プロセスエコノミーとは?定義や注目される背景、事例などを紹介

プロセスエコノミーとは

プロセスエコノミーとは、完成された商品だけではなく、その制作過程を公開して収益化を図る方法のことである。

このプロセスエコノミーは、特に漫画家やイラストレーター、歌手などのクリエイターの中でよく見られる手法だ。昨今、ただ出来上がった作品を発表するのではなく、作業中の様子などの制作過程を配信することで、ファンを獲得するクリエイターが増えている。

プロセスに価値を見出した手法は、これまでもドキュメンタリー映画やオーディション番組などでしばしば見られてきたものだ。しかし、プロセスエコノミーの概念はそこから進化し、映画や番組のように完成させたものではなく、「過程を見せるだけでも価値を生む」という考え方である。

このプロセスエコノミーの広まりにより、昨今では、商品の製造工場の様子を公開する、社員に密着する動画を制作する、消費者のアイデアを取り入れながら商品開発を行うなど、自社と消費者との距離を近づけることで親近感を得られるようにし、他社との差別化を図る企業が増えているのだ。

プロセスエコノミーが生まれた背景

プロセスエコノミーが生まれた背景

元々プロセスエコノミーは、2020年に実業家のけんすう(古川健介)氏が提唱した造語で、けんすう氏が自身のnoteで発信した記事によって広まっていった。記事の中で、従来のビジネスモデルを「アウトプットエコノミー」と名づけており、プロセスエコノミーの反対の概念として登場させている。

先述のように、アウトプットエコノミーでは商品の品質、プロモーション活動、値段などが重要視されている。しかし、今ではほとんどのプロダクトの水準が上がり、自社と競合他社との製品の差別化が難しくなっているのだ。

そして、それは企業の商品やサービスだけではない。飲食店やアーティスト、パフォーマーなどの分野においても、運営方法や制作方法、上達方法など、様々な情報が流通していることで、アマチュアでもプロ並みのスキルをすぐに身につけることが可能になっているのである。

さらにインターネットの発展により、SNS等で簡単に発信できるようになったため、PR方法も似たり寄ったりになり、消費者はどの商品がどの企業から発売されたものか、分からなくなっている。

そこで注目すべきがプロセスエコノミーの手法だ。どのプロダクトにも大きな差がないのであれば、差別化を図るために残されたのは「プロセスを公開する」という方法しかないのだろうと、けんすう氏は述べている。

プロセスエコノミーが注目される理由

けんすう氏によって提唱されたプロセスエコノミーは、徐々に広まり、今では多く企業やサービス提供者に取り入れられる手法となった。なぜ、これほどプロセスエコノミーは注目されるようになったのだろうか。

モノ消費からコト消費への変化

一つには、時代とともに人々が望む消費の形が変化した点があげられる。これまでの経済活動において、多くの消費者は所有するためのモノを買うという「モノ消費」が一般的だった。

しかし、昨今はアクティビティや体験にお金を使う「コト消費」へ移行する人々が増えている。こうした消費行動の変化を背景に、商品そのもの(モノ)よりも、制作される過程(コト)に価値を見出すプロセスエコノミーが注目されるようになってきたのだ。

応援消費市場の拡大

消費活動の一環として、自分の好きなアイドルやアーティストを応援する、いわゆる「推し活」が一般的になって久しい。この推し活は「応援消費」というもので、ふるさと納税や被災地支援、好きなブランドの商品を購入することも応援消費の一つである。

人々の消費活動において「自分以外のためにお金を使うこと」は、単に自分の欲しいものを購入するより「誰かの役に立っている」という気持ちが得られやすい。このことから、応援消費市場は近年急速に拡大しつつある。

そして、プロセスエコノミーも応援消費に該当するものだ。過程を公開することで、「この人(会社)の応援をしたい」という消費者の気持ちを満たすことができる。

プロセスエコノミーが生み出す効果

プロセスエコノミーが生み出す効果

これまで、プロセスエコノミーが重要視されるようになった経緯について述べてきたが、実際のところプロセスエコノミーにはどんな利点があるのだろうか。

ファンがつきやすい

プロセスエコノミーの一番の効果としては、やはり自社ブランドにファンがつきやすいという点だ。消費者はプロセスを共有してもらうことで、提供者や生産者に対する愛着がわき、共感を覚えるようになる。

