エイブリズムとは?具体的な事例や問題点、メリトクラシーとの関係性を解説

エイブリズムとは?

エイブリズム(Ableism)とは、障がい者差別を表す言葉の一つ。「能力が高い人は優れている」「劣っている人は排除する」という優生思想が根底にあり、日本では「健常者優先主義」「非障害者優先主義」「健常者中心主義」とも言われる。

具体的には「出来ること」を前提にしたり、「出来ること」に価値を置くことで、障がいを原因として「出来ない人」に対して差別的な不当な扱いをすること。

エイブリズムの形

エイブリズムは意識的あるいは無意識的に行われるほか、社会の構造そのものがエイブリズムにあたることもある。これら3つのエイブリズムの形について解説する。

意識的エイブリズム

「意識的エイブリズム」とは、差別や偏見をもとに意識的に行う障がい者への明らかな不当な扱いのこと。排除的な言葉や行為、ハラスメント、侮辱的な言葉や行為などが含まれる。一例としては、障がい者の入店を拒否する店舗、雇用対象者から障がい者を除外する企業などが当てはまる。

無意識的エイブリズム

「無意識的エイブリズム」とは、無意識のうちに行われる障害者への差別や偏見をもとにした不当な扱いのこと。「障害者は手助けしてあげないといけない」「障害者に重要な仕事は任せられない」など、障害者に対するアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)により生じるケースが多い。

構造的エイブリズム

「構造的エイブリズム」とは、世の中の仕組みや制度といった社会の構造自体が障がい者に対して不当な扱いになっていること。例えば、健常者と同様の教育や雇用の機会が与えられていないこと、公共施設の構造が車椅子使用者にとって利用しにくい、といったケースがある。こうした構造的エイブリズムが、障害者の平等な社会参加を無意識に拒んでいるとされる。

エイブリズムに当てはまる言動や思考

エイブリズムに当てはまる言動や思考

エイブリズムとは、「能力がある人は優れている。だから障がい者は劣っている」という考えによって、障がい者に不利益を与えること。具体的には、以下のような言動や思考、行為、現象などがエイブリズムに当てはまるとされる。

  • テレビの番組で障がい者を悲劇的あるいは感動的に放送する
  • 障がい者に対して赤ちゃん言葉で話しかける
  • 障がい者に対して直接話しかけない
  • 障がい者は予測不可能なことをすると思う
  • 障がいをジョークのオチにする。バカにする
  • 障がい者を隔離する
  • 障がい者は怠けていると思う
  • 障がい者のキャスティングに障がいのない俳優を起用する
  • 障がいには治せる方法があると思う

無意識的にでもこのような言動をしている場合、障がい者を差別的に扱っていることになってしまう。

エイブリズムの具体例

エイブリズムの具体例

近年はダイバーシティの考え方が広がっているが、世界各地で障がい者差別を行ってきた歴史は長く、社会にはさまざまな形でエイブリズムが残っている。具体的な例を紹介する。

障がいを持っていない俳優の起用

近年、ドラマや映画などにおいて、障がいのある役に障害者のキャスティングを求める傾向がある。特にアメリカなどでは、障がいは人種や性別、性的指向と同じくアイデンティティであり、「俳優が演じているのは見せかけ」として度々反発が起きる。

2021年にはゴールデン・グローブ賞にもノミネートされた映画「MUSIC」が、エイブリズムに当たるとして批判が起きた。主役の妹は自閉スペクトラムの設定だったが、自閉症の症状がない女優がキャスティングされたからだ。

映画監督を務めたオーストラリアの人気歌手シーアは当初は否定していたが、最終的にはエイブリズムであったことを認めた。映画への批判はさらに強まり、ゴールデン・グローブ賞の剥奪を求める署名活動にもつながった。

日本でも障がいを持つ俳優を起用する例が増えており、2024年5月に初回が放送された「パーセント」(NHK)は3割の出演者が実際に障がいをもっていた。また、2023年5月に初回が放送された「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(NHK)でも、ダウン症の弟役をダウン症当事者の俳優が務めた。

