スローファッションとは?特徴や政府による取り組み、私たちができることなどを紹介

スローファッションとは

スローファッションとは、持続可能なファッションを目指す動きであり、質の高い製品を長く愛用することを重視する考え方である。この概念は、環境に配慮した素材の使用や、倫理的な労働条件の下での生産、廃棄を減らすためのデザインなど、ファッション産業の持続可能性に焦点を当てている。

これまで、多くの人にファッションの楽しみを提供してきたファストファッションは、トレンドを捉え、短期間で消費される安価な衣服を大量生産するビジネスモデルの上に成り立っている。しかし近年、環境への負荷が大きいことや劣悪な労働環境での生産、衣料品の大量廃棄を招いているなど、多くの批判を受けている。

スローファッションは、消費者に対しても環境問題への取り組みを促し、購入する製品に責任を持つこと、長期的な視点でファッションを楽しむことを提案している。この考え方は、単に衣服を購入すること以上の価値を生み出し、ファッションを通じて社会や環境の問題解決を目指している。

サステナブルファッションとの違い

スローファッションとサステナブルファッションは、環境への配慮と倫理的な生産を重視する点で共通の考えを有している。

しかし、スローファッションは消費のペースを落とし、長く愛用できる品質の高い製品を選ぶことを消費者に促す一方で、サステナブルファッションは環境負荷の低減を目指し、リサイクル素材の使用やエコフレンドリーな生産を行う。つまり、スローファッションはライフスタイル全体の変化を促す一方、サステナブルファッションは業界の持続可能な発展を目指す点で異なる。

なぜ注目されているのか

PATCH THE WORD_人権問題

トレンドを追い求めてきたファッション業界において、なぜスローファッションが注目されているのだろうか。これには、エシカル消費への関心、環境問題、人権問題の3つが深く関わっている。

エシカル消費への関心

エシカル消費とは、製品やサービスを選ぶ際に、環境保護や社会問題の解決となる選択をする消費行動だ。近年、この考え方はファッション業界にも波及し、スローファッションへの関心も高まってきている。

スローファッションの考え方のもと、質の高い製品を長く使用することは、エシカル消費の目的と共通する。消費者の間で、単なるトレンド追求から、製品の背景にある倫理的価値を重視する意識が高まっているのである。

環境問題

スローファッションが注目される背景には、衣服の製造から廃棄に至るまでの環境負荷の大きさがある。環境保全団体WWFジャパンによると、1枚の綿Tシャツを作るのに必要な水の量は約2,700リットルにものぼる。これは1人の人間が2.5年間飲む水の量に匹敵するほどだ。

さらに、衣服の廃棄によって年間で約9,200万トンの繊維廃棄物が発生し、これらが自然に還るまでには数十年を要する。このような現状が、環境に配慮したファッションへの関心を高めているのだ。

人権問題

人権・労働問題もスローファッションへの注目が高まる一因だ。特に2013年に発生したバングラデシュのラナプラザ事故は、衣服製造過程での劣悪な労働環境と安全対策の不備を世界に露呈した。

この事故は、消費者に安価な衣服の裏に隠された人権侵害の実態を知らしめ、ファストファッションの代替として、倫理的かつ持続可能なスローファッションへの関心を喚起したのである。

スローファッションの特徴

スローファッションにはどのような特徴があるのだろうか。環境・コストパフォーマンス・労働環境の3つの観点から考えていく。

環境にやさしい

スローファッションは、農薬や殺虫剤を最小限に抑えた素材の使用に注力している。また、製造過程でのエネルギー消費も問題視し、省エネルギーな方法を取り入れることで環境負荷を低減している。これらの取り組みにより、地球にやさしいファッションを実現しているのが特徴である。

長く使用でき経済的

ファストファッションとは異なり、質の高い素材と丁寧な製法により長持ちすることがスローファッションの特徴の一つだ。製品単価は高い傾向にあるものの、頻繁に買い替える必要がないため、長期的に見ればコストパフォーマンスに優れている。また、耐久性の高いアイテムは時代を超えて愛用できるため、経済的なだけでなく環境にも優しい選択と言えるだろう。

人権に配慮した生産

スローファッションでは、生産工程における労働者の人権が重視される。ファストファッションが効率とコスト削減を優先する一方で、スローファッションは適正な労働条件の確保や公正な賃金の支払いに注力している。これにより、持続可能な環境の中で品質の高い製品が生み出され、労働者の尊厳も保たれる。

課題

スローファッションは、持続可能な消費を促進する一方で、コスト面において課題を抱えている。高品質な素材の選択、公正な労働条件の確保、環境への配慮といった要素は、製品の価格を押し上げる要因となるのだ。消費者にとっては、ファストファッションに比べて手が届きにくい価格帯であることが多く、購入をためらわせる。

