ダイバーシティ(多様性)とは?意味や種類、企業で推進する理由を解説

ダイバーシティとは

ダイバーシティ(多様性)とは、多くの場合、年齢・性別・国籍・宗教などさまざまな属性の異なる人々が集まっている状態のことを指す。
ダイバーシティには、大きく分けて「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」の2種類がある。
「表層的ダイバーシティ」とは、年齢・性別・年齢・国籍・人種・障がいなど、外見から判断できる属性のことだ。自分の意思とは関係なく、自分の力で変えられないものという特徴がある。一方「深層的ダイバーシティ」とは、その人の内面部分に大きく関わっている。外見からはなかなか判断がつきにくい属性のことで、例えば思想や価値観、宗教、学歴、性的指向などがある。
近年は、ビジネスにおいてもダイバーシティが注目されており、このような多種多様の人材を積極的に採用し、活かす戦略を取る企業が増えている。

インクルージョンとの違い

ダイバーシティの類義語に「インクルージョン」という言葉がある。これは「包括」や「包含」と訳され、高齢者や障がい者など、一般的に社会的弱者と言われる人々も社会の一員として受け入れて共生していくことを意味する。これに対し、ダイバーシティは多様性を受け入れる概念であることに留まっているという違いがある。

ダイバーシティの歴史

PATCH THE WORD_ダイバーシティT

ダイバーシティの概念が生まれたのは、1960年代まで遡る。この頃のアメリカでは、1960年にキング牧師による人種差別撤廃の演説が行われるなど、人種や性別における社会での差別をなくそうというアファーマティブアクションが積極的に見られていた。こうした公民権運動が世界中に広まる中で、ダイバーシティはアファーマティブ(格差是正)の一環として取り入れられた概念であった。
1980年代に入ると、人種や性別などのダイバーシティに注目する企業が増加。日本でも1985年に「男女雇用機会均等法」が制定されたことで、特に性別における差別の存在、またそれを克服しようとする多様性の考え方が一気に認知されるようになる。
現在では、少子化による労働人口の減少や、グローバル化を背景に外国人や海外とのかかわりが増えたことで、性別だけでなく人種や国籍などまで含めた多様性を目指す動きが強まっている。

多様性の種類

多様性というと性別や人種などの表層的なものをイメージしやすいが、実際は深層的なものも多く、それぞれに取り組むべき課題も存在している。

性の多様性

性の多様性は体の性だけでなく性自認(心の性)、性的指向(好きになる性)、「男らしさ」「女らしさ」など社会的な性(ジェンダー)など、さまざまな要素が組み合わさったものを言う。
近年、LGBTQという言葉は浸透しつつあり、欧米などでは多様な性のあり方が受け入れられ始めている。しかし日本では同性婚が認められておらず、同性カップルの公営住宅への入居不可や、病院で説明を受けたり面会ができないなど、性の多様性に関して多くの課題を抱えている。また主にトランスジェンダーへ配慮された公衆浴場や公衆トイレでは、非該当者から不安の声が上がることもある。

人種の多様性

グローバル化が進む現代では、様々な人種の人々と関わる場面が増えている。多様な人種の人々との出会いによって、お互いの国のことや考え方を知ることができ、自身の価値観もアップデートされるだろう。
しかし世界では人種差別問題は未だに根深い問題として蔓延っており、出身地や国籍を理由に就職や教育機関への入学に不利になるケースもある。また職場では言葉や文化の面ですれ違いが起きやすく、コミュニケーションにおけるストレスや疎外感を感じるなど克服すべき問題も多い。

働き方やキャリアの多様性

働く人々のライフスタイルが多様化したことやパンデミックの影響から、テレワークや時短勤務、男性の育児休暇推奨など様々な働き方が生まれている。また副業や転職に取り組む人も増加し、従来の終身雇用的キャリア形成から大きく変化しつつある。

このように、働き方やキャリアに対して多様な考え方が生まれている一方、従来の価値観からなかなか脱却できない人々もいるため、職場内での摩擦が起きる原因ともなる。また、企業としてもワークライフバランスに対する多様な要請に対応しきれないこともあり、離職につながってしまったり、パフォーマンスの低下につながることもある。

意見や価値観の多様性

人はそれぞれ異なる価値観をもっており、多様な考え方が集結することで組織やコミュニティの飛躍もしくは安定につながることもある。近年は、SNSの普及や人々の動きがより流動的になっていることもあり、自分とは異なる考えに触れる機会も増えている。時には、意見の相違が原因となり対立やトラブルを引き起こす場合もある。

日本では、周りの意見と調和させることがよしとされる文化的側面もあり、いわゆる同調圧力によって、少数派の意見や価値観は押し込められてしまうことも多い。そのため、職場においても本来の能力を発揮できなかったり、画期的なアイディアが生まれる機会を失うことにもつながる。

日本におけるダイバーシティ

PATCH THE WORD 日本におけるダイバーシティ

日本は、世界の国々と比べてダイバーシティに対する取り組みがかなり遅れている。例えば、女性管理職の割合は、2020年時点で欧米の多くの国で約30~40%を占めるのに対し、日本は13.3%と群を抜いて低い。(データブック国際労働比較2022)また、日本の国会議員の女性比率は16.0%で186ヶ国中139位にランキングしている。(2023年1月時点)同ランキングで1位のルワンダは61.3を記録しており、日本は大きく後れを取る状況だ。さらに、移民・難民の受け入れに関しても閉鎖的な対応を取っており、主要先進国と比べて難民の受け入れが極端に少ないことで知られている。

