ラムサール条約を知る。再注目される湿地の危機と保全

国際的に重要な湿地を保全・活用するために設けられた「ラムサール条約」。2025年7月には福島県の猪苗代湖が登録され、日本国内の登録湿地は54カ所・166,134ヘクタールとなっている。森林よりも速い速度で消失されており、重要性が再度注目を集めている湿地について、重要な役割や消失している理由なども解説する。

ラムサール条約とは

ラムサール条約とは、1971年2月2日に採択された、湿地に関する国際条約である。正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」で、通称「ラムサール条約」は開催地イラン・ラムサールに由来する。

条約の目的は、開発などによる国際的に重要な湿地とそこに生息・生育する動植物の保全を促進することにある。締約国は少なくとも1カ所の湿地を指定し、「ラムサール条約湿地」として事務局に登録する。そのうえで、適正利用と保全(ワイズユース)の計画を策定し、実施することが義務付けられている。

1980年の第1回(COP1、イタリア・カリャリ)以降、締約国会議は3〜4年ごとに開催されている。直近では2025年7月、ジンバブエ共和国ヴィクトリアフォールズで第15回締約国会議(COP15)が行われ、福島県の猪苗代湖が登録された。

2025年8月時点で締約国は173カ国、登録湿地は2,544か所にのぼり、総面積は257,994,488ヘクタールとなっている。締約国は、国連加盟国のおよそ9割を占める。

「ラムサール条約」の事務局の任務は「国際自然保護連合(IUCN)」が担い、ユネスコが寄託者に指定されている。


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ラムサール条約による湿地の定義

ラムサール条約による湿地の定義は以下になる。

「湿地とは、天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず、更には水が滞っているか流れているか、淡水であるか汽水であるか鹹水(海水)であるかを問わず、沼沢地、湿原、泥炭地又は水域をいい、低潮時における水深が6メートルを超えない海域を含む。」(注1)

湿原や湖沼のほか、ダム湖や河川、水田、干潟、サンゴ礁なども含まれる。

ラムサール条約への日本の加入

日本は、1980年6月17日に加入書をユネスコに寄託し、同年10月17日に効力が発生。日本の第1号湿地は、北海道の釧路市、釧路町、標茶町、鶴居村にまたがる釧路湿原。なお釧路湿原自体は22,000ヘクタールで日本最大の湿原だが、ラムサール条約に登録されているのはそのうち7,863ヘクタール。1993年には、第5回締約国会議が釧路市で開催されている。

また、1996年の第6回締約国会議で創設された「ラムサール賞」は、日本人中村玲子氏など3人が受賞している。第12回締約国会議(2015年)では「湿地都市認証制度」が開始され、日本からは新潟県新潟市と鹿児島県出水市が第14回締約国会議(2022年)で、第64回常設委員会(2025 年)で愛知県名古屋市が認証を受けている。

日本国内のラムサール条約湿地

2025年7月に福島県の猪苗代湖が加わり、日本の条約湿地は54カ所・166,134ヘクタールとなった。

下記が日本国内のラムサール条約湿地の一覧表だ。

 (表は筆者作成)

日本での登録条件は、以下の3つ。(注2)

・国際的に重要な湿地であること(国際的な基準のうちいずれかに該当すること)
・国の法律(自然公園法、鳥獣保護管理法など)により、将来にわたって、自然環境の保全が図られること
・地元住民などから登録への賛意が得られること

2000年以降、登録の機運が高まり、2005年11月8日開催の第9回締約国会議では20カ所、2012年7月3日開催の第11回締約国会議では9カ所がラムサール条約湿地に登録されている。

2025年9月時点で最も多いのは北海道の13カ所。沖縄県が5カ所、宮城県が4カ所と続く。一方、秋田県や大阪府、京都府、岡山県、愛媛県、福岡県、長崎県などが0カ所だ。

湿地の役割

湿地はその特有の環境から、動植物の生息・生育の場となっている。生物多様性の保全に欠かせない存在だ。具体的にどのような役割を果たしているのか以下の表を見てみよう。

 (表は筆者作成)

失われる湿地とその影響

湿地は人類や生物、地球環境に重要だが、減少が進んでいる。1900年に比べると世界の湿地の64%、1700年代に比べると87%が消失したとされる。森林消失の3倍の速さである。