また、配信などではコメントによるコミュニケーションが取りやすく、制作過程で課金を行うことで、消費者自身も当事者として関わっている意識が生まれてくる。

それによって継続的なファンを獲得できる可能性もあり、このことからプロセスエコノミーは、新規顧客と既存顧客の双方に働きかけることができる手法といえるだろう。

資金を得られやすい

ファンがつくことで一番得られるメリットは、商品やサービスが完成する前に資金が集められることだ。例えば、多大な費用がかかるサービスをつくりたい場合、「何のためにそのサービスをつくりたいのか」という気持ちを訴えかけることで、賛同してくれる顧客から資金を提供してもらえる可能性がある。

その後も発信を続けることで、銀行や投資家などの資金提供先を見つけることが困難な場合でも、継続的な収益が期待できる。

プロセスエコノミーを活用した事例

プロセスエコノミーを活用した事例

では、プロセスエコノミーを生かした取り組みには、どんなものがあるのだろうか。ここでは、多くの人が実践している例について取り上げる。

クラウドファンディング

クラウドファンディングは、プロセスエコノミーの代表格ともいえる資金調達方法である。

クラウドファンディングの大きな特徴は、自分も資金援助することでプロジェクトに間接的に関われるという点だ。また、プロジェクトの内容や目的を細かく伝えられるため、共感を呼びやすく、SNSと紐づけると不特定多数の人に向けて拡散することもできる。

サービス内容は様々で、支援者に商品やサービスを提供する購入型、支援者にはリターンのない寄付型などがある。資金がゼロの状態でも大きな金額を得られる可能性があることから、近年はクラウドファンディングによって資金調達を行う人が増えている。

動画配信

昨今は動画配信サイトが豊富で、各サービスの特徴に合わせた動画投稿を行う人が増えている。例えば、クリエイターがYouTubeで制作工程をライブ配信する、サービス提供者が自らの普段の姿をショート動画にしてInstagramでリール投稿をする、といったものが挙げられる。

動画の配信によって、消費者との関係を身近なものにし、自身のファンを増やすことで本命商品に繋げたり、投げ銭のようなシステムで支援を受けることが可能となる。

プロセスエコノミーの注意点

新たな経済の形として注目されるプロセスエコノミーだが、デメリットもいくつかある。どのような部分で注意する必要があるのか、詳しくみていこう。

情報の取り扱い

最も注意すべき点は、自社の内情が他者に知られてしまう可能性だ。発信を目にする人の中に自社の動向を調査する人が存在することも、当然ながらあり得る。ストーリーを作る際には「どこまでの情報を公開するか」をきちんと定め、複数人の目で確認するなど、情報の取り扱いには細心の注意が必要である。

真似されやすい

情報の取り扱い方によっては、競合他社に真似をされる可能性もある。また、特に同じ業界では、ストーリーや発信方法も似たようなものになりがちで、結局差別化を図れないという結果になることも。独自性を出そうとするあまり、倫理観の欠如した投稿が行われる例も見られるため、内容については十分に検討するようにしなければならない。

ファンが熱狂する危険性

社員についての動画を出す場合、粘着質なファンがついたり、最悪の場合ストーカー化する可能性もゼロではない。あくまでも一般人であるため、自分ひとり、もしくは会社全体で身を守らなければならず、ファンが熱狂的になった場合の対策をしっかりと考える必要がある。

方向性がぶれやすい

プロセスエコノミーはファンがつく前提である以上、ファンを増やすことが発信の目的となりかねない。しかし、あくまでも一番の目的は、提供する商品やサービスを購入してもらうことだ。意見や要望などを取り入れようと「ファン目線」ばかりを重視してしまうと、方向性がぶれてしまうこともあるため、「何のために発信しているのか」という軸を保ち続けることが重要だ。

まとめ

「ファンをつくる」というプロセスエコノミーの登場により、経済活動の中心は、従来の「商品に価値を持たせる」というアウトプットエコノミーという形から大きく変化しつつある。すべての商品やサービスの質が平準化し、差別化が難しくなったことで、消費者は選択する理由として「なぜこの商品が生まれたのか」「どういう想いを持ってサービスを提供しているのか」を重要視するようになっている。

また、プロセスエコノミーを実践するにあたり、生産者や提供者自身も「なぜ自分はこれを作っているのか」という原点に立ち返ることができる。

経済が成熟した今、プロセスエコノミーという新しい構造への挑戦は、ビジネスや自分自身のあり方について見つめ直すきっかけとなるかもしれない。

参考サイト
「プロセス・エコノミー」が来そうな予感です|けんすう
「プロセスエコノミー」の本質とは 名付け親と著者に聞く|日経クロストレンド
「5年後に稼ぐ人」たちがハマっている「プロセスエコノミー」の凄すぎる正体(尾原 和啓) | マネー現代 | 講談社
応援消費の拡大と今後について |MARKETING HORIZON

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