遊びが社会を動かす。ゲームで課題解決する事例3選

社会課題に向き合う方法は、知識を学ぶことだけではない。近年は「ゲーム」という形を通して、環境問題や難民問題、地域課題に取り組む事例が世界中で生まれている。楽しさや体験を入り口にすることで、人はどのように問題を理解し、行動へとつながっていくのか。ゲームを通じて社会課題に向き合う3つの事例を紹介する。

ゲームで課題解決する事例3選

ゲームに夢中になったことがある人は多いのではないだろうか。スマホゲームからボードゲームまで、ゲームは今や世代を超えた娯楽として人々の生活に根づいている。

近年、ゲームを娯楽として使うのではなく、環境や難民問題、貧困といった社会課題と向き合う場として活かそうとする動きが生まれている。頭で理解することと、実際に体を通して経験することは、同じようで大きく異なる。そこに目をつけて生まれたのが「シリアスゲーム」だ。シリアスゲームとは、教育・健康・持続可能性など、一般的にはゲームと結びつかないテーマを扱い、遊びを通じて理解を深め、実際の行動につなげることを目的として作られたゲームを指す。

似た言葉に「ゲーミフィケーション」がある。これは既存の仕事やアプリにゲームの要素を加えるもので、ゲーム自体を一から設計するシリアスゲームとは異なる。

ここでは、そんなシリアスゲームの中から、気候変動・難民問題・地域の貧困をテーマにした3つの事例を見ていく。

Daybreak|気候変動を「正解のない協力ゲーム」として体験する

『Daybreak』は、気候変動対策をテーマにした協力型ボードゲームだ。ボードゲームの名作「パンデミック」を手掛けたマット・リーコックが制作し、2024年には世界で最も権威あるボードゲームの賞とも言われるドイツ年間ゲーム大賞「Spiel des Jahres」のエキスパート部門を受賞するほど、世界から注目されている(*1)。

ゲームの舞台は地球全体だ。プレイヤーはそれぞれ欧州・米国・中国・途上国のいずれかを担当し、力を合わせて6ラウンド以内に地球全体のCO2排出量をゼロへ導くことを目指す。クリーンエネルギーへの転換や新技術の開発など、各自が担うプロジェクトを組み合わせながら進めていくが、誰か一人でも行き詰まれば全員が道連れになる。

『Daybreak』の特徴は、正解がない状況が意図的に作り出されている点だ。たとえば、ある国が再生可能エネルギーへの転換を急ぐ一方で、別の国は緊急の気候災害への対応に追われる。どの国も自国の課題を抱えながら限られたリソースを分け合わなければならず、どの判断が正しいのか、誰にも分からない状況だ。

『Daybreak』が問いかけているのは、正解のない状況にどう向き合うのかということだ。プレイ中に感じる戸惑いや衝突は、現実の気候問題がいかに複雑かを体感させてくれるだろう。

Bury Me, My Love|難民の選択を、テキストメッセージ越しに追体験する

『Bury Me, My Love』は、紛争中のシリアを脱出しヨーロッパを目指す妻・ノアと、シリアに残った夫・マジドのやり取りをメッセージアプリ形式で体験するゲームだ。フランスのジャーナリストが新聞に寄稿したシリア人女性の実話をもとに制作されており、フィクションでありながらリアルな体験ができる。

プレイヤーはマジドとして、ノアとメッセージのみでつながり続ける。どのルートを通るか、誰を信頼するかなど、ノアが直面する判断のたびにアドバイスを送る。

ただし、アドバイスを送れるからといって、結果をコントロールできるわけではない。ノアは必ずしもこちらの提案に従わず、バッテリー切れで連絡が途絶えることもある。どの選択肢を選んでも「正しいのかわからない」という感覚が、ゲームを通じて積み重なっていくのだ。

『Bury Me, My Love』から得られるのは、想像力だ。自分が同じ立場で判断を迫られたらどうするかを、プレイヤー自身に突きつけてくる。

ゲームは19通りの結末で終わるが、実際の難民問題はそう簡単には終わらない。ゲームの舞台となったシリアでは、近年停戦や情勢の変化が見られるものの、長期化した紛争の影響は今も続いている。2026年2月時点でも、なお370万人以上が難民として登録されている(*2)。

