
政府と市民が意思決定のために議論するプラットフォームを作り出した台湾。デジタル技術が社会の隅々まで浸透する現代において、民主主義のあり方も大きな変革を迫られてる。そうした中、台湾が先駆的に取り組んでいる「vTaiwan」というプラットフォームが、世界的な注目を集めている。
vTaiwan誕生の背景

vTaiwanの始まりは2014年の「ひまわり学生運動」がきっかけとなる。
「ひまわり学生運動」は当時、台湾の政府が推し進めていた中国との「サービス貿易協定」に反発する動きである。この「協定」は台湾と中国で互いに市場を開放し、貿易を拡大する目的の政策であった。政府が強行的に進めていく姿勢や不透明さ、協定が結ばれたあとに考えられる政治・経済的な影響への懸念から市民の間で次第に不満や反発が広がっていく。
2014年3月18日、学生を中心とした団体が非暴力的に立法院を占拠し、政府の強行採決に抗議するために約23日間に渡って声をあげ続けた。この間、SNSやリアルタイム配信によって拡散されたことで、次第に民衆の抗議の輪が広がり、最終的に立法院長が協定をめぐる審議を凍結すると表明するに至る。
こうした社会変化と並行して、ソフトウェア開発者、デザイナー、活動家、教育者、作家、市民、ネットユーザーなどから構成されるg0v(ガブゼロ)というシビックテックコミュニティが台湾で活動を展開していた。シビックテックコミュニティとは、ITやデザインなどの技術を活用して、市民主体で社会課題の解決に取り組む人々の集まりである。g0vは「ひまわり学生運動」でも情報の提供や可視化を支援した。
これを契機に台湾国内では「民主主義」の意識がさらに高まり、政府の意思決定に市民の声が反映される具体的な仕組みの必要性が浸透していく。2014年12月に当時の蔡玉玲政務委員(大臣級の無任所閣僚)がg0vのハッカソン(特定テーマに関する解決策を話し合うイベント)において、政治経済について合理的な議論を行なうプラットフォームの構築を要請。これによって市民と政府が双方向でコミュニケーションをはかることができる「vTaiwan」が開発された。以降、vTaiwanの存在はデジタルネイティブ世代による政治参加を促す画期的な方法として認知を広げている。
vTaiwanの仕組みと技術

vTaiwanでは大きく分けて3つの段階でプロセスが進められていく。
- オンライン討議
政府が各省庁で進めている政策や法律についてオープンに意見を募る。もしくは市民からの提案に基づき議題となるテーマを決める。
オンライン上で参加者は意見交換を行ない、出てきた意見に対して賛成・反対・パス(無回答)を表明。市民の賛成・反対の分布を可視化し、議論を深めていく。
- 専門家会議
専門家やその分野の関係者などが専門的見地から意見を表明し、さらに議論の質を深める。オンライン上だけで議論が煮え切らない場合には、必要に応じて対面での意見交換や合意形成に努めることもある。
- 政策提言
議論や意見をもとに政府に提案として提出され、政府は一定期間内に採用の可否と理由を市民に回答する。
このプロセスのなかで、市民の合意形成に活用されているのが、AIベースの可視化ツール「Pol.is(ポリス)」である。
このツールではユーザーは提案された意見に対して、賛成・反対・パス(無回答)という3つの選択肢で反応することが可能だ。コメント機能や返信ができない構造になっているため、感情的な議論や誹謗中傷を避ける設計になっている。また、「Pol.is(ポリス)」はAIがリアルタイムで参加者の意見分布を視覚的にマップ化して表示する。このマップではそれぞれの意見の相違点や歩み寄るための可能性について示される。
つまり、多数派形成や分断を煽るものではなく、「意見の収束」にフォーカスし、共通項を抽出する方法を実践しているのだ。
vTaiwanがもたらした成果と課題

実際にvTaiwanによって影響を与えた法案や政策として、代表的な事例にはUberの合法化やFinTech規制がある。
- Uberの合法化
Uberの台湾進出に伴い、政府がライドシェアに関する規制のあり方について広く意見を募集。vTaiwan上で多数の意見が交わされ、論点が集約された。その後、関係者が一堂に会する会議の場で、その論点を中心に合意形成が図られ、法改正に結びついた。
- FinTech規制
FinTechにおいて、クラウドファンディングや暗号資産の規制に関する合意形成で活用され、FinTech規制法案の枠組みの策定や政策過程の決定に影響を与えた。
vTaiwanの存在によって、市民は常に政策に関してどんな提案や議論が行われ、政府がどのように対応したかをリアルタイムで把握することできる。こうした透明性や政府と直接意見交換できる場が存在することで、市民は政治との距離感の縮まりを実感できるのだ。
台湾のvTaiwanはデジタル民主主義の成功例として国外から高く評価されている。しかし一方で、現状の限界や課題も存在する。
vTaiwanの参加者は一定の関心がある層やネットユーザーに偏っている可能性は否めない。参加する人の顔ぶれが対面政治と異なるため、関心や優先事項に差があり、対面とオンライン上で議論された内容にギャップが生じる場合もある。
また、vTaiwanで議論された内容について政府は採用の可否を回答する義務はあるものの最終的な制度化につながるかどうかは政府に委ねられているため、実現への壁は残ったままである。
それでもなお、vTaiwanが実現するデジタル民主主義は、様々な年代の市民がより身近に政治問題に関心を寄せて、自発的に政治に参加する意識を形成しやすい取組みであると言える。
vTaiwanは一人ひとりの市民の声を集約し、政府との建設的な対話を可能にする新たな民主主義の実践例として、世界中から注目を集めている。この台湾発のイノベーションは、デジタル時代における市民参加型政治の可能性を示す重要な先例となっているのだ。
Edited by k.fukuda






















水無月もえ
大学卒業後、管理栄養士免許を取得。小学校で栄養士として従事し、給食や食育分野に携わる。自分の気持ちに正直で、日々、成長できる生き方をモットーにライターとして活動。新たな発見や気づきにつながり、誰かの人生を後押しできる記事づくりを心がけている。関心がある分野は食、ライフスタイル、健康、マインドフルネス、ダイバーシティ。散歩や食べ歩き、観劇、旅行など新たな発見がある趣味が好き。( この人が書いた記事の一覧 )