ミスジェンダリングとは?相手を尊重するために必要な意識と対応

ミスジェンダリングとは

ミスジェンダリング(Misgendering)とは本人が自認している性別(性自認)とは異なる扱いをしてしまうことだ。たとえば、性自認が女性の人に対して、男性を意味する“he”の代名詞を使うなどが分かりやすい例である。性自認に基づかない呼称や取り扱いを行うことは、その人のアイデンティティを深く傷つける行為と考えられている。

特に、トランスジェンダーノンバイナリーの人々に対して行われることが多い。

トランスフォビアとの違い

ミスジェンダリングに関連する言葉でしばしば登場するのが「トランスフォビア」だ。

ミスジェンダリングは異なる性別で取り扱うことにより、相手を深く傷つける行為であるが、その行為は無意識で行われる場合と意図的に行われる場合がある。

一方、トランスフォビアはトランスジェンダーに対する否定的な態度や感情、行為を指す。意図的なミスジェンダリングはトランスフォビアのひとつとされており、差別や抑圧、人権侵害につながる行為だ。

ミスジェンダリングとトランスフォビアは、ともに個人の尊厳を傷つける行為として問題視されている。

身近なミスジェンダリングの例

ミスジェンダリングとは

ミスジェンダリングの事例としては具体的に以下のようなものがある。

  • トランスジェンダーやノンバイナリーの人々に対して、出生時の性別で取り扱うこと
  • デッドネーミング(名前を変更した人に対して、本人の同意なく以前の名前で呼ぶこと)
  • 性別に関連した代名詞や敬称を誤って使用すること

意図的にミスジェンダリングを引き起こす差別行為のほか、見た目や声などの外見要素を通して、無意識に性別を判断することにより発生する場合もある。また、法律や社会制度などの制約上、戸籍上の性別に基づいた対応が必要な場面で、本人の性自認が反映されない場合も。

ミスジェンダリングについては、しばしば海外の事例が世界中で報道されることがある。

【アメリカ】議会でトランスジェンダー女性議員に「ミスター」と発言

2025年3月、アメリカの下院小委員会の公聴会で、議長を務めた共和党のキース・セルフ下院議員がトランスジェンダー女性である民主党のサラ・マクブライド下院議員に発言を求める際に「ミスター・マクブライド」と発言。その後、別の議員から非難され、公聴会を取りやめる事態に発展した。

【ノルウェー】トランスジェンダー女性をSNS上でミスジェンダリングし、侮辱したとして有罪判決

2021年、ノルウェー人男性がFacebook上でトランスジェンダー女性を侮辱した罪で有罪判決を受けた。2人はFacebook上のオスロ市議会に関するディスカッショングループに参加。議論が白熱するなかで、男性がトランスジェンダー女性に対して、性自認を侮辱するコメントを送りつけた。トランスジェンダー女性が警察に通報したことで、捜査・起訴され、裁判所は男性に対して条件付きの禁固刑と罰金等の支払いを命じた。

ミスジェンダリングの3つの問題点

ミスジェンダリングは単なる間違いとして済まされる行為ではなく、社会のなかでありのままの価値観や考え方で生きることを妨げる行為である。ミスジェンダリングが原因で引き起こされる問題は以下の3点だ。

①人格、尊厳の否定につながる

本人の性自認を無視することは、個人の人格や尊厳を深く傷つける行為である。尊厳を傷つける行為は、自己肯定感の低下や自己否定を引き起こすなどの悪影響を及ぼす。

「自分には価値がない」「自分はダメな人間だ」と自分自身を肯定的に捉えることが難しくなると、自分の考えや意見を表現することに抵抗感を覚えるようになる。

②精神的な悪影響を及ぼす

他人から自分のジェンダーと異なる性別で扱われることや、異なる性別としての役割を期待されることに対して精神的な苦痛を引き起こす可能性がある。

また、ミスジェンダリングをはじめとする性差別や抑圧を受け続けることで心理的ストレスが重なると、うつ病やトラウマなどの精神疾患につながり、心身の健康に深く悪影響を与える。

③社会的孤立を招く

ミスジェンダリングによって「周りの人たちに理解してもらえない」という感覚が生まれると周囲への信頼が失われ、学校・職場・家庭などのあらゆる場面で自分の存在が否定されていると感じるようになる。

「居場所がない」という孤立感から外出や集まりを避ける、SNSでの発言を控えるなど自己表現や他者との関わりを断つことにつながりやすい。

ミスジェンダリングをなくすために私たちができること

ミスジェンダリングをなくすために、私たちが日常生活のなかでできることがある。

まず、見た目や声、服装などから勝手に性別を推測しないことである。これまでの男女という身体的特徴に基づく性別だけではなく、2つの性別だけに限らない多様な性が存在することへの理解が必要だ。

また、性別に依存しない呼び方や代名詞を積極的に使用することで、ミスジェンダリングにつながるリスクを避ける努力をする。万が一、ミスジェンダリングが発生した場合には、すみやかに謝罪・訂正し、自然な会話を続ける意識が大切だ。周囲からの必要以上な注目はかえって相手を傷つけることにつながりかねないため気を付ける。

個人の理解度を高めることはもちろん、周囲とジェンダーに関する正しい知識を共有し合うことによって、より多くの人々の関心を引き出し、組織や社会全体への意識や行動の変革へつなげることが重要である。

ミスジェンダリング問題への取り組み事例

ミスジェンダリングは課題として浮き彫りになりつつも、まだ解決には至っていない問題である。こうした現状に対して国内外において、さまざまな団体が解決に向けた取り組みを行っている。ここでは具体的に2つの事例を紹介する。

電通

「電通グループ人権方針」のなかで性的指向や性自認を含む、LGBTQ+SOGIに関する内容について言及。ミスジェンダリングを含む差別的な行為や攻撃的な行為を容認しない姿勢を発信している。また、LGBTQ+やSOGIに関する啓発活動を社内外向けに行い、社会全体の理解促進に努めている。

電通グループ人権方針 – Sustainability(サステナビリティ)|電通ウェブサイト

青山学院大学

青山学院大学のジェンダー研究センターではジェンダーの平等と性の多様性を尊重するための取り組みとして、学生向けにジェンダーについて学んだり意見交換したりできるスペースの提供と相談窓口を設置している。また、教職員向けに作成されたトランスジェンダーに関するリーフレットのなかでミスジェンダリングについて言及している。

ジェンダー研究センター学生向け利用ガイドブック|青山学院大学
リーフレット「トランスジェンダー当事者学生への配慮のお願い」 | 青山学院大学

まとめ

ミスジェンダリングは本人の意図とは関係なく、相手の人権を傷つけるリスクを持つ行為である。ジェンダーへの意識が高まるなかで、2010年以降、さまざまな場面で性差にとらわれない言葉に置き換える動きが活発化した。例えば“Ladies and Gentlemen”という言葉が“Everyone”や“All Passengers”に変わっているのが代表例である。

すべてのジェンダーアイデンティティに寄り添った世の中になるには、ミスジェンダリングを含めたさまざまなジェンダーに関する課題について人々が理解し、社会全体がその解決に向けた取り組みを意識的に進めていく必要がある。

参考サイト
トランスジェンダー女性の議員をミスジェンダリング。米議員が批判され、公聴会を突然終了させる | ハフポスト WORLD
Norway: Man Sentenced for Facebook Posts ‘Harassing’ a Transwoman|4W

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