SDGsウェディングケーキモデルとは
SDGsウェディングケーキとは、2016年にストックホルムのレジリエンス・センターの所長であるヨハン・ロックストーム氏らによって提唱された、持続可能な開発目標(SDGs)を構造的に表現したモデルのこと。大きく3つの階層によって構成され、17の目標がそれぞれ独立しているわけではなく、相互に関連していることを示している。異なる階層が積み重なり、それがウェディングケーキのように見えることから「SDGsウェディングケーキ」と命名された。
ヨハン・ロックストーム氏と理事のパヴァン・スクデフ氏は、「生物(Biospere)」「社会(Society)」「経済(Economy)」を別々に見る過去の視点から脱却し、これらの要素をすべて重ねた上でビジョンを持つことが重要であると力説した。たとえば、経済が成長し、社会問題が解決に向かったとしても、気候危機などの環境問題が悪化の一途を辿っていれば、持続可能な世界にはたどり着くことは到底難しい。
SDGsウェディングケーキの3つの階層
SDGsウェディングケーキは、「生物圏」「社会圏」「経済圏」の3つの階層によって構成されている。以下、それぞれの階層について見ていく。
生物圏(Biosphere)
人間が生きていくうえで、あらゆる資源の源であるのが生物圏である。最下層である理由は「自然やクリーンな環境無しでは人間社会は成り立たない」というメッセージだ。
■目標6「安全な水とトイレを世界中に」
すべての人に安全な飲料水と、上下水道を伴った衛生施設の提供を目的とする。人間の排泄物から発生する疫病を防ぎ、飲料水の改善が必要な地域は世界中に存在している。
■目標13「気候変動に具体的な対策を」
気候変動の悪化を防ぐこと、それに伴う環境の変化に適応できる力を得ることを目的とする。気候変動は人間の生命活動にとっても致命的になる可能性が高く、関連する災害への対策も急務となっている。
■目標14「海の豊かさを守ろう」
海洋生態系と海洋資源の保全、回復のための行動を目的としている。海洋漁業は8億人の人々に生活の糧を提供するだけでなく、海洋生態系はブルーカーボンの吸収源となるなど、温暖化の進行を抑える役割も果たす。
■目標15「陸の豊かさを守ろう」
陸地の生物多様性の保全と回復を目的とする。陸地における森林の保全は、広がっていく砂漠化を阻止することに加え、陸地の生物多様性を守る点で重要だ。
社会圏(Society)
第二層に位置する社会圏は、豊かな社会をつくるための8つの目標によって構成される。
ここには、世界における貧困と飢餓の解決、すべての人に対する教育と福祉の提供、ジェンダー平等や安心して住み続けられる都市の構築などが含まれている。
■目標1「貧困をなくそう」
地球上のあらゆる形の貧困をなくすことを目指す。世界には、6人に1人の子どもが極度に貧しい状態にあるとされ、この問題に対する仕組みづくりなどが求められる。
■目標2「飢餓をゼロに」
「飢え」をなくし、世界中の誰もが一年中安全で栄養がある食料を手に入れることを目指す。このために、持続可能な食料生産の仕組みづくりや、災害からすぐに回復できる農業の構築が必要となる。
■目標3「すべての人に健康と福祉を」
すべての人が基礎的な保健サービスを受けることができ、だれもが健康で幸せな生活を送ることができることを目指す。これに向けて、感染症や病気を防ぐための対策が必要とされる。
■目標4「質の高い教育をみんなに」
誰もが公平に質の良い教育を生涯にわたって享受できることを目指す。男女の差別や障害の有無などにかかわらず、あらゆる段階の教育を受けることができる体制の構築を進める。
■目標5「ジェンダー平等を実現しよう」
男女だけでなく、あらゆるジェンダーの平等を目指す。途上国では、女性の権利が極端に軽視されているケースも多く、女性の人権を保護することが重要な課題となっている。
■目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
全ての人に安い値段で安定的にエネルギーを供給することを目指す。そのために、エネルギー効率の向上や再生エネルギー分野の発展が必要となる。
■目標11「住み続けられるまちづくりを」
老若男女問わず誰もが安心して住むことができるまちづくりを目指す。具体的には、災害対策や地域環境の改善、文化の保護などが必要とされる。
■目標16「平和と公正をすべての人に」
暴力やそれによる死を大きく減らすために、法や制度の整備を実施することを目指す。また、組織的な犯罪やテロ行為の根絶にも取り組む。
経済圏(Economy)
SDGsウェディングケーキの最上層を構成する経済圏は、4つの目標よって構成される。
働きがいのある仕事の提供、インフラの構築と産業の発展のためには技術革新、国家間の不平等の解消、資源の有効活用と廃棄物の減少などが含まれている。
■目標8「働きがいも経済成長も」
安定的な経済成長と働きがいのある雇用の供給を目指す。この中には、経済成長が環境汚染の元凶とならないことも含まれている。
■目標9「産業と技術革新の基板をつくろう」
災害にも強い持続可能なインフラの構築を目指す。具体的には、インターネット供給の拡大や研究・開発人材の増加などが進められる。
■目標10「人や国の不平等をなくそう」
年齢や性別、人種などにかかわらず、すべての人が平等に暮らすことができる環境を目指す。経済的、政治的、社会的なあらゆる観点からの平等が含まれる。また、国家間の不平等の解消も必要とされている。
■目標12「つくる責任 つかう責任」
持続可能な消費と生産の仕組みづくりを行い、天然資源の持続的な管理・利用に努める。これにより、食品ロスや衣服ロスなどを減少させ、自然と調和した消費活動が目指される。
モデルの軸は目標17
目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」は、SDGsウェディングケーキの頂点に位置する。持続可能な開発目標の各目標の達成のためには、各国の政府や企業、その国に住む市民たちとのパートナーシップが不可欠となる。あらゆる国や地域、異なるセクターの人々が相互に協力・補完し合いながら、様々な社会問題を解決することが求められているのだ。
