FtMとは
FtMとは「Female to Male」の略であり、身体的特徴は女性として生まれてきたものの、男性として生きることを望む人や、男性の体へと移行を目指す人を指す。性別適合手術やホルモン療法を通じて、身体的な性別を男性に近づけることも多い。FtMの人々は、社会的にも男性として認識されることを望むことが特徴だ。
対義語として、身体的特徴が男性の人が女性であることを望む「MtF(Male to Female)」がある。FtMとMtFの両者はトランスジェンダーに分類され、性別の自己認識と社会的な性別の一致を求める点で共通しているが、経験する課題や必要とする支援は異なることが多い。
トランスジェンダーの人々は、性別の違和感や社会的な偏見に直面することが多いが、近年では理解と支援が広がりつつある。性別適合手術やホルモン療法は、医療の進歩により安全性が高まり、より多くの人々が自分らしい生き方を実現できるようになっている。
FtMの人々が直面する課題には、法的な性別変更手続きや社会的な認知の問題が含まれる。これらの課題を乗り越えるためには、個人だけでなく社会全体の理解と協力が不可欠である。
さまざまなジェンダーアイデンティティ
FtMやMtFは、どちらも女性と男性の二元論的ジェンダーを持つことを含む概念であるが、トランスジェンダーのアイデンティティは必ずしも2つの性別に明確に分けられるものではない。
例えば、「FtX(Female to X gender)」や「MtX(Male to X gender)」という表現も存在する。「X」は「Xジェンダー」を指し「性自認が男性にも女性にもあてはまらない」セクシュアリティのことである。これらの用語は、性別を二元論に限定せず、より広範なジェンダーアイデンティティを表現するために用いられる。
また、一部の人々は「FtM」という表現が「かつて女性だった」という意味を含むため、この用語から離れつつあり、代わりに「MtM(Male to Male)」という表現が使われることもある。これは「男性から男性へ」を意味し、彼らが自らのアイデンティティをより正確に表現しようとする用語である。
トランスジェンダーのアイデンティティは多様であり、個々の経験や自己認識に基づいて異なる表現が用いられることがある。さらに言えば、身体的な特徴を変えることを選択するか否かも個人の自由である。
注目される背景
FtMが注目される背景には、社会の多様性への理解が深まっていることが大きい。近年、LGBTQ+コミュニティに対する認識が広がり、トランスジェンダーの人々の存在がより広く知られるようになった。特に、メディアやインターネットの普及により、FtMの人々の声が社会に届きやすくなっている。
また、医療技術の進歩も一因である。性別適合手術やホルモン療法の安全性と効果が向上し、より多くの人々が自認する性別に一致する身体を手に入れることが可能となった。これにより、FtMの人々が自分らしく生きるための選択肢が増えている。
さらに、法的な整備も進んでいる。多くの国や地域で、性別変更の手続きが簡素化され、トランスジェンダーの人々が法的に認められる機会が増えている。FtMの人々が社会的にも認知されやすくなっているのだ。
社会的な偏見や差別は依然として存在するが、教育や啓発活動を通じて理解も進んでいる。学校や職場での多様性教育が進み、トランスジェンダーの人々に対する偏見が少しずつ減少している。これらの要因が重なり、FtMが注目されるようになっているのである。
FtMの特徴

性自認が男性であることがFtMの基本的な特徴であるが、性的指向は必ずしも一貫していない。例えば、FtMの中には女性を好きになる人もいれば、男性を好きになる人もいる。バイセクシュアルやパンセクシュアルのFtMも存在し、性的指向は多様である。
FtMの人々は、性自認と身体的な性別が一致しないことから、身体的な特徴を男性に近づけるために、性別適合手術やホルモン療法を選択することが多い。しかし、すべてのFtMが医学的な治療を選ぶわけではない。社会的に男性として認識されることを重視し、身体的な変化を求めない人もいる。
