ユニバーサルデザインとは?
ユニバーサルデザインとは、すべての人にとって優しいモノやコトを作り出すためのデザインおよびデザイン思想である。
それぞれの人には年齢・性別・文化・身体の状況など、さまざまな個性や違いがある。これらを前提に誰もが利用しやすく、暮らしやすい社会を目指して、街や建物、モノ、しくみ、サービスをデザインする。
このデザインは、すべての人に共通する普遍的なアプローチを意味しており、根底には「最初からみんなにやさしいデザインを考える」という考えがある。これにより、少子高齢化、国際化、女性の社会進出など、様々な社会環境の変化、さらに個人のライフスタイルや価値観の多様化への対応が可能になる。つまり、ユニバーサルデザインは社会の持続可能性を高めるデザインだといえる。
バリアフリーとの違い
バリアフリーは、障がい者や高齢者などの生活弱者のために、生活に支障をきたす物理的・制度的などの障壁を排除する考え方だ。
例えば、
- 車いすから届かない高さにあるエレベーターのボタン位置を変える
- 高齢者が乗降できないバスの段差をなくす
- 障がいを理由とした就職の制限を見直す
一方、ユニバーサルデザインは、年齢・性別・文化・身体の状況などの違いに配慮し、全ての人が対象とされるデザイン思想である。つまり、バリアフリーは特定の誰かのために取り組みを行うのに対して、ユニバーサルデザインは、最初からできるだけ多くの人が使いやすいデザインにすることを目指している。
この違いは、対象者だけでなく普及の方法にも現れている。バリアフリーは法律等で規制することで普及させる行政指導型だが、ユニバーサルデザインは良いものを推奨する民間主導型であることが多い。
インクルーシブデザインとの違い
インクルーシブデザインは、障害を持つ人々やマイノリティの人を含め、全員が使える製品やサービスを目指すデザイン手法のこと。このデザインは、特定の制約を持つユーザーの声を積極的に取り入れ、彼ら独自の問題を解決することに重点を置いている。
例えば
- 視覚障害者向けの音声フィードバック機能
- 手の不自由な人が使いやすいハードウェアの開発
この手法は、特定ニーズへの深い理解に基づき革新的な解決策を生み出す。一方、ユニバーサルデザインは初めから全ての人が使える設計を目指している。すなわち、どちらの手法も使いやすい製品・サービス・しくみを全員に提供する共通の目標を持ちつつ、アプローチ方法に違いがあるということだ。
インクルーシブデザインは特定グループのニーズに焦点をあてることから始まり、それらの声を製品やサービスのデザインに反映させる。それに対して、ユニバーサルデザインは、初めから全ての人に焦点をあてることから始まっている。
ユニバーサルデザインの歴史
ユニバーサルデザインという言葉は、1980年代にアメリカでロナルド・メイス教授によって提唱された。ベトナム戦争で多くの人が負傷したこともあり、アメリカでは1960年代から障がいを持つ人が急増した。これらの人々が、生活の中で差別や不便さを被らないよう、自身も車いすを使用していたメイス教授は、当時のアメリカ社会で主流だったバリアフリーという考え方に対して、より包括的なデザイン思想を提案したのである。
これ以前にも、1963年にデンマークで「ノーマライゼーション」という言葉が提唱されていた。これは、障がいの有無にかかわらず人々はノーマルな生活を送る権利があることを意味する言葉で、ユニバーサルデザインの概念と近いものといえる。
1990年代に入ると、ユニバーサルデザインの考え方は日本を含む世界中に広まり、多様な社会の実現に向けた重要な指針となっている。
ユニバーサルデザインが必要な理由
高齢化やグローバル化が進行し社会が多様化する中で、年齢、性別、文化、身体の状況などにかかわらず、誰もが利用しやすいデザインが求められる。
内閣府によると、日本国内において何らかの障害を有している人の数は964万人に及び、国民のおよそ7.6%にあたるとされている。このような状況の中、2006年に国連で採択された障害者権利条約に、日本も2013年に批准し140番目の締結国となった。これにより、障害がある人も他の人々と同じ権利をもっていることが国家レベルで宣言されることになった。