このように、ダイバーシティの推進がなかなか進まない背景には、日本は単一民族の構成比が極めて高いことや、高度経済成長の時代に「働く男性と、それを支える専業主婦」という構図があまりにも定着しすぎてしまったことで、社会において男性優位という無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が根強く残っていることが原因と考えられる。

しかし最近では、ビジネスの領域を中心に多様性に関する取り組みは徐々に進められており、企業価値の向上や競争優位の源泉として捉えられはじめている。2010年に日本経団連が「企業行動憲章実行の手引き」において、多様な人材が十分に能力を発揮できる環境を整えることで、企業の創造性を向上させることについて言及した。2012年には、経済同友会が「意思決定ボードのダイバーシティに向けた経営者の行動宣言」にて、多様なステークホルダーと共存するには、多様な視点を取り入れた意思決定が重要であり、そのために女性の管理職への登用がカギを握るとした。さらに、経済産業省が「新・ダイバーシティ経営企業100選」や「なでしこ銘柄」の選定するなど、ダイバーシティ経営を推奨する動きが続々とでてきている。

ビジネスにおけるダイバーシティ

ビジネスの現場では、多様性を受け入れ、それを活かした場を提供する「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の考え方が活発になっている。この考えにおいては、女性管理職や高齢者、障がい者、外国人の採用、LGBTQ社員への配慮など、ダイバーシティの重要性をただ理解するだけでなく、実際にその個性や能力を組織内で支援し活かすことが必要不可欠だ。
しかし、既存社員の意識改革の必要性、言葉の壁や価値観の違いなど実施への課題も多く、職場内で多様な人材が活躍する土壌をつくることはなかなか難しいこともある。そのため、社内の支援体制の整備やフレキシブルな対応が、これらの課題を克服しD&Iを実現するために重要となる。

ダイバーシティを推進する理由

多様性に富んだ組織を目指すことは、同時に多くの懸念事項が発生する。しかし、それでもダイバーシティを推進するのはなぜか。以下に4つの理由を示す。

労働人口の減少

現在の日本は、少子高齢化によって労働人口は年々減少している。このままでは日本国内だけで人材を賄うのは困難になり、生産性は低下する一方と予想される。そこで人種や国籍、性別などを問わず多様な人材を確保することは、持続的に企業を運営するために不可欠になるのである。

企業のグローバル化

企業の世界進出や市場のグローバル化が進んでいることから、海外との取引に適応した人材、また既存の枠組みを超えて日本市場とは異なる戦略が立てられる人材を確保することは、多くの企業にとって重要事項となる。多様なバックグラウンドをもつ社員を抱え、それぞれの人材の強みを活かすことは企業の競争力や持続性を保つうえでも欠かせない取り組みともいえる。

消費ニーズの多様化

SNSの普及などによって消費者のライフスタイルや価値観は複雑化しており、従来のペルソナのようなマーケティング戦略では成功できない場合も増えている。企業の中でも多様な視点や意見を取り入れることで、多様化する消費ニーズに柔軟に対応できるようにする必要がでてきているのである。

雇用意識の多様化

新型コロナウイルス禍の影響もあり、ここ数年でワークライフバランスを重視する人が急増している。また、転職はより良い職場を求めるためのポジティブなものであると捉える人も増え、帰属意識も希薄化していることから、様々な雇用形態を提供することは離職率を低下させ、従業員のエンゲージメントを向上させることが期待できる。

ダイバーシティを推進するためにできること

ダイバーシティを実現する方法は様々だが、大切なのは自社に適応した方法を少しずつ取り入れることである。以下、多様性に富んだ職場をつくるための一例を紹介する。

柔軟な働き方の採用

従業員が仕事と生活のどちらも充実できるよう、柔軟な働き方を検討することが大切である。例えば、正社員やフルタイム勤務だけではなく、時短勤務やテレワークを導入するなど、従業員それぞれのライフスタイルに合わせた選択肢を増やすことも一つの手だ。これにより、子育てや介護、あるいは趣味や副業との両立を図ることが可能となる。

女性管理職の増加

女性管理職を増加させると、これまでの男性中心の経営とは異なる視点を取り入れることができる。また女性は結婚や出産などライフスタイルでの変化が大きく、優秀な人であってもキャリアを途中で諦めてしまうことが多い。そのため優秀な人材を確保するためには、女性のライフイベントに寄り添った制度を用意することも重要になる。

育成環境の整備

高齢者や外国人、障がい者、LGBTQなど、様々な人材を採用することで企業の多様化への一歩となるが、ただ採用するだけでは、多様な人材の活躍にはつながらないこともある。彼らが能力や特性を十分に発揮させるためには、人材育成環境や評価制度の整備が非常に重要な役割を果たす。例えば、メンター制度や社内で人脈を広げやすい環境を整えることも有効だ。

まとめ

日本は島国であることに加えて、集団意識の強い国でもあることから、異なる文化や価値観を受け入れることに抵抗を感じやすいと言われている。しかし、多様な人、文化、価値観が交錯し、ますます複雑化する社会において、多様性を許容する力は、個人としても、企業としても、社会としても重要となるだろう。

「多様性」は決してきれいごとではなく、時にアイデンティティを脅かすものとして排除されることもある。しかし同時に、コミュニティをよりよくする新しいアイディアの源にもなるはずだ。

理解できずとも、多様なものをありのままの存在として認めあえる社会で暮らせるように、まずは「他とは異なる自分」を尊重できるようにしたい。

参考記事
ダイバーシティの推進|経済産業省

関連記事