BLMとは?きっかけとなった3つの事件や各界に及んだ影響について解説

BLM(ブラック・ライブズ・マター)とは

BLMとは「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)」の略で、アメリカで起こった人種差別に対する抗議運動の総称。Black Lives Matterの頭文字をとって、「BLM」「BLM運動」「BLMムーブメント」などと言われる。

世界中に拡大したきっかけは、2020年に黒人男性が白人の警察官によって命を奪われた事件だが、発端は2012年に起きたトレイボン・マーティン射殺事件とされる。事件後の2013年にSNS上に「#blacklivesmatter」というハッシュタグをつけた投稿が増え、BLM運動の元となった。

このように、BLM運動は1つのハッシュタグを起源としていることから、「21世紀型の運動」とされる。また、人種差別だけではなく、その裏に潜む人種による格差も浮き彫りにしたことで、アメリカから全世界に波及。日本でもデモ行進などが行われ、人種問題を考えるきっかけになった。

BLM運動のきっかけとなった事件

BLM運動のきっかけとなった事件とは?

BLM運動は1つのハッシュタグによって生まれた。そのきっかけとなった事件と、その後BLM運動の拡大につながった2つの事件について時系列で紹介する。

2012年:トレイボン・マーティン射殺事件

BLMが生まれるきっかけは、2012年にアメリカ南部のフロリダ州で起きたアフリカ系アメリカ人のトレイボン・マーティンさんが射殺された事件だ。当時高校生だったトレイボン・マーティンさんが帰宅途中に、不審者と見なされて自警団のヒスパニック系白人男性に命を奪われたのだ。

地元警察は正当防衛であるとして自警団の白人男性を不逮捕。市民から抗議の声があがったため、第2級殺人で起訴されたが、結局は無罪が言い渡された。

この判決を受けて、アメリカ在住の黒人女性活動家アリシア・ガーザが、SNSに抗議の文章を投稿。この投稿を見た友人のオパール・トメティとパトリス・カラーズが、文章内にあった「Our lives matter(私たちの命には価値がある)」というフレーズにインスピレーションを受けて「#blacklivesmatter」としてツイートした。これが瞬く間に拡散され、全米に拡大した。

この後、ガーザ、トメティ、カラーズの3人は、黒人の生活の質を向上させること目的に「Black Lives Matter」という財団を設立している。

2014年:マイケル・ブラウン射殺事件

BLM運動がはじまった翌年、同様の事件が起きる。ミズーリ州ファーガソンで起きたマイケル・ブラウン射殺事件だ。18歳の黒人青年マイケル・ブラウンさんを、白人警察官が12発の弾丸を撃って射殺した。

この事件が明るみになった翌日から抗議行動が拡大し、暴徒化した人々が商店から略奪をしたり、車両を破壊するなどした。州知事が非常事態宣言を行い、夜間外出禁止令が導入されるなど混乱した。これは、のちにファーガソン暴動と呼ばれることになる。

その後、正当防衛が認められて白人警察官が不起訴処分となった際などにも抗議活動が激化。ファーガソン暴動は第三波にまで及び、複数の負傷者の他、300人以上の逮捕者が出たとされる。

こうした激しい抗議活動の一方、平和的な活動も行われた。その一つがBLMだ。デモ行進では「BLACK LIVES MATTER」のプラカードが多く掲げられたほか、SNS上には「#blacklivesmatter」のハッシュタグがつけられた投稿が再び増えた。

2020年:ジョージ・フロイド事件

BLM運動が世界中に波及したきっかけとなったのが、2020年5月にミネソタ州で起きたジョージ・フロイド事件だ。黒人男性のジョージ・フロイドさんを、白人警察官が地面に押しつけて首を圧迫。フロイドさんは「息ができない」と訴えたが、その後に死亡が確認された。

この様子を撮影した動画が拡散されたことで、世界中に人種差別撤廃に向けた抗議が巻き起こった。この際も、「#blacklivesmatter」のハッシュタグがつけられた投稿が増加した。

ケンタッキー州などにも広がったデモ行進では、「BLM」や「BLACK LIVES MATTER」のほか「I can’t breathe(息ができない)」というプラカードも掲げられた。

BLMが拡大した背景

BLM運動が拡大したのは、アメリカでは合法的に黒人を奴隷化することが認められていた歴史があり、黒人に対する人種差別が根付いているからとされる。1863年に奴隷制が廃止された後も、学校やトイレ、公共交通機関などで人種隔離制度が継続されていた。