また、日本では高齢化が深刻化しており、65歳以上の人口はおよそ3623万人で人口の29%を占めている。外国籍の人の割合も上昇傾向にあり、その数は約293万人で人口の2.32%に及ぶ。
ユニバーサルデザインは、こうした社会の変化に応じて誰もが参加しやすい環境を提供し、より豊かで包括的な社会を実現するための手法・思想として必要とされている。
ユニバーサルデザインの7原則
ユニバーサルデザインには、以下のように7つの原則がある。これらの原則は、すべての人が使いやすいデザインを構築するためのガイドラインとなる。
1.公平な使用
身体的な制限を持つ人だけでなく、高齢者や妊婦、子どもなど、様々な人々が利用できるように設計する。これにより、車いすやベビーカーのスムーズな移動などが可能になる。
例えば、
- 段差のない歩道
- 多機能トイレ
- 音声案内
2. 柔軟な使用
異なる能力、サイズ、好みを持つユーザー全員が使いやすいように、様々な使用方法を提供する。これにより、身体的な制限や使用言語が異なる人でも快適に利用できるようになる。
例えば、
- 左右どちらの手でも使える道具
- 高さ調節可能な机
- 多言語対応のソフトウェア
- 音声認識機能
3. 単純で直感的な使用
背景知識や言語能力に依存せず、誰にでも直感的に理解しやすいデザインを目指す。これにより、言葉の壁を超え誰でも簡単に操作できる設計を実現している。
例えば、
- 分かりやすいアイコン
- シンプルな操作方法
- ピクトグラム
- 音声解説
4. 知覚情報
視覚、聴覚など多様な感覚を通じて、重要な情報が明確に伝えられるようにすることで、全ての人が情報を認識しやすいように工夫されている。
例えば、
- 色覚異常者でも見やすい配色
- 音声付き警告
- 触覚による情報伝達
5. 誤りの許容
エラーを起こしにくく、もし誤った操作があっても重大な結果につながらないように配慮することで、誰でも安心して使用できる環境を提供している。
例えば、
- 誤操作防止機能
- 自動保存機能
- 確認画面
- キャンセル機能
6. 低い身体的努力
使用者が長時間快適に使用できるよう、身体的な負担を最小限に抑える設計。これにより、無理な姿勢を取らずに、少ない力で使用することを助ける。
例えば、
- 軽い操作力のドアノブ
- 適切な高さの机と椅子
- 疲れにくい姿勢
- 持ち運びやすい重量
7. サイズと空間の利用
体のサイズ、姿勢、移動範囲など、全てのユーザーがアクセスしやすい空間を確保する。これにより、車いすユーザーや視覚障がいがある方も含め、全ての人が快適に過ごせるような空間設計を心がける。
例えば、
- 車いす用スペース
- 手すり
- 広い通路
- 視覚障がい者用の誘導路
これらの原則は、デザインの初期段階から考慮し、単独で適用するのではなく互いに関連させることが重要である。そうすることで、誰もが快適に生活できる社会環境の実現を目指す。
ユニバーサルデザインの例
ユニバーサルデザインの例を、身近な製品、公共空間、情報の3つの大きなカテゴリに分けて見てみる。
ユニバーサルデザインを用いた身近な製品
まず、身近な製品にユニバーサルデザインの手法が取り入れられている事例を見てみよう。
センサー式の蛇口
手をかざすだけで水の出し止めが可能になるため、水道の蛇口をひねる動作が困難な高齢者や手に障がいがある人にとっても、使用しやすくなる。
凹凸のついたシャンプーやリンスのボトル
目が不自由な人のために、ポンプの上部やボディーの横に凸凹をつけることで、シャンプーとリンスのボトルの判別を可能にしている。
高さ調節可能なキッチンカウンター
自身の身長に合わせて高さ調節が可能なキッチンカウンターは、車いすの使用者や身長が低いまたは高い人にとっても使用しやすく、料理をする時の利便性を高めてくれる。
レバー式のドアハンドル
ドアノブの代わりにレバー式のドアハンドルを採用することで、手に力が入りにくい人にとっても、ドアの開け閉めが容易になる。
拡大鏡や音声読み上げ機能がついた家電製品
文字の拡大表示や表示内容の読み上げや音声ガイダンスを家電製品につけることで、目が不自由な人や視力が衰えている人でも、家電を簡単に操作できるようにする。
