地域の恵みがエネルギーに。まちの”隠れた宝物”が未来を灯す

地域に眠る農作物や森林、雪や温泉といった“あたりまえの資源”が、電力や熱として活用され始めている。小規模でも持続可能なご当地エネルギーは、地域経済の活性化や暮らしの再生につながる。さらにエネルギー事業を通じた地域住民の新しいコミュニティ形成の創出にも期待される取り組みだ。

地域が持つ“あたりまえ”の資源をエネルギーに

日本の多くの地域では、人口減少や高齢化に伴い、かつてのにぎわいを失いつつある。過疎化によって産業が縮小し、雇用が減り、若者が流出するという悪循環が各地で起こっている。その上、その土地ならではの資源は、これまで十分に活用されることなく放置されてきた。例えば農業や林業の副産物、雪や水、地熱などの自然の恵みである。

これらは地域にとって日常的で「あたりまえ」と見なされる存在であり、特別視されることは少なかった。しかし、視点を変えればそれらは「眠れる資源」であり、再生可能エネルギーとして新しい価値を生み出す可能性を秘めている。つまり地域の課題を逆手に取り、資源を活かしてエネルギーを自給できれば、地域経済の再生やコミュニティの活力にもつながるのである。

「隠れた宝物」に光を当て、エネルギーとして活用する取り組みは、地方に新しい希望をもたらす挑戦といえる。


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“ご当地”のエネルギーが注目される背景

再生可能エネルギーへの注目が高まっている理由は、単に環境問題だけにとどまらない。日本はエネルギー資源の多くを輸入に依存しており、化石燃料価格の高騰や地政学的リスクに常に影響を受けてきた。そのため、持続可能で安定したエネルギー供給体制の構築は喫緊の課題となっている。

加えて、近年は自然災害が頻発し、都市部に依存した集中型のエネルギー供給の脆弱さも浮き彫りになった。停電や供給途絶が地域の生活や産業に与える影響は計り知れない。こうした状況下で、小規模分散型の「ご当地エネルギー」が再評価されている。

地域ごとに特性は異なる。雪深い地域では雪や氷の冷熱、林業が盛んな地域では間伐材、温泉地では地熱といった具合に、それぞれの土地ならではの資源を活かすことができる。これは単なるエネルギー確保の手段にとどまらず、地域の強みを活かした新しい産業創出にもつながる。

また、地産地消のエネルギーは地域経済の循環を生み出し、雇用の創出にも貢献する。外部からのエネルギー購入に依存せず、地域内部で完結する仕組みは、地方の自立性を高める効果が期待されるのである。

例えば北海道のニセコ町では、温泉熱を利用した地域暖房が導入されている。冬季の厳しい寒さを逆手に取り、温泉から得られる熱エネルギーを住宅や施設の暖房に活用することで、化石燃料の消費削減と観光資源の付加価値向上を同時に実現している。


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地域で生まれるユニークなエネルギーの事例

地域資源を活用したエネルギーは全国各地で広がりを見せている。例えば、お米のもみ殻、間伐材(バイオマス)、温泉(地熱)、雪氷熱、小水力発電などだ。以下に具体的な事例を紹介する。

お米のもみ殻

秋田県大潟村は「2050年自然エネルギー100%の村づくり」を掲げ、年間に約1万4,000トン発生するもみ殻を地域熱として活用する日本初の試みを実現した。バイオマスボイラー2基が導入され、90℃の温水を発生させ、村内約3.5kmにわたる熱導管を経由して施設(学校や温浴施設等)へ供給している。年間約1,800トンのもみ殻使用により、化石燃料の使用を削減し、約1,550トンのCO₂排出低減が見込まれている。副産物の「もみ殻燻炭」は育苗や土壌改良剤など、地域に還元されている。

間伐材(バイオマス)

森林資源が豊富な地域では、間伐材を用いた発電や熱供給が進む。国の「環境モデル都市」「バイオマス産業都市」にも選定された北海道下川町では、森林資源が町域の約88%を占め、伐採・製材で出る未利用材をバイオマス燃料として活用している。木質ボイラーは町内11基に及び、公共施設の熱エネルギー需要の約70%を賄っている。燃料費削減額は年間約3,800万円、CO₂排出量削減は年間約3,070トンに達した(2025年時点)。削減費用は子育て支援(医療費無料・給食費軽減)など地域貢献に充てられ、持続型地域づくりが進んでいる。新型コロナウイルス感染症の影響によるウッドショックで原木価格が高騰し、採算が悪化したため、2024年3月末に事業が一時中断。別会社への事業承継が進められ、2024年8月1日より事業を再開した。

温泉(地熱)

岐阜県高山市、奥飛騨温泉郷・中尾地区では2022年12月よりフラッシュ方式による本格的な地熱発電が取り組まれている。地下1,100〜1,500mに2本の井戸を掘削し、高温蒸気を利用して発電する仕組みである。「ダブル・フラッシュ方式」は地中から取り出した高圧蒸気と熱水の沸騰による低圧蒸気の2種を利用し、発電効率を約20%高める方式だ。1,998 kW(送電端)発電し、これは一般家庭約4,000世帯分に相当する。地熱資源と温泉文化を共存させる先駆的モデルであり、発電だけでなく地域に根ざした持続可能なエネルギー活用のあり方だ。

