地域に彩りをもたらす「こうのすフラワーロード」 市民参加型で花のまちづくりを推進 vol.6【埼玉県鴻巣市】

市民による花の植栽活動
市民の方々が花の植栽を行う様子 提供:鴻巣市

高齢者の孤独・孤立が深刻な社会課題のひとつとして浮き彫りになっている。

世界全体の人口が増加する一方で、多くの先進国が直面している少子高齢化問題。日本も例外ではなく、2025年を迎えた今年は人口の約18%が75歳以上になり、2060年には65歳以上の人口は全体の約40%になると試算される。決して止まらない少子高齢化により、現行の社会保障制度の維持が困難になることや労働人口の不足による経済の停滞など、多くの社会課題に直面しているなか、高齢者の社会的孤立も全国的に問題視されている。

そうしたなか埼玉県鴻巣市では、シニア層が多く活躍する市民ボランティアと協働で、「花のまち」としてのシティプロモーションを積極的に進めている。その一環として、2021年度から「こうのすフラワーロード」を開始した。今回は、この取り組みを推進する商工観光課の菅原さん、福本さん、近藤さんに、地元産の花を活用した市民協働のまちづくりについてお話を伺った。

vol.3 【埼玉県鴻巣市】地域に彩りをもたらす「こうのすフラワーロード」 市民参加型で花のまちづくりを推進
商工観光課の福本さん、近藤さん

80年の歴史「花のまち・鴻巣」 地域に彩りと誇りをもたらす花き産業

埼玉県のほぼ中央に位置する鴻巣市は、都心へのアクセスが良好なことから、高度経済成長期以降は典型的なベッドタウンとしての役割を忠実に担ってきた。また県内で唯一の運転免許センターがあるため、埼玉県民には「免許センターのまち」として広く認知されている。

そんな質実剛健な印象もある鴻巣市。実は、東日本最大級の花市場を有するなど花の一大生産地としても名高く、その歴史は80年近くに及ぶという。

福本さん「戦後間もない1948年に、鴻巣市の花生産は始まりました。市内の寺谷地区で地域の気候風土に適した花としてパンジーの生産を開始したことが、花生産のきっかけになっています。パンジーは冬の寒さに強い品種で、秋口に植え付けを行い春に花を咲かせることが特徴の花です。

鴻巣市の名産・パンジー
パンジーから始まった鴻巣市の花き生産。市の花にも指定されている 出典:埼玉県

1953年には花き生産者が17件に増加し、東京オリンピックが開催された1964年にはパンジー生産が全盛期を迎えました。その後、徐々に生産品種を増やし、プリムラ、サルビア、マリーゴールドは日本一の生産を誇るほど拡大しています。現在は約150の事業者が花き生産に携わり、花壇用の苗ものを中心として年間5,000品種以上の花が生産されています」

菅原さん「鴻巣では、花に関連するイベントがいくつもあります。4月にはボランティアの方々によって植えられた色とりどりのチューリップが咲き誇る「花のオアシスフェア チューリップまつり」、5月には今年で15回目になる「こうのす花まつり」が開催され、毎年市内外から多くの来場客が訪れます。こうのす花まつりでは、荒川河川敷のポピー畑や鴻巣オープンガーデン「花の環」会員宅が公開している「鴻巣オープンガーデン」を回ることで、花のまち鴻巣を存分に楽しむことができます。

花まつりの様子
こうのす花まつりの様子。麦なでしこが一面に咲く 提供:鴻巣市

また、市役所内でも花と緑に関連する施策は多く、令和6年度は各課で合計44件の取り組みがあります。例えば、転入・結婚した方に対する花の引換券の贈呈や、幼保施設に花を植える取り組みなどがこれまでに実施されています」

鴻巣市では、長年花き生産が地域の重要な産業として位置づけられており、市民や行政も含めて地域全体で「花のまち」としてのプライドをもつ。産地内市場である「鴻巣フラワーセンター」は、東日本最大級の規模を誇り、年間を通じて活発に取引が行われる。花き産業は鴻巣を語るうえで欠かせないものなのだ。

