「使い捨て」に抗う400年の知恵 。 能登半島で継がれる修理文化

使い捨て文化に対抗するように、輪島塗は何世代にもわたり使い継がれてきた。1975年に伝統的工芸品に指定された日本を代表する漆器だ。江戸時代に誕生した輪島塗は、丈夫なつくりと修理を前提とした構造によって、長く使い継がれている。輪島塗の「なおしもん(修理文化)」を通じて、ゼロウェイストな暮らしのヒントを探る。

400年続く「なおしもん」の哲学。使い捨てに抗う輪島塗の思想

大量消費社会の現代では、プラスチック製品を中心に、年間数億個もの使い捨て容器が廃棄されている。製品が壊れたり古くなった場合でも、修理より買い替えのほうが効率的で安価なため、「ものを大切に使う」意識は希薄になっている。

こうした潮流とは対照的に、輪島塗は、修理を重ねながら人々の暮らしの中で使い継がれてきた。親から子、孫へと受け継がれ、一生使える器として親しまれている。国の重要無形文化財にも指定され、近年ではアメリカ大統領への贈答品にも選ばれるなど、国内外で高く評価されている。

輪島塗の最大の特徴は、優美な加飾と精巧なつくり、そして、欠けても割れても修理によって再生できる耐久性にある。この修理文化は、ゼロウェイストサーキュラーエコノミーの思想を先取りする存在だと言える。

現地では、漆器の修理は「なおしもん」と呼ばれ、400年にわたって受け継がれてきた。かつて塗師屋(ぬしや)は、漆器を売った宿場町を毎年訪れ、傷んだ器を回収して修理し、翌年また届けるという活動を行っていた。これは、器を長く使ってもらうための職人の工夫であり、輪島塗が全国に広まるきっかけの一つともなった。

“一生もの”とも称される輪島塗は、専門の職人による分業制によって、124もの工程を経て作られる。木地づくり、下地、塗り、加飾などの各工程には、修理や再塗装を前提とした設計思想が組み込まれている。たとえば木地は、1年近く乾燥させて変形やひび割れを防ぎ、下地づくりでは欠けやすい部分に布を貼る「布着せ」を行う。さらに、地元で採れる珪藻土を焼いた「地の粉」と漆を組み合わせることで、丈夫な塗膜が形成される。

一方で、石油由来の樹脂を用いた使い捨て容器は、金型による成形などわずか数工程で大量に生産される。修理や再利用は想定されておらず、一度使えば廃棄される。輪島塗は、使うほどに艶が増し、修理を経るごとに愛着が深まっていく。「なおしもん」の文化は、モノを“育てて使う”という視点を私たちに教えてくれる。


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森と海が育む修理文化。能登の生態系に根ざした循環型ものづくり

輪島塗に欠かせないのが、器の土台となる木材、下地に使われる珪藻土、そして「生きる塗料」とも呼ばれる漆だ。とりわけ、小峰山で採取される高純度の珪藻土を粉末化した「輪島地の粉」は、輪島の自然環境と生物多様性が生み出した独自の資源であり、江戸時代から変わらず受け継がれてきた。地元の森から調達される木材と、国産の漆、地域特有の地の粉を用い、輪島塗は現在も輪島市内でのみ製造されている。

輪島塗の修理文化を支えてきたのは、道具や技術だけではない。漆掻きや木材の育成、珪藻土の採取といった営みを通じて、自然とともに生きる地域の暮らしそのものが、循環型ものづくりの土台となっている。たとえば漆は、ウルシの樹皮に傷をつけ、時間をかけて少しずつ樹液を掻き取る「漆掻き」という技法で採取される。樹木に負担をかけすぎないよう、1本の木から取れる漆の量はごくわずか。漆林を守るためには、持続的な植樹と森林管理が欠かせない。

木地に使われるケヤキやアテ(アスナロ)も同様だ。成長には長い年月を要し、適切な間伐や山の手入れが木材の品質を左右する。地元の森林と共生する知恵が、長持ちする器の素材を育んできた。輪島塗の素材は、すべて自然と人との間にある緩やかな共生関係の中で得られてきたものだ。森や海、山の恵みを受け取りながら、同時にその環境を守るという循環の意識が、輪島塗の修理文化を400年にわたって支えてきたのだ。

自然環境の保全と工芸の持続可能性は、決して切り離せない関係にある。自然環境の保全には、単に手つかずの自然を残すだけでなく、農業や林業など人の営みによって維持される環境も不可欠である。2011年に「世界農業遺産」に認定された能登の里山里海は、そのような持続的な共生関係の好例と言える。



修理文化に託す復興への力

2024年の能登半島地震、そして続く奥能登豪雨により、地域は甚大な被害を受けた。今もなお、現地では復興に向けた支援と取り組みが続いている。

そんな中、注目されているのが「観光による復興支援」だ。観光客が能登の観光可能エリアを訪れ、地元のものを買い、体験し、話を聞くことは、経済的支援のみならず、地域の人々の心を支える励みにもなっている。職人の技を直接見たり、実際に輪島塗制作の一部を体験できる工房もあり、現地のものづくりの精神や、修理を通じて長く使う価値観に触れられる貴重な機会となっている。

多くの塗師屋や職人たちは、被災しながらも道具を拾い集め、漆を塗り、少しずつ準備を進めながら制作を再開している。その姿勢は、まさに輪島塗の「なおしもん」文化を体現するもの。傷んだ器を直し、もう一度大切に使う――その精神は、失われた日常を少しずつ取り戻していく復興の歩みにも通じている。

壊れたものを捨てるのではなく、直しながら共に生きる。自然とともに育まれてきたこの土地の文化は、震災という大きな困難に直面してもなお、力強く未来を見据えている。能登を訪れることは、文化を知るだけでなく、その再生の現場を見つめ、共に歩むことでもある。ひとつの器が修理されて蘇るように、能登の暮らしもまた、未来へと続く再生に向けた歩みを進めている。

Edited by k.fukuda

参考サイト

輪島塗|文化財オンライン
輪島塗の修復について|わじま龍作
もっと知りたい・輪島塗とは|輪島漆器大雅堂
輪島塗の作り方〜124におよぶ独自の漆器製造工程|輪島塗 田谷漆器店
第1部 第2章 第1節 (2)消費と資源についての動き|消費者庁
生物多様性が育む輪島塗ブランド ~トレーサビリティで持続可能な地域としての復興を~|日本経済研究所
能登半島地震 被災地の今 人手不足や人口減少 心のケアも 復興への課題は|NHK防災
【輪島塗とは】復興への希望を紡ぐ~能登で歩む人々にインタビュー~(輪島漆器商工業協同組合 松本 石根さん)|石川県観光公式サイト

About the Writer

ともちん

大学で英文学を学び、小売・教育・製造業界を経てフリーライターに。留学や欧州ひとり旅を通じて「丁寧な暮らし」と「日本文化の価値」に触れ、その魅力を再認識。旅や地方創生、芸術、ライフスタイル分野に興味あり。言葉を通して、自尊心と幸福感を育めるような社会の実現に貢献することを目指している。
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