#19 わたしたちはいつまでごみを捨て続けられるのか

世界の焼却炉の3分の2が日本にある

年末年始はごみ集積所の山がいちだんと大きくなる。昭和生まれのわたしにとっては子どもの頃から見慣れた風景のひとつだ。当時暮らしていたマンモス団地では、ごみ置き場の扉を開けるたびに腐敗した生ごみの強烈な臭いがした。高度経済成長とともに大量生産・大量消費型の暮らしにシフトしたことで「都市ごみ問題」が顕在化。今に続く自治体のごみ回収と大量焼却システムが急ピッチで整備され始めた時代だった。それまで燃せるごみ(※1)は庭先に埋める。不燃ごみは夢の島(東京湾)に代表される処分場に埋め立てられたり、河川や海に公然と投棄されたりもしていた。その名残でもあったのだろう。団地の脇を流れる境川は生活排水の流入と相まって悪臭を放っていたし、相模湾に注ぐ河口域の江ノ島は流れ着いたごみで溢れていた。

今、目の前に広がる相模湾がきれいなのは「都市ごみ」を適正処理する施設が全国に普及したおかげでもある。国土が狭く埋立て処分場に限りがあったこと、湿気が多く臭いが広がることから焼却でかさを減らして埋め立てることを廃棄物処理の方針としたことで、日本は国際的にも評価される都市の清潔さを実現したのだ。

現在、廃棄物の処理は焼却が約8割。焼却炉の数は世界最多。世界の焼却炉の約3分の2を有する「焼却大国」となった日本が抱えている新たな問題が温暖化を促進させるCO2の排出量だ。日本ではCO2排出量の約3%をごみの焼却が占めている。

ごみの削減がCO2の排出量を下げる

再生可能エネルギーの普及。CO2の吸収源となる緑化の推進。その先にあるカーボンニュートラルを実現するために誰もができるもっとも身近な取り組みが「ごみの削減」なのだ。

わたしが最初に取り組んだのはコンポストだった。土の中に埋めた食べかすが数日で消えてなくなる。その現象に興味を持った娘も、夏休みの自由研究では生ごみを食べて土をふかふかにしてくれる微生物について調査した。習慣化したことで生ごみを80%近く削減することができている。

また、海辺の町で多いごみのひとつが「燃せるごみ」の日に積み上げられる剪定枝や落ち葉だ。週末のたびに町内のあちこちで草刈りが行われる夏場はビニール袋を曇らせるほどの湿った夏草が集積所で山になっている。野焼きが禁じられた現代においてこれを削減できないかというのも、刈った草をマルチシート代わりに土の上に敷く不耕起栽培に取り組んだ理由のひとつだった。

そして「捨てるものを減らす」のに大きく貢献するのが「買うものを減らす」という暮らし方の変容だ。半年でサイズアップする子ども服はほとんどリユース品で済ませるようになった。一方でそうはいかないのが学用品だ。中でも悩ましいのが上履き。半年でサイズアップして買い換えるのだけれど、靴と違ってリユース市場がほとんどない使い捨てなのだ。日本中の小学生が上履きを使い捨てしているとすると燃せるごみとしては相当な量になっているはずだ。

娘の未来のために抑制しようとしている温暖化を娘の成長が促進させることにジレンマを感じていた。大量の上履きを再資源化することはできないのだろうか。娘の足には小さくなってしまった上履きを、捨てるに捨てられないまま数週間が過ぎた「燃せるごみの日」のこと――。

燃せるごみを追いかけて

わたしは一台のごみ収集車を追跡していた。助手席には捨てるに捨てられなかった娘の上履き。再資源化に一縷の望みを託しつつも、捨てるという選択肢しかないならばそれがどのように焼却され、どれほどの環境負荷になるのかを自分の目で確かめておきたかった。上履きを捨てることが文字通り火に油を注ぐ行為だとするならば、その立ち上る炎をこの目で見ておく責任があると思った。

収集車は集積所で燃せるごみを収集しながら、海沿いの134号線から大楠山方面へ向かった。集落が途絶えた辺りから曲がりくねった坂道を昇っていく。両側に雑木林が広がっている。大楠トンネルを抜けた先で右折し、もうひとつのトンネルを抜けると、山を造成した敷地に巨大なごみ処理施設が屹立していた。

出典:横須賀市ごみ処理施設「エコミル」

横須賀市と三浦市が両市で発生する燃せるごみ、不燃ごみ、粗大ごみを広域処理すべく、2020年の春に稼働させた処理施設だ。愛称は「エコミル」。”省エネルギー”の「エコ」と”工場”と”見る”の「ミル」を併せた造語だという。

