リジェネラティブとは?農業・漁業・建築における特徴と取組み事例を紹介

リジェネラティブとは・意味

リジェネラティブとは、「再生する」という意味の言葉で、これまで当たり前とされてきた社会の仕組みや在り方を見直し、壊れてしまったものを「再生させる」ことで今より良い状態へ進化させることを指す。

昨今、気候変動などの環境問題が深刻化している中、サステナブルな地球環境を目指して世界各地で取り組みが進められている。しかし、現状を維持・持続させるだけでは、環境問題の悪化に対応しきれない状況になっていることから、リジェネラティブはサステナブルよりもさらに進んでいる考え方として海外では大きく注目されている。
日本ではあまり聞きなじみのない言葉ではあるが、既にリジェネラティブをビジネスに取り入れている企業が存在していることからも、今後さらに認知が高まっていくことが予想される。

注目される背景

リジェネラティブが注目されるようになった背景には環境問題がある。温暖化やそれに伴う海面上昇、生物多様性の喪失、森林破壊などが世界中で引き起こされており、日本でも猛暑や大型台風の頻発など異常気象に襲われることが増えてきている。
人間の活動によって破壊された地球の環境は、もはや限界に近づいている中、今後もアフリカを中心に人口増加が見込まれており、また中流層以上が増加することで、これまで以上に消費が活発になることが予想できるため、「サステナブル(持続可能)」だけでは対応できない状況になっている。サステナブルはあくまでも「今あるモノ・コトを持続させる」ため、問題の根本的な解決に至らないことが多いが、リジェネラティブによって壊れてしまった土壌や海、川の生態系を回復させることが期待される。

農業におけるリジェネラティブ

PATCH THE WORD リジェネラティブ 農業

リジェネラティブの取り組みで最も重要視されるのが農業である。世界中で頻発する農業問題を解決する手段としてリジェネラティブ農業への期待が高まっている。

不耕起栽培

不耕起栽培とは、文字通り「耕さない」という農法。
近代の工業的な農法では、農地を大型トラクターなどで繰り返し耕しているが、これが土壌の生態系を壊し、保水性を失わせ、土を劣化させていることが分かった。これまでは、農薬や化学肥料の使用で何とか凌いできたが、その問題を根本から解決する手段として登場したのが不耕起栽培である。
これは砂漠化した土地を再生させる上、トラクターによる二酸化炭素の排出量を減らし、地中に炭素を貯蔵することもできる。また生産者にとって大型機械、肥料、農薬にかかるコストをカットできることも大きな利点だ。

オーガニック農法

オーガニック農法は、化学的に合成された肥料や農薬を使用せず、また遺伝子組換え技術を利用しないことで、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する栽培方法である。日本では、2006年「有機農業の推進に関する法律」によって定義が定められている。
農林水産省による有機JAS認証を受けたものだけが「オーガニック」と名乗ることができるため、認定を受けた作物は消費者の信頼が高くなる利点がある。

被覆作物(カバークロップ)の栽培

被覆作物(カバークロップ)とは、主となる作物の休閑期や栽培時に、畑の空いたスペースに栽培する作物のこと。代表的なものはイネ科やマメ科の作物で、土壌浸食を防いだり土壌に有機物を加えることを目的として栽培される。
微生物が増えて動きが活発化することで土壌が豊かになる、保水性が高まる、害虫を防止するなどの利点がある。

輪作・間作

同じ耕地で同じ科の作物を繰り返し栽培すると土壌の微生物が単純化し、作物が病気にかかりやすくなる「連作障害」が起こる。そこで行われるのが「輪作」という、同じ耕地に性質の異なる作物を一定の順序で栽培する方法だ。輪作をすることで土の養分の偏りをなくし、病害虫の予防ができるという利点がある。
輪作よりさらに効率的に行われるのが「間作」だ。これは、主となる作物の間に異なる作物を栽培する方法で、土地の利用率を高め、地力を維持することにも繋がる。

