アファーマティブ・アクションとは?
アファーマティブ・アクション(affirmative action)とは、性別や人種などによって特定のグループが受けてきた不平等や差別を改善するために行われる取り組みを指す。アファーマティブには「積極的な」「肯定的な」という意味があり、日本では「積極的格差是正措置」や「積極的差別是正措置」と言われる。
具体的には、民族や人種、性別、障害の有無などによって受けてきた差別的な扱いを撤廃したり、平等な機会を提供するために制度や仕組みを改善する解決策や取り組みのこと。多様性が進む時代において、社会における差別的な構造や仕組みを解決するのに有効とされている。
アファーマティブ・アクションが行われる場面
特定のグループが主に不利益を受けているのは、大学入試や就職、昇進、政治参加などの場面だ。例えば、同じ職場で同じ仕事をしていながら、女性の賃金の方が安いということがある。また、医学系大学入試で、女性の受験者に対する不利な得点操作が行われていたという事件も発覚している。
こうした背景から、大学入試や就職、昇進、政治参加といった場面で、アファーマティブ・アクションが行われることが多くなっている。
アファーマティブ・アクションと類似の言葉
アファーマティブ・アクションと類似の意味で使われる言葉として、「ポジティブアクション」や「ポジティブディスクリミネーション」などがある。アファーマティブ・アクションとの違いは、それぞれ以下のようになっている。
ポジティブアクション
厚生労働省では「社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して一点の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置のこと」としている。日本では、主に女性の社会参加、男女共同参画社会の実現に向けた場合などに使われている。
ポジティブディスクリミネーション
平等を維持したり、不平等を是正するために特定のグループに対して優遇的な措置を講じること。イギリスでは措置が非合法の場合にこの単語が用いられる。
アファーマティブ・アクティブが生まれた背景
差別や格差を是正するために行われるアファーマティブ・アクションは、多様性の時代を迎えている現代に必要な取り組みとされる。
しかし、この言葉が最初に世界で注目されたのは、50年以上前の1961年のことだ。当時のアメリカでは人種差別問題を抱えており、公民権運動が活発化していた。そうした中でジョン・F・ケネディ大統領が発令した大統領令10925の中に、「アファーマティブ・アクション」という言葉が使われた。
大統領令10925における「アファーマティブ・アクション」の具体的な内容は、連邦政府と契約している業者に対して、従業員や応募者を人種や国籍、肌の色などで差別せずに平等に扱うことを要請したもの。当時の副大統領であるリンドン・ジョンソンの依頼を受けた黒人の弁護士が創案したとされている。
ケネディ大統領の後を受けたリンドン・ジョンソン大統領の尽力もあり、1964年に人種差別を禁止する法律として「公民権法」が連邦議会で成立。人種や肌の色、性別、信条、宗教、国籍などに基づく差別が禁止された。ただし、ジョンソン大統領は公民権法だけでは不十分として、1965年に発令した大統領令11246において職業や教育において差別を禁止するほか、優遇措置の実施を政府や事業者に求めるなどアファーマティブ・アクション政策を推し進めた。
アファーマティブ・アクションの代表的な手法

不利益・不平等・差別・格差を是正するために行うアファーマティブ・アクションにはいくつかの手法がある。この項目では、代表的な次の5つの手法について解説する。
クオータ制
クオータ制とは、特定の集団に対して一定の枠を割り当てる手法で、割り当て制とも言われる。例えば、大学の入試において、地方との格差を是正するために地域推薦枠などが設けられるケースや女性枠の設置などがクオータ制にあたる。
ゴール・アンド・タイムテーブル方式
ゴール・アンド・タイムテーブル方式とは、具体的なゴール(目標)と明確な期限(タイムテーブル)を定める手法のこと。例えば、女性の管理職の割合を現在の20%から5年後までに40%までに引き上げる、といった目標数値とスケジュールを設定する。目標を設定することで、格差・差別是正を計画的に進めていくことができる。
加点・減点方式
