
ポリティカルコレクトネスとは
ポリティカルコレクトネスとは、差別的な表現や行動を排除し、すべての人が尊重される社会を目指す考え方である。略して「ポリコレ」や「PC」とも呼ばれ、人種・性別・宗教・性的指向・身体的特徴など、あらゆる多様性を尊重し、差別や偏見をなくすことを目標としている。
ポリコレの重要性は、ソーシャルインクルージョンを高め、マイノリティが不当な扱いを受けないようにすることである。ジェンダーニュートラルな言葉を使用したり、ステレオタイプに基づく表現を避けたりすることが代表例だ。この考え方は1960年代から70年代にかけて米国で広まり、現在では世界中で認知されている。
ポリコレの真の目的は、多様性を認め合い、誰もが安心して暮らせる社会を実現することである。多様な背景を持つ人々が対等に尊重される社会を築くための手段として、注目されている。
キャンセルカルチャーとの違い
キャンセルカルチャーとは、差別的な言動や不適切な発言を行った人物を公然と批判し、社会的に排除する行為を指す。ポリコレがすべての人々が尊重される社会を目指すのに対し、キャンセルカルチャーは不適切な行動を強く非難し、許容できないと判断された行為を取り締まることに焦点を当てている点で異なる。
キャンセルカルチャーは、SNSの普及とともに拡大しており、時には言論の自由を制限するという批判もある。ポリコレは、包括的で寛容な社会を築くための取り組みであり、キャンセルカルチャーはその中での不適切な行動を是正するための手段として位置付けられている。
ポリコレの具体例

ポリコレの概念が広がるにつれて、さまざまな場面で表現の見直しが行われている。以下では、ポリコレに基づく具体例を挙げて説明する。
性別における配慮
1999年以前、日本の児童福祉施設では「保母」という呼称が使われていた。しかし、男女共同参画社会基本法の施行により、男性職員の増加が見込まれ、「保母」は「保育士」という性別を問わない呼称に変更された。
他にも「看護婦」は「看護師」に、「カメラマン」は「フォトグラファー」に改められ、性別を特定しない表現が浸透している。また、敬称においても「ちゃん」「くん」から「さん」への統一が進んでいる。職業や日常の言葉遣いがより多様性を尊重するものとなっているのだ。
人種・民族における配慮
歴史的背景から、アメリカ先住民は「インディアン」と呼ばれていたが、この呼称は蔑称とされ、現在では「ネイティブ・アメリカン」と改められている。同様に、「黒人」という呼称に代わり、「アフリカ系アメリカ人」という表現が用いられるようになった。
しかし、これにも限界があり、自分のアイデンティティを完全に表現できないと感じる人もいる。人種や民族に関する配慮は、言葉に深い意味が込められていることを尊重することが求められている。
宗教における配慮
宗教に関する表現や行動もまた、他者への配慮が必要である。例えば、特定の宗教を侮辱するような言動は避けるべきであり、多様な信仰を尊重する姿勢が大切だ。
宗教と政治が絡む場合には特に注意が必要であり、信仰の自由と他者への配慮を両立させることが求められている。また、宗教的な行事や習慣に関する理解を深めることで、異なる背景を持つ人々との共生が進む。相互理解と尊重をもって、多文化共生社会の実現を目指すことが重要である。
性的指向・性自認における配慮
近年、アンケートや履歴書などで性別の選択肢に「その他」や「無回答」が加わり、性的指向や性自認に対する配慮が進んでいる。特に、トランスジェンダーの人々が自分の性自認に基づいた生活を送りやすくするための施策が重要視されている。
また、性的指向に関する誤解や偏見をなくし、多様な性を尊重する社会の実現が求められている。
障がい・病気における配慮
かつて、「障がい者」という言葉には「害」や「碍」という漢字が使われていたが、差別的な印象を避けるためにひらがな表記が一般的になっている。さらに「痴呆症」は「認知症」、「精神分裂病」は「統合失調症」と名称が変更され、病名に対する偏見を減らす努力がなされている。
注目される背景
ポリコレが注目される背景は、社会の多様性を尊重し、差別や偏見をなくすための努力が重要視されるようになったことにある。ジェンダーギャップの解消やマイノリティの権利擁護が進む中で、フェミニズムやLGBTQ+の権利を巡る議論が活発化し、広告やメディアの表現にも影響を与えている。
さらに、「SDGs(持続可能な開発目標)」の一環として、ジェンダー平等や不平等の撤廃が求められており、ポリコレの重要性が一層高まっている。こうした背景から、ポリコレは人々が互いに尊重し合い、差別のない社会を実現するための手段として注目されているのである。
ポリコレが社会にもたらすポジティブな影響
すべての人が尊重される社会を目指すポリコレの姿勢は、社会全体にポジティブな影響を与えている。ここでは、その代表として以下の3つに言及する。
多様性が促進される
ポリコレの重要な役割の一つは、社会における多様性を促進することである。異なる背景を持つ人々が互いに尊重し合うことにより、社会はより包摂的なものとなる。
例えば、企業が多様な人材を積極的に採用することで、異なる視点やアイディアが生まれ、イノベーションが促進される。また、学校教育において多文化教育が導入されることで、子どもたちが早い段階から多様性の大切さを学び、将来的にはより寛容で理解のある社会が築かれることが期待される。
マイノリティを尊重する