漁業・水産業におけるリジェネラティブ

漁業・水産業におけるリジェネラティブでは、海藻の養殖や藻場、干潟を再生する取り組みなどが注目を集めている。

これには、ブルーカーボンが大きく関わってくる。ブルーカーボンとは沿岸・海洋生態系に取り込まれた炭素のことで、2009年10月に発表された国連環境計画(UNEP)の報告書によって命名された。ブルーカーボンの吸収源として、海草、海藻、干潟、マングローブ林があげられ、「ブルーカーボン生態系」と呼ばれている。これらは、大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素を海底に貯蔵することから地球温暖化対策に有力であるとされるが、ブルーカーボン生態系自体の減少が深刻化しており、このことから海藻や藻場の再生が必要とされているのである。

建築分野におけるリジェネラティブ

近年は、街づくりにおいてもリジェネラティブが取り入れられている。特に建築分野では、人間の生活を自然の生態と共存させる考え方が取り入れられ始めている。

リジェネラティブ・デザイン

建築分野におけるリジェネラティブ・デザインは、人間も自然の一部であると考え、地球における生態系を崩さないよう周囲の環境に配慮したデザインである。
建築物の建材には木や石などの自然素材を使い、関連するエネルギー資源もできる限り自然由来のものを使用することが理想とされる。人間の生活を主体とするのではなく、すべての動物や植物との共存を図りながら快適な暮らしを実現する空間づくりを目指し、様々な取り組みが進められている。

トリプル・ネットゼロ

トリプル・ネットゼロは、エネルギー、水、廃棄物の3つを、ネット(=正味)ゼロにすることだ。
エネルギーや水を全く使用しないことや、廃棄物を全く出さないことは現実的に難しい場合も多い。そのため、再生可能エネルギーを活用した空調整備の使用、雨水の貯蔵・再利用、廃棄物のリユースやリサイクル資材の活用などの方法で、実質的な消費量をゼロに近づけることを目指している。

リジェネラティブ・アーバニズム

リジェネラティブ・アーバニズムは、災害に対応した都市づくりを指す言葉である。
近年、気候変動による災害は増加傾向にある。大型化する台風やハリケーン、地震および津波などの自然災害に耐えることができ、もし被災してもしっかり対応できる都市の仕組みを構築することを目指す。
また災害時の対応だけではなく、普段から地域コミュニティが強く結びつき、市民が暮らしやすい街であることも重要な観点である。

企業の取り組み事例

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実際、リジェネラティブをビジネスに活用する企業は増加の傾向にある。中でも特に環境問題に向き合いつづける企業が、次なる展開として取り組む事例が多くみられる。

パタゴニア 「リジェネラティブ・オーガニック農法を牽引」

リジェネラティブ農業に着目しているパタゴニアでは、より多くの炭素を補給することができる健全な土壌を育むための取り組みを行っている。同社の製品は、1996年からオーガニックコットンのみを使用しており、農家への支援も施しながら、土壌の保全や生物多様性を支えることに寄与している。

2017年には、健全な土壌管理やアニマルウェルフェア、農家や労働者に対する公平性の基準を設けた包括的な農業認証である「リジェネラティブ・オーガニック認証プログラム(R)」の制定を支援した。
衣料製造による環境問題への影響はトップレベルに高いなか、パタゴニアによる取り組みはサプライチェーン全体の変革を牽引することが期待される。

ネスレ 「農家とともに再生農業を推進」

ネスレは、2025年までに主要な原材料の20%、2030年までに50%を再生農業により調達することを目標とし、50万以上の農業従事者と15万以上のサプライヤーなどと協力しながら再生農法を推進している。
最先端の科学技術を応用した技術支援や、投資サポートの提供、再生農業の農産物に割増価格を支払うなどの方法で、農業従事者が再生農業へ移行することを支援しながらも、農業従事者だけに負担がかからないような取り組みも計画している。