「障がいを克服した」偉大な科学者という表現

障がいがあることで「障がい者は何かを得られない」「障がい者は何かを成し遂げられない」という考え方もエイブリズムにあたる。

例えば、世界的に著名な科学者であるアルバート・アインシュタインや発明家のトーマス・エジソンなども障がいを有していたとされる。また、物理学者のスティーブン・ホーキング博士は、21歳の時に筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病を発症し、車椅子で生活をしていた。

しかし、彼らを紹介する際に「偉大な科学者」だけではなく、「障がいを克服した」「障がいがあったにも関わらず」というような表現が付けられていることがある。ホーキング博士の場合は、「車椅子の天才物理学者」と呼ばれることもある。こうした言葉の使い方はエイブリズムにあたるとして指摘されることがある。

障がい者スポーツそのものがエイブリズムという問題提起も

障がい者スポーツの世界的な祭典には、4年に一度開催される「パラリンピック」や「デフオリンピック」などがある。しかし、障がい者スポーツの大会そのものがエイブリズムという問題提起もある。健常者と障がい者が同じ舞台で記録を競えないからだ。

もちろん自らを高めるためにスポーツに挑戦したり、記録に挑むことは、健常者であれ、障がい者であれ等しく素晴らしいことである。

しかし、そもそも「スポーツができる人が素晴らしい」「強い人が勝つ」という価値観の下では、多くの障がい者はこの枠組みに当てはまらないことになる。パラリンピックは、オリンピックに出場できない障がい者で競い合うという構造になっているという指摘もある。

ディスエイブリズムとの違いから見るエイブリズム

英語で「障害者差別」を表す言葉には、ableismの他にdisablism(ディスエイブリズム)もあるが、意味合いは異なる。

エイブリズムには、「障がいがない人いわゆる健常と呼ばれている人を好む」「健常者のニーズを優先させて物事を進める」といった意味合いがある。一方、ディスエイブリズムは、障がい者に対する差別・偏見に基づく絶対的な価値観のことで、障がい者嫌悪が差別的な言動につながる。

つまりディスエイブリズムは、障がい者であるということに対して否定的な言動を行うことで、能力の有無は関係ない。それに対してエイブリズムは、能力を持っている者が有能だから、障がいがあることは能力的に劣っているという思考に向かう。

同じ障がい者差別を指す言葉だが、ディスエイブリズムは障がい者の全否定、エイブリズムは能力がないことへの偏見というように言い換えられる。

エイブリズムとメリトクラシーの関係

エイブリズムは、メリトクラシーと結びつけて考える必要もある。メリトクラシーとは、業績を表す「メリット」とギリシャ語で支配を意味する「クラスト」を組み合わせた造語だ。

個人の能力や実績などに基づいて報酬が高まったり、地位が与えられるシステムあるいは理念のことで、日本では「能力主義」や「実績主義」などと訳される。日本の企業でも、能力や実績に基づいて報酬や昇進が決定される成果主義賃金が導入されているケースがある。これも能力主義の一つだ。

しかし、障がい者雇用において矛盾点になるのが、障がい者の能力や実績が適切に評価されないケースがあることだ。障がい者がいくら能力を発揮して実績を上げたとしても、障がい者であるという理由で地位や賃金の向上がなされない。こうした事態にはエイブリズムが含まれていると指摘される。

また「能力」や「実績」自体が健常者にとっての「価値」であり、エイブリズムであるという指摘もある。

エイブリズムの問題点

障がい者差別は、日本を含む世界中で行われてきた歴史がある。日本では、戦前に「私宅監置」の仕組みのもと隔離されていたほか、「旧優生保護法」のもとで不妊手術を強制された事例も多い。