加点・減点方式とは、主に試験などで用いられる手法。例えば、特定のグループに属する受験者には20点を加点(減点)するといった措置を講じる。
プラスファクター方式
プラスファクター方式とは、能力が同等だった場合に特定のグループに属する人材を優先的に取り扱う手法。例えば、女性の管理職を増やしたいという目標がある場合、候補の男女二人が同じ能力であれば、女性の方を管理職に昇格させるというような措置を言う。
基盤整備を推進する方式
不利益・不平等を受けている特定のグループに属する人々の能力を引き上げ、活躍できるように基盤整備を進める手法。例えば、女性を対象にしたキャリア支援、研修プログラム、起業支援の実施などが挙げられる。女性の採用を拡大するために、産休制度を独自に拡張する、社内に託児所(保育園)を設けるといったこともこれにあたる。
日本の取り組み
日本で行われている代表的なアファーマティブ・アクションについて、次の4つについて解説していく。
男女共同参画基本計画
男女共同参画基本計画とは、男女共同参画社会の形成を促進するための基本計画のこと。「男女共同参画社会基本法」に基づいて、2000年に最初の基本計画が策定されている。2020年までに、指導的地位を占める女性の割合が30%になるよう政策目標を立て、効果的な施策の一つとしてポジティブ・アクションを推進している。
なお、男女共同参画基本計画は5年ごとに見直しを図っており、2023年12月26日に第5次男女共同参画基本計画が閣議決定されている。企業における女性登用の加速化やテレワーク導入企業の促進を進めるほか、2025年までに大学の理学系研究者の採用に占める女性の割合を20%、2025年度末までに検察官(検事)に占める女性の割合を30%に引き上げるなどの成果目標を定めている。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、性別を理由とする差別の禁止を定めた法律で、1985年に制定されている。募集や採用に加え、配置や昇進に関して男女を均等に取り扱うことが義務付けられている。
特に注目したいのが、女性労働者に係る措置に関する特例(第8条)だ。ここでは職場で生じている男女の格差を解消するために、女性を優遇する取り扱いは違法ではないと定めている。
職場における性別間の差別に関して時代を反映するよう、2007年には間接差別の禁止、2017年には妊娠・出産などを理由にした不利益を防止するための措置の義務化、2020年にはセクハラ防止対策の強化といったように改正が行われているのも特徴だ。
障害者雇用の義務化
障害者雇用促進法によって、日本では一定規模以上の民間企業の事業主は、障害者の雇用の割合を法定雇用率以上にする義務がある。2024年の4月以降、法定雇用率は従業員40人以上で2.5%、2026年7月以降は従業員37.5人以上で2.7%となる。
障害者雇用は障害者の職業の安定や自立を推進するために、1976年から義務化。2020年の法改正では「もにす認定制度」を設け、優良な取り組みを行う中小企業を認定した上で低利で融資する特典も設けている。
一方、障害の有無によって差別を受けることのないよう2013年には「障害者差別解消法」が制定された。障害者であることを理由に、不当に差別的な扱いをすることは禁止されている。
学生構成のバランス調整
各大学では独自の入試制度を設けているが、女子の入学者を増やすために「女子枠」を導入する大学が増えている。特に、従来は女子が少ない理工系学部などで積極的に導入する動きが出ており、2024年度入試では東京理科大学や大阪工業大学、神奈川大学など33大学が実施したと報道されている。
学生のジェンダーバランスの是正が目的の一つだが、本来女性の少ない分野において女性の意見が反映される仕組みが作られるのもメリットの一つだ。
大学によっては地方出身者や低所得者のために特別入学枠や奨学金制度を設けるなど、性別だけでなく、地域や家庭環境にとらわれない学生の確保に向けた取り組みも行われている。
世界各国の取り組み事例

世界各国でアファーマティブ・アクションが導入されているが、その代表例として以下の3つの国について紹介する。
ノルウェー
ノルウェーはジェンダー平等に関する先進国として知られ、1978年に「男女平等法」が成立するなど男女平等を推進する政策や制度が数多く実行されている。
アファーマティブ・アクションの手法の一つであるクオータ制の発祥の地でもあり、1988年に「男女平等法」が改正された際には、4人以上で構成される公的な理事会や委員会は男女ともに40%以上を占めることが定められた。これによって女性の社会進出が進んだとされる。
