ブルーカーボンとは?地球温暖化対策への重要性を事例を交えて解説

ブルーカーボンとは

ブルーカーボンとは、沿岸・海洋生態系が光合成によって吸収したのちに、海底の土壌などに蓄積する炭素のこと。この言葉は、2009年に国連環境計画(UNEP)が公表した『ブルーカーボン』という報告書において定義された。

ブルーカーボンの主要な吸収源として、以下が挙げられる。これらは合わせて「ブルーカーボン生態系」と呼ばれている。

  • 海草(うみくさ):アマモなど、海中で一生を過ごす種子植物。比較的浅いところで藻場(もば)をつくる
  • 海藻(うみも):コンブなど、胞子によって繁殖する藻類
  • 湿地・干潟:河川や沿岸流によって運ばれてきた土砂が海岸や河口部などに堆積し、アシ、微生物などの多様な生態系が生息する
  • マングローブ林: 熱帯や亜熱帯の河口付近などに生息する樹木

ブルーカーボン生態系は、大気中から吸収した二酸化炭素を海底に固定させる機能を持つ。そのため、カーボンニュートラル施策の一つとして地球温暖化対策において貴重な役割を果たすことが期待される。

ブルーカーボンの仕組み

海草などのブルーカーボン生態系が、生命活動を通して海中の二酸化炭素を吸収し、枯死や分解によって海底の土壌に蓄積することでブルーカーボンは生成される。

具体的な仕組みは、以下のとおりだ。

  1. ブルーカーボン生態系が光合成により、海水に溶けこんだ二酸化炭素を吸収する
  2. 生態系に取り込まれた炭素が、生命活動やバクテリアによる分解により、二酸化炭素に戻って循環する
  3. 2において循環しなかった炭素が、海底に堆積する
  4. 海中の二酸化炭素が減った分、大気中の二酸化炭素が海水に溶けこむ
  5. 1~4の繰り返し

3において循環せず海底に堆積したブルーカーボンは、数千年規模で長期的に貯留される。これは、海底は無酸素状態かつバクテリアの働きが緩やかであるためだ。

温室効果ガスのひとつである二酸化炭素を大気中から削減し、海底に長く貯留できれば、地球温暖化の進行にブレーキをかけることができる。

ブルーカーボンの重要性

ブルーカーボンは、地球温暖化対策として有効に機能することが期待されている。その吸収源であるブルーカーボン生態系は、CO2の吸収だけでなく、以下のような恩恵を私たちの暮らしにもたらしてくれる。

  1. 地球温暖化の抑制:沿岸・海洋生態系のCO2吸収率は陸上植物よりも高い(沿岸・海洋生態系:約30%、陸上植物:約12%)
  2. 生物多様性の維持:海藻類や海草類の藻場は、海洋の生物多様性を支える基盤である
  3. 防災・減災機能の向上:洪水の軽減や、高潮・津波の減衰など

これらの恩恵が見過ごされた結果、過去50年でマングローブ林の30〜50%が開発のために伐採された。そして現在も毎年2%の割合で失われ続けている。

また、ブルーカーボン生態系はCO2吸収率が高い分、伐採によって大量のCO2が空気中に排出される。例えば、マングローブの伐採によるCO2排出量は、世界の森林破壊による総排出量の10%に達する可能性があるとされている。

このように、ブルーカーボン生態系は地球温暖化対策として有効なだけでなく、生物多様性の維持や防災・減災機能としても重要であるため、早急に保全に取り組む必要がある。

ブルーカーボンの現状と課題

ブルーカーボンをつくる生態系は主に沿岸部にしか存在しないため、陸上植物と比較するともともと全体量が非常に少ない。それにもかかわらず、海洋汚染や開発などの理由により、重要な貯留庫である沿岸域が失われ、海洋生態系の減少がさらに加速している。

マングローブ林や海草藻場は、これまでに世界の面積の最大67%が失われたと推定されている。このペースで減少が続くと、今後100年間でさらに30〜40%の干潟や藻場が失われることになる。マングローブ林にいたっては、保護されなければほぼすべてを失う可能性すらある。

このことによる問題は、資源や温暖化対策の手段がひとつ失われるだけではない。ブルーカーボン生態系が破壊されると、大量に取り込んだ二酸化炭素が大気中に排出され、地球温暖化を加速させてしまう恐れがあるのだ。

すでに失われた生態系の回復には時間がかかるため、まずは喪失に歯止めをかけることが重要となる。

ブルーカーボンの取り組み事例

地球温暖化対策となることから、世界的に注目されるブルーカーボンに対して、以下のように様々な取り組みが行われている。

1.海外の取り組み

ここでは海外の取り組みの一例として、インドネシアとオーストラリアの事例を紹介する。

インドネシア

世界最大の群島国家であるインドネシアは、同時に世界最大のブルーカーボン資源の本拠地でもある。そのため、同国のブルーカーボン生態系の保全に向けて世界中から注目が集まる。2023年に世界経済フォーラム(WEF※)は、ブルーカーボン生態系の回復と海洋保全の取り組み拡大を支援するため、インドネシア政府との新たなパートナーシップに署名した。

