オーガニック(有機農業)とは
オーガニックとは、化学的な肥料や農薬を一切使用せずに、太陽や微生物など自然の恵みを生かした栽培方法または生産物のこと。生態系を乱すことなく、生物多様性とその循環に根ざすものであり、すべての生物と人間の間に公正な関係を築くと同時に生命や生活の質を高めることを目的としている。日本語では「有機」と訳される。
無農薬との違い
無農薬とは、生産過程において農薬を使用しないことである。つまり、いくつか使用可能な農薬もある「オーガニック」とは異なる意味を持つ。しかし、「無農薬」でも残留農薬や飛散した農薬などが含まれている可能性はあるにも関わらず、「農薬が一切含まれていない」という消費者の優良誤認を招いていた。そのため、農林水産省の特別栽培農産物に係る表示ガイドラインでは、「無農薬」と表示することを現在禁止しており、代わりに、「農薬未使用」「農薬を使っていません」「農薬無散布」などと表示することは認めている。また、「無農薬」には第三者認証制度はない。
ボタニカルとの違い
ボタニカルとは、「植物性の」という意味。つまり、ボタニカルは原材料が植物由来のものを指す表現である。自然のものを用いているという点で、オーガニックと共通する点もあるが、植物由来ということ以外は特に制約はなく、また「ボタニカル」に認証制度はないため、オーガニックとは異なるものとして捉えられている。
オーガニックの4原則
有機農業の推進団体として国際規模で活動しているIFOAM(国際有機農業運動連盟)は、オーガニックの4原則として「健康」「生態系」「公正」「配慮」の4つの原理を打ち出している。
健康の原理
個々の健康や地域全体の健全性は、生態系の健全性とは切り離しては考えられないものと認識し、生物システム全体としての完全さを維持すべきとしている。それは単に病気がない状態ではなく、精神的や社会的、生態的な面でも満たされた状態のことである。そのため、有機農業では健康を害する恐れがある肥料や農薬、添加物の使用を禁じている。
生態系の原理
有機農業は生態系の循環を基本とするため、自然の循環と生態系バランスに沿ったものでなければならない。この生態系バランスは地域ごとに個性があるため、その土地の条件や文化などに適したものを考慮する必要がある。
有機農業の生産・加工・流通・消費に関わる全ての人が、生態系バランスを保護しつつ、それを享受すべきとしている。
公正の原理
公正とは生産・分配・流通のシステムが誰にでも開かれており、平等であること。
有機農業は、農業者・労働者・加工業者・流通業者・販売者及び消費者の間で、公正な人間関係を結ぶべきであるとしている。つまり、全ての関係者に良質な生活を提供し、貧困撲滅などに貢献すべきであるということだ。また、他の生物にも同様に、その生物の自然な行動や営みが保てる環境や条件を維持する必要がある。
配慮の原理
農業や生態系に関する私たちの知識は不完全であるため、科学、経験、土地固有の伝統的な知恵を組み合わせて解決策を思案するなどの十分な配慮が必要である。
有機農業では、適正な技術を選び、遺伝子組み換え技術のような予測不可能な技術は排除することにより、重大な危険を避けるべきであるとしている。また、選択の決定に際して、その過程は影響を受けるであろう全ての関係者に公開することも重要だ。
「オーガニック」と表示するための認証
商品に「オーガニック」「有機」と表示するための認証制度が国内外に存在する。以下、それぞれの概要である。
日本国内のオーガニック認証
日本では、登録認証機関に認証された事業者のみが有機JASマークを貼ることができ、対象の農産物、加工食品、畜産物及び飼料に「有機」「オーガニック」と表示することができる。国産品だけでなく、輸入品も対象である。また、対象4種目に関しては、海外の認証を受けているものであっても、日本で「有機」「オーガニック」と表示するためには有機JASマークの取得が必要となる。
この有機JASマークは、化学合成肥料や農薬の不使用、遺伝子組み換え技術の使用禁止などの基準を設けている。
現状では、化粧品、酒類、医薬品などはJAS法の対象外であるため、有機JASマークを付けることができない。そのため、海外の認証を受けることで「オーガニック」と表示している事業者も多い。