花市場での競りの様子
鴻巣フラワーセンターで毎週月水金に開催される競りの様子。平均70~80名が参加する 提供:鴻巣市
花市場「こうのすフラワーせ市場「鴻巣フラワーセンター」の様子
産地内市場の特徴をもつ鴻巣フラワーセンターでは、年間2000種類ほどが流通する 提供:鴻巣市

花いっぱいのまちづくり。市民と創る「こうのすフラワーロード」 

地域全体で花のまちを築く鴻巣市では、行政も積極的に花関連の施策を打ち出しているが、「こうのすフラワーロード」の活動が始まったきっかけはどのようなものだったのだろうか。

菅原さん「鴻巣市では平成17年の市町村合併の際に、『花かおり 緑あふれ 人輝くまち こうのす』という将来都市像を定めました。コロナ禍の際、改めてこの将来都市像を実現しようと、令和2年12月『花と緑の都市』を宣言し、令和3年度から新たなプロジェクト『花と緑の魅力あるまち創造プロジェクト』が開始。その一環として『こうのすフラワーロード』の取り組みが始まりました」

鴻巣フラワーロード
総合体育館入口交差点から埼玉県警察運転免許センターまでの道路脇は種々の花で彩られている 提供:鴻巣市

近藤さん「こうのすフラワーロードの取り組みでは、例年春と秋の年2回、市民ボランティアや市内の学生の皆さんで、毎回200基のプランターに花を植えていただいております。またハンギングバスケット(※)も制作しておりますが、地植えに比べて空間を活かして色々な種類の花を組み合わせることができるため、より華やかな印象になります。季節ごとに植える花は異なっていますが、全て鴻巣産のものです。花の調達や植え方等の講師は市内のNPO法人に委託していますが、ハンギングバスケットや草花のノウハウが豊富で、長年にわたって花のまちづくり事業に貢献いただいております。また、市の花のボランティア団体である「フラワーフレンズ」会員の方にもいつもご協力いただいており、市としては大変ありがたい存在です。いつも参加してくださる市民ボランティアの方もおり、こうのすフラワーロードの活動を楽しみにしてくださっています」

※プランターや鉢植えなど、地面に置く従来の園芸スタイルに対して、空間を利用し、吊るしたり掛けたりして植物を育て楽しむスタイルのガーデニング

フラワーロードの作業風景
市民ボランティアの協力のもと、200基のプランターに花を植える 提供:鴻巣市

菅原さん「この活動の一番の目的は、運転免許センター等に来場される方々に対して鴻巣市をPRすることです。免許センターには、県内全域から1日あたり約2,000人、年間60万人ほどの人が訪れるので、『花のまち』を多くの人にPRできる好機として捉えています」

福本さん「免許センターに年間を通して県内全域からの来場があるという点は、他の市町村にはない大きな強みです。こうのすフラワーロード開始前は、鴻巣駅から免許センターまでの道に花による装飾があまりなく、そのチャンスをなかなか活かせていませんでしたが、現在は市民の方と一緒に創りあげた花装飾を多くの方に見てもらうことができています。この活動を通じて、少しずつ『花のまち こうのす』というイメージが浸透しているのではないでしょうか」

花がつなぐ地域コミュニティ。鴻巣の昼を照らす存在として

継続的に実施している花を活用したシティプロモーションは、鴻巣市のブランディングに寄与しているだけでなく、地域コミュニティの活性化にも効果をもたらしている。鴻巣市の昼夜人口比率(※)は、81.06%と低く、通学や通勤で若年層を中心に多くの市民が市外に出ていることを示している。だが、そうした状況でも鴻巣市の昼は明るい。そこには、花を介した市民同士のコミュニティづくりがあり、市でもそれを後押しする体制がある。

※夜間人口100人当たりの昼間人口の比率

福本さん「花のコミュニティづくりとして、市民団体の方々が市内の公共施設や地元の公園などで花の植栽や管理を行う際に、活動経費の3分の2以内で補助金を交付しています。町内会のメンバー同士や近所のグループの活動も対象です。行政だけでは、花の活動を広げるにも限界はあるので、市民の方々の間で自主的にコミュニティの輪が広がっていくことと併せて、市内に花の植栽が広まっていくことも期待しています」