ポリコレの実践により、マイノリティの人々が尊重される社会が築かれる。これには、性的少数者(LGBTQ+)・障がい者・外国人などが含まれる。
例えば、企業や公共施設において、LGBTQ+の従業員が安心して働ける環境づくりが進められることで、彼らのパフォーマンスが向上し、社会全体の生産性も向上する。マイノリティが尊重されることで、社会全体がより公正で包摂的なものとなる。
不平等が是正される
ポリコレの推進によって、不平等が是正されることも大きなメリットである。例えば、ジェンダーギャップの解消が進むことで、女性がより多くの機会を得られるようになる。これにより、女性の社会進出が促進され、経済の活性化にもつながる。
また、賃金格差の是正により、同じ仕事をしているにもかかわらず異なる報酬を受けるといった不平等がなくなる。このような取り組みを通じて、社会全体がより公平で公正なものとなり、誰もが自分の能力を最大限に発揮できる環境が整えられるのである。
過度なポリコレによって生じる問題

社会にポジティブな影響を与える一方で、多様性を尊重するという本来の目的から逸脱し、ポリコレの推進が逆に問題を引き起こすことがある。ここでは、ポリコレが問題視される理由について紹介する。
「表現の自由」が脅かされる
過度なポリコレは、表現の自由を脅かす問題を引き起こすことがある。例えば、特定の表現や意見が「差別的」とされることで、創作者が自らの作品に込めるメッセージを制約される場合があるのだ。芸術や文学における創造性が失われ、作品がつまらなくなるとの指摘もある。
また、過去の文章や映像がSNSで出回り、それをわざわざ現代の基準に照らして問題視する人も少なくない。ポリコレは本来、差別や偏見をなくすためのものであるが、行き過ぎることで逆に多様な意見や表現の場を狭めてしまうことが懸念される。
映画やアニメの原作改編
行き過ぎたポリコレの影響は、映画やアニメの原作改編にも現れる。原作に描かれたキャラクターやストーリーが、現代のポリコレ基準に合わせて改変されることで、作品の本来の魅力やメッセージが損なわれることがある。
例えば、特定のキャラクターの性別や人種が変更されたり、物語の重要な要素が削除されたりするケースも見受けられる。ファンが原作の魅力を感じられなくなり、作品への低評価にもつながりかねない。ポリコレの配慮は重要であるが、表現の自由や創造性を阻害するだけでなく、文化や芸術の多様性をも損なう可能性がある。
ポリコレに対応する企業の事例
企業のポリコレへの対応は、社会全体の多様性を尊重し、差別や偏見をなくす取り組みの一環として重要な役割を果たしている。ここでは、企業がポリコレにどのように対応しているのかを紹介する。
JALの機内・空港アナウンス
JALは2020年10月から、機内や空港のアナウンスで使用されていた「レディース・アンド・ジェントルメン」という表現を、「オール・パッセンジャーズ」や「エブリワン」など性別を特定しない言葉に変更した。この変更は、同社が掲げる「ダイバーシティ宣言」の一環であり、ジェンダーに左右されず多様な人々が利用しやすい環境を整えるための取り組みである。
JALは性別に関する無意識の偏見を排除し、誰もが平等に扱われる空間を提供することを目指している。利用者からも高い評価を得ており、航空業界における多様性尊重の模範となっている。
三菱鉛筆株式会社の「うすだいだい」
三菱鉛筆は、色鉛筆の「はだいろ」という呼称を「うすだいだい」に変更した。これは、人の肌の色に対する固定観念を与える可能性があるとの指摘を受け、2000年9月から実施されたものである。
この変更により、肌色に対する多様な認識を尊重し、差別や偏見のない社会の実現を目指している。市場の混乱を避けるために、他の文房具メーカーとも協調して行われた。
花王の「美白表記の撤廃」
花王は、2021年3月から全ブランドのスキンケア商品・化粧品において「美白」という表現を使用しないことを決定した。この背景には、黒人差別への抗議運動があり、肌の色による優劣を示唆する表現を避けるための措置である。
同社は、新商品の発売やリニューアルの際に「美白」や「ホワイトニング」ではなく、「ブライトニング」など中立的な表現に変更している。また、ファンデーションの色を表現する際の「標準」という言葉も見直され、多様な肌色に対応するため、色調のバリエーションが従来の倍に増やされた。
まとめ
DEIに関する議論が世界的に活発になるなど、多様な価値観の共存を図る動きが随所で見られている。そのような状況において、ポリコレは多様性実現のひとつの解として位置づけられている。従来は無意識的に使用されてきた言葉の見直しなどが企業などでもさかんに行われているのだ。
ただ、過度な動きは「逆差別」と捉えられることもあり、ポリコレをはじめ多様性や包摂性にかかわる取り組みのレベルは社会全体で絶えず調整が行われている。
私たち個人においては、概念の「ちょうどよさ」を探る動きにはまるのではなく、まずは多様性や包摂性が叫ばれるようになった背景にある個別の事例を知ることや身の回りの非多様性に気付くことに注力するのもよいのではないか。
参考記事
日本航空、「レディース&ジェントルメン」のアナウンス廃止へ|BBC NEWS JAPAN
はだいろがなくなった|三菱鉛筆株式会社
花王、「美白」表現を撤廃 人種の多様性議論に配慮|日本経済新聞
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