海外のオーガニック認証
日本国外でも、欧米諸国を中心に数々のオーガニック認証がある。以下、その一部を見てみよう。
アメリカ農務省(USDA)が運営を行っているオーガニック認証制度。
対象は、農産物、畜産物、アルコール、繊維、化粧品など。
認定基準として、化学肥料や成長ホルモンの使用、遺伝子組換え原料の使用、下水汚泥などを禁止している。
認証された製品は、オーガニック原料の割合によって、「100%Organic」「Organic」などの4つのカテゴリーで分けられる。
EU加盟国内で、「オーガニック」と表示して販売する際に必要となる。
対象は、農産物、加工農産物、畜産物、飼料、ワインなど。
認定基準は、遺伝子組換え作物や人工肥料、除草剤、殺虫剤、ホルモン剤の使用等の禁止など。
繊維全般を対象としており、世界共通の認証として認知されている。
認定基準は、製品のトレーサビリティが確保されていること、オーガニック以外の製品と混同されていないことなど。
オーガニックコスメの国際的な認証制度。
認定基準は、生物多様性を尊重することや遺伝子組換えが行われている作物の使用や動物実験の実施の禁止など。
オーストラリアのオーガニックコスメ認証。IFOAM(国際有機農業運動連盟)、USDA(アメリカ農務省)、日本の農林水産省など、世界の政府機関などの承諾を得ており、国際的に認められている認証である。
認定基準は、95%以上が認定されたオーガニック原料であることや動物実験をしていないことなど。
この他にも、フランスの「ECOCERT」やベルギー・ブリュッセルに本拠地がある「NATRUE」など欧米を中心にオーガニック認証はいくつもある。それぞれの認証ごとに基準や対象品目などは異なるが、オーガニックによって環境保護や生物多様性の維持、人権平等などを目指していることは共通である。
オーガニックのメリットとデメリット
では、オーガニックの商品を使用することによって、どのようなメリット・デメリットがもたらされるのだろうか。以下、メリット・デメリットをそれぞれ見てみよう。
メリット
オーガニック食品や製品を取り入れることで、地球環境や人体の健康へさまざまなメリットがある。
・食品の安全性が高い
オーガニックは、化学肥料や農薬の使用を禁止しているため、人体の健康への影響が少ない。日本国内においては、海外で禁止しているトランス脂肪酸や合成着色料を使用している食品も多いのが現状だ。そのため、オーガニックの食品を取り入れることで、人体への悪影響も懸念されるそれらの添加物を避けることにもでき、食の安全性を高めることができる。
・土壌環境や水質の保全
化学肥料のみを長期間使用することで、土の中の微生物が失われ、土中の生態系バランスが崩れる。それにより、土は保水力や保肥力を失ってしまう。また、植物が吸収しきれなかった化学肥料は、地下水に流れ込み水質汚染の原因となる。オーガニック製品の使用は、これらの環境問題に対しての対策としても有効である。
・生産者の健康への配慮
オーガニックを取り入れることで、消費者だけでなく生産者の健康も守ることができる。例えば、コットン栽培では殺虫剤などを大量に使用しているため、生産者は薬品の散布の際にそれらを吸い込むなどによってめまいや吐き気などの健康被害を引き起こしている。それに対して、オーガニックコットンの栽培では、殺虫剤の代用としてトウモロコシの雑穀で害虫駆除したり、化学肥料の代わりに牛糞を用いるなどするため、生産者の健康への配慮にもつながる。
デメリット
上記のようなメリットがある一方で、日常にオーガニックを取り入れるにあたってはいくつか障壁もある。
・比較的値段が高い
化学肥料を使用しないオーガニック農法は、害虫対策や有機肥料づくりのコストがかさむ。また、有機JASマークなどの認証を受けるためにも費用と時間がかかるため、オーガニックなものは、比較的値段が高いことが多い。そのため、生活の中のあらゆるものをオーガニックにしようと考える場合には、コスト面での負担は大きな壁となることもある。
・市場への流通量が少ない
オーガニック農法を取り入れている生産者は年々増えているとはいえ、割合的にはまだ少ないのが現状だ。そのため、流通量も少なく、手に入るお店も限られている。オーガニックへの認知が徐々に広まり需要が増加するにつれて、流通量も増えていくことが予想されるが、現状は購入できる場所も商品の選択肢も限られている。
