
三重県鳥羽市のガリバー公園が、「誰もが遊べる公園」への再生に挑んでいる。インクルーシブ教育の理念とユニバーサルデザインを取り入れ、障がいの有無に関わらず全ての子どもが一緒に遊べる場を目指すプロジェクトだ。本記事では、インクルーシブ公園の意義と国内外の具体例を紹介し、公園が地域の共生社会実現の場となる可能性を探る。
老朽化から再生へ。ガリバー公園の挑戦

三重県鳥羽市の市民の森公園、通称「ガリバー公園」は、市民に長く親しまれてきた地域の憩いの場だ。
公園のシンボルである、高さ6m、幅12mの巨大なガリバー像は、ブラジルへの移民を支えた船「鳥羽ぶらじる丸」から1980年代に移されたもので、移民史に関わる特別な存在でもある。公園は、四季折々の自然や無料の小動物園が魅力。休日にはマルシェが開かれ、観光客にも人気のスポットとなっている。しかし開園から40年余りが経過し、遊具や園路の老朽化が進み、誰もが安心して楽しめる公園ではなくなりつつある。
こうした状況を受け、鳥羽市はクラウドファンディングを立ち上げ、ガリバー公園を「インクルーシブ公園」へと再生するプロジェクトを始動した。車いすの子どもも一緒に楽しめる遊具やユニバーサルデザインの園路、多機能トイレ、小動物園の再整備などが計画されている。
地域の記憶を未来へつなぎ、多様な子どもたちが共に育ち合える公園づくりを目指す挑戦は、鳥羽市が描く共生社会の一歩といえる。
障がいの有無をこえて。広がるインクルーシブ公園の発想

障がいの有無に関わらず全ての人が楽しめる公園には、「インクルーシブ」と「ユニバーサルデザイン」という2つの考え方が鍵となる。
インクルーシブとは「すべての人を包み込む」という意味だ。年齢・性別・障がいの有無などによらず、あらゆる人々がお互いの違いを認め合い、尊重し、排除されることなく共に生きていくことを目指す考え方である。
またユニバーサルデザインとは、年齢・障がい・身体能力などの違いに関係なく、できるだけ多くの人が使いやすいように、最初からデザインする考え方をさす。ユニバーサルデザインは、インクルーシブな環境を実現するための重要な手段の一つといえる。
インクルーシブ公園とは
インクルーシブ公園とは、障がいの有無や背景に関わらず、すべての子どもが一緒に遊べることを目的とした公園だ。
インクルーシブ公園の考え方は1990年代に米国で始まり、ユニバーサルデザインの視点を取り入れた公園整備が世界各地に広がっている。日本では、2020年に初めてインクルーシブ公園が整備された。
単にバリアフリー設備を導入するだけでなく、公園全体の設計を通じて「誰も排除しない」環境を整備している。車いすでもアクセスしやすい園路や、感覚過敏の子どもにも配慮した遊具、静かに過ごせるスペースの確保などは、子どもたちが自分に合った方法で遊べる工夫だ。
インクルーシブ公園では、障がいの有無にかかわらず、お互いの違いを自然に受容する姿勢を育むことができ、多様性を体験できる場でもある。また、これまで公園利用を諦めていた家族にとっても安心できる場となり、地域全体のつながりを強める効果も期待される。
インクルーシブ公園の具体例
日本国内でも、こうした理念を実現する公園が少しずつ増えている。ここでは、国内外の代表的な事例を紹介する。
砧公園(東京都世田谷区)
2020年に国内で初めて整備されたインクルーシブ公園。砧公園に新設された「みんなのひろば」は、障がいの有無や世代の違いを超えて誰もが安心して遊べる空間を目指したユニバーサルデザインの広場だ。
トイレや駐車場が改修されたほか、園路や地面は段差をなくし、車いすやベビーカーも快適に移動できる。利用者の転倒に配慮して、ゴムチップ舗装や滑りにくい素材を採用している。
車いす対応の幅広いベンチやテーブルが整備され、遊具は船型遊具や複合遊具、大型ブランコ、回転遊具など9種類が導入されている。アクセスや視認性への配慮、安全シート付きブランコなど多様な子どもが楽しめる工夫が随所に盛り込まれ、さらにリーフレットで公園の理念を発信している。
としまキッズパーク(東京都豊島区)
2020年にオープン。園内には、車いすに乗ったままでも利用できる高さ調整型の砂場や、落下のリスクを減らしたバケット型ブランコ、親子2人で遊べる「おやこブランコ」など、多様な遊具が導入されている。
親子で一緒にすべることができる幅広タイプと、子ども向けの標準タイプを備えた「おやこすべり台」もあり、年齢や発達段階に応じて楽しめる。
屋根付きのハウス型遊具「キッズハウス」では、直射日光を避けながら木のおもちゃや木のプールで遊べるため、感覚過敏の子どもや小さな子どもにも安心だ。滝や池、畑といった自然も取り入れられ、水の流れや植物の成長に触れられる環境が整っている。
こうした工夫により、障がいのある子とない子が共に遊び、互いの個性を自然に理解するきっかけが生まれている。
アーバー・ロッジ・パーク(米国・オレゴン州ポートランド)
公園の一角にあるハーパーズ・プレイグラウンドは、近隣住民ゴールドバーグ氏が障がいのある娘ハーパーも遊べる場所をと願い、地域の協力を得て2012年に誕生したものだ。
園内はコンクリートやゴムの舗装、芝などを適所に配置し、段差を極力なくしているため車いすやベビーカー利用者も快適に移動できる。フェンスがない開放的な設計で、地域の人々に見守られながら安心して遊べるのも特徴だ。
ブランコには複数のタイプのシートを用意し、体の動きに制約がある子どもも楽しめるほか、視覚・聴覚・触覚を刺激する遊具や彫刻などもある。さらに、豊かな緑や岩、デッキを活かした空間で、自然にも触れ合える。
障がいがあっても安心して過ごせる居場所を実現し、地域における多様なつながりを育む役割を担っている。
地域と子どもが育ち合う、“共生”のフィールドへ