積載した燃せるごみの量を計量し、施設に運び込んでいく収集車を見送り、駐車場に車を停める。別のゲートには年末の大掃除で出た粗大ごみを持ち込む一般車の列が出来始めていた。

「今日はまだ少ない方ですね」

教えてくれたのは、環境審議会でお世話になっている横須賀市環境部環境政策課課長の出雲智也さん。通常は10名以上の団体のみという施設見学を、取材という形で特別に許可していただいたのだ。

そこは消費社会の墓場だった

稼働中の処理施設でごみ処理のフローを順を追って見学していく。案内して下さる高橋良明さん、関澤孝弘さんはエコミルで働くエキスパート。ともにこの道25年にわたり、世界一と称される都市の清潔さを実現した日本のごみ焼却システムに長年携わってきたプロフェッショナルだ。

まずは燃せるごみを一旦貯留する「ごみピット」を上部からガラス越しに覗かせていただく。収集車が回収してきた燃せるごみが6台分の扉から投入されてくる。

「ごみピットには2つの市から運び込まれる5日分のごみを貯めることができます」

圧倒されたのはほんの数日分ということが信じられないその量だ。生ごみ、紙おむつ、かばん、グローブ、ゴム製品、アルミホイル、懐中電灯、使い捨てカイロ、ゴルフボール、使い捨てのひげそり、ハブラシ、ヘルメット――大量のごみが40数万人ひとり一人の暮らしの残滓であり、物質的な豊かさの代償であることをまざまざと見せつけられた。そこは消費社会の墓場だった。これだけの廃棄物のために一体どれだけの金と資源と労力が使われたのかと想像して気が遠くなった。

すると、天井に繋がれたごみクレーンが降りてきて何袋ものごみを同時に掴み取った。そのまま運んでいくのかと思いきや、途中でアームを広げて貯留されたごみの中に落とす。

「クレーンでほぐして燃えやすいように均一化しているんです」

その光景は巨大なUFOキャッチャーのようでもあった。続いてほぐされたごみが再びクレーンで焼却炉に投入される。

「一日最大360tの燃せるごみを焼却することができます」

1トンの乗用車なら360台分ものごみが日々焼却されているという現実にまたしても気が遠くなる。

正しい分別がかけがえのない命を守る

「エコミルでは850℃以上の高温で安定して焼却することでダイオキシン類の生成を抑制しています」

他にも焼却時に出る排出ガスに含まれる有害なばいじんや塩化水素、硫黄酸化物などを特殊なフィルタや薬剤の投入で分解除去。厳しい自主基準値にまで低減して放出しているそうだ。

環境のみならず人体にも致命的なダメージを与えるダイオキシン類はプラスチックなどの塩素と有機物が300℃の低温で燃焼されるときに鉄や銅などの金属が触媒となって生成が促進される。ひとつの製品を燃せるごみとして捨てる際にもプラスチックと触媒となる金属部品を分けて捨てることで発生を大幅に減らすことができる。正しい分別がかけがえのない命を守ることにも繋がっているのを実感した。そのためには購入時に、捨てるときに、分別し易い設計の商品を選ぶことも大切だと。

しかしながら、ごみの分別は性善説に基づいている。近年は不燃ごみとして捨てられたものの中にモバイルバッテリーが混入していてボヤが発生することもあるのだという。消火施設のおかげで火の手が上がる前に処理できているというが、こちらも捨てる側の正しい分別に掛かっている。

利用者の分別を25年に渡って見てきた高橋さんは言う。

「最近は利用者の方々が高い関心を持って情報を入手して分別して下さっていると強く感じます。各ご家庭に配布されている分別検索帳を参照していただくか、区分が分からないごみは捨てる前に市にお問い合わせ下さい」

自家発電でCO2を削減する

もっとも気になっていたのはCO2の排出量だ。半年で小さくなった娘の上履きを燃せるごみとして捨てることができないまま持参した理由もそこにある。

大量のCO2の排出量を相殺するために焼却施設に付随しているのが「蒸気タービン発電機」だ。ボイラで発生した蒸気でタービンを高速回転させ最大6600kW、1万7千世帯分にあたる電力を生み出している。ごみを燃やしながら電力で施設を運転することで排出分と相殺され、結果的にCO2の削減に繋がっているのだという。また余剰電力を売却することで運営コストの低減にもなっているそうだ。

ごみだからと思考停止するのではなく、まだ使い道があるのではないかという発想と技術がCO2の削減につながることをここでも実感した。

再資源化で循環を生み出す

そんな精神を象徴するエコミルのもうひとつの顔が「不燃ごみ等選別施設」だ。

陶器やガラス、鏡、磁石、珪藻土マット、ライターなどの不燃ごみと粗大ごみを破砕し、再生資源となる鉄などの磁性物を磁石で吸着、さらに高速回転する永久磁石でアルミ類を選別回収。リサイクル資源として売却することで、年間20億円の歳出の約半分に当たる10億円弱が電力の売却益と併せた歳入になっているという。

