ジェンダー(gender)とは?ジェンダー不平等がもたらす問題とジェンダー平等を目指す世界の取り組みを解説

ジェンダーとは

ジェンダーとは、社会的および文化的な性差のことを意味する言葉である。つまり、ある社会において、「男性らしさ」「女性らしさ」など、男性または女性として期待・評価されること、課せられる責任などはすべてジェンダーのカテゴリーに属する。服装や髪型などの外見から、職業、家庭や職場での役割、意識、考え方、価値観などの内面に至るまで、ジェンダーにおける人々の意識は時代背景によって変化し、反映されていく。

性の区分にはジェンダーのほかに、生物学的・身体的性区分(セックス)がある。これは個人が男性、女性、もしくはどちらにも属さない性(インターセックス)であることを規定する、生物学に基づいた特徴の総称だ。

2つの区分は密接に関係しており、古来身体的な特徴(セックス)によって男女間の役割(ジェンダー)が決定してきたとされている。しかし職業や社会的背景が変化している現代においては、その区別に対して疑問を投げかけられることがしばしばある。また、これらは多くの社会において男女間の不平等の原因ともなっている。

ジェンダーの歴史

1919年に創設された国際労働機関(以下、ILO)は、創設当初から現在に至るまで、すべての働く男女の権利の促進およびジェンダー平等に向けて深く携わってきた。

1951年に「同一報酬条約」を制定し、男女の労働の価値が同一であれば同一の賃金を得るという権利を保障し、1958年には「差別待遇(雇用および職業)条約」で、人種や宗教などのより広範な差別に対する規定へ発展させた。

さらに1981年、男女の労働に対する平等な機会と処遇の確保を目指した「家族的責任を有する労働者条約」を採択。2000年 には「母性保護条約」によって、健康保護、出産休暇と給付、雇用の保護、非差別および労働時間内での授乳時間の確保など、広範囲にわたる母性保護の国際労働基準を制定している。

このようにILOは、これまで女性の労働の促進や労働環境の整備に関する多くの条約を採択してきた。1999年には「ILOジェンダー平等のための行動計画」という国際労働事務局の活動指針を作成し、国連の機関同士ののイニシアチブに参加するなど、ジェンダー平等や女性のエンパワーメントなどの促進のために継続的に活動している。

ジェンダーの不平等による問題

ジェンダー不平等によって起こる教育やキャリアの面における問題は、社会全体に大きな損失を与えることになると指摘されている。

教育格差

日本をはじめとする先進国では男女関係なく教育を受けられる機会があり、世界全体においても女子の初等教育就学率は年々増加傾向にある。しかし、学校に通えない女の子が未だに多く存在している国や地域もある。その理由は、貧困、地域の慣習に起因する児童婚および出産、教育環境の未整備などさまざまだ。

教育を受けないことで読み書きができず、生きていく上で大切な知識を得ることが難しくなる。そのため将来仕事の選択肢が狭まり、社会との繋がりは希薄となることで、生まれてくる子どもにも貧困や不平等が連鎖してしまうことが往々にしてある。

世界子供白書2004によると、女子教育に力を入れる東南アジアでは経済開発の水準が向上し、一人当たりの国内総生産も増加しているという。女の子が教育を受けることで精神的にも経済的にも自立することができ、その力がさまざまな社会問題を解決する重要な要素になるとも言われている。

キャリア

男女共同参画白書によると、昭和55年以降、日本国内における共働き世帯の割合は年々大幅に増加している。また近年では、家庭における役割分担に関して「男は仕事、女は家庭」という意識に「反対」とする意見が多数派となっている。

しかし、第一子出産後に就業を継続する割合は、「正規の職員」は69.1%、「パート・派遣」ではわずか25.2%にとどまるなど、出産がきっかけで就業の機会を失ってしまう女性も少なくない。一方で、男性の育児休暇取得率や、6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連に費やす時間は増加傾向にあるものの、他の先進国と比較すると依然として低水準にとどまっている。

つまり、現実問題として女性は仕事と家事・育児の両立において負担が大きく、そのことが雇用機会や賃金面での不平等の一因と考えられる。

ジェンダーに関するステレオタイプ

ジェンダーステレオタイプとは、社会において一般的に浸透する画一的な「男らしさ」「女らしさ」の固定観念のことである。性格、家事、職業、容貌に関して、例えば「男は活発、女はおしとやか」「男は外で仕事、女は家を守る」「男は理系、女は文系」「男は短髪で筋肉質、女は長髪で細身」という期待や評価が挙げられる。このような考え方や思い込みは、性別によって将来の選択肢や可能性を狭めてしまい、自分らしく生きることを妨げてしまうと考えられる。

公益社団法人プラン・インターナショナル・ジャパンの調査では、これらの言葉を耳にすることが最も多い場所に「学校」、次いで「家庭」が挙げられている。たとえ教育内容には男女間の差がないとしても、幼い頃から「男の子なんだから」「女の子なんだから」と言われて育つことで、進路選択や生活面において無意識のうちに影響する可能性が高いため、学校や家庭でのジェンダー教育を重視する必要がある。

ジェンダー平等に向けた世界各国の取り組みと課題

世界ではジェンダーステレオタイプをなくそうとする動きが高まっており、ジェンダー問題に対する様々な取り組みが行われている。一方で、広く浸透した意識を変えることは時に困難でもあり、国をあげた政策が重要となる。

