紛争鉱物とは?問題の背景と影響、日本や世界の規制について解説する

紛争鉱物とは?

紛争鉱物とは、アフリカなどの紛争地帯で採掘されるスズ、タンタル、タングステン、金の4つの鉱物(合わせて「3TG]とも呼ばれる)のことを指す。特にコンゴ民主共和国やアフリカの一部地域が、紛争鉱物の主な採掘国となっており、売上が一部の武装組織の資金源になることで、人権侵害や紛争の長期化の原因にもなっている。

これに対して、世界中で紛争鉱物の規制に関する動きが強まっている。アメリカでは2010年にドッド・フランク法を制定し、調達先の製錬所を調べ、米国証券取引委員会(SEC)に報告することを上場企業に義務付けている。またEUでは、調達した鉱物が紛争や人権侵害を助長するものではないことを証明し、ホームページ上で情報を開示する必要がある。

このような世界の流れを受けて、日本でも電子情報技術産業協会(JEITA)が主導して、「責任ある鉱物調達」を求める動きが活発になってきている。3TGは電子機器に使用されることが多いこともあり、日本や先進国での消費行動とも密接に関わる問題でもあるのだ。

問題視されている背景

世界的に紛争鉱物に対しての危機感が募る理由としては、紛争地の潤沢な資源を武装勢力が利用する事例が後を立たないからである。

1990年代のアンゴラ紛争とシエラレオネ紛争の際には、反政府武装勢力がダイヤモンドの原石を密輸し紛争資金として利用していたことが判明した。「血塗られたダイヤモンド」と呼ばれたこの問題は、国連が禁輸措置を施したことで終息に向かう。

しかし同様の問題は後を絶たず、1990年代から続くアフリカ中央部・コンゴでの度重なる紛争においても、武装集団が鉱物の採掘や取引から得る資金を紛争に利用していることが知られている。コンゴの一部の地域においては、紛争鉱物を利用する経済システムが確立してしまっており、この問題は現在進行形で続いている。

紛争鉱物がもたらす問題

PATCH THE WORD 紛争鉱物

紛争鉱物はどのような問題をもたらすのだろうか。ここでは次の3つの問題を解説する。

住民の貧困問題

金などの紛争鉱物は需要も高く高値で取引される一方、それらの資金は武装勢力によって独占され武器の調達などに使われてしまう。そのため、現地の住民は貧困に陥り生活が困窮することになる。また、略奪や暴力によって主要な生計手段である農業が継続できなくなる住民も多く、鉱山で従事することを余儀なくされてしまう。その結果、武装勢力により鉱山地域の支配が強まり悪循環に陥っているのだ。

紛争国の人権問題

鉱物を資金源とする紛争は長期にわたり、それに伴い人権問題も深刻化している。国軍や自衛組織を含む武装勢力が、女性への性暴力や人身売買を組織的かつ大規模に行っており、コミュニティの存続を脅かし住民への支配を強めている。また、拉致した人々を鉱山で強制的に働かせており、その中には10歳未満の児童も含まれるなど児童労働問題もはらんでいる。

紛争の激化・長期化

鉱山の略奪、支配、鉱物の取引等に対する課税をするなどの手段によって、武装勢力が紛争鉱物から豊富な資金を獲得する。これを新たな武器の調達に使用することで、彼らの勢力拡大と紛争の長期化が引き起こされる。これらの紛争地域ではガバナンスが弱いことも多く、現地のコミュニティや経済が破壊され現地の人々が貧困から抜け出せない原因にもなっている。

紛争鉱物の規制に関する世界の動き

紛争の長期化や人権侵害、貧困問題の悪化をもたらす紛争鉱物に対して、先進国でも危機感が募っており、喫緊の課題として認識されている。ここでは、紛争鉱物問題への世界の規制や対策を見ていく。

ドッド・フランク法(米国金融規制改革法)1502条

アメリカでは、2010年にドッド・フランク法を制定し、武装勢力の資金源を絶つことを目指している。アメリカの上場企業が対象で、製品の製造・加工にコンゴ民主共和国およびその周辺諸国で採掘された鉱山を用いる場合は、「紛争鉱物報告書」を作成し、第三者機関の審査を受け、さらにそれをウェブサイトに公表する必要がある。企業のブランドイメージを損ねる可能性が大きいこともあり、同法の公表後、対象国から鉱物を調達しないことを表明する企業が相次いだ。

OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス

OECD(経済協力開発機構)は、2010年に「紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」を発行し、紛争地域からの鉱物調達のリスクがないことを確認することを企業に求めている。

〈デュー・ディリジェンスの5つの方針〉

  1. 企業内における管理システムの構築
  2. サプライチェーンにおけるリスクの特定と評価
  3. 特定したリスクへの対処法の考案と実施
  4. 第三者による鉱物調達の流れの監視
  5. サプライチェーンのデュー・ディリジェンスに関する年次報告

EU紛争鉱物規則

2017年に欧州議会は、「鉱物資源に関する規則案」を採択した。EUの製錬事業者や輸入事業者を対象に、紛争地域およびそのリスクが高い地域から3TGをを調達する場合は、それらが紛争や人権侵害を助長していないことを事前に調査することを義務付けている。上述のドッド・フランク法と大きく異なる点は、対象をコンゴ民主共和国およびその周辺諸国に限定しない点である。

責任ある鉱物イニシアチブ(RMI)

世界全体の動きとしては、電子機器事業など10の業界から380の企業・団体が参加する「責任ある企業同盟(RBA)」による「責任ある鉱物イニシアチブ(RMI)」が、製錬・精錬事業者の監査、ガイドラインの策定、各種情報提供などを行っている。紛争鉱物による資金源の根絶だけでなく、児童労働や環境破壊に対しても責任ある鉱物調達をするために、3TGに加えてコバルトやマイカも対象になりつつある。

紛争鉱物の規制に関する日本の動き

現状、日本では紛争鉱物問題に関する法律や規制はないが、企業による取り組みは進められており、欧米の企業との取引に対応している。また、政府が人権問題全般に関わるガイドラインを策定するという動きも見られる。

「責任ある鉱物調達検討会」の設立

2012年に、電子情報技術産業協会(JEITA)によって設立された「責任ある鉱物調達検討会」は、国内外のステークホルダーとの対話、情報収集、啓発・広報活動を通じて、責任ある鉱物調達を実現することを目指している。2023年10月時点で、国内電子機器メーカーを中心に48社が参加しており、紛争鉱物や人権問題への対応を示すことで、グローバルなサプライチェーンにおいて日本企業の価値を向上させることに努めている。

「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」の公表

2022年9月に、経済産業省は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を発表した。これは、ビジネス活動において国際スタンダードに沿った人権尊重がなされるよう日本の企業に対して示したものである。紛争鉱物問題に特化した枠組みではないものの、それを含むより包括的な意味での人権問題に対するアプローチである。

わたしたちができること

この問題は、鉱物が採取される場所が遠いアフリカの国であることや、サプライチェーン全体に及ぶ大規模な問題であることから、私たち個人とはかけ離れているものと感じてしまうかもしれない。しかし、市場がグローバル化している中で、日本で暮らす私たち消費者の選択と紛争地で起きている残酷な現実は確実につながっている。そのため、このような問題を認識し、消費生活においての選択に責任をもつことは非常に重要なことだ。

特に、日本を含む先進国では、ハイテク産業が発展し、日常的にスマートフォンなどの電子機器を使用する機会も多い。そのため、そのような電子機器を購入する際には、紛争鉱物フリーのものであるか、人権を侵害していないか、製品の背景に思いをはせることが大切なのではないか。

まとめ

市場がグローバル化し、世界が資本主義の原則のもとに動いている中では、私たちが自覚せずとも、紛争や人権侵害に加担してしまうことがあるという恐ろしさを、この紛争鉱物問題は教えてくれる。

裏を返せば、一人ひとりがこのような問題に「NO」を突き付け、意識的に選択を変えていくことで、改善に向かう可能性は充分にあるはずだ。

■参考記事

責任ある鉱山調達|JEITA

https://home.jeita.or.jp/mineral/understanding

欧州議会、紛争鉱物資源に関する規則案を採択|JETRO

https://www.jetro.go.jp/biznews/2017/03/3f59b092ac45a22e.html

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k.fukuda
大学で国際コミュニケーション学を専攻。これまで世界60か国をバックパッカーとして旅してきた。多様な価値観や考え方に触れ、固定概念を持たないように心がけている。関心のあるテーマは、ウェルビーイング、地方創生、多様性、食。趣味は、旅、サッカー観戦、読書、ウクレレ。