トランスジェンダーとは?スポーツ界や公共トイレなど、当事者を取り巻く問題を解説

トランスジェンダーとは

トランスジェンダーとは、身体的な性とこころの性が一致していない状態を指す。たとえば男性の身体で生まれたが自分では女性だと認識している人(トランスジェンダー女性)や、男性の身体で生まれたが自分では男性だと認識している人(トランスジェンダー男性)が当てはまる。

しかし、「こころの性」とは何か明確に理解していない人もいるだろう。そのため、ゲイやレズビアンなど他の性に関する言葉と混同されることもある。

性に関する4つの項目

一般的に性には、身体的性・性自認・性的指向・性別表現の4つの項目がある。一般的に性には、身体的性・性自認・性的指向・性別表現の4つの項目がある。トランスジェンダーは、身体的性と性自認の不一致を示す言葉だ。

ここでは、各4つの項目を説明していく。

身体的性

身体的な構造で分類される性を身体的性という。多くの場合は誕生時の外見によって、男性の身体をもって生まれてきた人は男性、女性の身体ををもってうまれてきた人は女性とされる。

性自認

性自認とは、自分の性を自分で何と認識しているかを指す。身体の性が一般的に男性と女性の2つに分類される一方、こころの性には中性、両性、無性、不定性の4つがある。

1. 中性
自身が男性と女性との中間であると感じている状態。

2. 両性
自身が男性と女性の両方に所属していると感じている状態。男性か女性か決めかねている、もしくは分からない状態だと誤解されることもあるが、実際は男性の部分もあれば女性の部分もあると感じている。つまり両方の性別がその人のなかに存在している状態を指す。

3. 無性
男女どちらとしての認識も持っていない状態。中性は男性と女性の2つの性が存在しており、その中間に自分がいるという感覚だ。一方で、無性にはその両方の性そのものが自身のなかに存在していない。

4. 不定性
自認する性が定まっておらず、変動している状態を指す。男か女かを定義できない状態ではなく、中性・両性・無性をふくめたさまざまな性のなかで変化したり、入れ替わったりしている状態だ。

性的指向

恋愛感情など、性的な関心や情緒的な関心をいだく対象を指す。よく性自認と混合されてしまうが、関心対象のみを指す。そのため、自分で自分の性をどのように認識しているかまでは含まれない。男性に関心を抱く、女性に関心を抱く、両方の性別に関心を抱く、多様な性別に関心を抱く、どの性別にも関心を抱かないなど、さまざまな性的指向が存在する。

性別表現

性別表現はその人の振る舞いや仕草、言葉づかいなどが、どの性別の固定概念に当てはまるかを指す。

こちらも性自認と混同されやすいが、その人の自己表現がどの性別「らしい」かにのみ着目している。女性がメンズの洋服を着て、いわゆる男性らしい話し方や仕草で会話をしていても、その人のこころが男性であるとは言い切れない。

トランスジェンダーとLGBTQそれぞれとの違い

トランスジェンダ―とLGBTQそれぞれとの違い

性的マイノリティを指す言葉として、LGBTQがある。この言葉にふくまれるのは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、そしてQはクエスチョ二ングとクィアの2つの意味を持つ。

これら6つの言葉は焦点を当てている性の要素がことなる。

ゲイ
男性として生まれ、男性を恋愛対象として見る人。身体的性が男性の人の身体的性と性的指向に焦点を当てる。

レズビアン
女性として生まれ、女性を恋愛対象として見る人。身体的性が女性の人の身体的性と性的指向に焦点を当てる。

バイセクシュアル
男性と女性の両方を恋愛対象として見る人。身体的性を問わないすべての人の身体的性と性的指向に焦点を当てる。

トランスジェンダー
身体的性と性自認が一致しない人。身体的性別を問わないすべての人の身体的性と性自認に焦点を当てる。

クエスチョ二ング
自分の性が分からない・分類したくない人。身体的性を問わないすべての人の性自認に焦点を当てる。

クィア
自分の性が既存の分類に当てはまらない・当てはめたくない人。身体的性を問わないすべての人の性自認もしくは性的指向もしくは両方に焦点を当てる。

レズビアンやゲイ、バイセクシュアルとの違い

トランスジェンダーと上記の3つは身体的性への一般的な概念とは何かしらの不一致が生じている状態を指す点では同じだ。

しかし、トランスジェンダーは自分で自分の性を何に分類しているかに着目している反面、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルは興味関心はどの性別に向けているかに着目している。

