ウェルビーイング(well-being)とは?意味や5つの要素、国内外の状況を解説

ウェルビーイング(well-being)とは?

ウェルビーイングとは、単に病気がないことではなく、肉体的、精神的、社会的に健康な状態のこと。Happiness(幸せ、喜び)のような一時的な幸福や快楽ではなく、持続的な幸せを指す。

1946年に設立された世界保健機関(WHO)の憲章の中で、はじめてウェルビーイングという言葉が使用された。WHO憲章では、ウェルビーイングな状態でいることは、すべての人間にとって基本的人権であるとも述べている。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.The enjoyment of the highest attainable standard of health is one of the fundamental rights of every human being without distinction of race, religion, political belief, economic or social condition.(日本語訳=健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく、最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつです。)

公益社団法人 日本WHO協会

ウェルビーイングを構成する要素

ウェルビーイングの5つの要素「PERMA指標」

ポジティブ心理学の父ともいわれる米国のセリグマン博士が2011年に提唱した指標。

このモデルは、以下の5つの要素をそれぞれ最大化することで、持続可能な幸福を目指すというもの。セリグマン博士は、持続可能な幸福のことを「flourish(繁栄)」という言葉で表している。また、PERMAの5つの要素の根底にある「強み(徳性)」、全要素を促進する「レジリエンス」が重要視されている。レジリエンスとは、状況の良し悪しにかかわらずしなやかに対応できる力のことである。

1. Positive Emotions(ポジティブな感情):嬉しい、面白い、楽しい、感動など
2. Engagement(没頭・没入):なにかに没頭していること、物事への積極的な関わり
3. Relationships(人間関係):他者とのよい人間関係
4. Meaning(意味、目的):人生の意義や目的
5. Accomplishments(達成):なにかを達成する。必ずしも社会的成功は伴わなくてもよい。

幸せの4つの因子

幸福学の研究者である前野隆司氏(慶応義塾大学大学院教授)は、持続的な幸福をもたらす要素として、以下4つの因子をあげている。「幸福」は抽象的概念であるがゆえに、目指すべき方向や指針を明確にすることが難しい。そのため前野氏は「幸福」を因数分解することで、具体的な行動に落とし込めるようにした。

  • 「やってみよう」因子
    自己実現と成長の因子。小さなことでも主体的に取り組むことが大切。
  • 「ありがとう」因子
    つながりと感謝の因子。ちょっとしたつながりであっても効果がある。
  • 「なんとかなる」因子
    前向きと楽観の因子。楽観性をもち失敗を恐れずに、前向きにチャレンジすること。
  • 「ありのままに」因子
    独立とマイペースの因子。人の目を気にしすぎず、自分の軸をもち、自分らしく生きること。

この他にも、「世界幸福度報告(World Happiness Report)」や「Global Wellbeing Initiative(GWI)」などがあり、幸福度を計る指標は増えてきている。

さらに、国の豊かさを測る指標として、現在用いられているGDP(国内総生産)に加えて、国民のウェルビーイングを測るGDW(国内総充実)の活用が検討されている。

注目される背景

近年、ウェルビーイングへの関心は先進国を中心に高まってきており、国をあげての政策から個人の生活レベルでの意識の変化まで、あらゆる部分にウェルビーイングという考え方が浸透してきている。では、なぜウェルビーイングという概念が注目を浴びているのか。それには、以下のような要因が考えられる。

モノによる豊かさの限界

社会が成熟していくにつれて、人はモノによる豊かさより生活の質を求め始めるようになる。実際に、年間所得が1〜2万ドルを超えるあたりから人々の幸福度は上がらなくなるという研究結果もある。これは、イースタリン・パラドックスと呼ばれており、お金やモノによる幸福の限界を示したものだ。日本を含む多くの先進国では社会の成熟により、この幸せのパラドックスに陥り始めている。

新型コロナウイルスの蔓延

新型コロナウイルスの感染拡大は、ウェルビーイングへの注目を更に高めるきっかけとなった。ウイルスに感染することへの不安や人と会う機会の減少からくる孤独感によって、メンタルヘルスに不調を感じる人が急増した。それにより、多くの人が心身の健康を改めて考える機会となった。

価値観や生き方の多様化

グローバル化やインターネットの普及による情報量の急増を起因として、個人の価値観やライフスタイルが多様化した。それにより、働き方や居住場所の変化、モノやお金に対する価値観の変化が起き、幸せの定義も人によって異なるようになってきている。

世界のウェルビーイング事情

フィンランドの風景
via Visit Finland

フィンランド

世界幸福度報告(World Happiness Report)で6年連続1位を獲得しているフィンランドは、世界一幸せな国と言われることも多い。

フィンランドが国民の幸福度をあげている一因として、教育や福祉に対しての注力があげられる。具体的には、以下のような特徴がある。

・プレスクールから大学院までの教育費無料
・給食費が高校まで無料
・教材費・通学費用は義務教育まで無料
・失業手当の給付期間が最低300日と多い

他にも、犯罪や汚職が少ないことや、女性国会議員の多さなどにあらわれる政治の多様性もフィンランドの幸福度をあげている要因と言われている。

また、ワークライフバランスの均整が取れていることも特徴で、長時間の残業はほとんどない。実際、ヘルシンキは2019年のKISIという調査において、「世界で最もワークライフバランスが整った都市」に選ばれている。

