ステレオタイプとは・意味
ステレオタイプとは、ジェンダーや人種、職業などカテゴリー別に分類された集団に対して多くの人が持つ、固定観念や思い込み、先入観などを指す。
ギリシャ語で「固い・固定する」を意味するSteroと「印象・特徴」を意味するTypeが組み合わさった単語が語源となっている。18世紀には「型を用いて印刷されたかのように同じもの」を表していた。そして、型があることで同じものを印刷できることから、国や民族、ジェンダーなどの集団に対して「型にはまった考え方や固定観念を持つ」と言った意味へと変化していった。
ステレオタイプがあることで、抽象的な問いに対して素早くイメージを醸成することができる。たとえば、「アメリカ人はどんな性格か」と問われたとき、「アメリカ人はフレンドリーだ」といった意見が頻出する。このイメージはすべてのアメリカ人にあてはまるものではないが、「アメリカ人」という特定のグループに対してもつ先入観を全体のものとして見た結果といえる。
ステレオタイプが生まれる理由

ステレオタイプは、素早く情報処理を行うために人類が備え持つ機能である。かつて私たちの祖先が狩猟を行っていたころ、生死に関わる判断を瞬時に行わなければならなかった。そのため、他者をカテゴリー化することで、情報処理を単純化する必要があったのだ。
「むこうにライオンがいる。危ない。逃げろ」
このように、「ライオン=危険な存在」というステレオタイプをもつことで、瞬時に判断をくだし、生存の確率を高める選択を日々行っていた。
もしも、「むこうにライオンがいる。でも、あのライオンは穏やかな顔をしているから、自分たちを襲わないかもしれない。もう少し様子を見てみよう」という具合に、個別の情報を吟味していては、その間に命を奪われてしまう可能性があったのだ。
こうしたステレオタイプは、現在でも人類に備わっており、日常生活では、大量のデータを効率的に処理することなどに役立つ。たとえば、バスの中で妊婦さんを見かけると、その人に席を譲ることがある。これは、他者を見た目でカテゴリー化することで、適切な行動を素早く決定している。また、人は未知のものに不安を感じるため、人種やジェンダーなどさまざまな分類に基づいて他者を判断することで、その不安を軽減することにも寄与する。
このように、他者をカテゴリー化して見ることで、情報処理のスピードを高めたり、未知なるものへの不安や恐怖心を軽減するために人類に備わる機能であるステレオタイプは、情報を迅速に判断するには便利であるものの、同時に個々の特性を無視してしまうという弊害もある。
ステレオタイプの類義語
ここでは、ステレオタイプと類似した言葉を説明する。
アンコンシャスバイアス
アンコンシャスバイアスとは「無意識の思い込み」のことであり、自分では気づいていないものの見方を指す。ステレオタイプと同様に、人類が長い歴史の中で備えた生存可能性を高めるための認知機能だ。特定のグループに対するイメージを過度に単純化したステレオタイプは、このアンコンシャスバイアスの一種とされている。
日常におけるアンコンシャスバイアスの例としては「雑用や飲み会の幹事は若手の仕事である」「血液型で人の性格を想像してしまう」といったものがある。
他にも、アンコンシャスバイアスの種類として、正常バイアス(事態が通常通りに進行するという前提に基づく思考)、確証バイアス(自分の既存の信念や仮説を支持する情報を信じる)、同調バイアス(周囲の意見や行動に合わせることで、自分の意見や行動を変化させる)などが存在する。
つまり、アンコンシャスバイアスは、ステレオタイプを含むあらゆる偏見を包括する概念と言える。
差別
差別は、ステレオタイプをもとに特定の個人や集団をネガティブに扱う行為や態度を指す。
たとえば、職場において、重要プロジェクトには中堅社員以上しか配属されない事態が起こったとする。これは「若い社員は経験が不足している」という一方的な固定観念から、若手社員を差別している例である。このように、差別は社会的な不平等を生むネガティブなものである。
一方、ステレオタイプは、固定観念や信念を指すが、必ずしもネガティブなわけではない。
たとえば「女性は細やかな配慮ができる」という考えは、ある特定の属性に対する思い込みであるが、常に悪い作用をもたらすわけではない。しかし、この思い込みに基づいて、本人の意思を考慮せずに女性の職場での仕事がサポート的な役割に限定されると、それは差別となり得る。つまり、ステレオタイプは固定観念であり、差別はそれに基づく不公平な扱いということだ。
ステレオタイプの具体例

ここでは、ステレオタイプの代表例を紹介する。
まず、ステレオタイプを理解するための例として、社会心理学の教材としても使われる「ドクタースミス問題(The Surgeon Riddle)」を考えてみてほしい。
ドクター・スミスは、コロラド州立病院で働く優秀な外科医です。彼は仕事中、常に冷静で大胆な判断を下し、細心の注意を払います。そのため、州知事からも信頼を得ています。ある夜、ドクター・スミスが夜勤中に緊急の電話がかかってきました。交通事故の負傷者が搬送されるので、手術をお願いしたいとのことでした。父親と息子がドライブ中に道路から谷に転落し、車が大破。父親は即死、息子は重傷と救急隊員が説明しました。20分後、重傷の息子が病院に運ばれてきました。その顔を見たドクター・スミスは驚きの声を上げ、呆然としました。その子供はドクター・スミスの息子だったのです。さて、交通事故に遭った父子とドクター・スミスの関係は?