司法においても人種差別の影響が及んでいる。不法逮捕が行われているとされ、黒人が収監される比率は、白人の5~6倍という報告もある。

BLM運動が拡大する中でも、黒人が不当逮捕されたり、警察官による残虐行為や射殺事件が数多く報告された。蓄積された人種差別に対する不満が爆発したことに加えて、多様性の時代を迎えて白人の中にも人種差別に違和感を覚える人が増えたことなどがBLM運動を拡大させた。

BLMによるアメリカ国内への影響

BLMによるアメリカ国内への影響

BLMによってアメリカ国内でどのような影響があったのか、業界別に分けて紹介する。

司法への影響

BLMが世界中に拡散した2020年のジョージ・フロイド事件では、被告となった白人警察官に有罪判決が下った。しかも、起訴当初は第3級殺人罪だったが、その後第2級殺人犯に引き上げられたうえ、現場にいた3人の警察官も第2級殺人ほう助・教唆で起訴された。

このように殺害された黒人側に寄り添った判決はこれまでに前例がなく、異例のこととされる。なお、2012年のトレイボン・マーティン射殺事件では、射殺事件を起こした自警団の白人男性には正当防衛が認められ、不起訴処分となっていた。このことを踏まえると、司法における黒人差別撲滅に向けて前進していることがうかがえる。

政界への影響

BLM運動が拡大中の2020年11月に行われたアメリカ大統領選挙では、BLM運動が投票行動に大きな影響を与えたとされる。

2016年の大統領選挙でトランプ候補を支持した黒人有権者の多い地域で、多様性の尊重や白人至上主義に対する批判を行ったバイデン候補が勝利したからだ。無党派層の支持もバイデン候補に流れたとされる。

また、奴隷を所有していた、あるいは奴隷制度を推進していた歴代大統領について、歴史の見直しが行われた。例えば、〝建国の父〟の一人である第3代大統領トマス・ジェファーソンの像が、ニューヨーク市議会議事堂から撤去された。奴隷の所有者だったことが理由で、ニューヨーク市民が集まる場所には不適切とされたのだ。

また、アメリカ自然史博物館に80年近く展示されていた第26代大統領セオドア・ルーズベルトの像も撤去された。この像は、ルーズベルトが黒人と先住民を従えた騎馬像だったため、正義とはかけ離れているとされた。

スポーツ界への影響

スポーツ界における影響として、日本でも話題となったのがプロテニス選手の大坂なおみ選手だ。犠牲になった人物の名前が書かれたマスクを日替わりで着用し、全米オープンテニスに出場した。

また、NBA選手であるレブロン・ジェームズやカーメロ・アンソニーなどが、黒人が不当に扱われることに対して「もう十分だ」というメッセージを発信した。さらにフットボールリーグ・NFLや野球リーグ・MLB、ホッケーリーグ・NHLなどのプロスポーツの試合では、国歌斉唱中に膝をついて抗議の意思を示す行為も多く見られた。

2022年2月に行われた水泳大会では、「Black Lives Matter」と書かれた水着を着用した12歳の黒人女性が出場。参加資格を失いかけ、出場が危ぶまれるなどによって注目され、アメリカで大きく報道された。

エンタメ界への影響

世界的なアーティストであるレディー・ガガは、平等を求めてBLMに参加する人たちへの支持を表明。また、アリアナ・グランデはメッセージの発信にとどまらず、「BLACK LIVES MATTER」と書かれたプラカードを掲げてデモ行進にも参加した。

一方、アメリカのケーブルテレビ放送局HBOでは、ハリウッド映画の名作とされる「風と共に去りぬ」を配信リストから一時削除。黒人や奴隷制度に関する新たな注釈を入れた上で、配信を再開した。そのほかのテレビ局やストリーミングサービスでも、黒人差別を肯定する表現のある複数の作品が放送中止または配信中止となった。

BLMによる世界への影響

BLMのデモ行進は、ヨーロッパや東アジア、中東などでも行われた。特にイギリスでは規模が拡大し、ロンドン中心部にあるハイド・パークで行われた抗議活動には約1万5000人が参加したとされる。一方、日本でも東京や大阪、名古屋などでデモ行進が行われた。