これらの商品は、使いやすさを考慮した設計によって、幅広いユーザーが同じ製品を利用できるようにするというユニバーサルデザインの理念を体現している。
まちなかのユニバーサルデザイン事例
ユニバーサルデザインは、公共施設や道路など街中にも多くの事例がある。
自動ドア
車いすユーザーや荷物を持った人であっても力を使わずに開閉できる自動ドアは、スーパーマーケットやデパート、マンションなど、多くの建物に設置されており、あらゆる人の利便性を高めている。
段差の解消
歩道や公園の出入り口に段差がない設計は、車いすやベビーカーの利用者、高齢者などの移動をスムーズにしており、これにより街中でのアクセシビリティが向上している。
ノンステップバス
床面を低くすることで乗降ステップをほとんど無くしたノンステップバスは、足を上げる負担が少なく、すべての人が乗り降りしやすい設計である。また、補助スロープの使用により車いすの利用も可能になる。
幅の広い歩道
歩道の幅を広く取ることで、車いすやベビーカーの利用者も含め多くの人が快適に歩行できる。歩道幅を広げるために、歩道上にある電柱などを取り除くなどの工夫がなされている。
人感センサー付き照明
スイッチに触れることなく自動で点灯する人感センサー付きの照明は、公共施設や飲食店のトイレなどにおいて、誰もが使用しやすいように配慮されているものである。
このように、私たちの日常にユニバーサルデザインの例は数多くあり、公共空間において誰もが利用しやすいように多くの配慮がされている。
情報収集におけるユニバーサルデザイン
情報収集におけるユニバーサルデザインでは、色やフォント、デザインの配慮、これら3つが重要である。これにより、目の不自由な人を含め、すべての人が容易に情報へアクセスし理解することを助ける。
色の配慮
人間の色の感じ方は一律ではなく、遺伝子や目の疾患によって色の見え方が異なる場合がある。すべての人が区別しやすい色の組み合わせにすることを「カラーユニバーサルデザイン」と言い、製品や公共空間にも取り入れられている。
例えば、暖色系同士や寒色系同士を組み合わせない、明度の似た色を組み合わせないといった配慮が必要になる。また、背景色と文字色のコントラストを大きくすることで、読みやすさを向上させることができる。
フォントの配慮
誰もが読みやすいフォントのことをユニバーサルデザインフォント(UDフォント)といい、近年積極的に開発が行われている。UDフォントは、可読性、表示適性、視認性、識別性に配慮したデザインが求められる。
例えば、明朝体よりもゴシック体の方が視認性が向上し、視力が低い人にとっても読みやすい。また、漢字、英文字、かな文字の高さを最適化し、文字列のガタツキを少なくすることも読みやすさをアップさせる。
デザインの配慮
ユニバーサルデザインでは、情報を伝えるためのデザインにも配慮が必要である。このために、誰もが直感的に使用でき誤操作に繋がらないように配慮する「ユーザーインターフェース(UI)」の考え方も重要となってくる。また、誤った操作をした際に、訂正できるようなデザインも必要だ。
このように、色やフォント、デザインの配慮を通じて、すべての人が情報にアクセスしやすい設計を心掛けることができる。
まとめ
ユニバーサルデザインは、社会のあらゆる側面で、すべての人がモノやサービスを快適に利用できるようにするための重要な考え方だ。
このデザイン思想を取り入れることで、障がいの有無や年齢、性別などに関わらず、より多くの人が日常生活を豊かに過ごすことができる。
自らが不便を感じていない場合、些細な配慮に気付かないこともあるが、意識的に観察することで見えてくるものもある。私たちが、このような取り組みを支持し発展させることで、誰もが等しく生活しやすい環境作りに繋がる。
ユニバーサルデザインの実践は、モノやサービスのデザインにおいて、より包括的でアクセスしやすい社会の実現に向けた一歩となるだろう。
参考記事
官庁施設のユニバーサルデザインに関する基準
バリアフリーとユニバーサルデザイン
情報のユニバーサルデザイン
身の回りにあるユニバーサルデザインの具体例をご紹介
配色のバリアフリー
ユニバーサルデザインフォント
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