
OECMは、既存の保護区にとらわれない柔軟な地域保全を可能にする、生物多様性保全の新たな枠組みである。国際目標「30by30」の実現に向け、多様な主体が参加し、地域の文化や暮らしと共存できるOECMが注目を集めている。
この記事では、OECMの基本や自然共生サイトとの関係、今後の課題と展望までをわかりやすく解説する。
OECMとは

OECMとは、Other Effective area-based Conservation Measuresの略で、直訳すると「その他の効果的な地域ベースの保全措置」という意味である。「その他の」は国立公園など既存の保護地域制度以外の手段によること、「効果的な」は保全の成果が確認できること、「地域ベースの」は特定の場所に根ざした取り組みであることを示す。
OECMは、国立公園などの「保護地域」ではないものの、生物多様性保全に実質的に貢献している地域を指し、日本では、里地里山、企業林、社寺林などが具体例として挙げられる。
法的な保護区であるか否かではなく、管理や利用の結果として生物多様性の保全が達成されているかどうかを評価の軸としている。これにより、先住民や地域社会の土地利用や企業の森林管理など、従来は自然保護の枠外とされてきた活動も保全の一つとして認められることとなった。
なぜOECMが注目されているのか

OECMが注目される背景には、国連生物多様性条約(CBD)と国際目標「30by30」の存在がある。
2010年の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された愛知目標11には、2020年までに陸域17%・海域10%を保全することが盛り込まれた。当時は「その他の効果的な地域をベースとする手段」と表現されていた。その後、国際自然保護連合(IUCN)と国連生物多様性条約(CBD)の専門家グループが共同でOECMの定義を整理し、2018年のCOP14で正式採択された。
2022年のCOP15において採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組では、2030年までに陸域・海域の30%を効果的に保全する「30by30」目標が設定された。そのなかで、OECMは保護区と並ぶ重要な手段として位置づけられている。
OECMの強みは柔軟性にあり、国や自治体だけでなく、企業の森林や社寺林、地域住民の管理する里山など、多様な主体と土地利用形態が国際目標の達成に貢献できる点である。既存の保護区拡大が難しい地域でも、生物多様性保全エリアを広げる道が開かれるようになった。
以上のように、生物多様性保全上の目標を達成するための重要な手段として、OECMはその役割と可能性が一層注目されている。
日本版OECM「自然共生サイト」とは

自然共生サイトとは、地域団体や企業など民間の取り組みによって、生物多様性の保全が図られている区域を国が認める仕組みである。環境省は2023年度から、OECMなどの取り組みで保全が図られている区域の認定を開始している。
2025年4月には、自然共生サイトを法制化した地域生物多様性増進法が施行され、同法に基づいて認定された実施計画の実施区域も「自然共生サイト」となる。里地里山や都市の緑地、企業所有の森林などが対象で、人工的に作った場所であっても、例えば在来種を中心とした生態系として重要であるなど認定基準を満たしていれば認定対象となり得る。
認定されたサイトは、保護地域との重なる部分を除いた区域がOECMとして国際データベースに登録される予定である。なお、OECM登録や自然共生サイト認定によって、新たな法的規制や土地利用の制限が課されることはない。
自然共生サイト認定を申請すると、事務局の予備審査後に、有識者で構成される審査委員にて審査され、基準を満たせば認定審査委員会の結果を踏まえ、環境大臣によって認定される。認定サイトは2025年3月時点で全国328カ所、合計面積は9.3万haに達している。
「自然共生サイト」の認定基準
自然共生サイトの認定基準は、「生物多様性の価値に関する基準」「境界・名称に関する基準」「ガバナンスに関する基準」「活動による保全効果に関する基準」の4項目である。
生物多様性の価値に関する基準では、原生的自然、生態系サービス、希少種の生息地、伝統文化との関わりなど、保全上重要な特性を有する区域であることが認定の条件とされている。
また、継続的に実施できる体制を備え、区域の生態系や現況と目標に即した適切な活動であることが求められる。さらに、適切な計画期間が設定され、生物多様性の維持・回復・創出に十分寄与する内容である必要がある。
これらを総合的に審査し、地域特性を踏まえた保全活動が行われている区域が認定されている。
「自然共生サイト」の例
2024年後期に認定されたサイトから、企業の森、社寺林、里山、農地、海域の5つの例を以下に、紹介する。
北海道キッコーマン樹林地(北海道)
キッコーマン社の工場敷地内に位置する約2.56 haの落葉広葉樹を主体とした二次林。植物140種・昆虫80種など多様な生物が確認され、希少種も含まれる。希少な植物のモニタリング、外来種の除去、シカ食害対策のほか、見学を通じた環境教育を計画している。
松尾大社(京都府)
松尾山の神聖な禁足地として人の手が極力加えられず、原生的な照葉樹林が保たれてきた。社叢林(しゃそうりん)のほとんどは安定したコジイ-サカキ群落で、社殿後方に広がっている。地域の自然林として、文化的にも学術的にも重要な景観を呈している。
三草⼭ゼフィルスの森(大阪府・兵庫県)
大阪府と兵庫県の府県境にある三草山山麓の約14.5 haで、薪炭林として使われたナラガシワ・クヌギ・コナラの二次林からなる里地里山環境。ミドリシジミ類10種が生息する。防鹿柵設置や林の萌芽更新、草刈りなどの保全活動、チョウ類のモニタリング、環境教育を計画している。
嬉野茶生産茶園(佐賀県)
嬉野の里地里山の環境を基盤に約500年の歴史をもつ、うれしの茶の茶園。昆虫24種、両生類2種、哺乳類11種、鳥類7種、植物65種など多様な生物が確認されている。生物の生息環境に配慮しながら、茶園として毎年生産を継続し年間を通じた管理を行っている。
日向・平岩 クロメの海の森(宮崎県)
リアス式海岸に位置する23.2 haの海域。大型海藻であるクロメの藻場が多様な魚介類やウミガメなどの希少種の生息・産卵環境を支え、豊かな生態系を構成している。保全対象のクロメのモニタリング、ウニの駆除、希少種の保護、環境教育を実施している。
OECMによる新たな保全モデル