インクルーシブ公園は、子どもたちの育ちを支えるインクルーシブ教育の実践の場となり得る。インクルーシブ教育とは、障がいの有無や文化的背景にかかわらず、すべての子どもが同じ場で学び合い、ともに成長することを目指す教育だ。
障がいのある子もない子も一緒に遊べる環境では、子どもたちは自然な関わりの中で違いを理解し、互いを受け入れる体験を積める。これは、個々の違いをこえてお互いを尊重し合うインクルーシブ教育の実践と重なるものだ。障がいのある子と保護者が公園で遊ぶことを諦める状況では、健常の子も多様な人と関わる機会を失ってしまう。お互いのことを理解し合うチャンスがなければ、誤解や偏見が生まれかねない。公園で多様な子ども同士が自然に遊び、親世代も交流でき、理解を深める環境が大切なのだ。インクルーシブ公園は、地域社会において多様な人々の共生を実現する場といえる。
ガリバー公園の再生も、世代を超えて人がつながり、共生社会のモデルケースとなる可能性をもっている。公園という小さな空間から、多様性を受け入れるまちづくりが広がれば、日本はもっと優しい社会となるだろう。ら農村へ、そして再び人々の暮らしへと還っていく。
Edited by k.fukuda
参考サイト
鳥羽市民の森公園(ガリバー公園) | スポット・体験 | 伊勢志摩観光ナビ|ふるさとチョイスGCF
わたしはガリバー。 特集|鳥羽市
コラム 砧公園 ~だれもが利用できる遊び場~|国土交通白書2024
国内外の事例からみる「インクルーシブパーク」とは?公園・遊び場の新しいかたち|PARKFUL
砧公園にある未来の公園『みんなのひろば』全貌公開!【後編】 | パラサポWEB
連載:ポートランドの公園に行こう #10 アーバー・ロッジ・パーク|PARKFUL
インクルーシブ公園の紹介|豊島区公式ホームページ





















曽我部 倫子
大学で環境問題について広く学び、行政やNPOにて業務経験を積むなかで環境教育に長く携わる。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、未就学児や保護者を対象に自然体験を提供。またWebライターとして、環境、サステナブル、エシカル、GXなどのテーマを中心に執筆している。三姉妹の母。
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