また、FtMの中には、性自認が男性であることを明確に自覚している人もいれば、成人してから性別違和に気づく人もいる。性自認が男性であることがはっきりしている場合、性同一性障害(GID)として診断されることもある。この場合、男性ホルモンの投与や胸の除去手術、性別適合手術などが治療の一環として行われる。
一方で、自分の性別に対する認識が曖昧で性自認が男性であることを断言できなくても、男性としての生活を望み、治療を受けて男性として生きることを選ぶ人もいる。そして多くのジェンダークリニックでは、性自認が明確でない場合でも、必要な治療を受けられるようにサポートが行われている。
FtMのあり方は多様であり、個々の経験や選択によって異なる。性自認が男性であることは共通しているが、どのように自分を表現し、どのような治療を選ぶかは個人の自由である。社会的な認知や法的な手続きも含め、FtMの人々が自分らしく生きるためには、社会全体の理解と支援が不可欠である。
なぜ「からだの性別」と「こころの性別」が一致しないのか
FtMのように、「からだの性別」と「こころの性別」が一致しない原因は、完全には解明されていない。しかし、生物学的な要因が関与していると考えられている。胎児期における身体または脳の性分化に変化が生じた結果であるとされる。
胎児期には、性ホルモンの影響で身体と脳が性別に応じて発達する。しかし、この過程で何らかの変異が発生すると、身体の性別と脳の性別が一致しないことがある。このため、身体は女性でも心は男性という状態が生じることがあるという。また、遺伝的要因や環境要因も影響を与える可能性がある。例えば、特定の遺伝子の変異やホルモンバランスの乱れが、FtMの発症に関与しているとされる。しかし、これらの要因がどのように相互作用するのかは、まだ多くの謎が残されている。
このように、からだの性別とこころの性別が一致しない原因は複雑であり、単一の要因で説明することは難しい。しかし、これは個人の責任ではなく、自然の一部として理解されるべきである。今後の研究によって、より詳細なメカニズムが解明されることが期待されている。
FtMが抱える生きづらさ
FtMの人々が抱える生きづらさは多岐にわたる。まず、性自認と身体の不一致からくる心理的な苦痛がある。自分の性別を他者に理解してもらえないことや、社会的な偏見や差別に直面することが多い。例えば、職場や学校でのカミングアウトに対する不安や、家族や友人からの理解を得ることが難しい場合がある。
また、医療的な手術や治療を受ける際の経済的負担も大きな問題になる。ホルモン療法や性別適合手術は高額であり、保険適用が限られている場合が多い。さらに、これらの治療を受けるためには専門の医療機関に通う必要があり、地方に住む人々にとってはアクセスが困難であることもある。
加えて、社会的な認知度の低さも、生きづらさの一因である。多くの人々がトランスジェンダーについての充分な知識を持っていないため、誤解や偏見が生じやすい。そのため、日常生活での小さな出来事が大きなストレスとなることも少なくない。
さらに、法的な手続きや戸籍の変更に関する問題もある。性別変更のための条件が厳しく、手続きが煩雑であるため、多くのFtMの人が法的な性別変更を諦めざるを得ない状況にある。
これらの生きづらさを解消するためには、社会全体の理解と支援が不可欠である。教育や啓発活動を通じて、トランスジェンダーに対する理解を深め、偏見や差別をなくす努力が求められている。
性を「取り戻す」ためにできること

FtMやMtFの人たちが本来の「性」を取り戻す手段として、「性別移行」がある。これは、自認するジェンダーに合わせて外見や身体を変えることであり、トランジションとも呼ばれる。メディアで「性転換」という言葉が使われることがあるが、当事者にとっては不快に感じることが多いため、「性別移行」という表現が望ましい。
性別移行には、ホルモン療法や性別適合手術などによる身体的な移行と、他者や社会との関係を通じて行う「社会的性別移行」の二つの方法がある。