また、2005年の「地方自治法」の改正では、男女ともに40%以上の議席が割り当てられることを規定。主要政党もクオータ制に関する規約を明記しており、選挙時の比例代表制では候補者名簿を男女交互に登録するといった手法も取られている。
企業における男女平等も進んでおり、国営企業は2005年までに、民間企業は2007年末までに取締役の女性比率40%を達成することが2003年に義務付けられた。
アメリカ
アファーマティブ・アクションが世界的に注目されたのはジョン・F・ケネディ大統領が発令した大統領令10925と前述したが、1860年代の南部再建期からアファーマティブ・アクションの源流があったとされている。
また1935年に成立した「連邦労働関係法(ワグナー法)」にも、アファーマティブ・アクションという言葉が使用されている。経営者が労働者の権利を侵害することのないように定めた法律で、不当な差別が行われた場合には、労働者を保護する目的で訴追できるようにしている。
このようにアメリカではアファーマティブ・アクションの考え方が根付いており、大学や大学院の入試では1970年代からアファーマティブ・アクションが行われている。州レベルでも、カリフォルニア州などでは州内に事業所がある企業に対して女性取締役の選任などを義務化している。
フランス
フランスにおけるアファーマティブ・アクションの取り組みは、2000年に制定された「男女同数制(パリテ法)」に代表される。選挙の候補者において男女の比率が同数になることを目指すもので、クオータ制よりもより女性の参画を推進していると捉えられる。なお、選挙において各政党で男女同数の候補者を擁立することが義務付けられ、候補者の男女差が2%を超えると罰則が規定されている。
また2017年からは、民間企業の取締役会や監査役会における男女それぞれの比率を40%以上にすることを義務化。2021年には、従業員1,000人以上の企業は、幹部社員の女性割合を40%以上とするための法案も成立している。
アファーマティブ・アクションの問題点
不利益や差別・格差の解消に有効的なアファーマティブ・アクションだが、一方で問題点も指摘されている。代表的な次の3つについて解説する。
逆差別が生まれてしまう
アファーマティブ・アクションの取り組みにより特定のグループを優遇することは、そのほかに対する差別と認識されることがある。
アメリカでは逆差別に対する問題意識が高まり、大学相手に訴訟を起こした例も多い。黒人へのアファーマティブ・アクションのために、白人が不当に排除されていたとして連邦最高裁判所が憲法違反とした判例もある。
個人の能力が軽視される
アファーマティブ・アクションでは、割り当て枠を埋めるために特定のグループに属していることが判断基準になることがある。
例えば、全受験者の合格ラインが70点となっているにも関わらず、特別枠を埋めるために70点以下の人が合格となることもある。このような場合、個人の能力や適性が正しく判断されていないと指摘を受ける可能性がある。
意見の対立や分断を生んでしまう
アファーマティブ・アクションは少数派に対する不利益を解消するために行われるが、多様性を高める、あるいは多様性を保つためにも有効とされる。
しかし、アファーマティブ・アクションは特定グループに対する過度な優遇と見られる傾向があり、意見の対立や分断が生まれる危険もある。
まとめ
アファーマティブ・アクションは、社会的・構造的な差別により不利益を受けている特定のグループに対して一定の機会を提供する取り組みのこと。格差や差別を解消するための積極的な取り組みとして、国の政策のほか、企業や大学などでも導入されている。
その一方、アファーマティブ・アクションの取り組みが差別を強めてしまったり、多数派に対する逆差別となってしまうという指摘もある。また、意見の対立や組織の分断につながる危険も含んでいる。
差別を取り除くための重要なステップであるアファーマティブ・アクションについて、問題点も含めて思考していくことで、より多様性を容認できる社会に変わっていくことを願う。
参考記事
共同参画(2022年6月)|内閣府男女共同参画局
第3章ノルウェー|内閣府男女共同参画局
アファーマティブ・アクション史ノート|安井研究ノート
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