そのため次のように、ゲイの人もいれば、ゲイでありトランスジェンダーでもある人もいる。

  • 身体的性が男性・恋愛対象は男性・性自認も男性→ゲイ
  • 身体的性が男性・恋愛対象は男性・性自認は女性→ゲイでありトランスジェンダーでもある

クエスチョ二ング/クィアとの違い

トランスジェンダーは、その性自認が身体的性と一致していない状態を示している一方で、クエスチョ二ングとクィアは自分の性の捉え方や考え方に着目している。

  • トランスジェンダー:自分で感じている自分の性が身体の性と異なる
  • クエスチョ二ング:自分の性が何かは分からない・定義したくない
  • クィア:自分の性は分かるが既存の分類に当てはまらない・分類したくない

トランスジェンダーとDSDの違い

DSD(Disorders of Sex Development/体の性の様々な発達)も、たびたびトランスジェンダーと混同されるが、全く意味の異なる言葉だ。

従来の男性の身体的構造もしくは女性の身体的構造とは異なる発達が、見られることがある。このように身体の発達が従来の概念に当てはまらない状態はいくつかのカテゴリーに分類されるが、そのすべてを総してDSDと呼ぶ。つまり、トランスジェンダーは身体的性と性自認の不一致をあらわす一方、DSDは身体の状態を指しているのだ。

インターセックスと表現されることもあるが、この言葉は「男でも女でもない状態」に結びついてしまうため、好まない人もいる。なぜならDSDはあくまで「身体の状態」を指す言葉であり、LGBTQのように個人の性に関するアイデンティティを表すものではない。

トランスジェンダーと性同一性障害の違い

トランスジェンダーと性同一性障害は同じだと誤解されることもあるが、それぞれ違った意味を持つ。

  • トランスジェンダー:身体的性と性自認が一致していない人
  • 性同一性障害:身体的性と性自認の不一致に継続的に苦しみを感じている人

この2つは、身体的性と性自認が一致していない点では同じだが、性同一障害はそのことに対して継続的に違和感や苦痛を感じている状態を指す。そのため、性同一性障害はトランスジェンダーの一部として捉えられる。

しかしながら、トランスジェンダーの人が全員、不一致に思い悩んでいるわけではない。性同一性障害が外科手術による性転換を望んでいる状態と捉えられることもある一方、トランスジェンダーの人の中には一致させないまま生きる決心をしている人もいる。

つまり、トランスジェンダーだからといって、その人が自分の性をネガティブに感じているとは限らないのだ。

トランスジェンダーを取り巻く問題

トランスジェンダーを取り巻く問題

トランスジェンダーの人が社会でぶつかる壁は多く、自認する性で生活する権利は十分に認められているとは言えない。

スポーツ界における壁

筋肉量などの身体能力が深く関わるスポーツ界において、男女は別々の試合に参加してきた。その背景のひとつは、男性は女性より身体能力がすぐれているという概念だ。

この概念を証明する科学的証拠は、まだ十分ではない。しかし、不明慮だからこそ男性の身体的特性を持つ人の女性種目への参加は敬遠されてきた。

スポーツ界におけるトランスジェンダ―の人々の扱いは、各競技の特性におうじて考える必要があるため、各競技連盟に判断がゆだねられている。2021年、国際統括団体「ワールドラグビー」がトランスジェンダー女性選手が女子の国際試合に出場することをを禁止した。翌年6月には、国際水泳連盟がトランスジェンダー女性選手の女子競技への出場を事実上禁止。そして2023年3月には、世界陸連が国際大会の女子種目にトランスジェンダー女性が出場するのを禁じた。

ホルモン治療を受けた時期や、ホルモン値に既定を設けるなど、基準を設けて出場を許可している競技もあるが、「トランスジェンダ―の権利」と「従来の女性の権利」は対立している。

しかし、国際オリンピック委員会が資金を提供し行われた研究が、トランスジェンダー女性が身体的性が女性の人より身体機能が優れているという概念を揺るがした。

トランスジェンダー女性は、総合的な筋力の基準値となる握力は優れているが。肺活量、調薬力、循環器系の健康度は低いという傾向が見られたのだ。

また、身体的能力は身体的性だけではなく人種によっても異なるのではという意見がある。多様な国籍・人種の人がともに競技に参加する国際大会で、身体的性を理由に出場を禁じるのはおかしいという意見だ。

スポーツ界では、「多様性の促進」よりも「身体的能力における公平性」が優先される。今後、身体的性やホルモン治療がどの程度身体能力に影響をおよぼすのか、さらなる化学的な研究結果を期待する。