OECMは、法的規制に基づく従来の保護制度とは異なる、新しい保全の形である。従来型の保護区は、国や自治体が指定し管理する国立公園や自然環境保全地域などが中心で、区域拡大には用地確保や地権者の合意形成など制約が大きいという限界があった。これに対しOECMでは、法的な保護指定を受けずに、生物多様性保全上の価値が評価され認定される。
宗教法人が管理する社寺林、学校法人のキャンパス緑地、民間企業の社有林など、多様な主体が保全に参加可能だ。さらに、棚田や里山、里海など文化的景観や伝統的土地利用と共存できる柔軟性を備えている。
このように、OECMは地域の暮らしや文化を守りながら、国際目標「30by30」の達成に大きく寄与できることから注目されている。
今後の課題と展望

OECMの課題として、まずOECMの実効性確保があげられる。成果のモニタリングと第三者評価による透明性確保が不可欠であり、グリーンウォッシュ(偽の環境配慮)を防ぐガバナンスが求められる。
また、登録から維持・管理まで負担するコストの増加が課題となっており、国の支援や経済的インセンティブ設計が重要である。海外では行政が所有・管理するOECM登録地が現状では大半を占める一方、日本の自然共生サイトは自治体やNPO、企業などが管理主体となる場合が多く、特に企業の貢献が大きい。企業ブランドの強化に加え、自治体・NPOなど地域のステークホルダーとの連携によるエコツーリズムなど、地域再生との相乗効果を生む展開が期待される。
OECMの認知と活用が進み、行政と民間が手を携えて生物多様性保全に取り組むことで、30by30の達成に向けた新たな保全モデルが日本各地で根づいていくことを願う。
Edited by k.fukuda
参考サイト
Action3:陸と海を守ろう。| IUCN日本委員会
人と自然の共生地域OECM|日本自然保護協会オフィシャルサイト
自然共生サイト|30by30|環境省
30by30 よくある質問 QA | 環境省
「自然共生サイト」認定 令和6年度申請受付要領(後期)
令和6年度後期「自然共生サイト」認定結果について | 報道発表資料 | 環境省
























曽我部 倫子
大学で環境問題について広く学び、行政やNPOにて業務経験を積むなかで環境教育に長く携わる。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、未就学児や保護者を対象に自然体験を提供。またWebライターとして、環境、サステナブル、エシカル、GXなどのテーマを中心に執筆している。三姉妹の母。
( この人が書いた記事の一覧 )