
大阪府泉佐野市の「こども朝食堂」は、学習意欲や体力の向上、居場所づくり、子どもの貧困対策などを目的に、小学校にて朝ごはんを提供する事業だ。2025年中に市立小学校全校へ広げる計画を掲げ、行政・地域・NPOが連携しながら持続可能な仕組みを模索している。本記事では、泉佐野市の取り組みや子ども朝食堂の意義について解説する。
泉佐野市の新たな取り組み「こども朝食堂」

大阪府泉佐野市では、市立小学校に通う希望者を対象に、朝食を週2回無償で提供する「こども朝食堂」を展開している。現在は市内13校のうち12校で実施されており、2025年中には全校に拡大される予定だ。
学校単位ではなく自治体が主導している点が大きな特徴であり、市は2025年度予算に9,703万円を計上した。物価高騰のなか、家庭の経済的負担を軽減する子育て支援の側面も担っている。
導入された小学校の一つでは、家庭科室を会場に朝食堂が開かれ、子どもたちの楽しげな声が響いている。ある日は「わかめおにぎりと豚汁」が提供され、朝早くから仕込みを行うスタッフが温かく迎え入れた。
初日には予想を超える50人もの子どもが集まり、しっかり朝食をとってから元気に教室に向かう姿が見られた。朝食堂を支えるのは、市から事業を受託したNPO法人と地域の人材だ。行政と地域の協力により、子どもの育ちを支える場が継続的に提供されている。
2校から始まった取り組み
この事業の出発点は2022年に開かれた市のタウンミーティングだった。小学生の登校を見守る市民から「朝ごはんを食べていないようで、元気のない子がいる。支援できないだろうか」という声が寄せられ、市は検討を重ねた。
翌2023年2~3月に市内2校で朝食を週2回提供する実証実験として行った結果、実施校において全児童の約2割が利用し、予想以上の需要があることが明らかになった。本格導入が始まった小学校では、児童の約15%が利用する例もあるなど盛況を見せている。
朝ごはんを食べない理由
市の実証実験では、一定数の子どもが朝食を欠いている実態が明らかになった。実証実験中に利用した児童を対象としたアンケートの結果では、朝食をとっていないとする回答の割合は約2割。これは、文部科学省の2025年度「全国学力・学習状況調査」の結果
である6.4%(※)より高い。
朝食を欠く理由としては、「起きるのが遅い」「食欲がない」という回答が多かったが、「親が仕事で用意できない」という家庭事情も一定数確認されている。
※2025年度「全国学力・学習状況調査」で「朝食を毎日食べていますか」に対する小学生の回答「あまりしていない 4.8%」「全くしていない 1.6%」の合計
【学習への影響】午前中の活動を左右する栄養とエネルギー

朝食は、午前中に活動するために必要なエネルギーや栄養素を補う重要な役割を果たす。睡眠中にもエネルギーが消費され、新陳代謝にも栄養素が利用されるため、朝には体内のエネルギーが不足している状態となる。
特に脳で利用されるエネルギー源のブドウ糖は、肝臓に蓄えられている量が約12時間分しかなく、朝食を欠食すると前日の夕食から昼食までの間、補給が途絶えることになる。
起きてから昼食までの間、脳のはたらきを維持し集中力と意欲をもって学習に取り組むには、エネルギー源を体内に取りいれることが不可欠だ。朝食によって脳や身体に必要な栄養素を補給することは、集中力や思考力、体力維持に直結する。
調査結果にみる朝食の重要性
文部科学省「全国学力・学習状況調査」の結果からも、朝食と学力の関連が確認されている。
小学6年生の国語では、毎日朝食をとる子どもの正答率は65.6%であるのに対し、全くとらない子は45.3%。算数でも、朝食をとる子は68.1%、とらない子は51.6%と大きな差があり、朝食が学習成果に影響を与える可能性が示されている。
また、スポーツ庁「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」では、毎日朝食をとる小学5年生の体力合計点は男子で54.1点、女子で55.9点(58点満点)であり、食べない子ども(男子50.0点、女子52.6点)より高い傾向が見られた。
泉佐野市の取り組みにおいても、朝食習慣の定着による学力・体力の向上が期待される。
社会に広がる朝食支援の事例
朝食支援の取り組みは小学校だけではない。神奈川県教育委員会は、県立高校で朝食習慣がない高校生に対して朝食提供を行っている。また、全国の大学でも、後援会や大学生協の支援で「100円朝食」を提供する例が多くある。
さらに、企業においてもYahoo、伊藤忠、LINEなどが社員に無料朝食を提供している。こうした事例は、生産性の向上という面からも、朝食の重要性についての認識が広がっていることを示している。
【居場所としての機能】「朝の小1の壁」解消

