
2024年7月、米・マテル社は視覚障がいを持つバービー人形を発売すると発表した。その前年には、ダウン症のバービー人形の発売を公表している。
マテル社はバービー人形を「最も多様で最もインクルーシブな人形だ」と主張している。その言葉通り、バービー人形の多様性や包括性は、身体的障がいや知的障がいにとどまらない。公式ホームページによると、これまで同社は、35種類の肌色、97種類の髪形、9つの体型のバービー人形を発売してきた。
一方で体型が極端に細いことから、不健康なダイエットを促進する可能性や偏った美のイメージを生み出す可能性があるとして、しばしば批判を受けてきた。さらにセックスシンボルとして揶揄されることもある。
この記事では、バービー人形に集まる批判と、多様性の歴史、現在のバービー人形に集まる意見を紹介していく。
“憧れの的”でありながら“批判の的”であり続けたバービー人形
1959年に販売されたバービーは、「You Can Be Anything(あなたは何にだってなれる)」というコピーと共に、人気を集めた。その存在は、ただの女の子のおもちゃという枠に収まることはなく、ファッションアイコンとして捉えられるまでになった。いわば一種の社会的意義をもつ存在になったのだ。

多くの憧れを集めるなか、2010年にはバービー人形が子どもに与える影響が心配されるようになった。なかでも焦点が当てられたのは、その不自然な体型である。社会には多様な体型の女性がいる一方で、バービーの体型はまるでスーパーモデルだ。その体型が子ども達に悪影響を及ぼすとして、訴えが起こった事例もある。
さらに、1989年以降はパイロットなど当時は男性の職業とされていたコスチュームに身を包むバービーも発売されていたが、女性の社会促進というメッセージを普及させるには不十分だった。例えば2014年には、バービーの本を読んだ消費者から「私はコンピューターエンジニアにもなれるって書いてあったけど、女性の向上を後押しできていない」という意見が寄せられた。なぜならその本には、男性の力を借りてその地位を獲得するバービーの姿が描かれていたからだ。フェミニズムにおいて重要なのは、女性自身もしくは個々人が自立して生きていくための力を十分に備えているという前提だ。そのため女性は、掴みたい地位を自ら獲得することができ、それを不可能にしているのは社会に存在している女性への偏見だ。しかしながら、その本に描かれていたバービーの姿は、男性がいなければ就きたい地位に就くことはできない女性の姿と捉えられてしまったのだ。
この事例からも、バービーがただの人形やファッションアイコンではなく、“女性の象徴”として捉えられてきたことが分かる。マテル社は世論を受け、現実的で多様な女性の姿を人形に反映させるに至った。2015年には、体型の異なるバービー人形を発売。曲線がかった体型、高身長、小柄、という3種類がラインナップに追加された。
バービー人形、初の黒人人形を発売するまで
マテル社はさまざまな体型のバービー人形だけではなく、肌色や人種の異なバービー人形も販売している。はじめて黒人系の人形が発売されたのは、バービー人形発売の約9年後、1968年だ。当時、黒い肌を持つ人形はバービーではなく、その友人「クリスティー」として販売されていた。
クリスティー発売のきっかけとなったのは、同社の社員たちだ。バービー人形の生みの親、ルース・ハンドラーが社員たちに新商品のアイディアを聞いた際、「黒人系」という声があがったという。その声を挙げた者のなかには、黒人系の社員もいた。

1960年前後のアメリカといえば、セグリゲーションが終わりを迎えようとしていた時代である。セグリゲーションとは、人種や民族性によって居住地や生活空間を分けることだ。当時のアメリカでは、乗り物や学校、公共施設のお手洗いや出演番組など、ありとあらゆるものが白人と有色人種で分けられていた。
たとえば、1960年代に実際にNASAで活躍した黒人女性たちの活躍を描いた映画『ドリーム』では、お手洗いに行くために一度建物を出て、雨に濡れながら黒人用トイレまで急ぐ主人公の姿が描かれている。また、ミュージカル映画「ヘア・スプレー」では、黒人のダンサーと一緒に踊ろうとする白人系の登場人物を周囲が驚いて止めようとするシーンがある。それほど当時は、人種による境界が明確に惹かれていたのだ。
そのため、当時白人系の人形であったバービーと同じ製造ラインから、友人として黒人の人形が発売されたことは大きな衝撃だっだだろう。マテル社は、翌年には同じく黒人系のジュリアを製造した。黒人系とヒスパニック系の人形が、同じ「バービー」という名で販売されはじめたのは、クリスティーの発売から12年も経った、1980年のことだ。
障がいを持つバービー人形が発売されるまで
障がいを持つバービー人形がはじめて発売されたのは、2019年のことだ。車いすと義足のバービー人形が、それぞれ発売された。
しかし、実は1997年にも「ベッキー」という別の名前の人形が同シリーズが販売されていた。しかしこの際、消費者から「ベッキーの車いすがバービーハウスのエレベーターに入らない」という声が寄せられたが、マテル社がバービーハウスの改善等に動くことはなかった。結局、ベッキーの販売を終了するに留まってしまった。
だが、その後も消費者からの度重なるリクエストを受けて、ついに2019年に身体障がを持つバービーが発表された。