アイスランド

ジェンダーギャップ指数1位のアイスランドでは、女性の就業率は80%を超え、企業代表の女性の割合は44%にも達する。政治においても女性が議席の48%を占め、高校以上の教育では女子の割合が上回る。また、父親に育児休暇を与えることを義務化するなど、あらゆる場面における男女間の差をなくすための施策を実施している。

こうした動きは男女平等だけにとどまらず、LGBTQの権利の強化も推進しており、彼(彼女)らが社会で直面する様々な問題にも取り組んでいる。

ルワンダ

東アフリカのルワンダは、ジェンダーギャップ指数上位の国の一つ。特に女性の政治参画においては世界トップレベルを誇り、国会議員の約6割を女性が占めている。教育面でも、2003-04年度より中学3年生までの9年間の基礎教育が無償化されたことから女子の就学率が増加し、2017年の初等教育純就学率では女子の割合が男子を超えている。

このことは、1994年に起こったルワンダ大虐殺により、残された女性がこれまで男性が担ってきた仕事に従事せざるを得ず、トップダウンのアプローチによって女性の政治参画が進んだことが背景にある。一方で、ルワンダ国内の貧しい地域ではいまだに性暴力などに苦しむ女性も多く、社会的格差がジェンダー平等においても課題となっている。

途上国のジェンダー問題

途上国の中でも特に貧しい地域であるサハラ砂漠以南の国々では、伝統的な社会のルールが、女性たちを社会参画から遠ざけていることが問題視されている。特に児童婚の慣習は、女の子から教育の機会を奪い、暴力や性的搾取を受ける原因にもなる。また宗教上の理由で、女性が自由に外出することを許されていない場合もある。

いかなる理由であっても、教育を受けられなければ将来的に仕事の選択肢も限定され、女性たちが貧困から抜け出せなくなるだけでなく、国全体の経済発展および社会開発が停滞してしまう要因にもなっている。

日本のジェンダー平等の現状

世界経済フォーラムが毎年発表する「世界のジェンダー・ギャップ指数ランキング」において、多くの国がジェンダーギャップ指数を向上させている一方で、日本は年々順位を落としており、同団体が2023年に発表した報告書では、対象146ヵ国のうち126位と過去最低を記録。先進国のみならず、ASEAN諸国と比較しても大幅におくれを取っている状況だ。特に政治および経済分野への女性参画率の低さは長い間指摘されており、国会議員の女性割合は9.9%、大臣の同割合は10%、企業における管理職の割合は14.7%、女性の平均所得は男性より43.7%低くなっている。

ジェンダー平等に関して課題が山積みの日本ではあるが、主な政策としてポジティブ・アクションへの取り組みを推奨している。これは、社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対し、実質的な機会均等を実現することを目的として講じられている措置で、例えば、性別を基準に一定の人数や比率を議員などに割り当てる「クオータ制」の導入もその一つだ。また、女性のキャリアサポートを行う地方自治体や、女性の役職登用を積極的に実施する企業も現れるなど、ジェンダーギャップ解消に向けた各方面からの取り組みも見られる。

わたしたちができること

社会全体という大きな枠組みの中では、伝統的な社会規範や文化的な慣習は根強く残っており、価値観を変化させていくことは容易ではない。しかし家庭内や職場、学校といった周囲のコミュニティの中であれば、少しずつジェンダー平等の実現に向けて意識を変えていくことは可能である。

ジェンダーに対する意識は、自身に元から備わっているものではなく、周囲の環境が大きく反映されている。家庭では保護者、学校では教師、職場では上司など、ある組織おいて上に立っている者の言葉や考え方は、子どもたちや部下に直接的な影響を及ぼすものだ。

世代間におけるジェンダー意識に対する差は顕著であるため、上の世代では当然であったジェンダーに関する見解が現在の世界のスタンダードとずれている場合もある。そのため、世代間で受け継いだ価値感をもとに無意識で「男はこうあるべき、女はこうでなければならない」と考え、口にしていないだろうかと自身を省みることからはじめ、周囲の人々と考えを共有することが大切になるだろう。

まとめ

SDGsの目標5である「ジェンダー平等」は、世界の多くの国や地域で当たり前とされてきた社会システムを一変させる動きでもある。人々の深層に根付いている意識を変化させることは膨大なエネルギーを要するが、基本的な人権の保障が叫ばれる現代において、ジェンダー平等は最も取り組まなければならない問題の一つでもある。

ジェンダー平等が実現することで、より多くの女性たちが高等教育を受けることができたり、社会や政治への参画が促進されていく。このようにして多様な視点が加わることは、企業の組織や地域コミュニティ、あるいは世界全体が抱えるさまざまな問題の解決に向けた重要な要素ともなるかもしれない。

参考記事

ジェンダーとは?|UN WOMEN
性差:ジェンダーとセックスの違い
女性の貧困を知るために途上国のジェンダー問題を学ぼう|World Vision
性別にとらわれず自由に生きるために 「日本の高校生のジェンダー・ステレオタイプ意識調査」
Grobal Gender Gap Report 2023
SDGs目標5「ジェンダー平等」とは | 日本の現状や取り組みを解説

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