マーベリックとは?第3の性別として登場した新たなジェンダーアイデンティティ。ノンバイナリーとどう違う?

マーベリックとは?

マーベリック(maverique)とは、女性でも男性でもない性別を自認するジェンダー・アイデンティティ(性自認)のひとつ。しばしばノンバイナリーと混同されるが、完全に同じ意味ではない。

マーベリックは、2014年頃に初めて登場した比較的新しいジェンダーアイデンティティだ。インターネット上のLGBTQ+コミュニティで用いられたのが始まりだった。マーベリックという言葉自体は、もともと「社会規範に従わず、独立した考え方を持っている人」を意味する「maverick」に由来している。

つまりマーベリックは「既存のジェンダーに縛られず、自分の性別を独自のものとして認識する」ことを表現するために生まれた言葉で、特にSNSやオンライン掲示板などで使われている。

そもそも、ジェンダー・アイデンティティとは?

そもそも、ジェンダー・アイデンティティとは?

マーベリックという性自認を理解するためには、ジェンダー・アイデンティティとは何か、について理解する必要がある。

ジェンダー・アイデンティティとは、「本人がそうであると認識する自分のジェンダー」のことだ。ジェンダー・アイデンティティは多種多様だが、以下に、一部のメジャーなジェンダー・アイデンティティを紹介しておく。

シスジェンダー

シスジェンダー(略してシスと呼ぶこともある)とは、出生時に割り当てられた性別のままで、異なるジェンダーとの境界線を超えない人のことだ。例えば、女性として生まれて自分を女性だと認識している人、あるいは男性として生まれて自分を男性だと認識している人などが当てはまる。

トランスジェンダー

トランスジェンダーとは、出生時に割り当てられたジェンダーとは異なるジェンダー・アイデンティティを自認する人のことだ。例えば、出生時には女性だと言われたが男性だと自認している人、あるいは男性だと言われたが女性だと自認している人がトランスジェンダーに当たる。

ノンバイナリー

ノンバイナリー(※1)とは、「女性か男性か」といったようなバイナリーのどちらか一方にとらわれない全てのジェンダー・アイデンティティを指す。ノンバイナリーの内実は多様で、男性でも女性でもない、と感じている人もいれば、中性であると感じている人もいる。

ノンバイナリーの中には、ジェンダーが流動的なジェンダー・フルイドや、性別がないと感じているアジェンダーなども含まれる。ジェンダー・フルイドとは、例えば、昨日は自分のことを男性だと感じていたが、今日は女性だと感じている、など、ジェンダー・アイデンティティが流動的な状態を指す。アジェンダーは、自分には性別がない、と自認している状態を指す。いずれにせよ、男女どちらかの固定したジェンダー・アイデンティティがある、という自認をもたいないのがノンバイナリーなのだ。

(※1)日本ではノンバイナリーと同じ意味で、Xジェンダーという言葉が使われることがある。しかし、Xジェンダーという言葉は日本以外では使われていない

マーベリックとノンバイナリーの違い

ここまで読んだ方の多くは、「ノンバイナリーとマーベリックの違いがよくわからない」と思うだろう。この二つの概念はごっちゃになりやすいので、以下でその違いを紹介していく。

ノンバイナリーとは、「女性か男性か」といったようなバイナリーのどちらか一方にとらわれない全てのジェンダー・アイデンティティを指す。

マーベリックは、「既存のジェンダーに縛られず、自分の性別を独自のものとして認識する」ジェンダー・アイデンティティであり、男女二元論に囚われていないという点で、「ノンバイナリーの一種」だと言える。

マーベリックの人々がノンバイナリーの中で特殊な立ち位置を得ている理由は、「女性でも男性でもなく、かつそのどちらでもない特別なもの」と自覚している点だ。マーベリックの人々は、女性や男性のどちらか一方や、あるいは中間のアイデンティティではなく、第三の独立したアイデンティティを自認しているのだ。

マーベリックの登場が意味すること

マーベリックの登場が意味すること

マーベリックという言葉の登場は、「従来のジェンダー・カテゴリに収まりたくない、独自のアイデンティティを持ちたい」という理由で、自分でどんなアイデンティティでも作れてしまうということを示している。

長い間、ジェンダー・アイデンティティは自分で選べないものだとされてきた。女性として生まれたからには女性として女性らしく生き、男性として生まれたからには男性として男らしく生きなければならないのだ、と思われてきたのだ。

つまり、体の性(セックス)と社会的な性(ジェンダー)が不可分であり、生まれた時からどのようにジェンダーを生きるのかが決められているのが当然だとされてきたわけだが、ノンバイナリーというジェンダー・アイデンティティは、そういった「体と性のジェンダーには因果関係があり、変えられない」という前提を疑い、壊すものとして登場した。

哲学者のジュディス・バトラーは、「体と性のジェンダーには因果関係がない」という論文を発表し、のちに自身がノンバイナリーであることを公表した。

バトラー曰く、男性に生まれた人が男らしく、女性に生まれた人が女らしく育つのは、周囲の人から直接、あるいは間接的にジェンダー行動を教えられ、学んで身につけてきたものであって、生まれつきのものではない。

つまり、ジェンダーとは、「学んで演じるものである」というのがバトラーの主張だ。ジェンダーが「学んで演じるもの」であるならば、何を演じるかは、自分で選んでいいということになる。ノンバイナリーやマーベリックというジェンダー・アイデンティティを選ぶことは、「生まれた時に割り当てられたジェンダー」ではなく「どんなジェンダーを演じるかは自分で選ぶ」という意思表示でもあるのかもしれない。

昨今、ジェンダー・アイデンティティを自分で選んでいいのだ、という流れが若い世代には現れ始めており、そのひとつの現れがマーベリックの登場と言えるだろう。

さいごに。ジェンダー・アイデンティティに対する議論を深めるために

マーベリックとは、女性や男性、中性とも異なり、第三の特別な性を自認するジェンダー・アイデンティティのことだ。

これは従来のジェンダーの枠組みに収まらない独自のアイデンティティを追求する人々によって生み出された造語であり、今後定着するのかは現時点ではわからない。

アメリカやヨーロッパの一部地域では、マーベリックのようなジェンダー・アイデンティティを自分で選ぶことが若い世代を中心に広まっている。一方、日本では、ジェンダー・アイデンティティは自分で選べるとか、生まれた時に割り当てられた性別とは違うジェンダー・アイデンティティがあり得るといった認識は広まっていない。

ジェンダーとは、「学んで演じるもの」なのか、生まれた時に決まっているものなのか、議論を深めるためにも、まずは「ジェンダー・アイデンティティ」という言葉の認知度を高めていく必要があるだろう。

参考書籍
藤高和輝『バトラー入門』ちくま新書、2024年
エリス・ヤング著、上田勢子訳『ノンバイナリーがわかる本 heでもsheでもない、theyたちのこと』明石書店、2021年

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