
人は定住するもの──その前提のもとで都市は設計されてきた。しかし近年、気候変動や災害、感染症などの危機が重なり、その前提は揺らいでいる。いま都市に求められるのは、守りきる強さではなく、壊れても続くしなやかさだ。制度の主語になりにくかった移動する人々に注目し、人の流動性から都市のレジリエンスを考える。
都市の強さは、定住を前提にしてきた

日本の都市計画法は1919年に制定され、高度経済成長期による人口集中や無秩序な開発に対応するため1968年に新都市計画法に切り替えられた。この際の前提は、人は同じ場所に家族で住み続け、近隣の職場に通うという「定住型ライフスタイル」だ。当然のように「どこに住む」「どこで働く」「どこで消費する」を念頭に、住宅地や商業地、工業地といったように都市は用途地域によってゾーニングされた。
道路や上下水道などのインフラ整備や土地利用に関わる都市計画が、10年単位の時間軸で設定されてきた背景には、インフラの特性に加え、人は同じ場所に住み続け、人口は大きく変動しないという定住型モデルの前提があった。居住地は大きく変わらず、人口が安定的に推移することが想定されていたのだ。
定住型モデルが直面する変化
こうしたインフラを中心とした都市強化モデルは、複数の社会的変化や突発的なショックによって、その前提そのものが揺らいでいる。人口減少や少子高齢化といういわゆる「平時の危機」に加え、東日本大震災をはじめとする自然災害の発生、猛暑などの異常気象の常態化、さらには感染症パンデミックによって、移動や対面活動を前提とした都市機能が部分的に麻痺したことも挙げられる。
こうした変化やショックが重なったことで、連鎖的かつ長期化する危機に対しては、インフラの強化だけでは十分に対応できないことが明らかになった。特に人口や企業が集積する大都市では、予見しにくい変化や未知の脅威が、経済や社会、環境、組織といった複数の領域に同時に影響を及ぼしやすい。
そこで注目されるようになったのが、人や関係性を中心に据えた都市のレジリエンスという考え方だ。インフラによって「強固に守る」のではなく、人々の行動能力やつながり(ソーシャルキャピタル)によって「しなやかに回復する」ことを前提とする発想である。設備の強さよりも、「その場にいる人が動く」「人同士がつながる」ことが回復の源になる。
この視点に立てば、都市を支えるのは定住者だけではない。通勤・通学者、観光客、関係人口など、移動する人々も都市の回復力を高める重要な担い手となりうる。関わる人が多様であるほど、回復の経路は増え、スピードや質も高まる。つまり、人の流動性は都市を脆弱にするのではなく、むしろ都市を強化する可能性を持つ。
労働・ケア・文化を支える、移動する人の存在

そもそも移動する人々は、都市の発展をあらゆる角度から支えている。代表的なのが労働力だ。日本の多くの産業は、海外からの労働者や非正規雇用など、移動を前提とした人々によって成り立っている。近年、スポットワークやギグワーク、ノマドワークといった働き方が定着したことも、移動する人によって産業が支えられている一つの表れだろう。
また、都市におけるケアの領域でも、移動する人々の存在は欠かせない。特に孤立しやすい高齢者や子育て世代の多い都市部では、血縁者ではなく、訪問介護やベビーシッター、家事代行といったケア労働者が生活を支えている。その多くは、特定の地域に定住せず、複数の場所を行き来する人々である。
さらに、多様性と持続性という観点から見ても、移動する人々は都市の発展を下支えしている。人の出入りがあることで古い慣習が固定化しにくくなり、新しいネットワークや関係性が生まれやすくなるからだ。さまざまな人が行き交うことで、文化や芸術・娯楽、スキルや技術、生活様式や価値観が持ち込まれ、都市の新陳代謝は保たれる。
昼はオフィス街、夜は飲食街、平日はビジネスの場、週末は観光地。移動する人々の存在によって、都市はその時々に求められる役割を柔軟に切り替えながら、多層的な機能を備えていくのである。
人の流動性を、都市の力に変えるには

インフラを中心に構築されてきた都市では、都市政策や行政サービスの主な対象は定住者である。「住民登録している」「納税している」といった条件を満たすことで、政策に組み込まれ、行政サービスを受ける資格が与えられてきた。一方で、短期滞在者や二拠点居住者、通勤・通学者、観光客、関係人口などは、その場に存在しているのにも関わらず、制度の外に置かれがちだ。
こうした二分法は、行政運営の合理性という側面を持つ一方で、現代の生活実態とはずれ始めている。仕事や教育、ケア、コミュニティは、定住地以外の複数の場所と重なり合っており、「定住」と「非定住」で人を切り分ける設計は、都市の実像を十分に捉えきれていない。
「排除」や「管理」から、「受け止める」制度へ
このずれは、レジリエンスの観点から見ると看過できない。災害時に重要なのは、「できる人が、できることを、すぐに行う」ことだ。しかし住民か否かという線引きが前面に出ることで、その場にいる人が制度上の対象外とされ、回復の可能性が狭められることもある。
そこで重要になるのが、移動する非定住の人々も含めて都市に組み込む制度設計である。人が出入りし、時に留まることを前提とした環境を整えることで、移動する人は負担ではなく、都市の力へと転換される。
だからこそ、移動する非定住の人々も含めて都市に組み込む制度設計が求められる。人が出入りし、ときに留まることを前提に、公共空間や学び、ケアへのアクセスを段階的に開いていく。そうした環境が整えば、移動する人は管理すべき存在ではなく、都市の回復力を支える担い手へと変わる。
日本は世界有数の地震大国であり、猛暑や豪雨といった気候変化も日常化しつつある。生活基盤をいかに早く、柔軟に取り戻せるか。その鍵は、インフラの強さだけでなく、人の流動性を前提に「受け止める」都市のあり方にある。都市がしなやかに回復するとはどういうことか、改めて問い直す必要があるだろう。
Edited by k.fukuda
参考サイト
レジリエントな都市|OECD
100 のレジリエント・シティ アジェンダセッティング(課題設定)・ワークショップ|京都市
【提言】人口減少社会における地域レジリエンスの実現に向けて|三菱創業研究所






















倉岡 広之明
雑誌記者として活動した後、フリーライターとして独立。さまざまなジャンルの記事を執筆しているが、北海道で生まれ育ったこともあり、自然環境や気候変動、SDGs、エネルギー問題への関心が深い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史など、多岐にわたるテーマを手がけている。
( この人が書いた記事の一覧 )