現在の再資源化率は30%程度。他にも日々運ばれてくるごみの中に再資源化できるものがないかと目を光らせているのが環境政策課の出雲さんだ。今はSAFの原料として買い取り価格が高騰している油とともに「紙おむつ」の再資源化を探っているという。現在は燃せるごみとして処理しているが燃えにくい素材という難点もあるのだという。

「実は子どもの上履きを持ってきたんですけど、これも再資源化できないですかね」

持参した娘の上履きを見せて出雲さんに相談してみた。

「どうでしょうね」

再資源化はできても買い取り先が遠方だと輸送費で赤字になってしまうため、経済合理性とのバランスが鍵になってくるそうだ。

「子どもたちと一緒に考えることで何か良いアイデアが出てくるかもしれないですね」

エコミルでは市内の小学4年生を対象に施設見学会が実施されている。子どもには経済合理性でブレーキを掛けてしまいがちな大人にはない自由な発想力がある。また、ごみの分別をクイズやゲーム感覚で楽しむ感受性もある。大人世代より進んだ環境教育を受けている子どもたちを家庭の環境大臣に任命することで正しい分別や再資源化も進んでいくかもしれないと感じた。

自治体を悩ませるスプリングマットレス問題

最後に一般の車が列をなして持ち込んでいた粗大ゴミ置き場を見学させていただく。驚いたのは積み上げられたマットレスの山だった。

すでに解体して取り出されたスプリングも積み上げられている。

解体に手間が掛かるスプリングマットレスは粗大ゴミの中でも処分コストがかかる製品のひとつなんだそうだ。回収と再資源化に取り組んだり、解体分別しやすい環境配慮型の製品を選択肢に加えたりしているメーカーもあるにはあるが、業界全体では採算が合わないなどの理由からリサイクル率は2%と低いことが自治体への皺寄せになっているのだという。

こういう現実があることも処理施設を訪れなければ知らなかったことのひとつだ。月並みではあるが、まずは知ること。そして考えること。さらに行動することが未来をより良いものに変えていくと改めて感じた。

わたしたちはいつまでごみを捨て続けられるのか

資源化できない残さは再び運び出され、三浦市にある一般廃棄物最終処分場に埋め立てられていく。しかし、埋め立てられる分量にも限度がある。50年から60年後には最終処分場が限界になるという東京では、「廃棄物削減のために23区でごみ回収の有料化を視野に入れている」という都知事の談話が報道され物議を醸した。反発の声も大きかったが、同じ東京都の多摩市を始め、環境先進国のひとつであるデンマークや韓国でごみ回収が有料化されている事例を見ればこれがスタンダードになるか、もしくはごみの回収そのものが減っていくか、そのどちらかになるのではないかと感じている。

1970年代、ベトナム戦争で財政難に陥ったアメリカではごみ回収ができなくなり、ニューヨークの街がごみで溢れかえった。財政が冷え込むと 自治体はごみ回収ができなくなり、公共衛生が悪化する。ごみの滞留が増えれば、害虫や悪臭が発生し、人々の生活環境は確実に損なわれていく。

そういう未来を招かないためにも、わたしたちは「いつまでごみを捨て続けるのか」ではなく、「いつまでごみを捨て続けられるのか」という視点で行動を変容していくことが大切なのではないだろうか。

帰り際、焼却施設の入口にさりげなく置かれたコンポストが目に入った。葉山で考案されて全国に広がっている「キエーロ」だ。「ごみ処理場にどうしてコンポストが?」と思う人もいるかもしれないが、このコンポストが粗大ゴミの持ち込みや施設の見学で訪れる人々に「捨てる前に、もう一度立ち止まって考えること」を訴えているような気がした。旅するように暮らすこの町で。

2026年1月5日

取材協力

横須賀ごみ処理施設(エコミル)
横須賀市環境部環境政策課

注解・参考サイト

注解
※1 横須賀市では「燃やせるごみ」ではなく「燃せるごみ」と表記されている。これは神奈川県内の一部自治体で慣用的に用いられてきた行政表現で、「リサイクルはできないが、結果として燃やして処分するごみ」であることを示す、抑制的な言い回しとされる。

参考サイト
横須賀市ごみ処理施設「エコミル」

About the Writer

青葉 薫

横須賀市秋谷在住のライター。全国の生産者を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」を上梓。本名で放送作家/脚本家/ラジオパーソナリティーとしても活動。日本環境ジャーナリストの会会員/横須賀市都市計画審議委員/横須賀市環境審議委員/株式会社オフィスクレッシェンド取締役
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文・写真 青葉薫

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