LUSH 「リジェネラティブな調達」

コスメメーカーのLUSHは、2016年頃から原材料の調達を通じて環境や社会にポジティブな影響を及ぼす「リジェネラティブ・バイイング」に取り組んでいる。「イヌワシ・プロジェクト」では、バイヤーたちは渡り鳥を追いかけ、その先々で再⽣可能な原材料を探す。この活動では、渡り鳥たちが向かった地において、⾃然環境のみならず、その地で暮らす人々の経済の循環も考え、周辺の地域コミュニティの再⽣に寄与することも目的としている。 

シーベジタブル 「海の調整役・海藻を再生」

シーベジタブルは、磯焼けによって減少しつつある海藻を採取して研究し、陸上栽培と海面栽培によって蘇らせている。
海藻が茂る藻場は海水の浄化や海の生態系のバランスを保つために欠かせない場であるが、海水温の上昇や水質汚染によって大幅に激減。こうした状況を受け、シーベジタブルは海面で海藻を栽培することで、これまで活用されていなかった海域に長期間にわたって海藻がある状態をつくり、豊かな海の生態系を取り戻すことを目標としている。

北三陸ファクトリー 「ウニの再生養殖」

北三陸ファクトリーは、食害対策によって駆除される痩せたウニを廃棄するのではなく、商品レベルへと品質を改善する「再生養殖」の技術を確立。この再生養殖の適正な運用により、たった2ヶ月で1個5円で廃棄される予定だったウニが、市場販売価格で1個500円相当へと再生することに成功した。
また、ウニ殻を天然ゴムと混ぜた堆肥ブロックを海に沈めて海藻の種を植え付け、磯焼けで減少した海藻を再生する取り組みも行っている。

Bosco Verticale 「リジェネラティブな建築デザイン」

2014年、イタリア・ミラノに建築されたBosco Verticale(垂直の森)は、建物全体に植物が植えこまれた斬新なデザインのタワーマンションだ。
およそ800本もの木々が二酸化炭素を吸収し、新鮮な酸素を吐き出すことで大気汚染の緩和に大きく貢献している。また夏には気温を下げ、冬には大気中に温室効果をもたらしているため、冷暖房の出番を減らす。
現在は約1,600種の蝶や鳥、昆虫などの住まいにもなっているという。

リジェネラティブの課題

実は、リジェネラティブという概念は明確な定義や基準が定まっているわけではない。そのため、どのような取り組みをリジェネラティブとするかは、企業の判断に依拠するしかなく、定性的な評価をせざるを得ないのが現状だ。
また、生態系の回復や土壌改良などの実現には時間がかかり、長いスパンで行わなければならないことから、すぐに収益へ繋げることは難しく、事業として取り組むにはハードルが高いという懸念点もある。

つまり、企業がリジェネラティブな活動を推進するにあたって、目指すべきゴールを設定することが大きな関門になっているのである。今後、客観的な視点や定量的な基準を設けることで、事業の中にリジェネラティブな要素を組み込みやすい環境を整えることが重要だといえる。

今後の展望

地球環境の悪化により、大型台風などの異常気象が世界各地で頻発している状況を受けて、「サステナブル」な取り組みでは十分でないとの見方が出てきている。そのため、私たち人間も自然を形成する一部であると捉え、積極的にポジティブな影響を与えることが必要となってきているのである。

深刻化する環境問題に対して危機感ばかりが募り、時に無力さを感じることもあるかもしれない。しかし、地球環境に対して積極的に働きかけ再生させる「リジェネラティブ」によって前向きな心持ちが生まれ、地球と私たち自身のウェルビーイングにつながるのではないか。


参考文献

リジェネラティブ・オーガニック(RO)|パタゴニア
Regenerative Organic Certified
ブルーカーボンに関する取り組み|環境省
うに再生養殖事業|北三陸ファクトリー
再生事業|ネスレ日本

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