家族と過ごす時間や趣味に当てる時間、サウナでゆっくり汗を流す時間など、仕事以外の時間も大切にしていることが、フィンランド人のウェルビーイングを高めているゆえんでもあるようだ。

ニュージーランド

2019年、ジャシンダ・アーダーン首相によってウェルビーイング・バジェット(幸福予算)が発表された。ウェルビーイングに関する項目を国家予算に組み込んだ世界初の試みだ。この政策の背景としては、ニュージーランドが経済的に成長している一方で、多くのニュージーランド人がその恩恵を受けていないと感じていることなどがある。

個人の幸福に関する研究を参考にして定めたウェルビーイング・バジェットは、以下のような支援にあてられる。

・メンタルヘルス支援:精神疾患を抱える人への支援、看護師を目指す学生の援助、ホームレスの支援
・子どもの幸福:家庭内暴力への対処、子どもの貧困の撲滅、教育システムの向上
・マオリ族とパシフィカ系への支援:雇用機会の提供、生活のサポート
・国家の生産力向上:スタートアップの支援、気候変動対策を講じる農家の支援

特に、精神疾患、子どもの貧困、家庭内暴力の3つの問題に予算を多く割り当てることで、国民のウェルビーイングを高めることを目指している。

ブータン

国民総幸福量(GNH)の概念を政治に取り入れている世界で唯一の国である。この概念は、1972年に第4代ジグミ・シンゲ国王が提唱したもので、以降GNHを国策の軸として政治を行っている。当時、世界各国がGDPを高めることを重要視していた中で、ジグミ・シンゲ国王は物質や経済の豊かさ以上に国民の幸福に重きを置いた。現在でも、ブータンではGNHが国策の軸となっており、いかなる政策であっても、GNHの理念に沿ったものであるかどうかを審査する。また、5年に一度、国勢調査として各世代の幸福度を調査している。

GNHは、以下のような4本の柱と9つの指標によって構成されている。

■4本の柱: 持続可能で公平な社会経済開発/環境保護/文化の推進/よき統治

■9つの指標: 心理的な幸福/国民の健康/教育/文化の多様性/地域の活力/環境の多様性と活力/時間の使い方とバランス/生活水準・所得/よき統治

具体的には、医療費と教育費の無償化や、森林業務の国有化及び国土の森林面積の割合を60%以上にすることを定めるなどの政策を実施している。

近年は、犯罪率の増加や若者の薬物依存などの社会問題も露見しており、多くの国民が「幸福な国」と感じていないのが現状だ。また、この指標自体が国民の幸福より表面上の政策としての側面が強くなってきているのではないかという批判もある。

それでもなお、国家をあげて「幸福な国」を目指しているという点で注視されている。

日本国内におけるウェルビーイング

現在の日本の幸福度

2023年の世界幸福度報告(World Happiness Report)において、日本の幸福度は47位にランキングした。2020年に62位を記録し、そこから毎年徐々に順位をあげているが、未だにG7の中で最下位に位置している。

健康寿命や国民1人あたりのGDPは高いが、人生の選択の自由度や他者への寛容さが極端に低いことが原因である。

また、日本の自殺率は先進国の中でも高く、死因の18.5%が自殺となっている。(※2018年9月世界保健機関の調査より)15歳から39歳の若年層の死因の1位が自殺で、事故死よりも自殺が多い国は日本のみである。

日本の幸福度が先進諸外国と比較して低い一因としては、長時間労働や休暇の少なさがあげられている。エクスペディアの有給休暇取得に関する調査2022によると、日本人の有給取得率は60%でワースト2位であった。日本では、GWや年末年始に1週間ほどの休暇を取ることが精一杯というのが多くの人の現状である。

一方EU加盟国では、すべての企業に対して4週間以上の休暇を取得することを法律で義務付けている。有給休暇が30日程度あるので、2〜3週間のバカンスを取ることが一般的である。

このように、休暇の取得状況を含むワークライフバランスの違いも、日本と他の先進国の幸福度の差に影響していると言われている。

「日本の幸福度推移」(編集部作成)、データ元:World Happiness Report

日本国内のウェルビーイングに関する動き

上記で見てきた通り、日本国内におけるウェルビーイングは高いとは言えないのが現状だが、政治やビジネスの界隈でもウェルビーイングへの注目は高まっている。

2019年度から「満足度・生活の質に関する調査」にて、「家計と資産」「仕事と生活」「社会とのつながり」など13分野で国民の生活の満足度、すなわちウェルビーイングを調べている。

2021年6月には、「成長戦略実行計画」において、「国民がwell-beibgを実現できる社会の実現」という一文でウェルビーイングという言葉が登場した。また、「経済財政運営と改革の基本方針2021」で政府の各種の基本計画にウェルビーイングに関するKPIを設定。

