
社会問題として広く知られている、世代間不均衡。これを是正し、持続可能な未来社会を実現しようという動きが強まっている。同時に、実現に必要な新たな制度的枠組みとして、未来世代法が世界的に注目を集めている。新たな枠組みはなぜ必要なのか、未来世代法とはどういうものか、世界の動きと併せて考察する。
未来世代を幸福にするという選択

気候変動、森林破壊、生態系の変化といった環境汚染や財政負担など、さまざまな問題が「未来世代へのつけ(負担)」として認識されるようになって久しい。これらは、現代を生きる世代の利益や便宜を優先してきたために引き起こされたといわれ、短期的視点で政策を決定してきたことに起因している。
短期的な視点で決定し事を進めてきたのは、企業経営においても大差はない。経営とは、混乱がなく穏やかで、誰もが幸福を感じられる理想的な未来社会を実現するために行う経済活動であると、筆者は師から学んだ。しかし実際、理想の未来社会を目指して経営を行う企業は少なく、経営コンサルタントとして長年ジレンマを感じてきた。
そんな折、国や行政機関の政策決定が未来世代の幸福につながるものかどうかをチェックし、長期的視点で持続可能な社会を目指すための未来世代法を知り、強い興味を抱いた。長期的視点に立った政策決定への取り組みは1900年代後半から始まっていたものの、一部の国や地域にとどまっていた。
だが近年、未来世代のための法的整備とそれに基づく制度設計を進める動きの加速とともに、短期的視点から長期的視点へと移行しつつある。未来世代のための法律や制度の整備は、社会をどのように変えていくのだろうか。
「未来世代法」という理念の輪郭

「未来世代法」は、部分最適に陥りがちな短期的視点による政策決定や意思決定のありかたを変え、長期的影響を考慮にいれた制度によって、未来世代の利益や権利を守る新たな枠組みだ。
環境問題が世界的にクローズアップされた1970年代から、長期的視点の重要性が認識されてはいたものの、短期的視点を前提とした社会システムを根本から見直すには至らなかった。その結果、現役世代の生活は便利で物質的に豊かなものになったが、深刻な環境問題や財政悪化などの諸問題をうみだし、その負担を未来世代が引き受けている。
このような世代間の不均衡を時間という軸を超えて是正し、未来世代の公正を実現するために現役世代が責任をもつという考えと意志のもと、作りあげられてきた。
未来世代とは誰か
未来世代(将来世代)とは誰かについての定義には、狭義と広義がある。文脈などによって異なる場合も多く、世代や年代などで明確に区別された定義はないともいわれている。
未来世代法における「未来世代」は、まだ生まれていない次の世代やその先の世代と、ミレニアル・Z世代やα世代をさす。これまでの社会システムによってうみだされた諸問題を、受け継ぐことになる世代ともいうことができる。
しかし彼らは同時に、これからの社会の中核を担い、公正な未来をつないでいく世代でもある。
世代間の不均衡
世代間の不均衡は、世代間格差、世代間不平等(Intergenerational inequality)ともいわれ、具体的には以下のようなことがあげられる
- 教育や雇用、資産、資源へのアクセスの機会
- 年金などの社会保障の受益分と、税金などの公的負担分
- 飲料水、農作物、水産物などの安全な食へのアクセス
日本では社会保障の不均衡がクローズアップされがちな側面があるが、経済格差によって、健康的で文化的な生活を送ることが難しい若年層も増えており、世代間連鎖が懸念されている。
世界に広がる未来世代法