この問いをされると、多くの人が「ドクター・スミスは離婚し、息子には新しい父親がいる。亡くなったのは新しい父親だ」というように答える。しかし実際には、「ドクター・スミスは亡くなった父親の奥さんだ」という可能性もあるだろう。この問題には正解はない。しかし、亡くなった父親とドクターは夫婦だというシンプルな関係を見つけられず、多くの人が「ドクター・スミスは男性だ」という先入観を無意識のうちに持ってしまうという結果が出たのだ。
このように、ステレオタイプは身近な場所に多く存在している。以下では、カテゴリー別にいくつかの例を紹介する。
血液型
血液型は世界的に見ると注目されないものの、日本では血液型による性格の違いがよく話題に挙げられる。
- A型は几帳面で神経質
- O型はフレンドリーでおおざっぱ
国籍
国籍による思い込みは、テレビや音楽、または国際的な交流をする中で形成されることが多く、相手の国籍を知ると、その国に対する固定観念に基づいて性格や行動を予測することがある。
- アメリカ人は自己主張が強く、独立心が旺盛
- フランス人はロマンチックでおしゃれ
地域
特に日本では、地域ごとの性格や特性についてよく話題になる。
- 関西人はおしゃべりでユーモアがある
- 関東人はクールで礼儀正しい
見た目
容姿や服装、体型などからその人の性格や特性を予測してしまう場合がある。また、外見だけでその人の内面や能力を評価するため、誤解を生む可能性がある。
- メガネをかけている人は賢くて真面目
- 筋肉質な人はスポーツが得意で自信に満ちている
ステレオタイプのネガティブな影響
ステレオタイプは、人や社会にさまざまなネガティブな影響を与える可能性がある。
「ステレオタイプ脅威」をもたらす
ステレオタイプ脅威とは、性別や人種といった自己のアイデンティティに基づくネガティブな考えに対し、自分がそれに該当しないことを証明しようと過度に意識することで、集中力の低下やミスが生じる現象である。たとえば「女性は数学が苦手」というステレオタイプを払拭しようと意識する女性が、実際に数学のテストでミスをするケースがある。
脅威にさらされることで、一時的なパフォーマンスの低下だけでなく、将来的に自身の成長を妨げることもある。さらに、元々高いスキルを持つ人においても、新しい環境で集団の中の少数派となると、自分の実力を証明しようとするプレッシャーが強まり、ストレスが増してモチベーションの維持が困難になることもある。
偏見や差別を引き起こす
先ほど説明した通り、他人に対するステレオタイプに個人の価値観や優劣の考え方が加わると、特定の個人を排除したり避けたりする偏見や差別が生まれることがある。現代社会は情報が溢れており、メディアやSNSなどから多くのデータを得られる。しかし、人は、情報を多く受け取れば受け取るほど、自分のステレオタイプに依存するようになるのだ。データの正確性を確かめずに情報をうのみにしてしまうことで、新たな偏見や差別が生じることを認識しなければならない。
ステレオタイプのメリット
ステレオタイプはネガティブなものだと認識しがちであるが、メリットも存在する。「ステレオタイプ」という言葉を生み出したアメリカのジャーナリストで政治評論家でもあるウォルター・リップマンは自身の著書の中で、「ステレオタイプは、情報を効率よく理解するためのパターン化されたイメージである」と述べている。
つまり、情報が溢れる現代社会において、ステレオタイプによって「必要」と「不要」にカテゴリー化することで、脳がデータ処理を簡単に行えるというメリットがあるのだ。そうすることで、脳の負担を減らしつつ次の行動を素早く行えるといわれている。
ステレオタイプを避ける方法
これまで述べてきたように、ステレオタイプは差別などの問題を引き起こすきっかけとなりうる。そのため、以下のように不要な固定観念や思い込みを避ける方法を身につけることも大切だ。
無意識な思い込みを認識する
まずは、自分が固定観念を持っていることを認識することが重要だ。ステレオタイプは、無意識のうちに知識として刷り込まれていることが多い。そのため、自分自身も何らかのステレオタイプを持っている可能性があることを自覚し、自分の発言や思考が差別にならないか常に注意を払うことが大切である。
複数の情報を確認する
現代では、テレビやSNSなどさまざまな媒体から情報が得られる。しかし、それらのデータをうのみにすると、根拠のない思い込みをする可能性がある。そのため、たとえばネットで得た情報を書籍で改めて確認するなど複数の媒体を活用して情報収集することがおすすめだ。何種類もの情報を確認することで、さまざまな見方や解釈の仕方があることを学べ、間違ったステレオタイプを持つことを避けられる。
人と話す
誰かと話すこともステレオタイプを避けるための方法の一つである。限られたメディアに頼って知識を得ていると、考えが狭くなり、偏った先入観を持つ原因となる。しかし、人と会話することで、自分が正しいと思っていた事実や認識のずれに気づく機会となり得る。
まとめ
ステレオタイプは、私たちが無意識に持っていることも多く、生活のあらゆるところに潜んでいる。情報を素早く処理するのに役立つ一方で、偏見や差別、ステレオ脅威などをもたらすリスクもあり、他者との衝突やコミュニケーションの不和につながる可能性もある。
ステレオタイプをもっていることが人間にとっては正常であることを認識したうえで、個別の事象を過度に一般化しすぎていないか、また、ステレオタイプ通りに振舞うことを他者に強要していないか、こういったことを意識していくことで誰かを苦しめることを防げるかもしれない。
【参考記事】
偏見や差別を生む「ステレオタイプ」はなぜつくられるのか──『印象の心理学』|じんぶん堂
インターネット接触が職業におけるジェンダー・ステレオタイプに及ぼす影響|東京学芸大学リポジトリ
マイクロアグレッションと ステレオタイプ|東京人権啓発企業連絡会
偏見の心理学|日本心理学会
ステレオタイプ脅威に負けないために~ナラティブで人生のストーリーをポジティブに再構築する|insource
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