”なぜ?”から始まる学び。けやの森学園の子どもたちが五感で感じた「水の循環」

“なぜ?”という子どもの問いから、学びは始まる。埼玉県狭山市のけやの森学園が実践するのは、知識を教えるのではなく、自然の中で感じ、考え、表現する教育だ。体験を通して感性を育むこの方針は、サステナブルな未来を生きる力を育てるヒントを与えてくれる。

”なぜ?”から始まる探究

埼玉県狭山市、豊かな森に囲まれたけやの森学園。1978年に開園したこの幼稚舎・保育園を中心とした教育機関は、自然体験から生きる力を育む場として知られている。学びの中心には、子どもたち一人ひとりの “なぜ?”という問いがある。大人が決めた方法で教えるのではなく、子ども自身の好奇心や気づきから学びが始まる点が最大の特徴だ。

問いを出発点とする学びは、子どもが自ら世界を理解したいという意欲の源泉となり、やがて自分の幸せや社会とのつながりを実感する原動力となる。

効率や成果が重視される現代社会では、答えを早く出すことが良しとされがちだ。一方ここでは、子どもの「これは何?」「どうして?」という純粋な気づきや疑問、いわゆるセンス・オブ・ワンダーを大切にし、学びを広げていく。同学園の教育理念・教育方針では、自然の持つ素朴さや美しさ、偉大さ、厳しさ、不思議さを、五感を通して感じ取れるよう導き、みずみずしい感性を育むことをうたっている。

森の中で風の音に耳をすませ、土の匂いや水の冷たさに直接触れる。体験し、感じたことを絵や言葉で表現し、仲間と共有しながら考えを深めていく。こうした日常の積み重ねが、子どもたちの学びを形づくっている。


オルタナティブスクールとは

体験を通して出会う“水の循環”

「水はどこから生まれて、どこへ行くのだろう?」という問いから、1年を通した”水の循環”の学びが始まった。

室内での知識習得ではなく、自然の中で五感を使いながら学ぶ。実際に川に入り、空を見上げ、風や雨を肌で感じる体験を通して、子どもたちは「水」を感覚的に知ることができる。

春、雨が少なかった年でサツマイモの苗が枯れてしまったことから、子どもたちは水の大切さに強く関心を寄せた。そこで、水はどこで生まれるのかを知る活動は、入間川の上流での川遊びから始まる。川の冷たさや流れる力を体で受け止め、水とはなにか、川とはなにかを実感する。

夏には、入間川中流でのカヌー体験を行った。パドルを握り自分の力で川を下るなかで、子どもたちは川の流れを身体で理解していく。さらに磯遊びを通して「川は海へとつながっている」ことを発見した。また、海の生き物と触れ合い、水が森から海へ、そしてまた空へと循環していく壮大な自然のリズムに気づく。フィールドでの体験が、抽象的だった「水の循環」を、生きた実感として心に刻んだ。

秋には、活動の成果を表現する場が用意された。親子参加型の運動会「プレイデイ」や生活作品展では、川や海の記憶と感じたことを自分なりの形で表す。体験したことを表現に変える過程も、学びにつながる。

冬のスノーキャンプでは、雪を触り「どうして雪が降るの?」「なぜ雪は白いの?」といった新たな問いが生まれた。空気の冷たさや雪の結晶の美しさに触れ、水が形を変えて存在していることを子ども達が知る機会となった。

けやの森学園の「水の循環」の学びは、単なる自然体験ではなく、子どもたちが自ら問いを持ち、感じ、考えるプロセスそのものが中心にある。春から冬を通したフィールドラーニングを通じて、子どもたちは水の循環を自分の体験として理解した。こうした学びの積み重ねが、自然への関心を育てている。


森で育む子どもたち。全国に拡大を続ける「森のようちえん」の教育効果

教えない環境教育。「感じること」から生まれる気づき

この教育は、単に知識を教えるものではなく、「体験→実感→理解→行動」というプロセスを重視するものだ。これは、持続可能な社会の担い手を育てる教育、いわゆるESD(持続可能な開発のための教育)の本質を体現している。

子どもたちは自然や身の回りの出来事を体験し、その中で感じ、考え、行動していく。こうした実践が、知識の習得を超えた学びをつくっている。知識を一方的に与えるのではなく、子どもの体験から学びが始まる。たとえば、森や川で風の匂いや土の温かさ、水の冷たさに触れることで、自然そのものを個々のやり方で直接的に知ることができる。体験を通じて感じた疑問が、次の “なぜ?”を生み出す。「水の循環」をテーマにした一年間の学びは、そうしたプロセスの一例だ。

入間川の上流から海までをたどるフィールドワークの中で、子どもたちは川に入り、カヌーを漕ぎ、磯で生き物と出会い、雪に触れた。雨、川、海、雪。これらがつながっていることを、自分の身体と感覚で知っていく過程だった。

体験で得た感覚を、言葉や絵、身体表現に変えていく。この過程も学びの一部だ。感じたことを表現し、仲間と共有する中で、子どもたちは自分なりの理解を深めていった。

こうした実践は、環境や社会の課題を「自分ごと」として考える力を育てることにもつながっている。身近な自然への感性を育て、体験を通じて自然の恵みや他者とのつながりに気づくこと。それが、やがて自分で考え、行動する力の土台となるだろう。

Edited by k.fukuda

参考サイト

https://keyanomori.com
https://www.env.go.jp/content/900495381.pdf
https://www.env.go.jp/council/former/tousin/039912-1.html

About the Writer
曽我部倫子

曽我部 倫子

大学で環境問題について広く学び、行政やNPOにて業務経験を積むなかで環境教育に長く携わる。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、未就学児や保護者を対象に自然体験を提供。またWebライターとして、環境、サステナブル、エシカル、GXなどのテーマを中心に執筆している。三姉妹の母。
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