この問題に対する解決策として、消費者にスローファッションの考え方に賛同してもらうことが重要だ。製品が持つ真の価値や、製造過程での倫理的な取り組みを消費者と共有し理解することで、消費者は価格以上の価値を見出しやすくなる。

また、スローファッションブランドが透明性を高め、消費者との信頼関係を築くことも重要である。さらに、量より質を重視することで、長期的にはコストパフォーマンスが向上することを消費者が実感できるようになれば、支持を集めやすくなるだろう。

行政や国際機関による取り組み

行政や国際機関もスローファッションやサステナブルファッションへの取り組みを行なっている。

ファッション業界気候行動憲章(Fashion Industry Charter for Climate Action)

ファッション業界気候行動憲章は、2030年までに業界の温室効果ガス排出量を30%削減することを目指している。この憲章は、持続可能な素材の使用を促し、エネルギー効率の向上や循環経済への移行を含む具体的な行動計画を定めている。加盟企業は、これらの目標達成に向けて透明性をもって取り組みを公表し、共同で行動することが求められている。

ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)

JSFAは環境省の呼びかけにより、伊藤忠商事やユナイテッドアローズなどファッション・繊維企業11社が設立した団体だ。ファッション業界が自然環境や社会に与える影響を把握し、サプライヤーや顧客とともにバリューチェーン全体の透明化や適量生産・適量購入の推進を通じて、2050年に向けてカーボンニュートラルやファッションロスゼロを目指す。

環境省

環境省は、私たち消費者のファッションのあり方をアップデートするべく、サステナブルファッションの普及を目指したさまざまな取り組みを行なっている。環境負荷の見える化、アップサイクル・リユースの推進、各種リサイクル技術の高度化、衣服回収の仕組みづくり、環境配慮型製品の普及拡大など、生活者だけでなく企業へのはたらきかけにも努めている。

私たちができること

PATCH THE WORD_洋服を大切に

スローファッションの考えに基づき、私たちにもできることがある。以下では、今日からでも始められる4つの方法を紹介する。

買う量を減らす

スローファッションを推進する上で、私たちがまず着目すべきは衣類の消費量である。一般的な消費者は年間に約68着の衣類を購入しているとされるが、これを半分以下に抑えるだけでも環境への負荷は大きく減少する。そのためには、必要最低限の購入に留め、質の高いアイテムを長く愛用することが重要だ。例えば、年間購入量を30着未満にするといった目標を設け、一着一着を大切にする心がけが、スローファッションへの第一歩となるだろう。

価格以外の観点を取り入れる

単に価格だけで判断するのではなく、素材の質や背景にある価値に注目することも重要である。例えば、オーガニックコットンやリサイクル素材を使用したアイテムは、環境への配慮がなされている。また、手作業で織られた布や伝統的な技法で染められた服は、その製品一つひとつに職人の技術や文化が息づいている。

これらのストーリーを知ることで、私たちは服に対する愛着を深め、長く大切に着続けるきっかけを得られるだろう。さらに、飽きのこないシンプルなデザインを選ぶことも、持続可能なファッションを実践する上での一つの方法だ。

丁寧にお手入れする

衣服の丁寧なお手入れも欠かせない。季節外の服はきれいに洗い、乾燥させた後、通気性の良い布製バッグに入れて保管する。また、衣服のタグを確認して素材ごとのケア方法を確認することも大切だ。日々の適切なケアを心掛けるだけでも、衣服の寿命を伸ばすことができる。

情報を共有する

スローファッションを推進する上で、情報共有は不可欠である。例えば「#FashionDetoxキャンペーン」「#whomademyclothes」「#MendItMine」などのハッシュタグを活用することで、消費者としての意識や行動を世界中の人々と共有し、大きなムーブメントを生み出す力となる。このようなアクションによって、誰が衣服を作ったのか、修理して再利用する文化をどう広めるかといった情報が拡散され、スローファッションの理念がより多くの人々に受け入れられる土壌が育っていく。

まとめ

スローファッションは、単なるファッションのトレンドを超え、持続可能な社会を目指すエシカルアクションである。消費行動一つひとつが環境や社会に与える影響を考え意識的な選択をすることで、直線的な消費モデルが定着してしまったファッション業界の変革に一役買うことができるだろう。エシカルにおしゃれを楽しむ喜びを、より多くの人と共有できることを心待ちにしたい。

参考記事

オーガニックコットン”に関する記事|環境保全団体WWFジャパン
サステナブルファッション|環境省
ファストファッションの死とスローファッションの誕生|公益財団法⼈ 吉田秀雄記念事業財団

関連記事