一方、世界では、ナチスドイツの元で障がい者が強制収容所に隔離されたことがよく知られている。また、今は福祉先進国とされるデンマークやフィンランドでも、過去には障がい者に対する不妊手術や去勢が強制的に行われていたと確認されている。

日本では、エイブリズムを含む優生思想を、半世紀をかけて克服してきたとされる。しかし今後、エイブリズムがさらに広がると、障がい者に対する理解が進まず、低い賃金のまま雇用するなど障がい者の自立を妨げる状態が続く。また、かつてのように障がい者の排除へと向かう危険もある。

エイブリズムから抜け出す、対抗する方法

エイブリズムから抜け出す、対抗する方法

無意識的なエイブリズムを行わないためにも、一度立ち止まって自分の言動を振り返ってもらいたい。その際に、確認しておくべき5つのポイントについて解説する。

使用する言葉に配慮すること

言葉には、発した者の意思が含まれることを改めて確認したい。例えば、障がい者に対して「かわいそう」といった同情や憐れみのニュアンスを含む言葉を使うことは、彼らよりも上に立った者の発言として捉えられる。こうした言葉が自然と出てしまわないよう、障がいの有無で人を判断しないようにしたい。

固定観念を捨てること

「障がい者とはこういうものだ」という固定観念があると、その人が持つパーソナリティをゆがめてしまう可能性がある。例えば、絵が上手な障がい者に対して「障害があるのに絵が上手」「障害があるから絵が上手」という考え方ではなく、あくまでもその人に絵画に関する才能があると捉えることが重要だ。

障がいのある人たちと実際に接すること

障がい者と接するシーンが少ないと、自分の中にある無意識的エイブリズムに気づくことが難しいという指摘がある。実際、障がいを持つ人たちと接することで、「障がい者」というくくりではなく、その人となりに対する理解を深めることができる。また、障がいを持ちながら生きること、生活することに対する敬意が芽生えることもある。

意思決定の場に多様な人々を入れる

意思決定の場に障がいをもつ者がいない場合、健常者のニーズが優先されることが多い。例えば、仕事を割り振る際に「障がい者だから」という理由で、割り振られる仕事が限定的になると推測される。こうした意思決定の場面に障害を持つ当事者がいることで、エイブリズムが発生しづらくなる。

基本的人権について考えること

基本的人権とは、人間が人間として本来持っている権利のこと。法務省では「人々が生存と自由を確保し,それぞれの幸福を追求する権利-それが人権である」と定義している。

憲法では、すべての人間が基本的人権を尊重されると保障している。障がいの有無、能力の高低に基づいた偏見によって侵されるものではないことを改めて深く心に留めておきたい。

まとめ

エイブリズムとは障がい者差別を表す言葉の一つで、優生思想に基づいているという特徴がある。障がい者差別や隔離の歴史は長く、意識的あるいは無意識的、さらに社会の構造や制度そのものがエイブリズムとなっているケースも多い。

強さを求めて突き進み続ける中で、短期的な成長を阻害する「弱さ」はどうしても排除されてしまうようになった。だが、均質化された”強さ”を追求することは、やがて社会やコミュニティの脆弱さにつながる危険性もある。社会の豊かさとはなにか、いま一度考える機会をもち、現実に対して盲目にならないように気をつけたい。

参考記事
パラリンピック研究会紀要題19号(別冊)|日本財団パラサポ
スポーツ社会学を通して考える 障がい者スポーツとパラリンピックのあり方とは―?|GOOD HEALTH JOUNSAL
能力主義とAbleism(エイブリズム)
障害者差別|Wikipedia
エイブリズムと差別のあいだの関係性について|第14回障害学会 2017.10.29 川添 睡
シーアの騒動で話題になっている「エイブルイズム(Ableism)」とは?【解説】|FRONTROW

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倉岡 明広
北海道在住。雑誌記者として活動後、フリーライターとして独立。自然環境、気候変動、エネルギー問題などへの関心が強い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史などのジャンルでも記事を執筆中!