・長期保存ができない
保存料や酸化防止剤を使用していないため、オーガニック食品は消費期限が比較的短い。そのため、大量に購入してストックすることは難しい。また、コスメに関しても、使用期限が短いことが多く、期限切れには注意を払う必要がある。
このように、オーガニックなものを生活に取り入れるにあたっては良い面もある半面、障壁となる面もある。オーガニックな生活を始めることで、環境面や健康面でのプラスの部分もある一方で、コストがかさむなどの壁があるため、無理をしない範囲でオーガニックと付き合っていくことがポイントとなるかもしれない。
日常にオーガニックを取り入れる方法
コスト面などでのデメリットもある一方、健康面や自然環境に多くの恩恵をもたらすこともあり、日常にオーガニックを取り入れたいと考える人も増えている。ただ、何から始めていいのか戸惑う方もいるのではないだろうか。そこで、生活の中に取り入れやすいものとして、以下5つの方法を見てみよう。
オーガニック野菜を購入する
オーガニック野菜は近所のスーパーや八百屋さんなどでも比較的手に入れやすいため、オーガニック生活の第一歩として取り入れやすいのではないだろうか。生協などの宅配サービスでも購入できるため、近くに店舗がない人にとっても購入ハードルは低い。
オーガニックの調味料に変える
調味料が切れたタイミングで、オーガニック製品に変えることもひとつの手だ。塩や醤油など、使用頻度の高い調味料をオーガニックにすることで、日々の食事へ一気に浸透するかもしれない。また、生鮮食品と比較すると購入頻度も低いため、店舗が遠い場合でも取り入れることができる。
コーヒーや紅茶をオーガニックにする
コーヒーや紅茶などの嗜好品から、オーガニックなものを取り入れることもできる。スーパーやKALDIなどのコーヒーショップでも購入できるため、比較的購入ハードルは下がる。また、カフェに行く際にオーガニックコーヒーを提供している店舗を利用することも考えられる。
オーガニックコスメを使う
日本においては、オーガニックコスメの認証制度はないものの、商品のラインナップは増えてきている。コスメやスキンケア用品は直接肌に触れることもあり、化学的なものが合わない人などは効果を実感しやすいかもしれない。
オーガニックコットンの洋服を着る
コスメと同様に、日本国内での認証制度はないが、GOTSなど海外の認証を得ているオーガニックコットンの洋服は数多くある。洋服は食品に比べて購入単価が高いため、気軽に購入できない可能性もあるが、無印良品など比較的手ごろな価格で手に入れることができる場所もある。また、インナーやTシャツなどから少しずつ試してみることも良いかもしれない。
このように、オーガニックを生活の中に取り入れる方法はいくつもある。いきなり身の回りの全てのものをオーガニックに変えることは大変だが、野菜一つなど手ごろなものから始めてみるのも良いかもしれない。
オーガニックが目指すものは
ここまで、オーガニックの概要を見てきたが、JONA(日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会)理事長の高橋勉氏が述べる以下の言葉のように、オーガニックが目指すものはとてもシンプルなものである。
オーガニックは自然と人間の調和を目指す。
そのために、物質の循環を第一に考え、日々の活動を行う。
安全とか危険とかいう前に、循環できないものは避けるーそれが基本の考え方。
実は、とってもシンプルなのである。
JONA理事長 高橋勉
オーガニックを日常に取り入れることで、自然との共生や循環を感じ、少しでも多くの人の生活に豊かさが訪れることを願っている。
参考記事
Definition of Organic Agriculture | IFOAM
特別栽培農産物に係る表示ガイドライン
有機食品の検査認証制度|農林水産省
日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会
有機(オーガニック)認証について|OCC
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