
ワークシェアリングとは?
「ワークシェアリング(work sharing)」とは、従業員同士で仕事や雇用を分け合うこと、あるいはその仕組みを指す。作業や仕事、研究といった意味の「ワーク(work)」と、「分け合っている」「共有している」といった意味の「シェアリング(sharing)」を組み合わせている。一人の従業員が担当していた仕事を複数で分担するという意味で、「仕事の分かち合い」と訳されることもある。
一人あたりの労働時間が削減されるため、新たな雇用が生み出されるほか、「業務が効率化される」「人材流出が抑制される」「業務の負担が軽減される」「リストラが回避される」など、さまざまな効果を期待して導入される。
日本では、雇用情勢が悪化した2000年代初頭に、内閣府や厚生労働省などがワークシェアリングを推奨した。それ以前に、育児中の従業員が時短勤務を選べる制度を導入していた企業の例もある。
国内企業で導入が本格化したのは、「働き方改革関連法」が成立した2018年頃とされる。自社のスタイルに合わせて、アレンジを加えたワークシェアリングの事例も数多く見られるようになっている。
ワークシェアリングが注目される背景

ワークシェアリングの発祥は1980年ごろのヨーロッパで、「失業率を低下させる」という目的で、多くの企業で導入された。特に注目されたのがドイツの自動車メーカーであるフォルクスワーゲン社だ。1990年代の不況期に、経営陣が大幅なリストラ案を発表したことに対して、労働組合側が一人当たりの労働時間を短縮することを提案した。
近年、日本で注目されるようになったのにはさまざまな理由があるが、ワークライフバランスを含む働くことに対する考え方の変化も背景にある。いわゆる戦後の高度経済成長期からバブル期にかけては、長時間労働が常態化し、過労死などが社会問題になった。
その後、平成不況の煽りを受けて非正規雇用が増加する中、人口減少時代が到来。労働人口の減少に対抗するため、優秀な人材の流出を防ぐ方法としてワークシェアリングを導入する企業や自治体が増えた。
2018年に「働き方改革関連法」が成立したことで、従業員にとってより働きやすい環境の構築を企業が模索したこともワークシェアリングの導入が進んだ大きな理由だ。さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大時にも、雇用を守るための方法としてワークシェアリングが注目された。
このようにワークシェアリングは労働環境に関わるさまざまな事情に対応するために、導入されている。
ワークシェアリングの4つのタイプ
ワークシェアリングには、一般的に4つのタイプがある。それぞれの特徴について紹介する。
雇用維持型(緊急避難型)
雇用維持型(緊急避難型)のワークシェアリングとは、一時的に労働を分散する方法のこと。企業の業績が悪化した際などに、従業員を解雇しないために行われるケースが多い。新型コロナウイルス感染症拡大時のワークシェアリング導入は主にこれに当たる。
貴重な経営資源である従業員を解雇した場合、業績が回復基調になった際に新しい人材を雇うことになる。しかし新しい人材を雇用するよりも、実績のある人材に仕事を任せた方が経営の立て直しがスムーズにいくと考えられる。これが雇用維持型(緊急避難型)の大きなメリットだ。
雇用維持型(中高年対策型)
雇用維持型(中高年対策型)のワークシェアリングとは、シニア層の従業員の時間短縮などを目的に行われる。例えば、定年後に少しだけ働きたいといった希望を持つシニア層の従業員を、短時間勤務や勤務日数を少なくするといった条件で複数人雇用する。
企業側は労働力の低下を防げる一方、従業員側も希望に合わせて仕事ができ、双方にとってメリットがある。またシニア層の従業員に活躍の場を与えるということで、企業のイメージアップにもつながる。
雇用創出型
雇用創出型のワークシェアリングは、主に雇用の創出を目指して導入される方法だ。新しい人材を発掘するために、既存従業員の業務を分離し、新たに採用した人材に任せるといったことも考えられる。
また失業率の改善にもなるため、国が推奨したり、雇用創出型のワークシェアリングを企業に働きかけるケースもある。自治体でワークシェアリングを導入する際は、雇用創出型が多いとされる。
多様就業促進型
