
都市開発に伴う建設廃棄物は年間8,000万トン超。この負の副産物を資源として活かす動きが加速している。建材情報をデジタル管理する「マテリアルパスポート」、分解・再利用を前提とした設計手法など欧州で実用化が進むこれらの仕組みが、日本でも本格始動しつつある。建築分野のサーキュラーエコノミーの今を追う。
都市開発が生む膨大な“副産物”

日本では、1950年代後半の高度経済成長期から大都市圏を中心に都市化が進められてきた。都市開発を行う目的は、「生活環境の向上」「防災・安全性の向上」「土地資産の有効活用」「経済活動の活性化」などの追求だ。さらに近年は、「エネルギー効率の向上」「少子高齢化への対応」「自然災害対策」「スマートシティ化」なども加わっている。
しかし都市開発には負の副産物がつきものだ。日本は、再開発や住宅更新のスピードが速く、都市開発の規模も大きい。恒常的に廃棄物を発生させる構造なのだ。
建設廃棄物の現状
環境省の資料「産業廃棄物の排出及び処理状況等(令和4年度実績)」によると、2022年度の全国の産業廃棄物総排出量は3億7,400万トンで、このうち8,024万トン(21.4%)が建設業由来だ。種類でも「がれき類」が6,185万トン(16.5%)で、「汚泥」「動物のふん尿」に続いて3番目に多い。
日本では、「廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)」や「建設リサイクル法(建設工事に伴う資材の再資源化等に関する法律)」において、特定建設資材には再資源化が義務付けられている。特に「建設リサイクル法」が本格施行された2002年以降、建設廃棄物の再資源化は大きく改善。再資源化・縮減率は、2000年度の84.8%から2018年度には97.2%に向上している(※1)。品目別では「アスファルト・コンクリート塊」が約99%で、ほぼ再資源化ができていると言える。
建設廃棄物の問題点
しかし注意すべきは、再資源化が義務付けられているのは床面積の合計が80m2以上の建築物を解体した際に発生する特定建設廃棄物ということ。特定建設資材とはコンクリートや木材、アスファルト・コンクリートなどの4品目のみだ。また複数の建材が混ざっている混合建設廃棄物の場合は、サーマルリサイクルも行われている。リサイクル率は高くても、厳密には資源が再利用されていないケースが隠れているのだ。
さらに近年は、物流や保管にかかるコストが増大している上、人手不足など社会構造上の困難にも直面している。都市で排出される建設廃棄物は市町村域を超えて運搬・処分されていたり、不法投棄の問題もある。
こうした課題にどう対応するか明確な解決策が確立されないまま都市開発は進み、負の副産物は生成され続けているのだ。
欧州が進める建材の循環モデルとマテリアルパスポート

都市開発と建設廃棄物の問題が浮上したのは1980年代後半のこと。各国でその対策が進められ、単なる環境問題対策としてではなく、建設業界全体のサーキュラーエコノミーへの移行に向けた取り組みも開発されている。代表的なのが「マテリアルパスポート(MP)」と「デザイン・フォー・デコンストラクション(DfD)」だ。
マテリアルパスポート
「マテリアルパスポート(Material Passport)」とは、再利用や再資源化を容易にするために建材の情報をデジタルで一元管理する仕組みだ。コンクリートや鉄、木材、ガラス、プラスチックなど、建築物に使用する「材料の見える化」とも言える。
2015年以降にヨーロッパで実用化が進められており、特にオランダでは政府が導入を推進。アムステルダムの「サークルビル(The Circl Building)」では、使用したすべての建材情報をデジタル化した上、再利用を前提に部材を分解できるように設計された。
日本でも、国土交通省が「建設リサイクル推進計画2020」で建材情報のデジタル管理に言及。民間では、竹中工務店の「サーキュラー建材検索システム」、NTTコミュニケーションズなどによる「金属スクラップ・建設廃材資源循環プラットフォーム」、大成建設の「日本版建設物資源循環データプラットフォーム」などの試験運用・実証実験が始まっている。
さらにEUでは、マテリアルパスポートを発展させた「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」の導入も進められている。製品の原材料調達から製造プロセス、リサイクルまでの情報をデジタルで管理・共有する仕組みだ。
デザイン・フォー・デコンストラクション(DfD)
「デザイン・フォー・デコンストラクション(DfD)」とは日本語では分解設計と呼ばれ、解体や再利用を前提に部材を容易に分離できる設計手法のこと。2000年代初期に研究が始まり、2020年代以降はマテリアルパスポートと同様にサーキュラーエコノミーの中核的な概念となっている。
具体的には、「接合部の可逆性の確保」「標準化された部材の使用」「解体手順の明確化」などを考慮したもので、マテリアルパスポートの活用が含まれるのが一般的だ。
2025年10月には東京・日本橋に、分解・移築可能な都市木造新築ビル「prewood」が完成。「分解のための設計(DfD)」と「生産のための設計(DfMA)」を組み合わせた画期的な建造物として注目を集めている。
都市を循環させるためには

国土交通省の「我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)」によると、木造建築物も多い日本では建物の平均寿命(滅失住宅の平均築後年数)は32.1年。アメリカの66.6年、イギリスの80.6年に比べると明らかに短い。こうした中で、建設現場から大量に廃棄物が発生し、搬送や焼却処分時のCO₂排出のほか、粉塵や有害ガスによる大気汚染につながっている。
しかし現代社会において、都市開発は避けられない側面もある。相反しているように見える都市開発と環境への配慮をともに実現させる鍵となっているのが、建材を循環させる仕組みだ。先進地はヨーロッパだが、日本も体制を整えつつある。今後本格稼働すれば、都市開発による負の副産物が活用され、サーキュラーエコノミーの実現にもつながる。
国土交通省では、こうした新しい取り組みを構築するため「建設DX/ICT人材育成」に向けた体制づくりも進めている。都市を循環させる仕組みの構築は目の前だ。
Edited by k.fukuda
注解・参考サイト
注解
※1 環境省「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」
参考サイト
ce|経済産業省
令和7年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書|環境省
令和5年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書|環境省























倉岡 広之明
雑誌記者として活動した後、フリーライターとして独立。さまざまなジャンルの記事を執筆しているが、北海道で生まれ育ったこともあり、自然環境や気候変動、SDGs、エネルギー問題への関心が深い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史など、多岐にわたるテーマを手がけている。
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