地方自治体においても、富山県がウェルビーイング推進課を設けて県民のウェルビーイングの向上を目指すなど、まちづくりにもウェルビーイングの概念が取り入れられ始めている。

ビジネスにおけるウェルビーイング

元々は社会福祉や医療などの分野でウェルビーイングという言葉が使用されていたが、最近ではビジネスの場面でも用いられるようになってきた。

2019年4月に「働き方改革関連法」が施行され、国をあげて働き方改革が行われる中で従業員のウェルビーイングを高める動きも活発になってきている。具体的には、時間外労働の上限規制による長時間労働の防止、有給休暇の取得義務化、雇用形態による待遇格差の是正などが組み込まれている。

近年は、労働人口の減少などによって健康経営を標榜する企業も増えてきており、ウェルビーイングを企業経営において重要視する潮流がある。ウェルビーイングを経営に取り入れることによって、社員のメンタルヘルスの向上、組織内の人間関係が改善されることによる退職者の減少、生産性の向上などのメリットが生まれる。

ウェルビーイングな組織づくりの事例としては、TOYOTAが「わたしたちは、幸せを量産する」をミッションに置き、利益とウェルビーイングの両方を追及することを示しているほか、Google は社員のウェルビーイング向上につながるチームづくりを進めるプロジェクト・アリストテレスや、社員同士が感謝をポイントとして送り合うピア・ボーナスなどの制度を取り入れている。

個人でウェルビーイングを高める方法

運動を習慣化する

人は運動をすることで「幸せホルモン」セロトニンが増加し、幸福度が増すという研究結果がある。運動の種類は問わないが、ランニングやサイクリングなどの有酸素運動が効果的だ。特に、朝30-40分の運動を週3回以上行うことで、幸福度の上昇により良い影響を及ぼすとされている。

その瞬間に集中する

時間を忘れて何かに没頭することや、目の前のことだけに集中することも、幸福度を高める要因になる。例えば、食事中はスマホやテレビを消して、目の前の料理を楽しむことだけに集中することも一つだ。仕事においても、マルチタスクをこなすよりも、シングルタスクに集中して没入するほうがウェルビーイングを高めることができると言われている。

自然の中で過ごす

イギリスの研究グループによる調査によると、週120分以上自然環境で過ごすことで、幸福度があがるという結果が出た。短い時間の散歩を数日に分けて行うことと、長い時間かけてハイキングを行うことによる差は見られなかった。そのため、都会に住んでいるなどの理由で毎日自然の中で過ごすことが難しい場合、週末に登山やハイキング、キャンプに出かけることも一つの手として考えられる。

他人に親切なことをする

Science誌に掲載されたDunnetal.(2008)は利他的行動と幸福度の関係を示した。

≪研究内容≫

(1)実験が行われる日の朝、参加者は自分の幸福度を評価する。

(2)参加者はランダムに2つのグループに分けられ、1つのグループの人は5ドルか20ドルを渡され、当日の午後5時までに 自分のためにそのお金を使うように伝えられる。そして、もう1つのグループの人にも、5ドルか20ドルを渡され、今度は当日の午後5時までに、他の人へのプレゼントか寄付に使うように伝えられる。

(3)午後5時以降に参加者はもう一度集められ、自分の幸福度を評価する。

この研究では、自分のためにお金を使うよりも人のためにお金を使うほうが幸せになれるという結果が出ており、その際に使った額は5ドルでも20ドルでも大きな違いは見られなかった。また、経済的な豊かさも関係なく、貧しい地域で同様の実験を行った際にも同様の結果が見られた。つまり、寄付などによって自分のお金を他人のために使うことで、自分自身の幸福度も向上するということだ。

充分な休息を取る

良質な睡眠を取ることも幸福度に良い影響をもたらす。体質にもよるが、一般的には7〜8時間の睡眠をとると良いとされている。さらに、運動の習慣化や入眠前にスマホを見ないことを意識するなどして、睡眠の質を上げることも重要だ。心身ともにウェルビーイングな状態に保つには、睡眠の量と質を高めることは欠かせない。

今後の動向

いま、世界中でウェルビーイングが注目をあびており、政治やビジネス、また個人の日々の生活にも、これまでとは異なる幸せの基準を提示している。これまでのモノやお金が中心の社会から移行し、時間や他者との関わりなども一人一人の人生やコミュニティの豊かさを決める重要な要素として認識され始めているようだ。今後も、個人の価値観や企業の組織づくり、国やまちづくりなどあらゆる場面において、ウェルビーイングは重要なピースとして考えられていくことが予想できる。

参考記事
Health and well-being 
World Happiness Report
The Wellbeing Budget 2019 | The Treasury New Zealand
外務省

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k.fukuda
大学で国際コミュニケーション学を専攻。これまで世界60か国をバックパッカーとして旅してきた。多様な価値観や考え方に触れ、固定観念を持たないように心がけている。関心のあるテーマは、ウェルビーイング、地方創生、多様性、食。趣味は、旅、サッカー観戦、読書、ウクレレ。