新たな制度的枠組みである未来世代法の制定は、世界的な動きとして広がりをみせている。
比較的早くから、未来世代を考慮した制度設計に取り組んできた国もいくつかある。全てが順調に進んできたわけではないが、社会の変化に対応しながら試行錯誤を繰り返し、継続している国もある。その代表的なものを、以下に3つ紹介する。
フィンランド:未来のための委員会
1993年、北欧型福祉国家として知られるフィンランド共和国は、議会に未来委員会を設置。フィンランドの未来と科学技術政策に関するシンクタンクとして、現在も継続している。
委員会のミッションは、将来に関する主要な問題と機会について、議会と政府の対話を促進すること。政府の将来の目標に関する報告書に対する議会の回答作成、政府報告書や予算、予測プロジェクトに関する草案、さまざまな社会問題や技術開発に関する報告書を作成といった役割と、長期的視点にたった広範囲な規模の政策方針を策定、議題として決定できる役割を担っている。
ハンガリー:将来世代オンブズマン
中央ヨーロッパの内陸国ハンガリーには、将来世代の利益を保護するためのオンブズマンが存在する。行政機関の活動を市民目線で調査、監視し公正・中立な立場で改善を促す独立した第三者機関だ。将来世代の代弁者として法律の制定や改正の提案、専門家による協議や公開情報をもとにした政策執行状況の監視、想定されるリスクへの措置提案を行うことができる。
その前身は議会によって承認された議会コミッショナーだが、2011年の「農地・森林・飲料水・生物多様性・文化遺産は国民の共通遺産の一部であり、国家すべての個人は、これらを未来世代のために保護、維持、保全する義務を負う」という基本法制定に伴い、オンブズマンとして現在の体制へと移行し、活動を継続している。
マルタ:将来世代ガーディアン
シチリア島の南に位置する小さな島国マルタ共和国では、持続可能な開発法に基づき2012年に将来世代ガーディアンが設立された。
学際的な専門家グループとして、人権、性別、社会的背景に関わらず、マルタのすべての国民の幸福のために、健全で持続可能な環境を整備する政策とアイデアを推進、サポートをビジョンとして掲げ、具体的な開発戦略の策定、更新、改訂、及び進捗状況を測るための指標の開発、各分野の政策や計画の審査などを行っている。
その他、持続可能な開発に関する政策や取り組みについての情報を市民に提供し、関連イベントへの参加を促すといった啓発も、役割として担っている。
未来世代の幸福という共通軸を持つこと

これまで世界は、経済成長を最優先にまわってきた。あらゆることが数値で示され、対前年度をどのくらい上回ることができたか、どの市場がどのくらい伸びたかなど成長率を重視してきた。本来誰のものでもないはずの自然や、社会全体の調和、未来世代を考慮することなく、経済成長の名のもとに消費を続け、世代間不均衡を生み出した。
その状況を是正するため、2024年の国連未来サミットにおいて「未来のための協定」が採択され、持続可能な未来社会を実現という共通軸のもと、各国は連携を強固なものにする方向で動きだしている。この動きは今後さらに広がり、各国は共通の目的達成のための新たな制度的枠組み、つまり各国それぞれの未来世代法を整備することになるだろう。
未来世代が幸福を感じられる社会を実現するために、未来世代法の先進的な事例から学べることはとても多いのではないだろうか。世界の動き、各国の取り組みに、これからも注目していきたい。
Edited by c.lin
参考サイト
制度化で将来の人々を守る|社会システム領域|独立行政法人国立環境研究所
“将来世代”の声を聞き、社会の仕組みを変えていくために|国立研究開発法人国立環境研究所
岩井論文-未来世代への責任-街路研究会
大西貴之「将来世代に配慮する制度的デザインの可能性」|地域協働研究ジャーナル
ローカル正義・グローバル正義・世代間正義|立命館言語文化研究22巻第1号
国連未来サミット2024特集|公益財団法人地球環境戦略研究機構
Committee for the Future|EDUSKUNTA RIKSDAGEN
The Role Of the Ombudsman|OFFICE OF THE COMMISSIONER FOR FUNDAMENTAL RIGHTS
About Us-Sustainable Development|Sustainable Development.gov.mt
宇沢弘文「人間の経済」新潮新書,2017






















Satoyo S
大学時代は英文科に在籍していたものの、建築設計の道へと進み、結婚・出産を機に退職。その三年後にHR広告営業を経て、障害福祉事業所の運営、行政事業の執行に携わり、現在はコンサルタントとして独立。社会福祉法人の理事も兼務している。ウェルビーイング、地域文化、伝統食品、市民活動、市民政治をテーマに執筆。物事の背景を深く掘り下げることを得意とし、「誰もが互いの個性、価値観、気候風土が育んだ文化を認めあい共生できる社会」を目指している。
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