
都市の緑化は美しさだけでなく、生態系や防災、維持コストにも影響を与える重要なテーマである。近年注目される「在来種を主役にしたまちづくり」は、地域固有の自然を取り戻しながら、環境負荷を抑え、災害に強い都市を育てる新たなアプローチだ。本記事では、その魅力と実践のステップをわかりやすく解説する。
地域生態系の崩壊と在来種が持つ「土着の力」

都市の緑化に外来種が多く使われる背景には、成長の早さや見た目の良さ、入手のしやすさなどがある。しかし、外来種の大量導入は、地域の生態系に大きな異変をもたらしている。外来種は地域の気候や土壌にあまり依存せず、旺盛に繁茂するため、在来植物を押しのけ、昆虫や鳥類といった生態系の基盤を弱体化させるからである。
一方の在来種とは、その地域で長い年月をかけて進化し、気候・地形・土壌に適応してきた植物を指す。在来種の持つ「土着の力」は、言い換えれば、地域そのものと共に生きてきた“生態学的な相性の良さ”にある。
その特徴の代表例が「深い根系」である。多くの在来植物は深く土に潜り、太く長い根を張る。これにより、土壌の安定化が進み、地滑りや土壌流出を防ぐ働きが強まる。
さらに注目すべき点は、生態系との“共進化”だ。地域の昆虫は在来種の花の形や香りに適応しており、在来種の葉を食べることで成長する種も多い。つまり、在来種は地域の食物連鎖の土台であり、これを損なうことは地域全体の生態系を揺るがすことに直結するのである。
在来種緑化の経済的メリット

在来種の価値は環境面だけにとどまらない。実は経済的なメリットも非常に大きい。都市の緑地管理における最大の課題は、潅水や肥料、薬剤散布、剪定などの「維持コスト」である。在来種を主役とした緑化では、これらのコスト削減に期待できる。
低コストの実現
在来種は地域環境に適応しているため、水やりの頻度が低くて済み、水道代の削減につながる。肥料や薬剤散布もほとんど不要である。病害虫も在来生態系の捕食者が自然に制御するケースが多く、外来種中心の植栽に比べて人が介入する手間が格段に減る。
管理作業の効率化
さらに注目されているのが「野生化を許容するデザイン」の導入である。従来の都市緑化では、見栄えを整えるために頻繁な剪定が行われてきた。しかし在来種緑化の考え方では、少し不揃いで自然のままの姿を尊重するデザインが一般化しつつある。この転換により、人件費や剪定廃材処理といった維持管理コストは大幅に軽減される。
つまり在来種緑化は、初期導入さえ適切に行えば「放っておいても育つ」植栽が実現できる、これからの社会に合った、合理的な仕組みと言える。
デザイン転換による人件費・維持管理軽減の事例

公園の整備(北海道札幌市)
札幌市では「公園整備方針(令和2年)」が策定されている。一部の公園では、外来種の芝生から在来種主体の草地へ移行したことで、年間の草刈り回数を大きく削減し、維持費も抑制されている。
自然共生サイト(環境省)
令和5年度から制度運用を始め、令和7年に法制化された、環境省が推進する「自然共生サイト」では、地域固有の植生を活かすことで剪定・施肥・薬剤散布をほぼ不要とし、長期的な管理コストの低減を実現している。
高速道路緑地の移行(西日本高速道路株式会社)
西日本高速道路株式会社では、本来の植栽機能を損なわず、倒木によるリスクの回避と維持管理コストの低減が図れることを前提として、植栽木及び道路外から飛来し生育した樹木も含めた緑地のあるべき姿を策定し,15年計画にて高速道路緑地をあるべき姿へ移行する取り組みを始めている。
在来種緑化の防災・環境機能的メリット

