
現代の日本社会では、定年退職や単身世帯の増加により、社会的なつながりを失う男性が急増している。しかし、伝統的な「男らしさ」やプライドが壁となり、自らの弱さを吐露できず既存の相談型支援にも馴染みにくい。本記事では男性の孤立の背景を整理し、注目される「Men’s Sheds」という新たな居場所の設計思想について考える。
なぜ「男性の孤独」は見えにくいのか

孤独はしばしば主観的な「寂しさ」と捉えられるが、科学的には心臓病や認知症、うつ病のリスクを高める身体的な脅威であることが明らかになっている。中央大学教授によると、1983年からの40年間にわたる調査では、日本の男性は女性よりも一貫して孤独感が強く、自殺率も高い(*1)。
また、国立社会保障・人口問題研究所の報告によれば、一人暮らしの高齢男性の約15%、およそ7人に1人が「会話の頻度が2週間に1回以下」という状況にある(*2)。それにもかかわらず、男性の孤独が社会的に可視化されにくいのは、彼らが「弱さを言語化しにくい」社会的役割を長年背負わされてきたからだと指摘されている。
こうした「孤独の語りにくさ」は、個人の性質というよりも、社会の側が長年つくってきた規範と深く結びついている。「男の子らしく」「弱音を吐くな」といった価値観のもとで育つと、しんどさや不安を言葉にすることが「恥」として内面化されやすい。結果として、助けを求める行為そのものが難しくなる場合がある。
特に日本の経済成長を支えてきたシニア世代において、社会接点は「仕事」と「家族」という極めて狭い範囲に限定されてきた。性別分業のもとで、人生の大半を職場で過ごしてきた男性にとって、退職は唯一の社会的な居場所を失うことを意味する。
女性が地域や学校を通じた交流を維持するのに対し、お膳立てのない場所で一から友人を作ることが苦手な男性は少なくない。実際に、配偶者に先立たれたり離婚を経験したりすると、社会的なつながりが途切れ、些細な会話の機会さえ貴重になるほど孤立が深まる場合がある(*3)。
さらに、孤独を深める要因となっているのが、男性特有の「プライド」と「恥」の感覚だ。現役時代に役職に就き、他者から敬語を使われることに慣れてしまった男性ほど、肩書きのない一人の人間として他者に歩み寄ることを拒んでしまう。医師の前でさえ「大丈夫だ」と強がってしまい、必要な支援を受けられないことさえある。
男性にとって既存の「悩みを共感し合う」といった相談型の支援は、逆に心理的なハードルを高くしてしまう場合も多い。内面をさらけ出すことを前提とした場所は、彼らにとって自尊心を脅かされる場になりかねないからだ。
Men’s Shedsとは何か

「既存の支援が馴染まない男性たち」に、別の選択肢を提示しているのが「Men’s Sheds(メンズシェッド)」だ。地域内の男性が集まり、自分のペースで作業ができる共同のワークスペースを提供することを核としている。1990年代半ばにオーストラリアで始まり、今やイギリスやヨーロッパ、アジアへと急速に広がっている。
日本でも2022年に「日本コミュニティー・シェッド協会(JCSA)」が設立され、東北大学や北海道大学の研究者らが中心となって普及を後押ししている。札幌市の「ポッケコタン」や熊本県水上村の「寄郎屋(よろうや)」といった先行事例では、木工やDIYを通じて地域の男性たちが緩やかにつながり始めている。政府が進める孤独・孤立対策の重点計画においても、こうした「居場所づくり」やNPO等の活動支援が重要視されており(*4)、日本の文化や地域性に合わせた「日本型シェッド」の模索が続いている。
「シェッド(小屋)」の中では、家具の修理や自転車のメンテナンス、木工、さらには地域の学校のための巣箱作りなどが行われる。活動内容は地域ごとに異なり、料理やコンピューター操作を教え合うこともある。
最大の特徴は、男性が抱える孤立感を「治す」「支援する」といった福祉的な目的をあえて前面に出さないことだ。参加者は「支援を受ける対象」ではなく、あくまで対等な「仲間(メイト)」として扱われる。
Men’s Shedsは、成果や生産性を第一に求められる場所ではない。何かを作ってもいいし、ただ他の人の作業を眺めながらお茶を飲んでいるだけでもいい。自分の時間をどう使うかは完全に個人の自由に委ねられている。「参加・不参加が自由」で「義務がない」という緩やかな設計が、自律性を重んじ、強制するのではなく、男性たちの心の壁を溶かしていくという。
元々は退職後の男性を想定して始まったが、現在では若い男性や障害のある男性も参加しており、多世代が共に働く場としても機能している。熟練者が初心者に技術を伝え、人生の経験を共有する姿も日常的に見られる。そこには、管理されることへの窮屈さがない。
「話さなくていい」ことが、なぜ効くのか