多様就業促進型のワークシェアリングとは、勤務形態を多様化することで業務の分担を目指す方法。子育てや介護などによって長時間勤務が難しいといった従業員に働き方を選んでもらうことで、企業側は優秀な人材の確保につながる。一方の従業員側もワークライフバランスの実現ができるといったメリットがある。
以下のような勤務形態を設けることが一般的だ。
- 時短勤務制度
- フレックスタイム制
- テレワーク
- パートタイム
このような勤務形態を設けることによって、優秀な人材の退職や流出を防ぐという効果がある。また企業のイメージアップにつながり、人材が集まる可能性が高まる。
ワークシェアリングのメリット

ワークシェアリングには、企業側と従業員側のそれぞれにメリットがある。代表的なメリットについて、企業側と従業員側に分けて解説していく。
企業側のメリット
ワークシェアリングを取り入れることで、企業にはさまざまなメリットが考えられる。代表的なメリットは以下になる。
①労働環境が改善される
従業員一人ひとりの労働時間が短縮され、長時間労働などのハードワークから解放され、業務量も削減される。心身ともに負担が軽減し、働きやすい環境に改善される。
②生産性が向上する
従業員一人ひとりの負担が軽減されることで、本来の業務に集中することができ、作業効率が上がり生産性が向上する。
③多様な人材が確保できる
時間帯など採用の条件が多様化するため、育児中や介護中、シニア層といった多様な側面を持つ人材も採用しやすくなる。
④企業イメージが向上する
働きやすい労働環境が構築されていることに加えて、従業員一人ひとりの個性を尊重する企業として、イメージがアップすると考えられる。
⑤若手従業員の育成・確保ができる
業務を分担することで、比較的責任が重くない仕事を若手従業員に任せることができるようになる。若手に広く経験を積ませることができ、成長を促すこともできる。
⑥シニア層も活用できる
技術や経験はあるが、長時間勤務が難しいというシニア層もいる。しかし、ワークシェアリングを導入することで、このようなシニア層も活躍できる職場にできる。
⑦従業員の健康維持につながる
過重労働を強いられることなく、適切な労働時間内で働けるため、心身の健康状態を保つことができる。
⑧仕事と家庭の両立を支援できる
子育てや介護などの事情により、特に女性従業員は仕事と家庭の両立が難しくなってしまうことがある。しかしワークシェアリングを取り入れることで、仕事と家庭の両立を支援することができる。
⑨人材流出を防げる
特に女性の場合、子育てや介護といった理由で離職するケースが多いが、時間を調整しながら働ける環境を提供することで退職を防ぐことができる。
従業員側のメリット
一方の従業員側にもさまざまなメリットがある。
①雇用が守られる
会社の経営状態が悪化している際にも、労働時間が短縮されることにはなるが、リストラではなく雇用が継続される。また求職者にとっても、採用の可能性が高まる。
②モチベーションがアップする
労働時間が短縮されて業務が分担されるため、気持ちに余裕ができて前向きな気持ちで仕事に取り組めるようになる。
③働き方を選べる
勤務時間や勤務日数の調整がしやすくなるため、会社の都合ではなく、自分の都合に合わせた働き方ができるようになる。
④ワークライフバランスが保てる
労働時間が削減されるため、自分のために、あるいは家族のために時間が使えるようになる。地域貢献や自己研鑽などに取り組みやすくなり、人生の幸福度や充実度を高められる。
ワークシェアリング導入の課題
企業と従業員双方にとってメリットが多いワークシェアリングだが、取り入れる際にはいくつか課題もでてくる。
企業側の課題
企業側のデメリットとしては、以下の3つが考えられる。それぞれについて解説する。
制度の整備が必要になる
ワークシェアリングを取り入れた場合、社内における組織のバランスが崩れる可能性がある。そのため、ワークシェアリングの対象範囲の設定、給与体系や休日などに関する制度設計、人事評価に関する基準の見直しなどが必要になる。
給与計算業務が複雑化する
すべての従業員が一定の条件で働くわけではないため、給与計算業務が複雑化する。また、ワークシェアリングを実施することで従業員が増えるため、給与計算の対象となる人数も増加する。