特に内陸の湿地は、沿岸部の湿地よりも早い速度で消失している。そのため、生態系への影響も大きく、過去50年間で、内陸湿地種の81%、沿岸・海洋種の36%が減少している。

『世界湿地概況』は、総湿地面積を15~16億ヘクタールと推定している。(注3)


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湿地が失われる理由

湿地は、水抜きや埋め立てによる転用で失われる。以下はその具体的な理由だ。

・川の流域や沿岸部におけるインフラ開発
・農地や放牧地などへの変換
・ダムや水路、運河などによる水の流れの改変
・大気汚染や水質汚濁のほか、過剰な栄養分の流入、など

これらは、湿地の重要性が十分に理解されていないことが根底にある。

湿地が消失することによる影響

湿地の消失は、次のような影響を及ぼす。

・湿地が減少することで二酸化炭素が放出され、気候変動を加速させる。それに伴い、洪水などの災害リスクが増大する。
・生物の生息地が縮小することで、種が絶滅の危機に直面する。湿地に生息する種の約4分の1が絶滅の危機にある。種の絶滅・減少により、生態系に変化が起きるのも避けられない。
・生物が生きていく上で必要な淡水が減少する。現在でも水不足に悩まされる地域は多く、水資源を奪い合う水戦争が世界各地で起きているが、これらの深刻度がより増すと考えられる。
・湿地の消失、それに伴う生態系の変化によって病原体やそれを媒介する生物の行動も変わる。それに伴い、感染症などの流行が発生するリスクが高まる。


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湿地の保護と再生のために

湿地の保護や再生のために、日本国内で行われている代表的な活動を紹介する。

「日本の重要湿地500」

環境省では、生物多様性の保全に向けて湿地を保全することを目的に「日本の重要湿地500」を2001年度に選定している。保護区の設定や開発案件における保全上の配慮を促す基礎資料として活用され、湿地の保全を推進する役割を果たしている。

2016年度に見直しが行われ、現在は633湿地が選定され、保全活動に活用されている。

ラムサール条約湿地は、この「日本の重要湿地500」の中から環境省を中心に専門家による検討を経て候補地を選定している。

日本湿地ネットワーク(JAWAN)

日本湿地ネットワーク(JAWAN)とは、日本各地の湿地保護団体によるネットワーク組織。ラムサール条約の推進や、湿地・干潟の保護や回復のための活動のほか、国際的な湿地保護運動の支援なども行なっている。

各地の自然保護団体を紹介しているほか、3カ月に1度程度、「JAWAN通信」の発行で各団体の活動をリポートしている。


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湿地を守るためにできること

地球上の生物あるいは地球にとって湿地は重要な役割を果たしている。二酸化炭素を吸収し環境悪化を防いでいるほか、人類に食糧や安全な飲み水を提供するなど、なくてはならない存在だ。

しかし、いきすぎた商業主義などによるインフラ開発や都市化、農地への転換などで世界中の湿地が減少。その速度は森林の3倍とも言われる。

一人ひとりの行動は小さくても、ゴミのポイ捨てや積極的なリサイクル、節水行動など湿地の豊かさを守る方法はある。

また、湿地について興味を抱くこと、知ることも重要だ。そして、知り得た情報を知人に広めることで大きな輪になっていくはずだ。今一度、近くの池や湖、沿岸など、豊かな湿地を守るために意識を変えていきたい。

2021年には、国連総会が毎年2月2日を「世界湿地の日」と定める決議を採択。湿地を守ることは私たちの生活を守ることであると改めて認識したい。

Edited by c.lin

注解・参考サイト

注解
注1 ラムサール条約第1条1、外務省「ラムサール条約」より引用。
注2 環境省「ラムサール条約と条約湿地」より引用。
注3 『世界湿地概況 2021 特別版』p.15より。

参考サイト
日本の重要湿地|環境省
ラムサール条約と条約湿地|環境省
湿地のグリーンウェイブ2024|ラムサール・ネットワーク日本
湿地と水:その現状|環境省
ラムサール条約|外務省

About the Writer
倉岡

倉岡 広之明

雑誌記者として活動した後、フリーライターとして独立。さまざまなジャンルの記事を執筆しているが、北海道で生まれ育ったこともあり、自然環境や気候変動、SDGs、エネルギー問題への関心が深い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史など、多岐にわたるテーマを手がけている。
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