在来種を用いた緑化は、景観の向上だけでなく、防災や環境保全に直結する機能を都市にもたらす。在来種特有の根系構造や水循環への貢献が、都市の気候緩和や水害対策に寄与すると期待されている。
ヒートアイランド現象の緩和
近年、都市部で深刻化している課題のひとつにヒートアイランド現象がある。都市に広がるアスファルトやコンクリートが熱を蓄積し、夜間になっても温度が下がらない現象である。在来種は深根により大量の水を吸い上げ、葉から蒸散させる。この蒸散作用が周囲の熱を奪うため、外来種よりも効率的な冷却効果を発揮する。
都市型水害への対策
在来種による緑化は都市型水害への対策としても有効である。深い根系が土壌構造を改善し、雨水の浸透性や保水力を高めることで、ゲリラ豪雨による内水氾濫のリスクを軽減する。「雨水を浸透させる機能」を持つ在来種緑地は、自然を活用した“グリーンインフラ”として災害リスクの低減に貢献する。
「在来種ファースト」のまちづくり実現に向けたステップ

在来種を中心とした都市デザインを実現するためには、どのようなステップが必要なのか。
種子のトレーサビリティ
第一に重要なのが「種子のトレーサビリティ」である。地域固有の遺伝子プールを守るためには、どこで採取され、どのように育苗された種子や苗木なのかを明らかにし、適切に管理する仕組みが欠かせない。近年は地域の“遺伝子汚染”を避けるため、地域外の系統を持つ苗を使わない動きも進んでいる。
市民の理解と教育
第二に、市民の理解と教育の充実である。日本では「芝生がきれい=管理が行き届いている」という価値観が根強く、自然な多様性を持つ在来種の緑地は、一見すると“手入れ不足”と誤解されがちである。これを社会的に転換するためには、生態系のしくみや在来種の役割を伝える教育、情報提供、体験の場づくりが必要となる。
都市計画への組み込み
第三に、都市計画への組み込みである。公園や街路樹だけでなく、学校・公共施設・企業敷地など、都市のあらゆる緑地を在来種基準で設計する総合的なデザイン戦略が求められる。在来種を“例外”ではなく“標準”として扱うことで、都市全体の生態系が強化され、継続的な環境改善が実現する。
生態系の回復力を高める都市へ

在来種を中心とした緑化は、単なる植物の選択ではない。それは都市の生態系の回復力(エコロジカル・レジリエンス)を高め、気候変動や災害に強いまちをつくるための重要な戦略である。「外見を整えるための緑化から、地域の自然と暮らしを支える緑化へ──」この価値観の転換こそが、これからの持続可能な都市の基盤になると言える。
在来種ファーストの都市デザインは、環境保全、経済合理性、防災の強化という三つのメリットを同時に叶える「やさしいまちづくり」のアプローチである。地域固有の生態系を復元しながら、住民が豊かな自然と共生できる未来へ向けて、今こそ都市の緑化戦略を見直す時期に来ているのではないだろうか。
Edited by s.akiyoshi
参考サイト
地域生物多様性増進法に基づく「自然共生サイト」の認定(令和7年度第1回)について | 報道発表資料 | 環境省
札幌市公園整備方針(令和2年)|札幌市
街路樹再生なごやプランの策定について ~街路樹のアセットマネジメントと次世代につなぐ持続可能な街路樹づくり~|彦坂 靖子|環境省
高速道路緑地のあるべき姿と管理計画 | 川西 良宜ほか|日本緑化工学会誌 42 (1), 208-211, 2016 日本緑化工学会
The role of ‘nativeness’ in urban greening to support animal biodiversity|ScienceDirect
Benefits of Green Infrastructure|Global Designing Cities Initiative
在来の草本植物を用いた緑化の現状と可能性|大黒 俊哉, 山田 晋|ランドスケープ研究2023 年 86 巻 4 号 p. 302-305
生物多様性保全のための緑化植物の取り扱い方に関する提言 2019|日本緑化工学会


























佑 立花
2018年よりWEBライターとして活動。地方創生やサステナビリティ、ウェルビーイング、ブロックチェーンなど幅広い分野に関心を持ち、暮らしに根ざした視点で執筆。現在は農家の夫と生まれたばかりの子どもと共に古民家で暮らし、子育てと仕事を両立しながら、持続可能な未来につながる情報発信を行っている。
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