こども朝食堂を導入した学校では、異なる学年の子どもたちが交流しながら朝の時間を楽しむ様子が見られる。子どもたちからは「友達と食べると楽しい」「エネルギーが湧いてくる」といった声が聞かれる。
朝食の場が単に食事を提供するだけでなく、子どもたちの学校生活への前向きなスタートに貢献していることがうかがえる。家庭の経済状況などに関わらず、どの子も利用できるスタイルによって、誰もが引け目を感じることなく利用できる点も重要だ。
こども朝食堂は、食事の提供だけでなく、子どもたちが安心して過ごせる居場所としての機能を担っている。特に注目されているのが「朝の小1の壁」への対応である。
保育所は朝7時から開所する一方で、小学校は8時前後まで校門が開かず、子どもが見守りを受けられない時間が生じる。この時間、子どもが一人で自宅に残されたり、校門前で待機したりする状況を生み、保護者にとって大きな不安要因となってきた。
こども朝食堂は、子どもが一人きりにならず安心して始業までの時間を過ごす場となるほか、保護者の就労継続を支える重要な役割を果たす。共働き世帯が増加し、頼れる親族が近くにいない家族が増える現状で、地域での子育て支援が求められるなか、こども朝食堂が果たす「居場所」としての役割も注目されている。
【子どもの貧困対策】食事提供を超えた社会的セーフティネット

「こども朝食堂」は、朝食を通して子どもたちが安心できる居場所を提供するとともに、子どもの貧困対策としての効果も期待されている。国民生活基礎調査によると、相対的貧困の状態にある子どもの割合は11.5%で、特にひとり親世帯では44.5%と高い。
ひとり親世帯では、食料が買えなかった経験が21.1%、衣服が買えなかった経験が19.0%と、子どもがいる全世帯(それぞれ12.1%、13.8%)よりも高い。経済的な制約が、子どもの生活に直結していることがうかがえる。こども朝食堂は、こうした家庭を直接的に支援できるほか、支援を必要としている家庭を早期に把握し、公的なサポートにつなげる入り口となる可能性もある。
学習意欲を向上させ、安心できる居場所を提供するとともに、相対的貧困や小1の壁といった社会的課題への対策にもつながる「こども朝食堂」。泉佐野市の例は、自治体が主導して予算を確保し、NPOや地域人材と連携して実施する仕組みとして、モデルケースとなるだろう。
一方、教職員の長時間労働や教育以外での負担が増えるなか、場所を提供する学校側の負担も無視できない。課題に対応しながら、地域に合わせた持続可能な運営が全国各地で実現するよう期待したい。
Edited by k.fukuda
参考サイト
大阪府泉佐野市 市立小学校で朝食を無償提供 「こども朝食堂」取組ご紹介 | SN見聞録
大阪府泉佐野市、小学校で無料朝ごはん 習慣づけで子育て支援|日本経済新聞
家庭での食育の推進|農林水産省
県立高校における朝食提供事業の実施|神奈川県ホームページ
我が国におけるこどもをめぐる状況|子ども家庭庁
【Q&A】小学1年生の親子が直面する「朝の小1の壁」詳しく解説 | NHK
生活と支え合いに関する調査 結果の概要|国立社会保障・人口問題研究所
























曽我部 倫子
大学で環境問題について広く学び、行政やNPOにて業務経験を積むなかで環境教育に長く携わる。1級子ども環境管理士と保育士の資格をもち、未就学児や保護者を対象に自然体験を提供。またWebライターとして、環境、サステナブル、エシカル、GXなどのテーマを中心に執筆している。三姉妹の母。
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