コストが増加する
従業員が増えることで、国民年金や健康保険などの社会保険料の負担が増える。また社員教育などにかかるコストが増加する可能性もある。
従業員側の課題
一方、従業員側の課題として代表的なのは以下の2つだ。
給与が減少する
労働時間が短くなるため、基本的に給与が下がることになる。企業によっては、ワークシェアリングの導入に際して副業を認めることもある。
職種間で格差が生まれる
業務内容によってはワークシェアリングができないものもあり、社内でワークシェアリングができる部署とできない部署が存在することもある。この場合に、待遇や給与、勤務時間などに格差が生まれる可能性がある。
ワークシェアリングの導入事例
ワークシェアリングを取り入れる国内企業も増え、企業によっては自社に応じた仕組みにアレンジを加えている事例も報告されている。
短時間勤務制度|日本IBM
グローバルなコンセプトとして「Be Equal」を掲げるIBMでは、ダイバーシティー分野での先駆けとして先進的な取り組みを実践している。日本法人の日本IBMでは、女性がさらに活動できるよう「Japan Women’s Council(JWC)」が活動をスタート。さまざまな制度を導入して女性支援を行っているが、その一つが2004年にスタートした「短時間勤務制度」だ。
「短時間勤務制度」とは、育児や出産、介護といったライフステージの変化によってフルタイムで働けない場合は、通常の80%・60%の勤務を選べるというもの。フルタイムで働けるようになった際には、再びキャリアを高めることができる。また、コアタイムのない「短時間勤務制度」も2009年に導入している。
えらべる勤務制度|ヤフー
従業員の多様な働き方を支援するさまざまな制度を導入しているヤフーでは、2017年に「えらべる勤務制度」を導入している。小学生以下の子どもがいたり、介護や看護が必要な家族がいる従業員を対象に、土日の休日に加えて、休暇が1日取得できる制度だ。
導入から5年間で、約200名の従業員が利用。目的は育児が9割で、介護が1割となっている。女性の利用が多いが、育児に積極的な男性にも重宝されているという。
週休3日・4日勤務制度|みずほフィナンシャルグループ
3大メガバンクの一つみずほフィナンシャルグループが、2020年に導入したのが「週休3日・4日勤務制度」だ。3大メガバンク初の試みとして、業界内外からも注目されている。
制度は、休みたい曜日を設定して「週休3日・勤務4日」で働ける仕組みになっている。利用期間は1年以内(更新可能)となっており、育児などを理由に利用されている。若手社員が自己研鑽を目的に利用している例もある。
まとめ
ワークシェアリングは、新型コロナウイルス感染症が拡大した時のように、不況時に雇用を守るために導入される事例が多かったが、働きやすい就労環境を提供する目的で導入する企業も増えている。
育児や介護・看護、また資格取得などのスキルアップに利用される事例も増えており、ワークライフバランスの実現にも貢献している。
今後はさらに労働人口の減少が進み、優秀な人材の確保が難しくなるなか、企業側はこうした仕組みを導入することで、人材確保や流出抑止ができると考えられる。一方の従業員側も、こうした仕組みを導入している企業を選ぶことで、仕事以外の人生を充実させることもできる。
Edited by k.fukuda
参考サイト
「人口減少社会」に対応できる企業を目指して|厚生労働省
ダイバーシティー&インクルージョン|日本IBM
育児や介護、看護を⾏う従業員を対象に働き⽅の選択肢を増やす「えらべる勤務制度」を導⼊|ヤフー株式会社
みずほフィナンシャルグループ|多様な働き方の実現応援サイト(厚生労働省)





















倉岡 広之明
雑誌記者として活動した後、フリーライターとして独立。さまざまなジャンルの記事を執筆しているが、北海道で生まれ育ったこともあり、自然環境や気候変動、SDGs、エネルギー問題への関心が深い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史など、多岐にわたるテーマを手がけている。
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