里山資本主義とは
「里山資本主義」は藻谷とNHK広島取材班による造語であり、「マネー資本主義」の対義語として作られた言葉および思想だ。 地域に存在する自然資源や人間関係を活用し、地域内で資源やお金を循環させることで、サステナビリティな社会を築こうとする新しい資本主義の形である。
里山資本主義では、地域内の資源を活用し、地域経済を活性化させることが重視されている。 藻谷は里山資本主義について著書の中で「お金が乏しくなっても水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み、いわば安心安全のネットワークを、予め用意しておこうという実践」(*1)であると述べている。
このように、里山資本主義は地域の自然環境や人間関係を活用・循環させることで、お金だけに依存しない経済システムを構築し、持続可能な社会の実現を目指す考え方だ。
(*1)『里山資本主義ー日本経済は「安心の原理」で動く』|藻谷浩介 NHK広島取材班|株式会社KADOKAWA , p121
里山資本主義が生まれた背景
里山資本主義が生まれた理由には、現代のマネー資本主義への警告という意味合いがある。
マネー資本主義は、経済成長を優先し、大量生産・大量消費をすることで利益を得る考え方だ。 そのため、経済成長を追求する中で起こった、地域資源の過剰な消費や環境破壊、児童労働や強制労働をはじめとした劣悪な労働環境など負の側面が浮き彫りになっている。
これに対して、里山資本主義は、地域の自然資源を持続可能な形で利用し、地域経済の活性化と環境保全を両立させることで、日本経済の健全化を根本から考え直していくことを提言している。 これはマネー資本主義を否定しているのではなく、お金だけに依存しない持続可能な経済について考える必要性を説くものだ。
里山資本主義の特徴

地域資源の活用
里山資本主義では、地域に存在する自然資源を有効にできる。 例えば、森林、農地、水源などが挙げられる。 これらの資源を持続可能な形で利用することで、地域経済の活性化や、耕作放棄地を活用した地産地消への貢献、環境保全などを両立させることが可能だ。
具体的な事例として、製材から出る木くずを利用した「木質バイオマス発電」がある。 これは、地域の山林を使った木材から出る木くずをエネルギー源として活用する方法で、木くずを木質ペレットに加工するなどして地域のエネルギー自給率を高めている。 このように、地域にある資源を活用することで、新たなビジネスチャンスを創出し、地域の経済基盤が強化されることが期待できる。
地域内経済の循環
里山資本主義は、地域内での資源とお金の循環を生み出してくれる。 地域内で生産されたものを地域内で消費する「地産地消」を推進し、地域経済の安定化と持続可能性が高まるからだ。 例えば、地元の農産物を地元の飲食店や家庭で消費することも、これに該当する。
さらに地域通貨を作れば、地域内で豊かさを循環させることができる。例えば、地域内でお手伝いやちょっとした仕事をしてくれる人を募集し、報酬には地域通貨を支払い、地域通貨に対応している店舗や飲食店で利用することで、地域が活気づく仕組みができあがる。
地域コミュニティの強化
現代社会では、都会に行くほど隣人との付き合いが希薄になりがちだ。しかし里山資本主義は、地域住民同士の協力や交流が活発に行われることを目指しているので、社会的なつながりや相互扶助の精神が育まれ、いざという時に助け合うことできるようになる。特に災害時はコミュニティの結束力は必要不可欠だ。地域の課題を共有し、共に解決する取り組みが行われることで、コミュニティの強化につながる。
里山資本主義の実践例
岡山県真庭市
真庭市は面積の8割を山林が占めているが、これを活用したエネルギー生産が行われている。 銘建工業株式会社の工場では、使用する電気の大半が木質バイオマス発電でまかなわれている。 さらに工場からでる木くずを木質ペレットに加工して燃料として販売しており、真庭市の一般家庭や農業用ハウスのボイラー燃料として活用されているという。
山口県周防大島
過疎化が進む周防大島で、カフェを併設したジャム販売店を運営している松嶋匡史氏。 地元の農家から高い価格で果物を買い取り、ジャムを作ることで、地元農家に利益を還元している。 そしてジャムは手作りにこだわり、スタッフも地元の人を雇用。155g700円で販売されるジャムは決して安くはないが、少量多品種で個性豊かであることから、飛ぶように売れ続けている。
瀬戸内海の小さな手作りジャム屋|【公式】瀬戸内ジャムズガーデン|
里山資本主義のメリットと課題
里山資本主義のメリットは、地域内で資源やお金を循環させることで外部経済の影響を受けにくくし、地域循環型の持続可能な生活を実現することができる点だ。 また、地域住民同士の協力や交流を深め、地域内の里山にある資源を活かすことで、暮らしの豊かさをもたらすことができる。
一方で乗り越えるべき課題もある。 里山資本主義という概念の認知度がまだ低く、多くの人々に理解されていないのが現状だ。 また、地域資源の活用による自給自足的な生活が、日本や世界経済全体の停滞を招くのではないかという懸念、さらに新たな事業の開始や田舎への移住にかかる資金面での不安などが課題として挙げられる。
個人が里山資本主義を実践する方法
地産地消の推進
田舎には地元で採れた直売店があることは珍しくない。地元で生産された作物や製品を積極的に購入することで、地域経済の活性化に寄与できる。 また、地域の工芸品を購入したり、地元で開催されているマルシェなどにも足を運んでみるのもいいだろう。
地域活動への参加
地方には地域活動が根強く残っている場所も多い。 地域の祭りや清掃活動、ワークショップなどのイベントに参加することで、地域コミュニティとのつながりを深め、協力関係を築くことができる。 これにより、安心して生活ができるネットワークの基盤がつくられていくだろう。
環境に配慮した生活
再生可能エネルギーの利用、省エネ家電の導入、エコストーブや薪ストーブの導入、ゴミの分別、地域にある資源回収やリサイクルボックスの活用など、環境負荷を減らす生活習慣を取り入れることで、持続可能な社会の実現に寄与できる。
まとめ
生きることに最低限必要なのものは水と食料と燃料であり、お金はそれらを手に入れるための手段だ。里山資本主義は、地域の自然資源や人々のつながりを活用し、お金が少なくとも水と食料と燃料を得続けることができるネットワークを用意しておこうと呼びかけている。
そもそも里山資本主義は、お金の循環が経済を成り立たせているという前提で構築された「マネー資本主義」経済の横に、予備として、お金だけに依存しないサブシステムを構築しておこうという考え方だ。そのためマネー資本主義の都心部では難しいが、過疎地域とされる自然豊かな地方にこそ「里山資本論」の可能性があるといえるのはないだろうか。
参考文献
『里山資本主義ー日本経済は「安心の原理」で動く』|藻谷浩介 NHK広島取材班|株式会社KADOKAWA
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