公共の場における壁

トランスジェンダーでたびたび問題になるのは、公衆トイレや公衆浴場の利用だ。

2023年11月には、男性の身体的性をもつ人が女性の温泉に入っているところを発見され、現行犯逮捕となった。本人はこころが女でありながら女子風呂に入れないことに疑問を感じるとコメントしている。

トランスジェンダーの人が身体的性とは異なる施設を利用すると、それに乗じて盗撮目的で異性の公衆トイレや公衆浴場に侵入する人もいるかもしれない。その可能性にたいする不安や恐怖から、「トランスジェンダーの人は女子トイレを使わないで」などのコメントがネットにみられる。また、身体的性が異なる人の裸を見たくないという人もいるだろう。

しかし、トランスジェンダーの人が危害を与えているわけではない。どんな状況下であれ、盗撮やのぞき目的であれば犯罪であり、本来はトランスジェンダーの問題ではないはずだ。また、通報されるリスクを背負ってまで人前で裸になるのは、かなりの勇気がいる行動だ。自認する性に当てはまる施設を利用して良いかどうかではなく、トランスジェンダーでも安心して利用できる場所が必要なのではないか。

欧米諸国では学校などの施設に“All Gender(どんな性別でも利用可能)”と書かれたトイレがある。日本では多目的トイレが身体障がいを持つ人のためと認識されているが、多目的トイレが“誰でも”トイレとして活用されているのだ。また日本では、別府温泉でLGBTQの人向けに混浴イベントが実施された。参加者はバスタオルを巻いて湯舟につかる。

阻止や排除ではなく、性の多様性に沿った「従来の男女以外」の選択肢をつくっていくことが重要だ。

性別変更における壁

性別の変更を希望する場合は、家庭裁判所に申し立てを行える。しかし前提として、以下6つを満たさなければいけないため、ハードルが高いと物議をかもしてきた。

  1. 性同一性障害だと2人の医師が診断していること
  2. 18歳以上であること
  3. 現在結婚していないこと
  4. 現在未成年の子どもがいないこと
  5. 生殖腺がない、もしくは生殖腺の機能を失っていること
  6. 他の性別に類似した性器の外観を備えていること

5番目に該当するには、生殖能力を失わせるための手術が必要になるが、2023年10月の最高裁判所の判決で違憲となった。また2024年7月には広島県地裁で、6番に該当するための外観手術なしで性別変更が認められた事例もある。

しかし、全員がメスを通さずに性別変更を認められるわけではない。

そのうえ18歳までは性別を変えられず、また家族との関係と性自認を両立させることは形式上難しい。間接的に、同性同士の婚姻を認めることになるからだ。

他国でも年齢制限などを設けているが、徐々に規制は緩められている。

ノルウェーでは、6歳以上16歳未満であっても保護者の同意があれば性別の変更を申請できる。ドイツでは、2024年に診断書がなくても簡易的な手続きで性別と名前が変更できるようになった。両国とも、同性婚を認めている国だ。

性別変更は、トランスジェンダーもしくは性同一性障害のみの課題として捉えられている。しかし、その権利について考えるときは、単独ではなく性的マイノリティ全体を促進していく必要があるのだ。

まとめ

トランスジェンダーは、身体的性と性自認が一致していない人を指す。しかし性自認は、恋愛等の興味関心の対象(性的指向)や、言動や仕草が「男性らしいか」「女性らしいか」(性別表現)とは観点が異なる。自分で自分をどう感じるかが大切であり、トランスジェンダーか否かは第三者が印象で決めていいものではない。

また、ここで紹介したトランスジェンダーの定義は現在一般的に語られているものであり、性にまつわる言葉の意味は時代によって変化していく。トランスジェンダーだけではなくレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルをはじめ、性をカテゴリー分けしないクエスチョ二ングやクィアとよばれる人もいる。それほどに、現在の性は多様であり、それと共に個々人の自己認識の多様さも顕在化してきているのだ。

このように男性と女性以外の性が認められている一方、社会には「男性用」「女性用」の選択肢しか用意されていない場面が多くあるのも事実だ。男性か女性かに集約されない多様な性に対応する、豊富な選択肢と柔軟な考え方が必要だ。

参考記事
What are Differences of Sex Development (DSD)|Cincinnati Children’s Hospital Medical Center
43歳男「心は女なのに…」温泉施設で女湯に侵入し現行犯逮捕 性別を巡る公衆浴場のルールと多様性への課題|東海テレビ
トランスジェンダー女性は必ずしも有利ではない 相次ぐ競技締め出しに研究者が警鐘|朝日新聞GLOBE+
性別の取扱いの変更|最高裁判所
性別変更をめぐる諸外国の法制度|PRIDE JAPAN

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