
酷暑と、突然発生するゲリラ雷雨。真夏の“当たり前の風景“になりつつあるこれらの現象だが、その背景には地球温暖化などによる気候変動の影響があると考えられている。気候変動が、私たちの日常を静かに脅かし始めているのだ。危機は、もはや遠い未来の話ではない。私たちの生活にすぐそばまで迫っている“変化“を、身近になったゲリラ雷雨の発生回数から考えてみたい。
空の異変が伝える“新しい日常”

少し前までは晴れていたのに、突然空が暗くなり、大粒の雨が勢いよく地面に叩きつける。ずぶ濡れのまま商店街のアーケードに駆け込む人や、駅から空を見上げて動き出せない人もいる。
近年、夏になると、こうした風景が当たり前のようになっている。大きなひょうが降ってきたり、冠水した道路で動けなくなっている車のニュース映像などを見て、恐怖を覚えたこともあるだろう。今やゲリラ雷雨は、日本の夏の“新しい日常”だ。
“新しい日常”とあえて呼ぶのには理由がある。ウェザーニュースが2025年10月に発表したデータ(*1)によると、2025年夏(6月〜8月)の日本全国でのゲリラ雷雨の発生回数は合計88,100回。前年の78,945回と比べて約1.1倍に増加した。都道府県別では、北海道の10,510回(前年5,674回)が最も多く、続いて沖縄県の7,339回(前年6,965回)となっている。
東京都は770回で、前年の1,049回から約26%減少した。東京近郊でも被害が大きかった印象もあるが、人口の多さに伴う情報発信量や報道での取り上げ回数の多さが、被害をより大きく感じさせた可能性もあるだろう。ただし、6月〜8月の92日間で770回ということは、1日に約8.4回のゲリラ雷雨が東京都内で発生している計算になる。これは十分すぎるほど、私たちの生活に影響を及ぼしていると言える。
ちなみに「ゲリラ雷雨」あるいは「ゲリラ豪雨」は正式な気象用語ではなく、「局地的」「短時間」「雷を伴う」といった特徴を持つ雨の通称である。気象庁では、1時間内に30mm以上または50mm以上の雨を「短時間強雨」と呼び、統計上はこちらの指標で増加傾向を確認している。
データが示す、気候変動の確かな進行

なぜ、日本ではこれほど頻繫にゲリラ雷雨が発生するようになったのだろうか。
大きな要因は、気温の上昇にある。気温が上がると大気中の水蒸気量が増え、強い積乱雲が発達しやすくなる。これによって、局地的に大量の雨が降るようになる。温度変化による飽和水蒸気圧の変化を示すクラウジウス・クラペイロンの関係式では、大気が1℃上昇するごとに保持できる水蒸気量は約7%増えるとされている。
つまり、気温が上昇し水蒸気が増えることで、雲が成長しやすい状況になる。それに伴って上昇気流が強まり、短期間で積乱雲が発達して大量の雨を降らせるのだ。
気象庁のデータでも、日本では短時間強雨の発生頻度が増加していることがわかる。以下の表は、気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」から、全国1,300地点で観測された短時間強雨の年間平均回数を抜粋してまとめたものだ。

データを見て分かる通り、短時間に多く降る局地的な大雨はいずれも増えている。また、50mm以上よりも100mm以上の雨の方が増加率が大きい傾向も確認できる。
さらに、東京都における1985年と2025年の夏(6月〜9月)の気温を比較すると、平均気温は約2.9℃、最高気温は約3.4℃上昇している。特に6月の最高気温は約4.7℃上昇しており、顕著な変化が見られる。

日本の夏の平均気温は上昇傾向にあり、それに伴ってゲリラ雷雨の発生回数が増加していることは、容易に推測できる。
進行する地球温暖化のシナリオ
地球温暖化が進んでいることは、データを見る限り明らかだ。気象庁ではさらに温暖化が進行した場合にどのような影響が生じるのかを予測し、まとめている。
以下は、「IPCC第5次評価報告書」でも用いられた「2°C上昇シナリオ(RCP2.6)」および「4°C上昇シナリオ(RCP8.5)」に基づく予測データをもとに、短時間強雨の年間発生回数や年平均気温などをまとめたものである。

