テロワールとは?サステナビリティとの関係やワインに留まらない事例をご紹介

テロワールとは

テロワール(Terroir)は、フランス語で「土地」や「風土」を意味する言葉である。元々ワインの世界で盛んに用いられてきた概念で、ブドウ栽培の現場で特定の土地の自然環境が、どのようにワインの風味や品質に影響を与えるかを説明するために使われてきた。その後、より広い意味合いへと派生し、ワイン以外の食物や農作物にも適用されるようになった。

テロワールの考え方では、単に地形や気候だけが農作物に影響を与えるわけではない。土壌の質や日照、降水量といった自然環境に加え、人々の栽培技術や伝統的な生産方法までを含む、多面的な要素で構成されている。例えば、同じ種類の作物でも地域ごとに風味や香りが異なるのは、その土地ならではのテロワールが影響しているからである。

近年では、持続可能な農業を支える要素としても注目を集めており、テロワールを守ることが地域の自然や文化の保全にもつながると考えられている。

地産地消との違い

テロワールと似ている概念として、「地産地消」を思い浮かべた人も多いだろう。どちらも地域の特性を重視する考え方だが、その焦点は異なる。

テロワールは土地の気候や地形、土壌だけでなく、歴史や文化、生産者の技術までを含めた多様な要素が作物に与える影響を強調する。一方で、地産地消は地域で生産された食品を地域内で消費することに重きを置く。

また、テロワールはその土地ならではの風味や品質を生み出す背景に目を向けるのに対し、地産地消は地元での消費を通じて輸送に伴う環境負荷の低減や、地元経済の活性化を図る点が特徴的だ。それぞれの取り組みが地域に異なる形で貢献しているが、どちらも土地への愛情と尊重が根底にあるといえる。

注目される背景

注目される背景

もともとフランスで発展したテロワールの概念は、特定の土地が持つ気候や地形、土壌がワインの味わいに与える影響を大切にする考え方から始まった。1930年代に制定されたフランスのワイン法では、地域ごとの特性を守り、品質を保証する仕組みとしてテロワールが重要視された。この背景には、不当な模倣品を排除し、地域の名声を維持する目的があったといえる。

近年、テロワールはワインにとどまらず、多様な食品や地域産業全体にも広がりを見せている。それぞれの生産地の特性や物語を尊重することが、商品価値の向上やブランド化を促進し、観光や地域経済の活性化につながっているのだ。テロワールは、伝統と現代的な経済活動を結びつける役割を果たし、多くの人々にとって魅力的な考え方となっている。

テロワールを構成する5つの要素

テロワールは、地域の自然環境や人間の関与といった要素が組み合わさることで、その土地ならではの個性が作物や食品に反映される。以下では、テロワールを形作る5つの要素について詳しく見ていく。

地質

地質は、土壌の基盤となる要素であり、作物の成長や品質に大きな影響を与える。地層の構成や岩石の種類が異なれば、風化して土壌に混ざる鉱物成分も変わるからだ。

例えば、石灰岩の地質はアルカリ性の土壌を形成し、これが作物に独自の風味をもたらす。地質の影響は目に見えないが、その土地の基盤が育つ作物の個性を大きく支えている。

土壌

土壌は、植物が根を張る場所として欠かせない存在であり、ミネラルや水分を供給する役割を果たす。質感や成分は、粘土質・砂質・石灰質など多様であり、作物の育ち方や風味に直結する。

例えば、砂利質の土壌では水はけが良くなる一方で、保水性の高い粘土質の土壌では根がしっかり栄養を吸収できる。こうした違いが、最終的な収穫物の特性に反映されるのだ。

地形

地形は、作物が「どのような環境下で育つか」を決定づける要因となる。標高・斜面の向き・傾斜度などが日照や水はけ、さらには温度差に影響を与えるのだ。

例えば、南向きの斜面では太陽光をたくさん浴びるため、果実の糖度が高まりやすい。一方、標高が高い地域では昼夜の寒暖差が大きくなり、それが作物の酸味や香りを際立たせる要因となる。

気候

気候は、テロワールにおいて最も大きな影響を与える要素の一つである。気温・降水量・日照時間・風の強さといった気象条件が、作物の成長に直接関わるからだ。

ワインの原料となるブドウを例にとると、寒冷地では酸味が際立ち、温暖な地域では果実の甘みが増す傾向がある。また、年ごとの気候変動も収穫物に微妙な違いをもたらし、同じ土地でも異なる表情を見せることがある。

人的介入

テロワールは自然だけでなく、そこに関わる人々の働きかけによっても形成される。「どの作物を育てるかの選択」「栽培方法の工夫」「収穫のタイミング」など、生産者の経験や哲学が反映されるのだ。