この中で、インドネシア政府は2024年までに60万ヘクタールのマングローブ林の再生を計画している。本パートナーシップにより、ブルーカーボンに関心をもつ人々を集めて資金調達を促進し、気候変動対策への取り組みを加速させる予定だ。

※WEF:グローバルかつ地域的な経済問題に取り組むために、政治、経済、学術等の各分野における指導者層の交流促進を目的とした独立・非営利団体

オーストラリア

2023年8月、オーストラリアの熱帯地域で初の試みとなる、大規模な海草修復プロジェクトが始まった。この計画の目的は、気候変動や災害によって荒廃した、400ヘクタール以上に及ぶ海草藻場を回復させることにある。

ジェームズ・クック大学の主導で、4年間で数千の海草の破片を植え、50万以上の種子をまく予定だ。また、海草藻場の再生とともに、ブルーカーボン貯留量の増加を測定することも計画している。

本プロジェクトが成功すれば、海草藻場の回復力を高める方法を示す手本となり、気候変動に対する有効な手立てを発見することができるかもしれない。

2.国内の取り組み

ここでは国内の取り組みの一例として、環境省と一般財団法人セブンイレブン記念財団の実施事業をそれぞれ紹介する。

環境省|「令和の里海づくり」モデル事業

「令和の里海づくり」は、漁業関係者、NPO、行政などが協力し、それぞれの地域に合わせて里海の保全と活用を進める取り組みだ。里海づくりによる、地域資源の保全と利活用の好循環を目指している。

具体的には、藻場・干潟の再生、海洋生態系の生息環境の改善、地域住民の交流の場づくりを主に実施する。こうした活動を通じて、地域の自然と共生しながら、経済的・社会的にも持続可能な地域づくりを行い、全国展開可能なモデルの創出を試みている。

一般財団法人セブンイレブン記念財団阪南セブンの海の森

大阪府阪南市で実施されている「阪南セブンの海の森」は、海草の一種であるアマモの保護・保全活動と沿岸清掃活動を行うプロジェクトだ。

産官学民が連携して「山と森」「海の森」の2つの視点から、CO2削減と豊かな自然環境の再生を推進。豊かな地域資源を活用し、地域が支えあう「誰も一人ぼっちにしない、誰も排除しない」持続可能な協働・協創のまちづくりを目指している。

3.COP28におけるブルーカーボンイベント開催

2023年12月、COP28(第28回目国連気候変動枠組み条約締約国会議)のジャパンパビリオンにおいて、日本はオーストラリアと共催でブルーカーボンイベントを開催した。

イベントでは日豪における取り組み紹介や、パネルディスカッションを実施。先駆的な取り組みの紹介とともに、取り組みのキーポイントや課題を参加各国と共有した。

また、本イベントに先立ち、日本環境省がオーストラリア主導のブルーカーボン関連イニシアティブ※に国際パートナーシップとして加盟した旨を各国に向け報告し、日本とオーストラリアがともに、アジア太平洋地域のブルーカーボンの取り組みをリードしていく旨を改めて示した。

※ここでのイニシアティブは、特定の目的を持ったプログラムを指す

まとめ|ブルーカーボンは地球温暖化対策に有効

ブルーカーボンは地球温暖化対策に有効な選択肢である。有用性が注目されるようになった現在、保全に取り組む国や企業が増加している。以前から海洋保全に取り組んでいた組織も、これまでの活動にブルーカーボンの測定を追加する事例が増えた。

しかし、ブルーカーボン生態系は失われやすいだけでなく回復に時間がかかるため、保全活動をさらに推進していくことが求められる。

個人レベルでも、ブルーカーボン生態系の保全に協力できる。まずは海洋ごみの削減や、沿岸域の保護活動への参加など、できることから始めてみてほしい。

参考記事

ブルーカーボンに関する取組み | 環境省
港湾:ブルーカーボンとは – 国土交通省
ブルーカーボンとリソース*
ブルーカーボンおよび 沿岸生態系を活用した 環境・防災リスク管理
What is Blue Carbon?
World Economic Forum Signs Partnership with Indonesia on Blue Carbon to Support National Climate Goals
Large-scale seagrass restoration takes root in Tropical Australia
令和6年度「令和の里海づくり」モデル事業の実施団体の募集について | 報道発表資料 | 環境省
「阪南セブンの海の森」づくり
国際連携による ブルーカーボンの推進

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