マテル社は、できるだけ適切な形で新しいバービー人形を世に出せるように、実際に障がいを持つ人々からの声を反映させながら制作に励んだ。このバービー人形の発表後、マテル社の時価総額は75億ドルにのぼった。
初の車いすバービー発売を受け、車いす生活を送るマディソン・ローソンさんは次のように述べている。
「社会は簡単に私たちを忘れてしまいます。後から思い出したように接してくることもあります。だから、車いすのバービー人形が、その存在を消そうとしていた場所に居場所を取り戻そうと闘ったことに、強いつながりを感じています」
その4年後の2023年には、おもちゃ業界ではじめてダウン症の人形を発売した。この際も、当事者の意見を取り入れるために全米ダウン症協会(NDSS)の協力のもと、制作にあたった。ダウン症への理解や支援を表明するブルー&イエローリボンと同じく、洋服は青と黄色でデザインされている。また外観もダウン症の人々に近づけるべく、丸みのある輪郭や小さな耳、アーモンド形の目をしている。
発売時、BBCとのインタビューで、NDSSのCEOを務めるケイディー・ピックヤードさんは、次のように語っていた。
「自分とそっくりなバービー人形で遊べるのは、私たちにとって大きな意味のあることです。“象徴”が持つインパクトの大きさを、あなどってはいけません」
視覚障がいを持つバービーに世間の声は…
今回、新しく発売された視覚障がいのバービー人形も、今までと同様に当事者の意見を取り入れながら制作された。
マテル社が今回の発売をインスタグラムで発表した際には、多くの喜びの声が集まった。その多くが、視覚障がいを持つ人々やその家族からのコメントだ。なかには、バービー人形が持つポジティブな社会的意義を語るコメントもあった。
「このバービー人形は、バリアを打ち破っていく象徴だ。美しさには様々な形があり、(その様々な美しさを)象徴的な存在に反映したり、包括していくことは、本当に素晴らしいこと」
「やっと世間にも私たちの存在を認知してもらえる!」
まとめ
バービー人形が、ルッキズムに起因してきたことは言うまでもない。極端に細いブロンドヘアの女性が美しいという固定観念が反映されてきた人形でもあるだろう。事実、映画『バービー』では、マーゴット・ロビー演じるバービーに、女の子たちが「あなたなんて嫌い」「女性を抑圧してきたから」と突き放すシーンがある。
しかし、そういった固定観念的な美の定義が反映されてきた場所に、多様性や包括性を取り入れていくことには大きな意義がある。なぜなら、「美しい」「優れている」といった概念を特定のひとつのイメージに結びつけるのではなく、どんな状態であっても自然であり美しく、社会の一部であると再認識することに繋がるからだ。
とくに人形は、ファッション誌やモデルへの興味がまだ薄い幼少期に、子どもたちが最初に触れる憧れの女性像でもある。自分や自分の友人、そしてまだ出会ったことがない人など、さまざまな形を持った人形に触れることは、自分や他者のありのままを受け入れることだけでなく、社会がどれだけ多様であるかを知るきっかけにもなるだろう。
一方でバービー人形は積極的に多様性を取り入れてきたわけではない。世論に動かされながら、現代のリアルな声を反映させてきたというほうが正しい。業界だけに変化を求めるのではなく、個々人が違和感を感じたことや要望を、社会や企業にしっかりと発信していくことの重要性も感じられる。
参考サイト
Mattel Inc.
‘A little act of revolution’: How Mattel came to make the first Black Barbie|INDEPENDENT
Barbies With Disabilities Are Impacting A New Generation. Here’s Why It Matters|Forbes
OUR DIVERSITY EVOLUTION|Barbie
Barbie with Down’s syndrome on sale after ‘real women’ criticism|BBC





