菅原さん「『自分たちの地域を花で彩りたい』という活動をサポートする事業ということです。私たちは観光の部署なので、主に人が集まるところをターゲットにしています。そのため、市内の住宅地まで手が届かないという現実があるのですが、そのような場所も市民の方の取り組みでカバーできています。鴻巣市が花のまちということを認知している市民の方は多く、普段から花に親しんでいる方も多いです。このような取り組みを積み重ねることで、地域コミュニティが活発になると同時に、花を見る機会や花に触れる機会も増えていくはずです」

市民による花の植栽活動
市民同士の交流や学びの場としても機能している 提供:鴻巣市

近藤さん「こうのすフラワーロードの活動も、すでに参加していただいた方の口コミで広がっていくことも多く、市民の方の自発的な活動のきっかけになっていると感じています。参加者にはシニア世代の方も多いので、市民コミュニティとしての大切な役割も果たしているのではないでしょうか」

福本さん「こうのすフラワーロードに何度も参加されている方もおり、参加者のウェルビーイングにもつながっていると思います。また、講師の方からハンギングバスケットの制作方法を教えてもらえたり、維持管理のノウハウに関する指導を受けることができる点も好評です」

菅原さん「比較的シニア世代の方が多い印象ですが、親子で参加される方もいます。子どもと一緒に土に触れることは、情操教育としてもいいですし、『やりがいがある』『親子で一緒にたのしめる』というお声もあり、幅広い世代に満足していただいていることを実感しています」

フラワーロードの作業風景
こうのすフラワーロードの作業風景。ボランティアをしながら、花に関する知識などを学べる 提供:鴻巣市

これからも続く、市民協働の花のまちづくり

地域の一大産業である花は、住民同士のコミュニティ形成においても、いまや必要不可欠なものとなっている。この先はどのようなムーブメントになるのだろうか。最後に、今後の展望について伺った。

菅原さん「私たちが進めているのは、『花を活用した市民協働のまちづくり』です。労力や費用がかかりますが、この活動を継続することが大切だと思っています。そのためには、より多くの世代にボランティアとして協力していただきたいです。こうのすフラワーロードを見た市民の方に花に対する興味をもっていただいて、新たに参加する方が増えたらいいですね。ただ一方で、少ない人数で効率よくできるような体制を整えることも市としては必要になります。夏季は熱中症の危険性が高まるので、『花より、体調』ということで作業を中断しなければならないこともありますが、可能な限り市内を1年中花でいっぱいにしたいと思います。そのために『花のまち』としての景観を維持できるよう日々取り組んでいます。今後も、シティプロモーションの一環として、また鴻巣産の新鮮な草花を活かす地産地消の取り組みとして、市民協働で活動を推進したいです」

「花のまち こうのす」の地産地消を活かした市民協働によるまちの景観づくりが、ますます加速していきそうだ。

取材後記

鴻巣市の花生産はパンジーから始まった。パンジーは、紫、黄色、オレンジ、赤、白などさまざまな色合いが特徴的な花だ。そして、冬の寒さに耐え、春先に美しい小さな花を咲かせる。鴻巣市の花に関する取り組みは、まさにパンジーに象徴される。

地球温暖化をはじめとする気候変動や人口構造の大きな変化、地域コミュニティの希薄化や孤独・孤立の問題。課題先進国と呼ばれる日本では数多の社会課題がさまよっているなか、鴻巣の優しいパンジー革命は進行している。

花の普遍的な美しさが、行政と市民、市民と市民、訪問者と地元民など、すべてをつなげているのかもしれない。近隣の小学校でも「花装飾をもう少しがんばってみようかな」という話があるという。

冬を越す強さと、春を待つにこやかさ。鴻巣市の「パンジー革命」から目が離せない。

Edited by k.fukuda

参考サイト

こうのすフラワーロード|鴻巣市
花と緑の都市宣言|鴻巣市
第3節 地域における高齢者の「出番」と「活躍」~社会的孤立を超えて地域の支え手に~|内閣府

About the Writer
Kie Fukuda

k.fukuda

大学で国際コミュニケーション学を専攻。これまで世界60か国をバックパッカーとして旅してきた。多様な価値観や考え方に触れ、固定観念を持たないように心がけている。関心のあるテーマは、ウェルビーイング、地方創生、多様性、食。趣味は、旅、サッカー観戦、読書、ウクレレ。この人が書いた記事の一覧

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