生物が棲む場の保全・再生、野生生物の保全、環境汚染の削減

2. 自然を活用した社会課題の解決(NbS)

自然を活かした地域づくり、野生鳥獣の管理、気候変動対策とのシナジー構築・トレードオフ緩和

3. ネイチャーポジティブ経済の実現

ESG投資の推進、定量的評価と情報開示、持続可能な農林水産業の拡大

4. 生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動

エシカル消費の推進、環境教育による人材育成、保全活層の促進

5. 生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進

情報基盤の整備、国際協力の推進、適正な政策立案

わたしたちができること

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地球上の生態系のバランスを均整に保つための取り組みというと、とてつもない規模の話に感じてしまうかもしれないが、私たち一人ひとりの小さな行動も非常に重要となってくる。

環境教育の推進

生物多様性について学び、その知識を友人や家族、地域社会と共有することや、SNSやブログなどを利用して、生物多様性保全のメッセージを広めることも、大きな影響を与える方法の一つだ。また、環境教育を通じて、次世代に生物多様性の重要性を伝え、持続可能な未来に向けた意識を高めることもできる。

自然と触れ合う機会

日常的に自然と触れ合う機会をつくることも大切だ。自然との接点を増やすことで、生物多様性の価値を実感し、その保全の重要性をより深く理解することができる。その結果、私たち自身の心身の豊かさが育まれるとともに、人と動植物の適切な関係について学ぶことにもつながる。

エシカル消費の実施

日常生活での消費行動を見直し、持続可能な製品やサービスを選択することも重要だ。これには、環境に優しい農畜産物や海産物を選ぶ、再生可能エネルギーを利用する、不必要なプラスチック製品の使用を避けるなどが含まれる。また、自宅やオフィスでのエネルギー効率の良い製品の使用や、電気の消費を減らすための工夫も有効である。

食品ロスや廃棄物の削減

リサイクルやコンポスティングを積極的に行い、資源の無駄遣いを減らすことも、生物多様性の保全に貢献する。例えば、使い捨てプラスチックの不使用や食品ロスの削減、スローファッションの導入など、日常的に行うことができる取り組みも多い。

まとめ

生物多様性の保全は、地球上の生命全体の健康と安全を守るために不可欠である。私たち一人ひとりが日常生活で意識的な選択をすることから、地域や国際社会での取り組みに至るまで、多岐にわたる努力が求められる。生物多様性の喪失に歯止めをかけ、持続可能な未来を築くためには、教育、政策支援、自然とのつながりを深める活動など、個人としても社会としても積極的な行動が必要だ。

参考記事

はじめての『生物多様性』~今おさえておきたいポイントをわかりやすく簡単に解説
生物多様性条約|外務省
生物多様性国家戦略2023-2030の概要|環境省

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k.fukuda
大学で国際コミュニケーション学を専攻。これまで世界60か国をバックパッカーとして旅してきた。多様な価値観や考え方に触れ、固定概念を持たないように心がけている。関心のあるテーマは、ウェルビーイング、地方創生、多様性、食。趣味は、旅、サッカー観戦、読書、ウクレレ。