『Bury Me, My Love』では、判断の重さと向き合う体験ができる。このゲームは、難民問題が遠い国の話ではないことを教えてくれる。

BAAS|ARと対話を通して、地域の貧困を自分ごとにする

『BAAS』は、子どもたちが自分の街を歩きながら、貧困やお金にまつわる問いと向き合えるAR(拡張現実)ゲームだ。学術的な研究と社会的な実践を結びつけることを目指す、オランダのクリエイティブ・エージェンシー「8D Research + Design」が開発した。

ゲームはスマートフォンのAR機能を使い、実際の街を舞台に展開される。画面上に登場する犬のキャラクターが案内役となり、貧困やお金に関する質問を投げかけたりミニゲームを提示したりして、プレイヤーをゲームの世界へ引き込む。遊びの感覚がありながら課題に触れられるため、子どもたちが自分の意見を口にしやすいのだ。

答えがないという姿勢を徹底しているのも、『BAAS』の特徴だ。貧困とは何か、どう解決すべきかといったことはゲームの中に用意されていない。プレイヤーが街を歩きながら考えたことは、匿名の状態でデータとして蓄積され、各地域の貧困認識を探る研究にも活用される。遊びながら社会への問いを考え、その思考が研究へとつながっていく仕組みだ。

貧困問題はデータや解説として受け取ると、どこか遠い話のままになりやすい。しかし、住んでいる街で社会問題に自然と「出会う」体験をすることで、当事者意識を持つきっかけになる。

なぜゲームは社会課題との距離を縮めるのか

ゲームが社会課題と相性が良い理由の一つは、プレイヤーが当事者として問題の中に立たされる点にある。ニュースや教科書で学んだだけでは情報や知識として受け取るだけだが、ゲームの中では自分で選択し、結果を自分で引き受ける仕組みになっている。

環境問題をテーマにしたシリアスゲームでは、ゲーム内で行った廃棄物の分別や省エネにつながる行動が、現実での環境意識を高めることも研究で示されている(*3)。

また、ゲームの中では失敗してもやり直せる。現実では取り返しのつかない判断も、シミュレーションの場なら何度でも試すことができる。その繰り返しの中で、答えを求めるのではなく考え続けること自体に慣れていく。

社会課題には正解はほとんどなく、長くじっくりと向き合い続ける必要がある。ゲームは、社会課題を「調べる」から「気づいたら考えてしまう」へ変える力を持っているのではないだろうか。

Edited by k.fukuda

注解・参考サイト

注解
(*1)Award winners 2024|Spiel des Jahres
(*2)Situation Syria Regional Refugee Response|Operational Data Portal
(*3)The impact of environmental serious game on pro-environmental behavior through environmental psychological ownership and environmental self-efficacy | Springer Nature

参考サイト
社会の課題を解決するシリアスゲームの開発|多摩大学
シリアスゲームの研究動向|南山大学
eミッション|Hobby Japan
‘Daybreak’ board game tasks players to collaborate to stave off climate change|wbur
3分でわかるシリア ~シリアって、どんな国?|World Vision
Bury me, my Love – Google Play
Love without borders — Bury me, my Love review|GAMINGTREND
BAAS! AR game for primary school children – poverty.|8D Research + Design
Playing Without Fear of Mistakes: The Educational Power of Serious Games|TecScience

About the Writer
中村衣里_中村エレナ

エリ

大学時代は英米学科に在籍し、アメリカに留学後は都市開発と貧困の関連性について研究。現在はフリーライターとして、旅行・留学・英語・SDGsを中心に執筆している。社会の中にある偏見や分断をなくし、誰もが公平に生きられる世界の実現を目指し、文章を通じて変化や行動のきっかけを届けることに取り組んでいる。関心のあるテーマは、多様性・貧困・ジェンダー・メンタルヘルス・心理学など。趣味は旅行、noteを書くこと、映画を観ること。この人が書いた記事の一覧

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