また、持続可能な農業への取り組みや、伝統的な技術を守る姿勢もテロワールの一部と考えられる。こうした「人の手」の存在が、土地の個性をさらに引き出しているといえる。

地域に根ざした農業が抱える課題

地域に根ざした農業には、いくつかの課題もある。例えば、気候や土壌が栽培に適していない地域で作物を育てようとすると、多くの設備や薬品を用いる必要が生じ、環境へ悪影響を及ぼす可能性がある。また、生産コストの増加により、質の悪い商品が市場に流通したり、製造業者が劣悪な労働環境や低賃金で働かされるといった問題が発生する恐れもある。

さらに、温室効果ガスの排出や気候変動は作物の生育環境を不安定にし、収穫時期や質にばらつきをもたらす。また、乱開発による土地の利用過多や森林伐採は自然環境の破壊を引き起こし、結果として地域農業の持続可能性が危ぶまれる。

こうした課題を解決するためには、テロワールの考え方に代表される「持続可能な栽培方法」への転換が望ましい。例えば、土壌汚染や気候変動の影響を緩和するためには、その土地特有の自然環境に適した作物を選び、環境に配慮した栽培方法を実践することが重要だ。

テロワールとサステナビリティとの関係

テロワールとサステナビリティとの関係

テロワールは、その土地特有の気候や土壌、地形を最大限に活用し、自然に適した作物を育てることを重視する。化学肥料や農薬の使用を最小限に抑えることで、土壌や水質への負荷を減らし、環境保全にも貢献できる。

また、地域特有の農法や伝統を守ることは、生物多様性の保護にもつながる。例えば、有機農業や持続可能な栽培技術を取り入れることで、気候変動への影響を抑えられる。

こうしたテロワールの理念は、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の「12.つくる責任、つかう責任」や「13.気候変動に具体的な対策を」といった目標にも一致している。地域資源を効率的に活用し、その土地ならではの価値を次世代に引き継ぐ取り組みとして、注目を集めている。

テロワールの事例

テロワールの考え方は、食品から工業素材まで幅広い分野で活用されている。ここでは、地域の特色を大切にしながら新たな価値を創出する3つの事例を紹介する。

日本野菜のトレジャーBOX「ベジバルーン」

日本野菜テロワール協会が取り組む「ベジバルーン」は、全国各地の旬の野菜や果物、加工品を詰め合わせたトレジャーボックスだ。農家が大切に育てた地域独自の食材を一つのセットにまとめ、消費者に届ける仕組みを採用している。

「畑からのラブレター」と題したニュースレターや簡単なレシピも同封され、作物の生産背景や魅力を感じられるのが特徴だ。

希少な品種や絶滅危惧種の野菜も積極的に取り入れることで、食材の多様性や農家の技術を支えているという。「ベジバルーン」は、地域のテロワールを消費者に伝える新しい形として注目されている。

湖池屋「究極のポテトチップス」

株式会社湖池屋の「KOIKEYA FARM」プロジェクトは、じゃがいもの品種開発から商品化までを手掛け、地域の農家と連携してテロワールを体現する取り組みである。風味が際立つ品種「黄金の果肉」を採用し、素材のポテンシャルを最大限に引き出した、まさに“究極”のポテトチップスを開発した。

また、地域の農家と協力し、日本の気候や土壌に適応する新しいじゃがいも栽培に挑戦している。農業技術の革新と地域ブランドの発展を結びつけ、消費者に地域ならではの味わいを届けると同時に、国産農業の未来を支える意義も持っている。

AGC「素材のテロワール活動」

AGC株式会社が手掛ける「素材のテロワールプロジェクト」では、地域の地質や風土を反映した独自のガラス製品づくりを進めている。信州諏訪では地元の砂を原料に、黒曜石を思わせる黒いガラスを開発した。諏訪湖の景観や地域の歴史を反映したデザインは、地元のアイデンティティと創造性を象徴している。

また、東京藝術大学と協力して地域をフィールドワークし、地元素材に基づいた酒器などの製品を制作している。こうした活動は、地域の魅力を再発見すると同時に、持続可能な未来を目指すものとして評価されている。

まとめ

テロワールは、地域の風土や文化を尊重しながら持続可能な生産活動を可能にする考え方である。ワイン産業において育まれた概念であるが、現在では食品をはじめとする幅広い分野で活用され、地域の個性を活かした魅力的な商品や取り組みを生み出している。

それぞれの土地には固有の自然環境と文化があり、そこにテロワールの考え方が加わることで、新たな価値と愛着が生まれる。地域に根ざした視点でテロワールを捉え直すことは、地球温暖化や生物多様性の喪失といったグローバルな課題の解決につながるといえるだろう。

参考記事
事例紹介|日本野菜テロワール協会
湖池屋が「日本のテロワールでつくる究極のポテトチップス」に挑戦する理由。「KOIKEYA FARM」プロジェクトを始動 ~じゃがいも調達・農家の協力編
磨いて輝く地域素材「SUWAガラスのテロワール」 | 信州・市民新聞グループ

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丸山 瑞季
大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。