また、環境省のパンフレット(*5)では、「平成30年7月豪雨」が再び発生した場合、気温が2℃および4℃上昇した世界でどのような状況になるかをモデル的に再現した結果を報告している。
それによると、「2°C上昇シナリオ」では降水量が平均9%(最小-1%〜最大23%)増加、「4°C上昇シナリオ」では平均25%(最小1%〜最大50%)増加するとされる。特に、九州南部や四国では降水量の増加が顕著になる見込みだ。
さらに、中国・四国・九州地域の41水系においてピーク時の河川流量は、「2°C上昇シナリオ」では平均17%(最小3%〜最大40%)、「4°C上昇シナリオ」では平均46%(最小11%〜最大89%)増加すると予測されている。
このように、地球温暖化が進んだ世界では、豪雨災害の被害が甚大化すると考えられている。しかし、これは遠い未来の話ではない。
「4°C上昇シナリオ」では、2030年代後半〜2040年代前半に現在より約2℃上昇する試算もある。私たちはすでに、その未来へ向かう途中にいることを意識しておきたい。
“避けられない雨”と、どう生きていくか

これまで見てきた通り、地球温暖化は確実に進んでおり、それに伴ってゲリラ雷雨の発生も増加している。こうした“新しい日常”の中で、私たちはどう生き、どう過ごしていけばいいのかを考えたい。
防げないゲリラ雷雨という現実
ゲリラ雷雨は自然現象であり、一人の力で防ぐことはできないのが現実だ。しかし、どのような気象条件で発生しやすいかを知り、備えることはできる。
例えば、強い日差しが降り注ぐと地表が温められ、上昇気流が発生する。それに伴い、ゲリラ雷雨を引き起こす積乱雲が発達しやすくなる。
また、大気中の湿度が高いと、上昇した空気が冷やされて凝結し、雲が発達しやすくなる。暑さに加えて湿度が高い日には、積乱雲が発生しやすく、ゲリラ雷雨につながりやすいことを覚えておきたい。
こうした気象条件が揃っているときには、「雷雨が起こるかもしれない」という意識を持って行動することが大切だ。
備えながら、日常を生きるために
“新しい日常”に備えるためには、ゲリラ雷雨が発生した際にどう行動すればよいかを知っておくことが重要だ。
具体的には、以下のような行動が挙げられる。
・公共施設などの頑丈な建物に避難する
・地下街や地下水路には行かない
・川や水辺、崖などから離れる
・マンホールには近づかない
・電柱や木の幹から離れる
・持ち物を頭より上に掲げない
・家の中では水回りや窓、家具のそばを避ける
・電化製品のコンセントを抜く
・より高い場所に避難する
ゲリラ雷雨による被害を防ぐには、日頃から知識を蓄えることも欠かせない。例えば、川の近くは氾濫リスクが高いため、居住地として避けた方がよい。また、被害を受けにくい高層階に住むことを検討したり、竜巻の発生頻度が高いエリアを把握しておいたりすることも、リスクを減らす手立てとなる。
まとめ:空とともに生きるために
ゲリラ雷雨は自然現象ではある一方、私たちの生活とも無関係ではない。日々の何気ない行動が地球温暖化を加速させ、その結果としてゲリラ雷雨のリスクを高めている可能性がある。
今後、地球温暖化がさらに進めば、被害は一層拡大する可能性が高い。温暖化をこれ以上進めないよう努めることはもちろん重要だが、同時に、私たちはすでに“ゲリラ雷雨に慣れる時代”に入りつつあるとも言える。つまり、ゲリラ雷雨が頻発する“新しい日常”に、私たち自身が適応していく必要があるのだ。
雪国で暮らす人々にとって、降雪や積雪は冬の日常の一部である。同じように、夏になるとゲリラ雷雨が繰り返されることも、今の私たちにとっての“新しい日常”なのかもしれない。
その中でどう行動するか、自分なりの心構えを持ち、空とともに生きる姿勢を育んでいきたい。
Edited by c.lin
注解
*1 Weathernews「ゲリラ雷雨まとめ2025」による。
*2 大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化
*3 各種データ・資料(観測地点:東京)
*4 日本の気候変動2025
*5 環境省「深刻化する豪雨〜我々はどのようなリスクに直面しているのか〜」を参照。






















倉岡 広之明
雑誌記者として活動した後、フリーライターとして独立。さまざまなジャンルの記事を執筆しているが、北海道で生まれ育ったこともあり、自然環境や気候変動、SDGs、エネルギー問題への関心が深い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史など、多岐にわたるテーマを手がけている。
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