またイギリスのブリストルでは、奴隷商人のエドワード・コルストンの銅像が、台座から引き下ろされたことも大きく報道された。銅像は市内を引き回された後、ブリストル湾に沈められた。オックスフォード大学では、植民地支配と人種差別の象徴だと反発する学生からの抗議を受けて、植民地時代の実業家セシル・ローズの銅像を撤去した。

さらに、ノルウェーの国会議員の推薦を受けて、2021年のノーベル平和賞へのノミネートされたことで、BLMは一躍脚光を集めた。受賞とはならなかったが、人種差別に対して一石を投じた格好となった。

BLMに関する論争

BLMはインターネットを中心に爆発的に世界に広がったが、その反面、BLM運動に対する批判的な投稿も見られた。世界中で行われたデモ行進が暴動を誘発し、周辺地域では大きな損害を受けたケースもあったからだ。

BLMがほかの論争に拡大したことも特徴的だ。例えば、白人がBLM自体が人種差別だとする発信をSNS上などではじめ、論争が巻き起こった。

またBLMに対抗して、すべての命が大切だとする「All Lives Matter」という運動も巻き起こった。さらに暴徒が警官を襲撃する事件が起きたことを受け、警官の人権を尊重する「Blue Lives Matter」という主張も広がった。

「Blacklivesmatter」をどのように翻訳すべきか

日本では「Black Lives Matter」をどのように日本語にするかという論争も起こった。

代表的な日本語訳は以下のような意味となる。

・黒人の命は大事だ
・黒人の命も大事だ
・黒人の命だって大事だ
・黒人の命をないがしろにするな
・黒人の命を粗末にするな
・黒人の命を尊重しろ
・黒人の命にも価値がある

「黒人の命は大事だ」とするか、「黒人の命も大事だ」にするのかによっても「Black Lives Matter」のもつ意味合いが異なる。

また「All Lives Matter」へと運動が波及したことによって、BLM運動が人種差別だけではなく「人間の尊厳」など大きな意味をもつことにもなった。

BLMから私たちが学ぶべきこと

日本では人種による差別は起きにくいとされるが、歴史的な背景から中国や韓国などに対する反発的な感情を持っている人もいる。また、外国人労働者の増加やインバウンドの高まり、難民の受け入れなどから、外国人に対する敵対意識を抱く人もいるようだ。

「Black Lives Matter」さらに「All Lives Matter」には、誰しも等しく一つの命があって、尊厳を持って生きていく権利があるというメッセージが込められている。特にこれからは多様性の時代を迎えることになる。意識的あるいは無意識に抱く偏見や差別的な言動が本当に適切なのか自分に問いただし、できることから改善していくことが求められるだろう。

まとめ

アメリカではじまった人種差別に対する抗議運動「Black Lives Matter」。アメリカでは合法的に黒人を奴隷にしていた歴史があり、白人警察官が起こした複数の黒人殺害事件をきっかけに全世界に拡大した。

アメリカ国内では政界やエンタメ、スポーツなどあらゆる分野でBLMに関連する発信やムーブメントが見られ、大きな影響を与えた。ただし、アメリカ国内において白人至上主義や黒人への差別主義が完全になくなったわけではなく、今後も同じような人種差別、またはそれに対する反対運動は起きる可能性がある。

BLMを通じて人種差別の歴史を学び直し、未来に同じような出来事が起こらないように広い視野で世界を見るようにしたい。そうした一人ひとりの意識改革が、人種に関係なく誰もが安心して暮らせる社会を実現していくことにつながるはずだ。

参考記事

BLM運動とは 発端となった事件や歴史、世の中に与えた影響を解説|ELEMINIST
Blacklivesmatter(BLM)とは・意味|IDEAS FOR GOOD
「息ができない」――アメリカ合衆国の司法における人種差別|IMADR
BLM運動とは?きっかけや影響、現状をわかりやすく解説!|Spaceship Earth
改めて時系列で辿る、「Blacklivesmatter」ムーブメント|BAZAAR 
ブラック・ライブズ・マター(BLM)共同代表が、その実像を語る『世界を動かす変革の力』|じんぶん堂

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倉岡 明広
北海道在住。雑誌記者として活動後、フリーライターとして独立。自然環境、気候変動、エネルギー問題などへの関心が強い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史などのジャンルでも記事を執筆中!