戸籍の性別を変更したいと考えるトランスジェンダーの人々は、まず服装や髪型などの見た目を変えたり、ホルモン療法を受けたりして、実際に望む性で生活する体験(リアル・ライフ・エクスペリエンス)を積むことが多い。その後、性別適合手術を受け、戸籍の性別変更を申請するという流れを経ることが一般的である。
性別移行の過程では、外見の変化が避けられないため、家族や友人、職場の人々にカミングアウトする必要が生じることが多い。当事者の多くは、見た目の変化によって差別を受けるのではないかという不安を感じている。そのため、職場や社会全体での理解と支援が重要である。
性別移行は個人にとって大きな決断であり、どの程度まで移行するかは人それぞれである。社会的な性別移行だけで満足する人もいれば、身体的な性別移行を望む人もいる。自分にとって最適な選択を見つけるためには、十分な情報収集と自己理解が必要である。
医療的な手術や治療
医療的な手術や治療は、原則として対象年齢が18歳以上とされている。FtMの人々が選択する主な治療には、ホルモン療法と性別適合手術がある。
ホルモン療法では、テストステロンを投与することで、声が低くなったり、筋肉量が増加したりするなど、身体的な男性化が進む。性別適合手術にはいくつかの種類がある。まず、胸の手術(乳房切除術)は、胸の膨らみを取り除き、より男性的な胸部を形成する手術である。次に、子宮や卵巣の摘出手術があり、これにより月経が停止し、体内の女性ホルモンの影響が減少する。さらに、陰茎形成術という手術もあり、これは陰茎を形成するための手術である。
これらの手術や治療は、個々のニーズや希望に応じて選択されるものであり、すべてのFtMが同じ治療を受けるわけではない。治療を受ける際には、専門の医療機関で十分なカウンセリングを受け、自分にとって最適な選択をすることが重要である。
戸籍を変更する条件
現行の法令に基づき、戸籍上の性別を変更するためには、以下の条件を満たす必要がある。
- 年齢:申請者は18歳以上であること
- 婚姻状況:現に婚姻していないこと
- 子供の有無:未成年の子がいないこと
- 医師の診断:二人以上の医師から性同一性障害であると診断されていること
- 外観:変更後の性別に近い外観を備えていること
手続きには、申請書や医師の診断書などの書類が必要であり、家庭裁判所での審理を経て最終的な判断が下される。なお、以前は「生殖腺の除去やその機能を永続的に欠く状態にあること」が求められていたが、2023年10月の最高裁判所の判決により、この要件は違憲と判断され、2023年12月からは適用されなくなった。(※1)
戸籍の性別変更は、個人の尊厳と権利を守るための重要な手続きである。最近では、「非婚要件は違憲である」との申し立てもあり、要件の見直しを要請する当事者も少なくない。
まとめ
FtMの人々がより生きやすい社会を実現するためには、法的整備や医療の充実が不可欠である。性別変更手続きの簡素化や、ホルモン療法や手術の保険適用拡大も課題と言える。
また、教育現場や職場での多様性教育を推進し、トランスジェンダーに対する理解を深めることも重要だ。社会全体がFtMの人々を含む多様な性のあり方を尊重し、支援する姿勢を持つことが求められる。
多様性への理解が深まりつつある現代において、個々の選択や生き方を尊重し、誰もが自分らしく生きられる社会を目指すためにも、FtMの人々が直面する生きづらさが軽減され、彼らがより豊かな人生を送れる社会が、そう遠くない未来に実現することを願う。
参考記事
性同一性障害(性別違和)|一般社団法人 日本形成外科学会
FTMとは?性別適合手術の種類についても紹介|大船T’s形成クリニック
性別変更の手術要件は違憲 日本の最高裁が決定|BBC NEWS JAPAN
結婚している人に性別変更認めない「非婚要件は違憲」…性同一性障害の当事者、京都家裁に申し立てへ|讀賣新聞オンライン
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