デジタルウェルビーイングとは
デジタルウェルビーイングとは、健康やワークライフバランスを考えてデジタルデバイスを活用することを指す。スマホやパソコンなどのデジタル機器は、情報収集やコミュニケーションなどにおいて欠かせないツールだ。しかし、過度な使用が健康や生活の質に悪影響を及ぼすことが問題視されている。
例えば、スマホの使いすぎによって視力が低下したり、寝不足になったりすることがある。仕事においては、メールやチャットの通知に追われることで、集中力が途切れやすくなり、生産性が低下することも懸念される。このような状況に対処するためには、デジタルデバイスとの付き合い方を見直すことが必要だ。
GoogleやAppleも、デジタルウェルビーイングを推進する取り組みを始めている。私たちの生活を豊かにするためには、テクノロジーと適切に向き合い、バランスを取ることが重要だ。
デジタルデトックスとの違い
デジタルウェルビーイングは、デジタルデバイスの使用が日常生活に与える影響を管理しつつ、心身の健康を保つことを目的とする。一方、デジタルデトックスは、一時的にデジタルデバイスから離れて過ごすことで、精神的なリフレッシュを図ることが目的である。
デジタルウェルビーイングは、使用習慣の見直しや調整を促す持続的な取り組みであるのに対し、デジタルデトックスは短期間デバイスを使用しないという点で、その目的が異なる。ただし、デジタルウェルビーイングを実践する方法の一つとして、デジタルデトックスが有効である。
注目される背景

スマホやタブレットの普及に加え、新型コロナウイルスの感染拡大によりソーシャルディスタンスが求められた結果、リモートワークが広がり、デジタルデバイスの使用頻度が急増した。
こうしたデジタルな生活は感染リスクを軽減する反面、過度な使用によってメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことが懸念されている。また、大量の情報が氾濫し、不正確な情報が拡散する「インフォデミック」の問題も浮上している。
このような状況下で「デジタルウェルビーイング」という概念が重要視されるようになった。2018年5月、Googleのイベントで初めて紹介され、その後、IT業界全体で重要なテーマとして認識されるに至った。デジタルデバイスの利用時間の管理などを通じて、ユーザーの健全なデジタルライフをサポートする取り組みとして広がっている。
デジタルデバイス使用の現状
総務省の「令和4年版情報通信白書」によれば、日本の家庭の97.3%がモバイル端末を所有しており、その内訳としてスマホは88.6%、パソコンは69.8%に達している。インターネットの個人利用率も82.9%と高く、特にスマホからの利用が68.5%で、パソコンの48.1%を大きく上回っている。
近年のトレンドとして、平日のインターネット利用時間がテレビ視聴時間を上回っており、特に10代から40代の若年層で顕著であることが分かっている。また、インターネットはニュースや趣味・娯楽に関する情報収集の主要な手段として位置づけられ、これも10代から40代でその利用率が非常に高い。
一方で、50代以上の年代ではテレビが信頼性の高い情報源として依然として重要な役割を果たしている。これらのデータは、デジタルデバイスがいかに私たち、特に若年層の日常生活に深く浸透しているかを物語っており、その影響についても注意深く見守る必要があることを示唆している。
過度なデジタルデバイスの使用が及ぼす影響
デジタルデバイスは日常生活になくてはならないものだが、過度な使用が私たちに与える悪影響にも目を向けなくてはならない。スマホやパソコンを使いすぎることが、私たちにどのような影響を与えているのか、詳しく見ていく。
身体的な影響
デジタルデバイスを長時間使用することで、身体活動が減少する。体力や筋力の低下に加え、肩こりや腰痛、ストレートネックといった症状も頻繁に見られる。特に夜間にスマホを使用すると、ブルーライトの影響で睡眠不足や睡眠の質の低下を招く可能性が高い。
オーストラリアのクイーンズランド大学の研究では、スマホやパソコン画面を注視することでまばたきの回数が減り、視力の低下や眼精疲労が生じることが指摘されている。
心理的な影響
ゲームやSNSに没頭すると、依存症のリスクが増す。依存症になると使用をコントロールできず、他の活動への関心が失われ、日常生活に支障を来すことがある。スイスの調査では、インターネット中毒が睡眠の質を低下させ、仕事のパフォーマンスを低下させるとの結果が示されている。
また、他者との関わりが常にあることでプレッシャーや不安が生じ、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼす。いつでも誰とでもつながれる便利さゆえに、誰かとつながっていないと不安に思う人や最新情報から取り残される恐怖を感じるFOMOに陥る人も少なくない。
