クィア(Queer)とは?
クィアという言葉は一般的に、従来の4つのカテゴリーに含まれない性的マイノリティすべてを指すために使われている。従来のカテゴリーとは、LGBTの4文字で表されてきた、レズ・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーのことだ。この4文字が表しているのは身体的性とは異なる性的指向を持つ人(LGB)と、身体的性と内面の性が異なる人(T)に限られていた。
しかし、その4つのうちどれにも分類されないセクシュアリティもある。また、自分自身のセクシュアリティが分からない人や、日によって変わる人もいる。そういった人々によって、クィアという表現が使われてきた。
また、言葉の定義は個人や時代によって柔軟に変化している。実際に、LGBTのいずれかであっても自らをクィアだと説明する人もいる。「従来のカテゴリーに含まれないセクシュアリティ」という定義は、あくまで広く使われている概念に過ぎない。
クィアという言葉の広まりは、従来のLGBTに留まらない、より多様なセクシュアリティを認めて包括していこうとする姿勢の表れともいえる。
クィアの語源とは
現在は、性の多様性を認めるための言葉となっている「クィア」だが、ネガティブな意味で使われていた時期もある。英語圏では「奇妙な」「風変わりな」という意味を持つこの言葉が、性的マイノリティの人々を指す言葉として使用されはじめたのは、19世紀頃だ。性的マイノリティの人々を軽んじるような使われ方をしていた例も残っていれば、性的マイノリティの人々が自らを肯定するために使用していた例も残っている。
しかし1990年代に、「ゲイ」「レズビアン」そして「LGBT」という言葉が広く使われるようになる。これらの言葉が性的マイノリティの人々を尊重する意味合いも込めて使われていたためか、反対にクィアには嘲りの意図を混ぜて使われる傾向が強まった。
このため、世間にはクィアという言葉の使用を控えていこうという動きが生まれた。それでも、現在はセクシュアリティを表す言葉のひとつとして広く受け入れられているのは、一部のクィアの活動家たちによる運動が並行して行われていたからだ。その活動家たちは、クィアという言葉で自らを表現しようと、中立的かつポジティブな意味合いに再定義して活用するようになった。
このように、クィアの意味は時代と共に変化してきた。
また、第三者が性的マイノリティの人を指すために使用する言葉ではなく、あくまで「自分はクィアである」と思う人が、自らのアイデンティティを示すために使う言葉だ。
現在クィアは、本来の「奇妙な」「風変わりな」という誰かを揶揄するための言葉ではなく、より多様なセクシュアリティを包括し認めるために使用されている傾向にある。
クィア以外の、さまざまなセクシュアリティを指す言葉

現在はLGBTとクィア以外にも、様々なセクシュアリティをあらわす言葉が存在している。
その言葉と意味を紹介していく。クィアは4つのカテゴリーに含まれない様々なセクシュアリティを包括的に含む言葉であることから、ここで紹介するセクシュアリティはクィアの一部として捉えることも可能だ。
しかし、その人がどんなセクシュアリティであるかを可視化もしくは数値化できる基準があるわけではない。その人のアイデンティティを「クィア」という言葉で表現するかどうかは、本人の意向による。
クエスチョ二ングとは
クエスチョ二ングとは、自分のセクシュアリティを意図的に決めていない人、決められない状態にある人、自分のセクシュアリティが定まっていない人だ。
クエスチョ二ング(Questioning)という言葉の通り、自らのセクシュアリティに疑問や問いを投げかけている状態だといわれている。
LGBTや他のセクシュアリティに分類することもできるかもしれないが、クエスチョ二ングの人のなかには、自分のセクシュアリティがどのカテゴリーに当てはまるか分からなかったり、他にも同じ性の状態の人がいるかさえ不明だと感じている人もいる。一方で、分かっているか否かに関わらず、あえてカテゴリーに分類しないことを選んでいる人もいる。
また、LGBTQのQはクィアだけではなく、クエスチョ二ングを意味する場合もあるが言葉の定義は異なる。
クィアは従来のカテゴリーに含まれない様々なセクシュアリティを包括する言葉で、クエスチョ二ングはセクシュアリティが定まっていない状態を指す言葉だ。
Xジェンダーとは
Xジェンダーとは、自分の性自認が男性か女性か明確に定まっていない人を表す言葉だ。なかには性自認が流動的で、日や時期によって変わる人もいる。性自認は自分のセクシュアリティを自らどのように感じるかということであり、身体的性が男性であっても自分は女性だと思っていれば、その人の性自認は女性だ。
しばしばトランスジェンダーと誤解されるが、トランスジェンダーは身体的性と性自認が一致していない人を指す。つまり、性自認は固定的だ。例えば、数年前から今にいたるまで、自分のことを女性だと思っており、途中でその認識が変わった経験がない状態だ。一方で、Xジェンダーには、男性か女性かという明確な認識がない。
ノンバイナリーとは
ノンバイナリーとは、自らを男性とも女性とも捉えていない人を指す言葉だ。
Xジェンダーに似ているが、Xジェンダーは自らを男性か女性か定義できない状態を指す。つまり、Xジェンダーの人のなかに男性と女性という2種類が存在しており、自分がどちらの性かは定まっていない、もしくは流動的に変わっている状態だ。一方でノンバイナリーには、その人のなかに男性も女性も存在していない点で異なる。男性でも女性でもないと捉えるため、「第三の性」とも呼ばれている。
アセクシュアルとは
英語では「Asexual」と記載することから、「エイセクシュアル」とも呼ばれる。この言葉は、他者に性的欲求を抱かない人を指す。