雪氷熱

豪雪地帯では、雪を「厄介者」ではなく「資源」として捉える発想が生まれている。雪氷熱とは、雪や氷が融ける時に吸収する熱(融解熱)を指す。氷から液体へ変わる際、温度が変わらなくても大量のエネルギーを吸収。この現象を利用して、冷房や空調、食品保存、融雪などに活用されている。実際、北海道倶知安町の学校や病院の冷房に雪氷熱が使われてるほか、円山動物園では、レッサーパンダのために簡易型の貯雪プールを設置し、断熱材や遮熱シートを用いた雪冷熱で館内を冷やしている。

小水力発電

長野県大町市では、NPO地域づくり工房の「くるくるエコプロジェクト」という、山間部や農業用水路を活かした小水力発電が取り組まれている。市内に張り巡らされた農業用水路を活かし、小規模な水力発電を実施することで、害獣避けの電柵や熱変換など、多様な用途で利用されている。環境負荷が小さく、地域住民の生活に直結するクリーンな電力を提供する。環境学習の場や地域資源の再発見を目指しており、水路の維持管理と発電事業が一体となり、地域活動の新しい形を生み出している。

廃棄うどんで発電

うどんの産地で知られる香川県は、廃棄されるうどんで作ったバイオガスから電気を生み出す「うどん発電」に成功している。バイオガスとは、微生物の餌となるうどんを与えることで分解される際に発生する、可燃性のメタンガスのことだ。燃えやすい気体のため、発電に利用できる。実は、香川県で破棄されるうどんは年間約3,000トンに及んでいる。水分を多く含む食品は焼却に大量の化石燃料を必要とするため、廃棄うどんを発電に活用することは化石燃料による発電の代替になり、また焼却時の温室効果ガス発生を抑えることにも貢献している。



小さなエネルギーならではの課題

一方で、小規模分散型エネルギーには課題も多い。まず、設備投資や維持管理に一定のコストがかかり、採算性を確保するには小規模自治体では負担が重いといえる。また自然相手であるため、環境にも左右される。雪氷熱は、雪不足の年は運用が厳しくなる。小水力発電は降水量や水位に左右されるため、年間通じて安定した発電が難しい場合がある。

さらに、地域住民の合意形成も大きなハードルとなる。森林や河川、温泉といった資源は地域全体の共有財産であり、活用方法について意見が分かれることも少なくない。そのため、透明性の高い運営や住民参加型の仕組みづくりが求められる。

ただし、これらの課題やリスク、運営コストも含めて地域に適した規模・方式などをエネルギー事業を通じて住民が議論し、協力し合うことで、新しいコミュニティの形が生まれていくといえるだろう。


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まとめ

ご当地エネルギーは、単に電気や熱を生み出すだけの存在ではない。地域に根付いた資源を活かすことで、文化や歴史、暮らしの知恵を再発見するきっかけとなり、その地域の人々のつながりを強める役割を果たしている。

「隠れた宝物」ともいえる地域資源をエネルギーとして灯すことは、持続可能な社会を築く上で重要な一歩である。それは地域の未来を明るく照らすとともに、日本全体のエネルギー自立と環境保全に貢献する。

地域ごとに異なる小さな挑戦が積み重なれば、大きな変化を生み出す力となる。まちの恵みを再び見直し、次世代へとつなげる取り組みこそが、地方を元気にし、未来を灯す道筋となるのである。

Edited by s.akiyoshi

参考サイト

自然エネルギー100%の村づくりへの挑戦 | 大潟村役場
もみ殻バイオマス地域熱供給プラントが日本初竣工 |Maintainable News |フェバリット株式会社
木質バイオマス熱利用のすすめ|水産林務部林務局林業木材課
奥飛騨温泉郷 中尾地熱発電所 | 株式会社シーエナジー | 中部電力グループ
『奥飛騨温泉郷 中尾地熱発電所』~温泉文化と地熱発電、共に助け合い繁栄する未来のために~ | 岐阜県中部山岳
雪氷熱利用|札幌市
国立公園小水力発電(川上ミニ水力発電所)|北アルプス地域振興局|長野県
大北地域(1村1自然エネルギープロジェクト取組事例)|長野県
たべものが電気に変身!? 香川県で行われているSDGsな「うどん発電」がスゴイ | 日本原子力文化財団

About the Writer
佑 立花

佑 立花

2018年よりWEBライターとして活動。地方創生やサステナビリティ、ウェルビーイング、ブロックチェーンなど幅広い分野に関心を持ち、暮らしに根ざした視点で執筆。現在は農家の夫と生まれたばかりの子どもと共に古民家で暮らし、子育てと仕事を両立しながら、持続可能な未来につながる情報発信を行っている。
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