SDGsの達成状況
Sustainable Development Report2024によると、日本の達成度は世界165ヶ国中18位で前年より3つ順位を上げたが、先進国の間では下位の状態が続く。

特に、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標12「つくる責任 つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさを守ろう」の評価が低く、「深刻な課題がある」項目として指摘されている。SDGsウェディングケーキモデルから観察すると、「生物圏」に関する取り組みが他の戦士国に比べて遅れをとっていることがわかる。具体的には、化石燃料の燃焼などに伴うCO2排出量の多さ、海洋生物の乱獲、絶滅危惧種の増加などのスコアが著しく低いことや改善が進んでいないことが深刻な課題だ。
海外の達成度では、例年通り、フィンランド、スウェーデン、デンマークと北欧の国々が上位にランクインした。
だが、世界的にみても、どの国も生物圏に関連する目標の評価は低い状態が続いている。生物圏の保全と回復には、相応の時間とコストが必要であり、短期間で目に映る効果は期待できない。しかし、SDGsウェディングケーキにおける社会圏と経済圏を支えるには、生物圏に関する課題を解決することが何よりも重要だ。
環境省による「生物圏」を強化する取り組み

上述のように、日本は気候変動や生物多様性など、「生物圏」に関する取り組みで大きく後れをとっている。
そこで、環境省は2018年に環境基本計画を考案し、持続可能な社会の姿である「地域循環共生圏」を目指している。このために、地域で生物圏・社会圏・経済圏の課題を同時に解決する「ローカルSDGs」を推進する取り組みが各地で行われている。
佐賀県鹿島市|環境と経済を両立する「鹿島モデル」
鹿島の環境保全と、地域の経済発展の両方に好影響を与えるモデルとして考案された「鹿島モデル」は、ローカルSDGsに賛同する新たな企業を誘致することに成功している。
鹿島市の環境評価を具体的な指標を用いることで明確にし、環境保全にとって好影響であると認められた企業は、行政からの支援を手厚く受けられるシステムが「鹿島モデル」だ。きっかけは、カモによる食害を減らすためのLEDライトでの誘導実験を行った際、多くの観光客が足を運んでくれたことだった。
国からの補助だけに頼るのではなく、環境にとって良い取り組みを行う企業を支援することで、観光効果も生み出し、環境と経済発展の両立を可能とした。
京都府亀岡市|芸術を重要なピースとして生かす
環境と芸術を結び付けたローカルSDGsを行っているのが京都府亀岡市。亀岡市はさまざまな自然に恵まれた市だが、大量のペットボトルやレジ袋などによって水生環境、観光資源に悪影響が及んでいる。
そこで、亀岡市が注目したのが「消費者の環境意識の変革」だ。「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」により、2030年までに使い捨てプラスチックごみをゼロにし、自然環境の保護と地域経済の活性化に力を入れている。
特徴的であるのが、「芸術」を取り入れている点だ。廃棄されたパラグライダーをエコバックにしたり、京都芸術大学と連携し、人々の感性に訴えるようなデザインを取り込む「KAMEOKA FLY BAG Project」を実施し、市外からも観光客が訪れるほど注目されている。
神奈川県小田原市|民間主体の取り組み
神奈川県小田原市では、自治体ではなく「企業や市民が主役」という考えを取り入れた中間支援組織「おだわら環境志民」を発足。それぞれ独立して活動していた環境保全団体に、それまでに無かった横の繋がりを提供することで、新たな事業の展開や交流の機会を増やすことに成功している。
おだわら環境志民では、ネットワークの強化によって環境活動が増加している。イノシシなどによる獣害を防ぐための担い手の育成「くくり罠塾」、荒廃竹林を有効活用しメンマづくりを行う「チルドリン小田原」、廃棄された耕作地に太陽光発電を設置することで有効活用を狙う「小田原かなごてファーム」などの、環境保護団体・企業による取り組みが活性化しているのだ。
まとめ
SDGsウェディングケーキは、「生物圏」「社会圏」「経済圏」と階層を分けることで、目標を構造的にわかりやすくし、達成に向けた取り組みが更に加速していくことに寄与している。これによって、日本では「生物圏」に関する取り組みが不足していることが明確となり、環境省がこれを強化するためのプロジェクトを立ち上げるに至った。
また、あらゆる問題解決に向けて、パートナーシップが不可欠であるという点もこのモデルは強調している。今後、地球上に無数とある問題に対して、国や地域、企業に垣根を越えて手を組むことで、世界がより良くなることを願う。
【参考記事】
https://www.stockholmresilience.org/research/research-news/2016-06-14-how-food-connects-all-the-sdgs.html
https://www.stockholmresilience.org/research/research-news/2016-06-21-looking-back-at-2016-eat-stockholm-food-forum.html
http://chiikijunkan.env.go.jp/
http://chiikijunkan.env.go.jp/assets/pdf/shiru/localsdgs.pdf
SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは? 17の目標ごとの説明、事実と数字 | 国連広報センター (unic.or.jp)
生物圏とSDGs
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