一般的に女性が得意とするのは、向き合って目を合わせ、感情を共有する「対面(Face to Face)」の交流だ。しかし、多くの男性にとって、目を合わせて自分の内面を語ることは、まるで尋問を受けているような圧迫感を感じさせることがある。
これに対し、Men’s Shedsが採用しているのは「横に並ぶ(Shoulder to Shoulder)」形だ。木工や修理といった「共通の作業」があれば、視線は手元の道具や素材に向く。同じ方向を向いて手を動かす中で、会話はあくまで作業の合間に生まれる「副産物」に過ぎない。
「このネジはどう外すのか」といった事務的なやり取りから始まり、そこから次第に家族のことや体調のことなど、少しずつ本音がこぼれ始める。会話を目的化しないことが、かえって話しやすい環境を作り出しているのだ。
ここで、男性を苦しめる「プライド」の転換も起きる。プライドには、他者との比較や肩書きに基づく「見栄」と、自らの技術や貢献から生まれる「誇り」の2種類がある。会社というタテ社会での役職にしがみつくプライドは孤独を深めるが、Men’s Shedsで自分の技能を誰かのために使い、感謝される経験は、健全な「誇り」を再構築させる。道具を使って地域社会に貢献することは、定年後に失われた「役割」を取り戻すことに他ならない。
「話さなくていい」居場所は、かえって「最も話しにくいこと」を語れる場になり得る。共に汗を流し、黙々と作業を共にする仲間との信頼関係があれば、正面から問われたら拒絶してしまうような深い悩みも、ふとした瞬間に共有できるようになるからだ。
孤独は、個人の精神力の問題ではなく、社会構造が生み出した課題といえる。孤独を美化したり、我慢で解決させようとしたりするこれまでの価値観は、もはや限界を迎えている。Men’s Shedsのような「横の関係」を重視した居場所の設計は、不器用で強がりな男性たちが、自分を偽らずに社会と再びつながるための解決策となるだろう。弱さを隠すための鎧を脱ぐ必要はなく、ただ同じ目的を持って隣に座る。そのような場を地域の中に増やしていくことが、これからの日本社会における孤独・孤立対策において重要なのかもしれない。
Edited by k.fukuda
注解・参考サイト
注解
※1 なぜ男性の方が孤独感 性差の言説「一人歩きの危うさ」|日本経済新聞
※2 生活と支え合いに関する調査|厚生労働省 国立社会保障・人口問題研究所
※3 人と話すのは「1年ぶりです」高齢男性のひとり暮らし なぜ孤立化?男性特有の“プライド”背景に|Yahoo!ニュース
※4 孤独・孤立対策に関する施策の推進 を図るための重点計画|内閣府
参考サイト
Australian Men’s Shed Association
「ジェンダー不平等は自分には関係ない」と思っている中高年男性ほど直面する”孤立”の深刻さ 定年を迎え、子が巣立ち、配偶者までいなくなると…|PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
中高年男性が軒並みハマる「孤独」という宗教 日本は世界一の「不機嫌大国」だ|東洋経済オンライン
退職者が輝くものづくりコミュニティー「Men’s Sheds」が世界に広がる|Social Design News
本記事は、特集「サードプレイス——多様な居場所が支える共生社会」に収録されている。この特集では、「居場所をつくる」とは何かを問い直す。多様な居場所に目を向けることは、社会のほころびに対する具体的な応答でもある。ほかの記事もあわせて、より多角的な視点を見つけよう。
特集|サードプレイス——多様な居場所が支える共生社会
ただ居ていい場所があることは、社会の包摂力を支える。子ども、若者、孤独を抱える人、多様な背景をもつ人々が交わる居場所は、一つではなく無数にある。サードプレイスという視点から、共生社会の足元を見つめ直す。






























丸山 瑞季
大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。( この人が書いた記事の一覧 )