全国で広がるオーガニックビレッジ宣言
オーガニックビレッジは、農業者だけでなく事業者や地域内外の住民を巻き込み、有機農業の生産から消費まで一貫した取り組みを進める市町村のことだ。農林水産省が推進するみどりの食料システム戦略に基づき、2022年から始まった。
オーガニックビレッジに取り組む市町村は有機農業実施計画を策定し、宣言用紙とともに提出する(オーガニックビレッジ宣言)。2024年12月時点で、131市町村が宣言している。農林水産省が掲げていた「2025年までに100市町村」という目標を前倒しで達成できたのは、全国の市町村が積極的に取り組みをはじめたことが背景にある。ではなぜ各市町村は、積極的に取り組むのだろうか。その理由は、オーガニックビレッジの意義の大きさにあるようだ。
オーガニックビレッジの意義は、主に以下のことがあげられる。
- 化学肥料などの使用を抑えた農業の拡大が、環境負荷を軽減する
- 生産から消費までの一貫した取り組みが、循環型経済を確立する
- 持続可能な農法が全体に広がり、地域全体の食料自給率があがる
- 行政と農業者、事業者、住民の協働が、コミュニティを創生する
市町村それぞれの取り組み内容は異なるが、住民を巻き込み協働することで、有機農業を中心とした持続可能なコミュニティの創生につながることが、最も大きな意義といえるだろう。
まち全体でオーガニックを進める亀岡市
全国で二番目に、オーガニックビレッジ宣言をした京都府亀岡市では、有機農家と地元の事業者、市民を中心とした取り組みが進んでいる。だが実はそのような取り組みは、宣言する以前から行われていた。そのきっかけとなったのは、持続可能な地域社会の基盤を支える食と農の新たな在り方を探ることを目的に、亀岡市と総合地球環境学研究所との間で2016年に締結された交流協定だ。
その協定により始まったのが、亀岡の豊富な地域資源を活用し、環境を科学的かつ学術的に協働して研究するFEASTプロジェクト。その一環として定期的に開催されていた市民参加型ビジョンワークショップは、有機農家や地元の事業者、市民が、自発的に町の未来像を考え行動を起こすきっかけと流れをつくった。その流れはやがて「亀岡をオーガニックのまちにする」を合言葉として活動する、亀岡オーガニックアクションへと発展した。

亀岡オーガニックアクションは、有機農家や地元の事業者、市民などで構成される団体だ。「有機農業を中心としたまちづくり」「有機農業の担い手育成」「有機野菜の生産と普及の推進」「有機米栽培の推進」「オーガニック学校給食の推進」の5つのプロジェクトを進めている。5年間の研究プロジェクト期間を終え、一般社団法人として再出発したFEASTなどの他団体、亀岡市と連携しながら続けていた活動が、亀岡オーガニックビレッジのベースになっている。
宣言後の亀岡市では、有機農家を中心とした活動がさらに広がっており、新規就農を目指す人が有機農業を学べる環境、市民が米づくりや収穫に気軽に参加できる環境、オーガニック野菜や食品が入手しやすい環境が整いはじめ、有機農業を中心に人と人がつながるまちづくりが着々と進んでいる。
そんななか、近年特に力をいれているのがオーガニック給食の普及だ。生産から消費までの一貫した循環ができることはもちろん、生産方法が明確で安全かつ安心な食材で給食を提供できることから、地元の有機食材を給食に取り入れる意義は大きい。ただ現実的に、全ての食材を地元の有機野菜で賄うことは難しい。そのためまずは、地元産有機米100%の給食を目指して、有機米栽培の拡大に取り組んでいる。
オーガニック給食の普及はなにをもたらすのか
オーガニック給食の普及に取り組むのは、亀岡市だけではない。オーガニックビレッジ宣言をした市町村の他、都市部でも取り組みをはじめる市町村が多くなり、一つのムーブメントとしてあらゆる方面からの注目を集めている。
オーガニック給食は、わが子に安全で安心なものを食べさせたいという市民の思いからはじまった小さな草の根運動だった。ところが、2022年に開催されたオーガニック給食フォーラムでは、1,000人を超える会場参加者と、5,000人を超えるオンライン参加者を集めるまでに大きくなった。50を超える市町村の首長や自治体職員、JA関係者の他、韓国、フランスからのゲストも参加した。
韓国とフランスからゲストが参加したのは、オーガニック給食の先進的事例として参考にしてきたという背景からだ。アジアで最も早くオーガニック給食を取り入れた韓国では、2006年に学校給食法が改正され、原則直営方式、国産農作物の利用、無償給食の拡大が加えられた。2021年にはすべての小・中・高・特殊学校で、環境に配慮した方法で生産された国内農作物を使用した給食が提供されるようになり、2022年には幼稚園にも普及している。

フランスでは2017年にエガリム法が制定され、学校給食に使われる食材の20%をオーガニックに、50%を高品質で持続可能な食材にすることが定められた。その他、プラスチック製品を使わない、廃棄物を削減するなど環境に配慮することなども定められている。この法律は、高齢者施設や大学の食堂、社員食堂といった公共の食堂にも適用され、幅広い年齢層の人たちが安全で安心な食事をとることができるようになっている。
有機農業の普及がようやく本格化したばかりの日本では、今すぐ韓国やフランスと同じ状況になることは難しい。だがすでに、200近くの市町村が学校給食にオーガニック食材を使っている。JAや生協といった協同組合、農業や食に関わる団体や企業、教育関連企業などの他、多くの個人がオーガニック給食に賛同し、普及に向けた活動に協力していことや、オーガニック給食の普及を目指す国会議員連盟がたちあがり、必要な法整備や支援についての検討が重ねられていることからも、オーガニック食材を活用した給食があたりまえになる日はそう遠くないのではないだろうか。
小さな草の根運動からはじまったオーガニック給食ムーブメントは、食の大切さだけでなく、声をあげ行動することの大切さも伝えているように思う。それは亀岡オーガニックアクションにも共通している。自ら考え、行動すれば世界は変わるという希望とともに、オーガニック給食ムーブメントがさらに大きく広がることを期待しながら、今後に注目したい。
参考記事
オーガニックビレッジ|農林水産省
みどりの食料システム戦略|農林水産省
一般社団法人亀岡オーガニックアクション
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