たまに「誰にも恋愛感情を抱かない人」ともいわれるが、これは誤解だ。アセクシュアルのなかには恋愛感情は抱くが性的欲求は抱かないロマンティック・アセクシュアル(もしくはノンセクシュアル)の人もいる。一方で、恋愛感情と性的欲求のどちらも感じない人はアロマンティック・アセクシュアルと呼ばれている。
パンセクシュアルとは
パンセクシュアルとは、相手の性自認や性的指向に関わらず恋愛感情を抱く人を指す。オムニセクシュアルと呼ばれることもある。
つまり、シスジェンダー(身体的性と性自認が一致している人)を好きになるときもあれば、ゲイやレズビアンの人を好きになるときもある。一方でアセクシュアルの人を好きになる可能性もあるということだ。
アブロセクシュアルとは
アブロセクシュアルも、パンセクシュアルと同じく相手のセクシュアリティを問わず恋愛感情を抱くとされている。パンセクシュアルとの違いは、その状態に変化があるか否かだ。
パンセクシュアルの人がさまざまなセクシュアリティの人に対して恋愛感情を抱く可能性が常にある一方、アブロセクシュアルの人は性自認や性的指向が流動的だ。
つまり、「3年まで私はレズビアンだったが、アセクシュアルな時期もあって、今はトランスジェンダーだ。1年後にはノンバイナリーになっているかもしれない」というふうに、自分の捉え方も恋愛感情や性的魅力を感じる対象も変わっている。この変化の頻度は人によって差がある。
クィアを公表している海外の芸能人たち
海外には、自らを「クィア」と公言している人もおり、なかには日本で人気を集めるセレブ達もいる。そのうちの一部を紹介する。
マイリー・サイラス
アメリカドラマ「ハンナ・モンタナ」で世界的に有名になったマイリーは、自らを「クィア」だと公表している。
週刊誌ヴァニティ・フェアとのインタビューでは、次のように語っていた。
「私の誇りとアイデンティティにおいて、クィアであることは非常に大切なことです。人は、人に恋をします。性別や、見た目、もしくは他の何かに恋するわけではありません。私が愛するものは、もっと精神的なものです。セクシュアリティは関係ありません」
エズラ・ミラー
映画「ファンタスティック・ビースト」でクリーデンス役を演じたエズラは、2012年に「クィアである」と公表している。敢えてクィアだと語った理由として、2018年に次のように語っている。
「私は、クィアは『そういうことはしない』という意味だと思っています。私は自分を男性だとは認識しないし、女性とも認識しません。それでも人間ではあるよねって感じかな」
エヴァン・レイチェル・ウッド
数々の映画で注目を集めてきたエヴァンは、映画「アナと雪の女王」でエルサとアナの母親役を演じている。エヴァンはバイセクシュアルであることを公表しているが、クィアという言葉を好んで使っているという。
その理由を、2013年に自らのツイッター(現:X)で語っていた。
「クィアのほうが、好ましいと思うんです。バイセクシュアルという言葉でも十分ですが、この言葉だとトランスジェンダーは除外されてしまいます。ラベリングは容易に行ってはいけないんです」
「多様なセクシュアリティ」が生まれた背景とは

クィアに加えて、6つのセクシュアリティを紹介したが、従来のセクシュアリティはこれだけではない。また、今後あらたなセクシュアリティが認知される可能性もある。
セクシュアリティに「ゲイ」「トランスジェンダー」などのように、名前やラベルが付けられるのは、そのセクシュアリティが「存在するもの」「自然なもの」であることを示すためだ。なかには、自分のセクシュアリティが分からず、孤独や自己嫌悪を感じている人もいるだろう。
そういった状況のなか、自らのアイデンティティに名前やラベルを付けることで、結果的に自らの存在を明確化し、肯定していくこともできる。多様なセクシュアリティに名前が付けられ判別できるようになった背景には、そういった自己認識における効果があっただろう。
また、セクシュアリティの認知を拡大するために役立っているのがSNSだ。例えばTikTokでは、「Explain my sexuality(私のセクシュアリティについて説明します)」や「lgbtqeducation(LGBTQ教育)」といったハッシュタグやキャプションが記載された投稿が流行している。
この投稿では、自らのセクシュアリティをショート動画で説明したり、それにちなんだあるあるエピソードを伝えたりしている。これを見た視聴者が、やっと自らのセクシュアリティを明確化できたケースもあれば、自分とは異なるセクシュアリティへの理解に繋がったケースもある。
それほどに、多様なセクシュアリティの認知を広げやすくなったとも言い表せることができる。一方で、それほどに世界各国で認知されていない、もしくは理解されていないセクシュアリティがまだまだあるとも捉えられるだろう。
まとめ
クィアは、LGBT以外のセクシュアリティを包括する名前やラベルとして使用されてきた。しかし、自分のアイデンティティを説明するために、どんな言葉を使うかは個人の自由だ。
その人がアセクシュアルでありクィアだと言えば、言葉通りアセクシュアルでありクィアだ。しかし、その人がノンバイナリーだがクィアではないと言えば、その人はノンバイナリーであってクィアではない。
重要なのは、幅広いセクシュアリティが存在していると認識することだ。そして、そのなかに「異質」なものや「異常」なものは存在しない。どんなセクシュアリティであっても、自分のセクシュアリティに名前を付けても付けなくても、そのすべてを含めてその人自身であり、そして自然な状態なのだ。
参考記事
The history of the word ‘queer’|LA TROBE UNIVERSITY
Miley Everlasting|Vanity Fair
Ezra Miller Talks Fame, Living on a “Polyamorous” Farm and His #MeToo Story|The Hollywood Reporter
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