社会的な影響
SNS内での誹謗中傷やネットいじめが問題となり、匿名性と相手が見えないことから他者を傷つける行為が増加している。被害者は深刻な精神的ダメージを受け、最悪の場合自殺に至るケースもある。オンラインゲームに没頭しすぎることで、暴力的な言動を抑えられなくなるトラブルも発生している。
また、SNSを通じた闇バイトやオーバードーズ(OD)といった危険な情報が容易に手に入るため、若者が危険な状況に陥るリスクが高まっている。スマホやSNSから離れられなくなり、画面の向こうに潜む危険や犯罪に関わる機会が増えてしまっているのだ。
デジタル依存が引き起こす諸問題

デジタル依存が引き起こす諸問題は多岐にわたる。まず、ネット依存やゲーム依存が挙げられる。特に中高生のネット依存率は7.9%、若者のゲーム依存率は5.1%に達しており、10代のリスクが高い。依存症予備軍を含めると、その数はさらに増加する可能性がある。
ネットいじめやSNSでの誹謗中傷の問題も深刻だ。2022年度のネットいじめの相談件数は23,920件に上り、年々増加している。しかし、効果的な防止策や支援体制の整備は十分ではなく、問題の根本的な解決の兆しは未だ見えない。
さらに、ゲームの高額課金問題や、オンラインゲーム中の暴言も問題視されている。2021年には20歳未満のゲーム課金相談件数が4,443件に上り、暴言や嫌がらせ行為も目立っている。これらの問題に対処するためには、親子でデジタルデバイスの使用時間を適切に管理し、社会全体で啓発活動を強化することが重要だ。
デジタルウェルビーイングを実践するためには
デジタルデバイスとの付き合い方を見直し、健康や生活の質を損なわないためにできることがある。以下に紹介する方法を実践することで、デジタルウェルビーイングを日常に取り入れられる。
スマホツールの設定を見直す
この機会にスマホの設定を見直し、メールやメッセンジャー、アプリなどの通知を減らすことをおすすめする。通知が頻繁に来ると集中力が途切れやすくなり、再び集中するまでに時間がかかるため、必要最低限の通知だけに絞り込むのが良い。
また、ペアレンタルコントロール機能を活用することも有効である。この機能を使えば、子どもが安全にデジタルデバイスを利用できるよう、使用時間やアクセス可能なコンテンツを制限できる。利用できる設定は利用し、スマホに振り回されないような仕組みを作り出すことが必要だ。
専用のアプリを利用する
Androidの「Digital Wellbeing」はその名の通り、デジタルウェルビーイング専用のアプリだ。アプリの使用時間やロック解除の回数、通知の受信数を管理でき、特定のアプリの使用時間を制限する機能も備わっている。また、就寝時間に合わせて画面をグレースケール表示にする「Wind Down」モードや、通知を一時的に停止する「Do Not Disturb」モードなども有効だ。
iPhoneでも「Screen Time」を活用し、自身のスマホの使用状況を可視化できる。どのアプリをどのくらい使用しているのかを把握することで、スマホの使用習慣を見つめ直すことにつながる。
デジタルデトックスを実践する
デジタルウェルビーイングを実践するためには、デジタルデトックスを取り入れることも有効だ。スマホやパソコンなどのデジタル機器から一時的に離れることで、ストレスや疲労を軽減できる。
「スマホが近くにあると触ってしまう」という人には、電波の届かない山中でのキャンプや、デジタルデトックス用のプランがある施設に宿泊するなど、リトリートを実践する方法もある。旅行や遠出が難しい場合は、タイマー付きの「タイムロッキングコンテナ」を利用する方法もおすすめだ。自分で設定した時間が経過しないと開けられないような、小さな箱で「禁欲ボックス」とも呼ばれる。
まとめ
AIやIoTの普及により、私たちの生活はより便利になる一方で、デジタル依存のリスクも増加する可能性がある。これに対処するため、個人レベルでの意識改革とともに、教育機関や企業が積極的にデジタルウェルビーイングを推進することが求められる。
バランスの取れたデジタルライフを実現するために、日常生活の中で適切な距離を保つ工夫が必要だ。離れてみることで初めて、「スマホやパソコンによるストレスがかかっていた」と感じることもある。心身の健康を損なわない程度の使用に留め、デジタルデバイスと上手に付き合っていきたいものである。
参考記事
Digital Well-beingとは|一般社団法人 日本デジタルウェルビーイング協会
Android スマホの Digital Wellbeing ってなに? その機能の概要や利用方法を解説|Android Magazine
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